2015.03.17

沖縄から、LGBTが生きやすい社会をめざして

レインボーアライアンス沖縄/ピンクドット沖縄共同代表・砂川秀樹氏インタビュー

社会 #LGBT#ピンクドット

2013年、沖縄でピンクドットというイベントが行われた。このイベントは2009年にシンガポールで始まったLGBTのためのイベントだ。LGBTについては、渋谷区で同性カップルに結婚に相当する関係であるという証明書を出す条例が話題になっているが、現在の日本は、LGBTへの理解が深まり、生きやすい社会になっていると言える状況ではない。東京、そして沖縄で、長くLGBT関連の活動にたずさわってきた砂川秀樹さんに、これまでのピンクドット沖縄について、そして今年の開催に向けて、話を訊いた。(取材・構成/村山幸)

――ピンクドットというイベントは、プライドパレードと同じく、LGBTの人たちがより生きやすい社会をめざすイベントですが、どう違うんでしょうか。

パレードと違って広場で集まってそこで一緒に過ごすので、ゆったりできて、つながり感みたいなのが持てるかなと思います。パレードでは参加するかどうかがはっきりしてしまいがちですが、広場で集まるだけなら遠巻きに見ているだけという参加の仕方もできるので、比較的敷居が低い気がしています。地方では、パレードのような主張感の強いものは、当事者もメッセージが投げかけられる側もイヤがる人が多いかもしれないと思ったので、ピンクドットというかたちにしたんです。

昨年のピンクドット沖縄でステージに立つ砂川秀樹さん(撮影:木下幸二)
昨年のピンクドット沖縄でステージに立つ砂川秀樹さん(撮影:木下幸二)

 

――砂川さんは沖縄出身で、いまは沖縄で活動されていますが、その前から東京でLGBT関係の活動をずっとされていたんですよね。

大学のときは3年間山梨にいたんですけど、それから21年間は東京にいました。1990年からHIV/エイズの民間団体に参加して、HIVに長く関わり続けてました。2000年からパレードに関わって、いろいろ紆余曲折ありつつ、2010年のパレードも代表だったので、10年間ぐらいパレードに関わっていました。

――東京での活動と沖縄での活動と違いを感じることはありますか。

沖縄は小さいので、ピンクドットのような大きなイベントをやったり、僕自身がカミングアウトして活動したり、何か動きがあると社会に対して影響が及びやすいところがあります。実際、今年2月の那覇市議会でも3人の議員がLGBT関係の質問をして、そのうちの2人はピンクドットというのがあってという話をしてくれたので、影響は強く出ていると思いますね。

――一昨年、最初のピンクドット沖縄は、日本で初めてのピンクドット、そして沖縄で初めての野外での大がかりなLGBTイベントだったそうですね。実際に開催してみての感想は?

参加してくれたフリージャーナリストの女性の方は、沖縄に風穴が空いたような気がすると言ってくれました。それは、LGBTを顕在化するということでものすごくインパクトを与えられたということがあるんだけど、もうひとつは、新しい表現方法を提示できたということかと思います。市民活動やボランティア団体のイベントは、そんなににぎやかでなかったり、仲間内だけが集まったりになりがちだけど、ピンクドット沖縄は多くの人を集めて華やかにできたので、そういう表現の仕方があることを提示できたという面もあると思います。

――当事者の方、そうでない方の両方が参加されたり、そういうオープンな感じは自然に生まれたんですか。

ピンクドットが始まったシンガポールは、LGBTに対して行政などが厳しいところなので、もともとピンクドットも当事者が集まるというよりは、(当事者の)周りの人が集まりましょうみたいなニュアンスで宣伝していたんです。そのことで、当事者も含めて集まりやすい雰囲気を作ったんだと思いますね。だからピンクドット沖縄も、LGBTの人たちがより生きやすい社会にしたい、そういう想いを持っている人が集まるものですよって繰り返し説明をしていきました。だから当事者じゃなければいけないと思わなかった人が来てくれたのかなと思います。

同性愛者の若者が将来をイメージできるように

――去年は、沖縄出身で、いまはカナダで結婚している金城一樹さんと、そのパートナーであるハロルド・チャペットさんを呼んで、里帰り結婚式をおこないました。そういう企画をしようと思ったきっかけは?

