2013.04.19

同性間に結婚を認めるべきか否か。いま世界各地で議論が巻き起こっている。二大政党制をとるアメリカの大統領選では、同性間の婚姻を認めるか否かは主要争点のひとつとなっており、フランスやイギリス、ニュージーランドなどでも婚姻を同性同士にも等しく認める法律案が審議中である(2012年3月現在)。あたらしく選出されたローマ法王の出身国アルゼンチンも、同性同士に婚姻を認めている国のひとつだ。

これまで婚姻が異性間で結ばれる法的な絆であることは、ほぼ無前提に、あるいは、とくに解説を要しない事実として受け止められてきた。内縁や事実婚という言葉も、一般的には異性間の関係性を念頭に置いている。同性間パートナーシップに対する法的保障の議論は、所与のものとして理解されがちな婚姻を相対化し、婚姻そのものがもつ現代的な意味を問い直す機会をわれわれに与えている。

法的保障の比較

 

そこで、現在さまざまな国家で導入されている同性間パートナーシップへの法的保障の類型を概観してみたい。婚姻あるいは家族に関連する法制度は、その国や地域の歴史や文化を背景に、成立条件や保障内容にさまざまな違いがみられる。多様な法制度を完璧に整理することは困難を極めるが、ここでは、既存の婚姻制度との差異を軸に、あたらしい制度を構築する類型(1)と婚姻そのものを拡大する類型(2)に大分類し、前者をさらに2つに分類して説明してみたい。

(1)あたらしい制度の構築 ―― 別制度型、契約登録型

 

同性間パートナーシップの法的保障は、婚姻とは別に、同性間のみで利用可能な新制度を構築するところからはじまった(以下、「別制度型」)。1989年にデンマークで施行された登録パートナーシップ法(registreret partnerskab)がその嚆矢である。同性同士の関係性のみを登録対象としている点や、保障内容が婚姻とほぼ同等である点に特徴をもつ。立法形式としては、婚姻規定を準用するものと新規立法を行うものがある。先述のデンマークをはじめ、北欧諸国の登録パートナーシップ法、ドイツの生活パートナー関係法、イギリスの市民的パートナーシップ法などが代表例である。なお、北欧諸国は後述の婚姻型への移行にともない、別制度型は廃止されている。

別制度型と異なり、同性間であるか異性間であるかを問わず、共同生活の契約内容を登録する制度が新たに構築された例もある(以下、「契約登録型」)。1999年にフランスで導入された民事連帯契約(Pacte civile de solidarité)である。異性間パートナーシップでも利用可能である点や、身分の登録ではなく当事者間の契約内容の登録である点に特徴をもつ。ただし、契約登録型を採用しているのはフランスやルクセンブルクなど、ごく少数にとどまっている。

(2)婚姻を同性間に拡大 ―― 婚姻型

 

上記の別制度型と契約登録型が婚姻とは異なる新制度を構築したのに対して、2000年代に入ると、同性間パートナーシップを婚姻そのものの枠内に取り込む国家が出現してきた(以下、婚姻型)。婚姻型をはじめて採用したのは、2001年のオランダである。その後、2003年にベルギー、2005年にスペインとカナダ、2006年には南アフリカ、ノルウェー、スウェーデン、2010年にはアルゼンチン、ポルトガル、アイスランド、2012年にデンマーク、2013年にはウルグアイが相次いで婚姻型を採用するに至った。2013年4月現在、ニュージーランド、フランス、イギリスの3カ国において、婚姻型への移行が議会で話し合われており、いずれも可決される公算が高い。

注目されるのは、逆に、婚姻型への移行を明確に回避する動きもみられることである。たとえばオーストラリアは2004年に婚姻法を改正し、婚姻は異性間に限られることを明記した。婚姻を異性に限定する直接的な定義を導入する動きは、ラトビアやエクアドル、ボリビアなどでもみられる。より根本的には、同性間での性行動を含む関係性を刑事法による処罰対象とする国家もあり、ナイジェリアやウガンダなどでは、同性間パートナーシップの法的保障の動きが、刑事法の厳罰化の引き金ともなっている。

報道で取り上げられることの多いアメリカは、婚姻や家族に関する法制度は州ごとに異なる。ニューヨークなど9つの州と首都ワシントンで婚姻型が導入されている一方、カリフォルニア州などでは婚姻が異性間に限定されている。現在、アメリカ連邦最高裁判所では婚姻の平等をめぐる審議が始まっている。

