そもそも電力自由化とは何かを再考する

今年4月からの電力小売全面自由化を迎えるにあたって、筆者の元にもさまざまなメディアから「電力自由化によってどのような恩恵がもたらされるのか?」というお問い合わせを頂いております。特に、「一般の消費者にとってどのようなメリットがあるのか?」という消費者目線での質問が多く、消費者の期待や関心が高まっていることが感じさせられます。例えば、「電力会社(小売会社)を自由に選べるようになる」という期待は多くのメディアでも取り上げられています(注1)。

 

(注1)本稿は、「環境ビジネスオンライン」2016年1月4日号に掲載されたコラム『年頭にそもそも電力自由化とは何かを再考する』を加筆修正の上転載したものです。原稿転載をご快諾頂いた環境ビジネスオンライン編集部に篤く御礼申し上げます。

 

しかしながら、ここで気をつけなければならないのは、「自由」というキーワードについつい引きずられがちですが、会社を「自由に」選べるようになることだけが電力自由化のゴールではない、ということです。消費者が自由に小売会社を選べること自体はもちろんよいことなのですが、それはあくまで電力自由化の要素のひとつに過ぎません。電力自由化のより本質的な目的は、実は「公平性(フェアネス)」と「透明性(トランスペアレンシー)」の担保なのです。

 

一般の消費者から見れば、公平性や透明性といった言葉は抽象的過ぎて少々縁遠く、「それによって我々に何のメリットがあるの?」と思われがちかも知れません。しかし実は、これこそが廻り廻って消費者にとっても大きな影響を及ぼす重要なキーワードなのです。

 

 

自由に選べることが自由化?

 

図1に示すように日本の電力の供給は現時点では地域独占が認められており(左図)、例えて言うなら社会主義国の価格統制された配給制に似た状態です。野菜や魚を買いたくても各地域で政府から許可された一軒のお店からしか買えないというイメージです(契約電力が2000 kW以上の大口需要家は2000年に部分自由化されているため、複数の店から自由に選んで買える制度に移行していますが、一般家庭など小口需要家は他の店から買えない状態が続いていました)。それが今年の4月を境に、さまざまな八百屋さんやスーパーができて(右図)、誰でもどのお店からも自由に買えることになるのです。自由、万歳!

 

 

1 電力自由化と発送電分離のイメージ

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(出典)西山: 電力システム改革を考える上で必要な視点, 総合研究開発機構, NIRA政策提言ハイライト, 2012/10

 

ところが、前述の通り、自由にお店を選ぶことができることだけが自由化のゴールではありません。消費者がせっかく自由にお店を選べたとしても、そのお店に商品を届けるための流通ルートや市場がきちんと整備されていなければ、それぞれのお店は健全な意味で競争ができません。各店が健全な競争をしなければ、見かけ上選択肢が豊富で自由にお店を選べたとしても、消費者にとって何が得になるかわからなくなってしまいます。

 

図1右図では需要家(電力消費者)から上流を辿っていくと、需要家→小売会社→送配電網→発電会社と連なっています。ここで送配電網は道路であり、特に送電線は高速道路に例えられます。高速道路を所有したり管理したりする会社(送電会社)が、商品を生産する会社(発電会社)や、それを受け取って消費者に届ける会社(小売会社)を所有していると、自社の商品を載せたトラックばかりを優遇し、他社のトラックを冷遇する可能性があるため、これらの会社を分けなければなりません。これが発送電分離の考え方です。

 

しかしながら、発送電分離は2015年6月に電気事業法が改正されGOサインが出ていますが、その施行は2020年とまだ先の話です。また、厳密に言えば、小売の料金規制が撤廃されるのも2020年以降であり、消費者にとってお店を選ぶことは自由になったけれどもお店の方が価格を自由につけることにまだ一定の制限がある状態です(この措置は主に消費者保護の観点からですが)

 

 

過度な期待にはご注意を・・・。

 

2016年4月の電力小売全面自由化を機にさまざまな会社がさまざまなメニューを用意しはじめため、一般消費者にとってもどの会社を選ぶべきか、ひとつの大きなイベントとして一時的にかなり盛り上がっている状態です。そこで新しいものにすぐに飛びつく消費者もいれば、慎重に様子を見る消費者もいることでしょう。小売会社の電源構成によっては、意思表示のために「乗り換え」をする人も少なくないと思います。しかし、単に「安くなる」だけを目的とすると、却って手数料が上がってしまったとか、複雑になりすぎて徒労感だけが残ったという人も出てくるかも知れません。自由であることには一定のリスクも伴います。

 

しかしながら、前節で指摘した通り、小売会社より上流にある流通を含めた電力システム全体の構造改革はまだ完了していないことに留意すべきです。「電力小売全面自由化」の「全面」は、これまで大口需要家のみに与えられていた部分自由化を小口需要家にも開放したという意味での「全面」であり、電力システム全体の自由化が全面的に完成したわけではありません。

 

そのような移行期に、過度な期待感の裏返しで「こんなはずじゃなかった」という極端な落胆感ばかりを喧伝したり、他人の失敗を嘲笑って足を引っ張ったりするという風潮だけは避けなければなりません。性急な変化を過度に期待するとその分落胆感も大きくなります。どのような商品やシステムも初期には必ず不具合がありますし、ましてや発送電分離はまだ道半ばです。その中でおそらく発生するであろうマイナーな不具合もある程度許容し、それを前向きに修正しながら着実にイノベーションを進めなければなりません。それが2016年の電力小売全面自由化の年に日本全体で必要とされていることだと筆者は考えています。そして、そこで必要となるキーワードこそが、冒頭に登場した「公平性」と「透明性」なのです。【次ページにつづく】

 

 

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