2013.02.16

国はLGBT当事者に配慮した施策を行う必要がある!

社会 #LGBT#石川大我#佐藤融司

1月13日、「LGBT施策の必要性を訴えるデモ(http://knk.gloomy.jp/)」が銀座で行われた(LGBTとはL=レズビアン、G=ゲイ、B=バイ・セクシャル、T=トランスジェンダーの略)。「当事者団体によって主催され、活動的な当事者や支援者が集まる場」というイメージが根強いLGBTのイベント。そうしたなか、非当事者の現役大学生、佐藤融司さんによって主催されたこのデモは異色である。

佐藤さんは「当事者の友だちを助けたい」という思いのもと、個人でこのデモを企画、友人たちとともに運営を行った。120人前後集まった参加者の多くは、ツイッターによって集まった中・高・大学生のデモ未経験者であったことも特徴的だ。いまだ日本社会では根強い偏見が残るLGBT。現状を変えていくために何ができるのか。主催者である佐藤氏、および豊島区議会議員石川大我氏にお話を伺った。(構成/出口優夏)

選挙結果に絶望する当事者たちの力になりたくて(佐藤融司氏)

―― LGBTの活動は当事者が主催することが多く、佐藤さんのような非当事者が主催者となるのは大変珍しいですね。

今回、デモを主催しようと思った一番の動機は、「自民党の大勝によって意気消沈していた当事者の友人たちの力になりたい」というものです。昨年12月の衆議院選挙の際に、「市民と政治をつなぐ P-WAN」(http://p-wan.jp/)が各政党に対して政策アンケートを行いましたが、そのなかに『性的マイノリティ(LGBT)に対する差別や社会的排除をなくす』という質問項目がありました。多くの政党は「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答したのですが、自民党と国民新党のみ「どちらかと言えば反対」という回答だった。しかしながら、ご存知の通り、衆議院選挙では自民党が大勝してしまいました。

「今後、自民党がどう動いてくるのか」ということは、LGBT当事者の友人たちにとって大きな不安となっています。わたし自身はおそらく当事者ではありませんが、LGBTの友人たちがかかえている「生きづらさ」にはすごく共感できる。居ても立ってもいられなくなり、自分でデモを企画しようと思いました。

※『「ジェンダー平等政策」を求める会』による2012年総選挙政策アンケート/P-WAN掲載(http://gifu.kenmin.net/akenminh/kou-2/seitou/123fpa7.pdf)にて、自民党は、『どちらかと言えば反対』と回答。また、NPO団体レインボープライド愛媛による比例政党への2012年総選挙時政策アンケート(http://blogs.yahoo.co.jp/project_gl05/63786456.html)にて、同じく自民党は『人権問題として同性愛者や性同一性障害者らの性的少数者について取り組んでいくことをどう思われますか?』という質問に、『人権問題として取り組まなくてよい』と回答した。

―― このデモの目的はなんでしょうか?

今回のデモの目的は「LGBTは身近に存在している」という事実の周知と、「国はLGBT当事者に配慮した施策を行う必要がある」と訴えることでした。

しかし、個人的には「当事者団体が主催することの多いLGBT活動において、非当事者である個人が声を上げて訴えた」という実績をつくることを重視している面もあります。すでにLGBT支援活動をされている人にとっても、これから活動をしていきたいと考えている人にとっても、「非当事者がデモを成功させた」という実績が励みになるのではないかと思っているからです。実際、ツイッター上で開催を告知して以来、当事者・非当事者両方の方々からそういった反応を頂いており、嬉しく思います。

また、わたしのような非当事者の人間が主催することで、LGBTに嫌悪を持っている方からの攻撃を受けづらいんじゃないかという考えもありました。どうしても、当事者が「国の施策」や「国による支援」を訴えると、「支援するのはLGBTだけでいいのか!」「同性愛者のくせに!」といったまったく根拠のない攻撃を受けやすくなってしまう。しかし、非当事者が主催をすることで、多少なりともそういった攻撃が緩和されるかもしれないと思いました。

一方で、非当事者のわたしが主催するイベントを、当事者の方々が受け入れてくれるのかという不安はありました。いままでのLGBT活動の主催は当事者の方が多く、当事者主催のイベントの方が当事者からの支持は得やすいからです。しかし、好意的に捉えてくれる当事者の方が多かったので安心しています。また、思いのほか、非当事者が多く集まってくださったのは嬉しい誤算ですね。

―― デモの開催を発表してから、周りの当事者の方々の反応はいかがでしたか?