●各類型の比較図

既存の婚姻

01

別制度型

02

契約登録型

03

婚姻型

04

議論の争点

日本の現行法上、婚姻に入ることのできる関係性を明確に定義する規定は存在していないものの、法解釈や法実践において、婚姻を異性間に限定してきた。たとえば、婚姻届の様式は「夫になる人」「妻になる人」を一人ずつ記入させるものであり、戸籍筆頭者との続柄欄に夫側は「男」、妻側に「女」とすでに印字されている。

性同一性障害者特例法3条1項2号の規定は、戸籍上の性別を変更する条件として、申立時に結婚していないことを要求する。これは婚姻を継続したまま法律上の性別を変更すると同性婚の概観が生じるために設けられた規定である。また、入国在留審査要領は家族滞在ビザが発給される「配偶者」の範囲から同性間パートナーシップを明示的に排除している。婚姻や家族の法制度の枠外に置かれてきた同性間パートナーシップを営む人々は、成年養子縁組や公正証書を活用することにより、一定の解決を模索してきた。ところが、養子縁組意思の不存在や公正証書の効力範囲など、その法的効果は婚姻とは比較にならないほど不安定かつ脆弱なものとなっている。

このような現状のもと、ここ20数年の間、当事者や研究者のあいだでこの問題についての議論が展開されてきた。しかし、多くの議論が散発的なものであり、諸外国のような具体的な法制化や世間の耳目を集める議論には至っていない。これまでの議論を概観すると、主要な争点として、婚姻・家族と人権、法制度の象徴的作用、現実対応の模索の3つが見いだせる。

(1)婚姻・家族と人権

 

まず、婚姻や家族の法的保障と人権や平等をめぐる争点である。婚姻する権利や家族生活・家族形成の権利は、すべての人が享有する人権のひとつとして規定される。たとえば日本国憲法24条は、1項において婚姻が両性の合意のみにもとづいて成立し、夫婦が平等であることを保障する。また2項において、婚姻や家族に関する法制度が個人の尊厳と両性の本質的平等にもとづいて規定されることを国家に義務づけている。

争点は、同性のパートナーをもつ人々は、性的指向にもとづいてこれらの権利を侵害されているか否かである。平等な権利享有の文脈からは、保障内容が平等であれば足るとして別制度型を採用する立場(ドイツ連邦最高裁)と、別制度型そのものが平等でない措置であり人間の尊厳を侵害するという立場(カナダ市民婚姻法)がある。

(2)法制度の象徴的作用

 

また、制度的保障の意義やその意図せざる影響や社会的効果に関する争点がある。たとえば、異性間パートナーシップではない親密な関係性に法的保障を付与することは、性愛を基準とした社会的排除を経験してきた人々に肯定的評価を付与することにつながり、もって異性愛ではない性的指向の存在を公に認めることになるという主張がある。

より慎重な立場からは、同性間パートナーシップに新たな制度を構築することそのものが、むしろ性愛を基準に市民を分断し、一方を二流市民として烙印付ける反射的作用をもたらすと考えられている。また、既存の婚姻制度に範型をとる法的保障は、婚姻型のみならず、別制度型も契約登録型も、同性間パートナーシップを異性愛規範に「同化」させる作用をもたらすとの警笛も鳴らされている。いずれも法制度の象徴的作用に着目した論点である。

(3)現実対応の模索

 

さらに、現実対応の必要性やそのための制度変革に関する争点がある。ひとつは既存の資源を活用することによる現実問題への対応を探るものである。シングル単位での社会保障の構築を含め、同性間パートナーシップを含む社会的少数派の諸問題の包括的解決を企図している。もうひとつは婚姻制度への疑義を徹底しつつ、具体的な制度変革を試みるものである。ケアの視点による婚姻・家族制度の脱構築と再構築がその例にあげられる。親密な関係のあり方について国家や公権力が規制や管理する意味を問い直し、既存の法制度がもつ権力性や差別性に意識を向けた上で、あるべき代替的制度を構想するものである。

