2014.12.27

「多様な性の当事者たち」にとっての東日本大震災とは?

小浜耕治 東北HIVコミュニケーションズ代表

社会 #LGBT#いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン#東北HIVコミュニケーションズ

セクシュアリティの課題は、セクシュアル・マイノリティのみならず、性と生をよすがに自身を見つめ人とつながる、すべての人にとって本質的な課題です。そのため、あえてLGBTやセクシュアル・マイノリティにとっての、ではなく、「多様な性の当事者たち」にとっての、として論じてみます。「多様な性の当事者たち」には、自身のセクシュアリティに自覚的に生きるひと、すべてを含むと考えます。

震災などの災害も、同じくすべての人の課題であることは言うまでもないでしょう。また、これらの危機は障害者・高齢者・女性・子ども・疾病を持つ人など、日常から特に配慮の必要な人たちに、より多くの影響が出るということも、災害弱者という表現で指摘されているところです。

 3年半前の東日本大震災で、セクシュアリティに関わる課題は、どのようなものがあったのか? 当事者コミュニティはどのようにそれを受け止めたのか? 地域はどうだったのか? これらについて、述べてみようと思います。

2013年時点での被災地 左:岩手県陸前高田市広田半島 中央の枯れ木がすっかりかぶるくらい波が来たことがわかる。 右:宮城県名取市閖上(ゆりあげ) 枯草に覆われているところは、津波にさらわれた住宅地。
2013年時点での被災地
左:岩手県陸前高田市広田半島
中央の枯れ木がすっかりかぶるくらい波が来たことがわかる。
右:宮城県名取市閖上(ゆりあげ)
枯草に覆われているところは、津波にさらわれた住宅地。

震災で直面した困難の4つの側面

東北には以前から、ゲイ・バイセクシュアル男性のコミュニティ、レズビアン・バイセクシュアル女性などのノンヘテロ女性(異性愛者でない女性) のコミュニティ、トランスジェンダー主体のコミュニティ、学生団体など、ひととおり必要な属性でのラインナップは揃っていました。それぞれの主宰者は互いに情報交換をして、ゆるくつながりあう存在でした。しかし、震災を経験し、そのコミュニティがいかに限定されたものであったかと、痛感するに至りました。

震災に関連した、多様な性をめぐる特有の困難、課題はすでに多くあげられています。それらを4つの側面に注目して概観してみましょう。

(1)身体的・医学的側面として

HIVやGID治療、メンタルヘルスに関わる事柄で、具体的には、抗HIV薬やホルモン剤、向精神薬等の薬剤が入手に困難が生じた事案があったという点です。また、避難の局面で浴場や更衣室などがトランスジェンダーでない男女向けでしか想定されていなかった点があります。

(2)心理的・個人的側面として

私個人はセクシュアリティ・イシューの関係でも、地域の関係でも、双方で支えられたと実感しています。また、パートナーの存在は何より大きいものでした。しかし、コミュニティとのつながりが無い人、地域で孤立している人などは、たくさんいたと思います。そうした人は厳しい時期をどう乗り切ったのか、もっと生の声を聞かせてもらえたらと思います。

(3)社会的側面として

周囲の環境・人間関係においての関わりですが、被災前のカミングアウトの程度によって、その差異が際立ったのではと感じます。カミングアウトしていたことでスムーズだったこと、被災を機にカミングアウトを強いられた人、カミングアウトのきっかけにした人、変わらずカミングアウトせず乗り切った人など、それぞれの事情が行動に影響しました。

(4)包括的な面として

 

「自分は地元ではノンケ(異性愛者)として生活しているから、ゲイとして震災で困ったことは特にない」という言葉に、そうだろうなとは思いつつ、衝撃を受けました。アイデンティティがそれほどまでに危機を迎えていた。しかしそれは当たり前のことと、受け入れずにはいられない。多様な性に基づくニーズは、こうして隠されていくという、現実を突きつけられたと感じました。

今もなお、研究者やコミュニティグループにより、これらの課題を詳しく調べていこうという取り組みは続けられています。しかし、具体的に見聞きし、問題を網羅できるだけの情報収集能力、求心力は、震災時点ではコミュニティには備わっていなかったのだと言えるでしょう。

2013年9月28日に開催した、シンポジウム「震災とセクシュアリティ」上記のような点が議論された。
2013年9月28日に開催した、シンポジウム「震災とセクシュアリティ」上記のような点が議論された。

ネットワークを強化する取り組み

平時の日常的なネットワークを強化して、震災等の危機が生じた折には迅速な対応が可能となる状況を作っておかなければならない。現在つながりができているコミュニティのメンバーは、そのことを意識して、自分の周りにさらにつながりを作って行くため、進んでグループを立ち上げてゆきました。