THE GAY MEN PROJECTというゲイの写真を撮っている人のプロジェクトに、金城さんの写真が掲載されていたんです。沖縄出身で、海外で結婚して、ネット上に顔を出しているのはすごいなと思ったんです。同性愛の若い子が、沖縄で将来どうやって生きるかはイメージしにくいと思うので、彼のように同性パートナーと結婚して、幸せに暮らしていけるというのを示せたらいいかなと思って、相談を持ちかけたんですね。

――日本のように、同性婚という選択もなく、同性愛そのものがそこまで可視化されていない状態だと、やはり将来の生活は思い描きにくいものなんでしょうか。

最近は同性カップルで結婚式を挙げる人も増えているので、ある程度の年代でコミュニティにアクセスして、いろんな情報を得ている人は自分の将来のイメージがつかめるかもしれないけど、若い子たちはあんまりそういう情報にも触れてなかったりするみたいなんですね。

いまも県内の高校生からメールで相談を受けているんだけど、彼は将来がどんな風になるのか全然想像つかないと言ってるんですね。パートナーと一緒に暮らすのか暮らさないかも、イメージがつかめないと。だから、ピンクドット沖縄で里帰り結婚式をすることで、結婚するという可能性があることが伝わればいいかなと思ったんです。

里帰り結婚式をおこなった金城一樹さんとハロルド・チャペットさん
里帰り結婚式をおこなった金城一樹さんとハロルド・チャペットさん

 

――私も参加していましたが、とてもいい雰囲気で結婚式がおこなわれましたよね。新聞やテレビでも報道されたそうですが、強いインパクトを残せたのではないですか。

ゲイのカップルがキスしているところが、日本の新聞やテレビのニュースみたいなもので報道されたりすることはないと思うので、影響は大きいんじゃないかな。同性でキスしているだけで気持ち悪いと言う人もいるじゃないですか。それは理論ではなかなか納得させられることができない面もあるんだけど、結局は見慣れているか見慣れてないかということでもあると思うんですね。ああいう同性カップルの姿が皆の目に触れれば、ずいぶん変わるんじゃないかなと思います。

ピンクドット沖縄に参加して、生きるのがラクになった

――これまで2回ピンクドット沖縄を開催して、どういった反響がありましたか。

1回目に参加した30代のあるトランスジェンダーの男性(女性として生まれながら、女性として生きることに違和感を感じている方)は、2回目には実行委員として参加してくれました。彼がLGBTのイベントに参加したのは、一昨年のピンクドット沖縄が初めてだったそうなんですね。彼はそれから生きるのがラクになったと言ってました。

――そんなに強い影響があったんですね。

ピンクドット沖縄には本当にいろんな人が集まるんですね。彼はそれを“カオス的な”幸せと言っていました。ピンクを身につけたいろんな人が集まって、別に属性なんて何でもいいという明るさがあって、何が楽しいということでもなく、そこにいるだけで顔がほころんでしまう感じだったと。

――確かにそういう明るい幸せな空気が漂っていました。

そういう空間を経験することで、彼は自分がトランスジェンダーであることを、以前よりも受け入れられるようになったんじゃないかと思います。それまではどうしても、男か女か、どうあるべきかということを強いられていたのが、ピンクドットではそんなことはまるでないんです。そういう場があるということだけでも、当事者にとっては支えになることもあるようです。

去年ピンクドット沖縄の関連イベントに参加したスクールカウンセラーの方の学校にLGBTの子どもがいて、ピンクドット沖縄に行ったことをすごくうらやましいと言ってたと聞きました。その子は郊外に住んでいるので、参加はできなかったそうなんですが。

昨年のピンクドット沖縄でおこなった最後の記念撮影
昨年のピンクドット沖縄でおこなった最後の記念撮影

 

――ピンクドット沖縄が開催されたことが知られるだけでも、生きやすくなる人もいるかもしれないんですね。そのためにも多くの人に知られてほしいものです。

2回目は1回目よりも、LGBT当事者の参加が増えたように感じているんですね。最初の年はどんなものだろうとか、不安に思っていた人が、2年目になってイベントに参加してくれたということがあったようです。

――2年続けてやることによって成果が出ているわけですね。

だから、続けられるにこしたことはないんですけど。

沖縄、そしてアジアに生きるLGBTに力を貸してほしい

――ただ財政的に厳しいこともあって、今年の7月に3回目のピンクドット沖縄を開催するために、クラウドファンディングで資金集めをしていますよね。

はい。ピンクドット沖縄を開催することもそうですが、ピンクドット・ペナンの代表の方を日本に招く企画を考えています。ピンクドット・ペナンは去年3月に開催予定だったんですが、宗教団体からの圧力を受けて中止に追い込まれてしまいました。同じピンクドットを開催している立場として、その代表の方たちを招いて、ピンクドット沖縄ができればと思ったんです。ただ、財政的に厳しいので、クラウドファンディングが成立して、ピンクドット・ペナンの代表を招けるんだったら、頑張ってピンクドット沖縄をやる意味があるかなと思ってるんです。