以上3つの争点は、独立したものではなく、相互に密接な連関をもつものである。これらの争点の多くは、諸外国の法制化の過程でも激しい対立を生じさせていた。

どこへ向かうのか

近年、日本では性的指向にもとづく差別の撤廃について一定の進展がみられる。たとえば、法務省は人権擁護週間における啓発活動年間強調事項に性的指向にもとづく差別を列挙しており、内閣府による自殺総合対策大綱では性的マイノリティを対象とした自殺対策への取り組みが明記された。国会でも、性的指向や性的マイノリティ、LGBTといった言葉を使って質疑が展開されはじめている。

この現状に対して、国際人権法の効果的な実現を任務とする条約機関は、国内法の改正を含めたさらなる具体的な措置を講ずるよう勧告されている。自由権規約委員会は、第5回締約国レポート審議の総括所見において、差別禁止項目に性的指向を挿入するとともに、同性間パートナーシップに異性間の事実婚と同等の保障を確保するよう勧告した。2012年末の国連人権理事会における第2回普遍的定期審査では、性的指向や性自認に関する差別への取り組み強化を5カ国から勧告され、日本政府代表は同勧告の実現を誓約した。今後、同性間パートナーシップの法的保障についても積極的に議論が展開されていくことと期待される。

最後に、ここ20数年の日本における同性間パートナーシップの法的保障をめぐる議論が散発的なものであった状況を踏まえ、議論を展開させるための視点をまとめてみたい。

(1)当事者のニーズ

 

同性間パートナーシップの法的保障について、当事者のニーズはどこにあるのか。具体的不利益として、主に次のようなものがあげられる。住居について、公営住宅への入居が制限されていたり、共同での住宅ローンが組めないことが多い。職場でも家族手当や忌引、福利厚生の利用などができず、事実婚関係にある異性間パートナーシップとは異なる処遇をうけている。

税金や健康保険等の社会保障制度でも、扶養家族や第3号被保険者に該当せず、遺族年金や生命保険の受取人にもなることはできない。パートナーが外国籍である場合、パートナーや家族としての在留資格は認められない。医療や介護サービスでも他人として扱われるため、何十年にわたって平穏に連れ添っていても、お世話もできなければ最期の瞬間への立ち会いも許されないことがある。法定相続の対象外のため、遺産分割や遺留分請求などは不可能となる。このような不利益については、社会学者らによる実態調査が継続して行われており、それらのデータを集約し、当事者のニーズを可視化することは急務である。

しかし、同時に認識しなければならないのは、当事者のニーズが可視化されていないこと自体、議論を停滞させたり、棚上げしておく理由にはならない点である。言い換えれば、法的保障の議論をはじめる前提として、ニーズの正確な把握を求める姿勢には一定の留保が必要である。もちろん当事者のニーズは法制度設計にとって重要な資料となる。ところが、異性間パートナーシップを前提とする法制度や社会慣習の中で生きている当事者にとって、当然に排除されてきた自らの関係性に何が与えられ得るかを具体的かつ正確に認識し、発言することは難しい。

生活実態そのものを把握しようにも、そもそも同性のパートナーとともに生きていることを公言する自体が難しい社会状況の中で、国勢調査並みの的確な社会調査や社会統計を期待することはできない。むしろ、国勢調査等の公的な大規模調査において、同性間パートナーシップに特化した数値が存在しない実情は、同性間パートナーシップの公的な承認がなければ当事者の生活実態やニーズの正確な把握は不可能であることを物語っている。当事者のニーズの可視化は、法的保障の議論の前提ではなく、同時に進行していくべきものである。

(2)制度の選択

 

今後、同性間パートナーシップの法的保障について、より具体的な議論が進んでいくと、別制度型、契約登録型、婚姻型または他の型式、あるいは法的保障の禁止や関係性の処罰など、いずれの法制度を採用するか、選択を迫られることになる。先述のとおり、具体的な制度設計が国政レベルにおいて提言されていない現段階でも、諸外国の法状況と比較しながら、婚姻・家族と人権、法制度の象徴的作用、現実対応の模索などの点から議論が展開されている。

これまで法制度化をなしとげた国の状況をみると、各制度が選択された状況はさまざまである。長年の議論にもとづいて別制度型から別制度型の異性間への拡大、そして婚姻型へと慎重に段階を経てきたデンマークのような国もあれば、当事者による働きかけがあまり盛り上がらないままに政権交代の公約としていきなり婚姻型が成立したスペインのような国もある。フランスのように異性間パートナーシップの人々がもつ婚姻制度への疑義と協働しつつ制度変革が進んだ国もある。このように制度の選択は、その時々の政治状況や社会の潮流に左右されやすく、予断を許すものではない。