当事者の友人たちからの反応はおおむね肯定的でした。「動いてもらえることが嬉しい」「行けないけれど是非とも協力したい」「参加したい」と言ってくださる方が多くいましたね。

一方で、反対の声もありました。「今回のデモが否定的に受け取られるのが怖い」「結局、性同一性障害の話に吸収されてしまうのではないか」といったものです。日本のLGBTに対する報道は、性同一性障害の話に回収されてしまうことが多いからです。そういったことにも細心の注意を払いながら、ご指摘を謙虚に受け止めて、改善していかなくてはいけないと思っています。

―― 抗議のかたちとしてはさまざまなものがあると思いますが、どうしてデモを選んだのでしょう?

デモが「一番可視化されやすく、多くの人に周知しやすい」活動であると思ったからです。「ロビー活動を先に行った方がよいのではないか」というご意見も頂きましたが、今回のデモは衆議院選挙の結果を受けたものということで、「できるだけ早く、目に見えるかたちで声をあげる」ことを優先しました。もちろん、ロビー活動は重要なことなので、それはそれとして継続していかなければならないと思います。

―― Aセクシュアル(無性愛)やパンセクシュアル(全性愛)の方からの声も上がっていましたが、あえて「性的少数者」ではなく「LGBT」という表記を使用した理由はなんでしょう?

今回のデモはTwitterで拡散する予定だったので、できるだけ少ない文字数にしたいと考えていました。そうすると、「セクシュアル・マイノリティ」だと長い。しかし、「性的少数者」では「性的」という表現が誤解を生んでしまう懸念があったので、「LGBT」という表現にきめました。

たしかにAセクシュアルやパンセクシュアルの当事者は「LGBT」には含まれないので、本当ならば「セクシュアル・マイノリティ」という表現の方がよいと思います。実際、「LGBT」という表現に懸念をいだいた方もいらっしゃいました。どの表記が一番適切なのかという問題は難しいですよね。

―― 今回はデモというかたちでしたが、さらなる活動を計画していますか?

いますぐに次の活動を計画しようとは考えていません。まずは、今回のデモの反省をしっかりと行い、次の計画の際に有用なメソッドをまとめる必要があると考えています。たとえば、「デモを実施する際に、どのように行政への手続きを行うのか」という流れを詳しく知っている人は案外少ない。活動自体の継続よりも、活動のノウハウの共有を重視していきたいですね。

今回、「とにかく自分から声をあげてみる」ということが自分にとっても大きな活力になったと感じています。デモをきっかけにさまざまな人とつながることもできました。次回があるのか否かも決まっていませんし、また、あるとしてもどんなかたちになるかはわかりませんが、そういったコミュニティー形成の場をつくっていくことは重要だと思っています。

新たなつながりによる希望の芽(石川大我氏)

―― デモに参加されていかがでしたか?

いわゆる「パレード」と呼ばれる大規模なLGBTデモとは異なって、顔見知りでない方がたくさんいらっしゃるという印象を受けます。でも、「知らない顔が多い」というのは、それだけ新しくLGBT活動に興味を持ってくれた人が多いということ。ですから嬉しいですね。

今回のデモの参加者の多くはTwitterによって集まったと聞きました。ソーシャルメディアによってつながった人々が、個人の意志で集まるというところに、希望の芽を感じます。

―― パレードと比較すると政治色の強いデモでしたよね。豊島区議会議員として実際に政治に携わる石川さんにとって、デモの参加者はどのように映りましたか?

もちろん、個人個人と話をしないとわからないですが、デモの主旨に賛同して集まっている方々なので、自民党政権の保守的な考えに対して、何かアクションを起こさなければいけないという思いをいだいている方が多いのではないでしょうか。

実際、自民党政権は、「異性愛を当たり前」とする教育を子どもたちに行おうと動き出しています。たとえば、「好きな異性がいることは自然」という文言の入った「心のノート」の配布を復活させることを決めましたね。

わたし自身は豊島区の議員ですから、豊島区のなかでやれることを少しずつやっていきたいと思っています。しかし、私が一人でなにかを言っていても、豊島区としては「あなた一人の意見でしょ」という話になってしまう。だから、「石川さんがんばってよ」と傍観しているだけではなく、少しでも多くの区民のみなさまが一緒に声を挙げてくれたら嬉しいなと思います。「ただの区民が声をあげても意味がない」と思う方もいるかもしれませんが、一人一人の意見が集まると大きなパワーになることも多いですから、声をあげるのはすごく大切なことだと思います。

これは、豊島区だけでなく日本全体にも当てはまることです。国民一人一人が声をあげていくことによって、その流れに押されて国会議員が動き、国が動いていくということは十分にありうる。デモの参加者のみなさまがそういった流れをつくってくれることに、大きな期待を寄せています。