それらのグループが協働して地域にセクシュアリティの課題を示す企画も行われました。

◆東北レインボーSUMMER

http://tohokurainbowsummer.jimdo.com/多様な性にyes-虹色七夕/

photo4

東北レインボーSUMMERによる「多様な性にyes-虹色七夕」の展示
東北レインボーSUMMERによる「多様な性にyes-虹色七夕」の展示

東北HIVコミュニケーションズも、それらのグループをつなげるため、また、他地域でのセクシュアリティに関する活動や、地元の他分野の活動とつながってゆくための場作りを始めました。

◆HIV・セクシュアリティ・性的自立・・・支えあう学習会

http://blog.canpan.info/thc/

2013年9月の自殺対策月間に行った「多様な性知っていますか?パネル展」。支えあう学習会の一環で開催した。
2013年9月の自殺対策月間に行った「多様な性知っていますか?パネル展」。支えあう学習会の一環で開催した。

そして、グループ「レインボーアーカイブ東北」と地域の公共施設「せんだいメディアテーク」の「3がつ11にちをわすれないためにセンター」が協働して、いまだ拾い切れていない多様な声を個別に震災体験の手記として集めてゆくしくみを作りました。

◆レインボーアーカイブ東北

http://recorder311.smt.jp/series/rainbow/

一般の活動でも、私からの働きかけがあったとはいえ、対話の場を拓く団体「てつがくカフェ@せんだい」と「せんだいメディアテーク」が自らセクシュアリティと震災の関係について、認識を深めるための企画を継続してくれています。

◆考えるテーブル「てつがくカフェ―震災とセクシュアリティ―」

http://table.smt.jp/?p=5066#report

これらの課題とその後の活動について、セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会にて、各地の人たちに伝えることができました。

http://queersupport2014.wordpress.com/panelshoukai/panel4/

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「未だ『震災後』に至っていないのではないか」

しかし、こうした営みに参画していない・できない、多様な性の当事者のなんと多いことか。よりそいホットラインなど、セクシュアリティに関する電話相談があり、そうした人たちがアクセスしていると考えられます。これらの人が皆、今後コミュニティにつながることができるわけではありません。現状のコミュニティは、障害・疾病・人間関係等の困難を抱えた人たちを受け入れ、居場所にしてもらえるだけの包容力があるのか? まだまだ心もとないのです。

コミュニティへのハードルはまだまだ高く、そのステップとしての「回復」を主目的とした場がなければ、これらの人たちがつながり会えるまでには至れない。そう考えて、私たちから地域に積極的に情報発信を行い、個別によりそってネットワークにつながる方策をともに考えてゆける場を作れないか。そういう場にたくさんの人を呼び込んでゆけるしくみを作ろうと、模索を始めています。

「未だ『震災後』に至っていないのではないか」と感じています。

震災で、多様な性の当事者たちに様々なことが起こったけれども、これを契機にコミュニティ活動はひとまず活性化したと言えるでしょう。しかしそれは「震災ユートピア~震災を経て大きな社会変革が訪れるという期待」と同質のものではなかったかと思えてしまうのです。震災を経験しながらも、それを糧として新しいコミュニティをどれだけ創出できるか、それがまだ端緒についただけなのではないでしょうか。

一日のうちわずかの時間、人生のうちのわずかな部分でしかセクシュアリティをしっかり受け止めた生活を送れない。震災前からあり、震災を経験して、その危うさに気づきながらも、また元の状態に戻るだけでは、多様な性の当事者たちにとっての震災は、すぐに「なかったこと」になってしまいます。今の社会が多様な性の当事者たちを「いないこと」にしていること、そのことと同様の排除・無視を、自分たち自身で行うことはできません。

気づいたものから、ゆっくりでも、わずかでも、着実に前に進むこと。その活動で出会う困難にも、地域に協力者を広く求めて乗り越えてゆくこと。それらが実現できてはじめて、震災後が訪れたと、実感できるだろうと思っています。次の危機に対応できる手応えのあるコミュニティを作ってゆかねばならないでしょう。

そのために、多様な性の当事者たるすべての人が知恵を寄せ合い、行動してゆきましょう。現実的に、たくさんのつながりを、共に作ってゆきましょう。

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プロフィール

小浜耕治東北HIVコミュニケーションズ代表

1992年からHIVやセクシュアリティに関する活動を始め、93年の東北HIVコミュニケーションズの設立に関わる。2003年から同代表。仙台市エイズ性感染症対策推進協議会委員も務める。2004年に男性同性間感染対策のグループ『やろっこ』を立ち上げ、厚生労働省エイズ対策研究事業・男性同性間感染対策とその評価に関する研究研究協力者として活動。同年にみやぎいのちと人権リソースセンターを設立し共同代表に。2014年仙台・宮城地域の様々な困難にある人への支援活動を行う一般社団法人ブレスみやぎの設立に加わり、理事に。セクシュアリティに直接間接にかかわる多分野の活動とネットワークを構成し、重層的・複合的な地域の課題に取り組んでいる。

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