制度選択において注視すべきは、選択された制度が必ずしもすべての同性間パートナーシップを営む人々にとって納得できるものにはなり得ないことである。ある法制度を選択することは、社会にひとつの境界線を引く作業にほかならない。線引きは必然的にその枠内には入れない状況をつくりあげてしまう。だからこそ、選択の過程だけでなく、制度が構築された後においても、境界線の外側におかれてしまう事柄や関係性に対する的確な考慮が求められる。制度の選択は、目的や着点ではなく、手段であり、ひとつの過程と理解されなければならない。

(3)現実対応の必要性

 

当事者のニーズの正確な把握や制度の選択にかかわる的確な考慮は、同性間パートナーシップの法的保障の議論を展開するために重要な視点である。これには多大な労力や資源が必要であり、また、十分に時間をかけた慎重な議論が求められる。現行の婚姻制度や戸籍制度などの論点も視野に入れつつ、根源的な議論を展開していくことも、個々人の生き方や国家とのかかわり方を思考する不可欠の議論である。

しかしながら、その議論の素材となる同性間パートナーシップを営む人々は、生身の人間であり、制度上の保障を受けえない日常に耐えつつ生活していることも忘れてはならない。パートナーの子どもとともに生活しながら法的に他人でありつづけるしかない人々、家族滞在が認められないため在留資格の更新手続に翻弄されながら生活せざるを得ない人々、長年つれそったパートナーを看取ることすら許されない人々など、問題は現在進行形である。

同性間パートナーシップの法制度は、それらの現実問題を解決するひとつの選択肢となりうる。それを実際に選択するか否かはもちろん個々人に任されている。しかし、選択肢としてすら存在しない状況を維持することに荷担しかねない議論は、現実の問題に耐え凌ぐことを強要しつづけるに等しい。もちろん、現実的な問題を解決する手段は、成年後見や養子縁組などの法的なものも含めて、まったく存在しないわけではない。それらの制度や資源を有効に活用しつつ、選択肢としての法的保障を議論していくことは、同性間パートナーシップを営む人々が尊厳をもって生きられる社会へと導く原動力の両輪と位置づけられよう。

おわりに

日本をはじめ、異性間パートナーシップをほぼ無前提に引き受けてきた法制度は、婚姻は異性間であり、異性間こそが婚姻の保護に値するとの循環的な了解のもとに成り立ってきた。同性間パートナーシップの法的保障も、得てして、それらの制度に「乗るか、反るか」の選択を迫られ、その選択の意味や影響をめぐる議論(ときに対立)に貶められてきた。そこには異性間パートナーシップが制度的に保障されている現実は不問となり、同性間パートナーシップのみが制度の枠外で藻掻きつづける構図ができあがっている。

しかし、同性間パートナーシップの法的保障を求める主張の本旨は、異性間パートナーシップを含め、婚姻が制度として無前提に引き受けられている現状に疑義を呈し、婚姻や家族をめぐる制度の対象や意味、あるいはその定義づけを自らの手に取り戻すことである。当事者のニーズや制度の選択、現実対応の必要性を的確に認識しつつ、既存の制度を再定義していく営みこそ、同性間パートナーシップの法的保障の意義といえる。国家や社会の手に委ねられてきた個々人の関係性のあり方を、性的指向にかかわらず、個人の尊厳から捉え直すことが、いま求められているのではないだろうか。

プロフィール

谷口洋幸国際人権法 / ジェンダー法学

高岡法科大学准教授。中央大学大学院博士後期課程修了、博士(法学)。日本学術振興会特別研究員PD、クィーンズランド大学客員研究員、早稲田大学比較法研究所助手を経て、現職。専門は国際人権法・ジェンダー法学。日本学術会議法学委員会親密な関係に関する制度設計分科会特任連携会員。著書に『性的マイノリティ判例解説』(信山社・2011、編著)、『性同一性障害:ジェンダー・医療・特例法』(御茶の水書房・2008、共著)ほか。特別配偶者(パートナー)法全国ネットワーク共同代表。

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