――ピンクドットが日本で圧力を受けて中止になるのはいまは考えられないと思うんですけど、世界的に見れば珍しいことではないんでしょうか。

東欧などでもプライドパレードが中止になったところもありますよね。アジアでもイスラム圏のインドネシアやマレーシアは当然厳しいんですけど、これまではLGBTであることをことさら主張しなければ共存していたんです。ただ最近は、イスラム教の原理主義的な動きがすごく盛り上がりつつあって、状況が厳しくなってるんですね。それも気になっていました。そういう状況がアジアという近いところでも起きていることがあるのを知ってほしいし、同じ問題に取り組む仲間として連帯を示せればいいなと思うんです。

――一般の人にとって連帯を示すというのは、わかりにくい面があるかもしれませんね。

ウガンダで反同性愛法が通りそうになったときに、ネットで署名運動がありました。あの活動は法律の成立を止めようという署名なんですけど、それに似ているイメージではあります。マレーシアやインドネシアでLGBT関係のイベントが中止に追い込まれたことに対して、日本の人も関心を持っている、その活動を応援していると見せることは、すごく重要なのかなと思います。クラウドファンディングhttps://readyfor.jp/projects/pinkdotに参加するのは、そういう応援の気持ちを示す方法のひとつだと思うので、ぜひ多くの方に力を貸していただきたいと思っています。

実際、ピンクドット・ペナンの代表の方にこの話を持ちかけたときは、「Thank you for your message. It definitely is very encouraging and also we definitely appreciate your act of solidarity.(メッセージをありがとう。とても励まされ、連帯を表してくれたことに感謝します)」と喜ばれました。この記事で彼らのことをもっと紹介したいとも思うんですけど、ネット上では顔は出せないんですね。出すと、何か害が及んだりといった問題になる可能性もありますから。

――それほど厳しい状況があるということですよね。財政的に厳しいとのことですが、東京のLGBT関係のイベントには大企業がスポンサーにつくこともありますよね。その点はいかがですか。

東京と沖縄では当然ながら大企業の数も違いますし、東京に本社のある、LGBT関係にお金を出している大企業にもあたったんですけど、反応はよくないです。沖縄にお金を落としても、宣伝効果が低かったりするので仕方がない面があると思います。やはり沖縄でのイベントに大きな企業がスポンサーになるというのは難しいですね。これまでのピンクドット沖縄には地元の企業が協賛してくれたりはしていますけど、沖縄自体が経済的に厳しいということもあって、出せるお金は決して大きくはありません。

沖縄の眩しい陽射しの下、たくさんの人がピンク色を身に付けて集まる
沖縄の眩しい陽射しの下、たくさんの人がピンク色を身に付けて集まる

――イベントをおこなうには難しい環境でも、沖縄でピンクドットを開催することの意義はどういうところにあると思いますか。

地理的な距離を含め、アジアとつながりやすいかなという気はします。ピンクドット沖縄にも台湾や香港からの参加者もいますし、沖縄は東アジア的に人が集まるところでもあるんです。そういうところでイベントをやることでつながったり、広げていける可能性があるのかなと思います。もちろん沖縄で生きるLGBTの人のためということもありますし、LGBTの人がより生きやすい社会にというメッセージを、沖縄という地方から全国へ、世界へ発信していけたらと思います。

ピンクドット沖縄にピンクドットペナンの代表者2名を招待したい!

ピンクドット沖縄の共同代表の砂川秀樹と申します。

ピンクドットとは、「“LGBT=レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー” が、より生きやすい社会を!」という思いを持つ人たちが、ピンク色のものを身につけて集まることで、その思いを社会にアピールするというイベントです。沖縄では2013年、2014年と2年続けて開催してきました。

今年は、このピンクドット沖縄へ、昨年中止に追い込まれたピンクドット・ペナン(マレーシア)から代表を招いて開催したいと考えています。厳しい状況にある、アジアの仲間達との連帯を表明し、LGBTがより生きやすい社会をアジアに広げていくためのアピールにしたいと思っています。

しかし、彼らをピンクドット沖縄に招待するための費用が不足しています。

みなさまのお力をお借りできないでしょうか?

昨年以上に楽しく温かい雰囲気でピンクドット沖縄を開催し、そしてアジアの仲間たちとの連帯を表明する場を実現するために、ご支援どうぞよろしくお願い致します!

■詳細はこちらから!⇒  https://readyfor.jp/projects/pinkdot 

プロフィール

砂川秀樹文化人類学

1966年沖縄県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。現在、ピンクドット沖縄/レインボーアライアンス沖縄共同代表、早稲田大学琉球沖縄研究所招聘研究員、沖縄国際大学非常勤講師。共編著に『カミングアウト・レターズ』(太郎次郎社エディタス、2007)。

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