現代河原者として生きる――明度の高い社会に闇を引き戻す

水族館劇場は、1987年に創設された野外劇の役者徒党である。彼らは劇場を自前で建てる。建てさせてくれる場所も自分たちで探す。昨年からは、東京世田谷区の太子堂八幡神社の境内がかりそめの根城だ。

 

今年の演目は、「Ninfa 嘆きの天使」(5月16日〜6月3日、公演終了)。境内には、階段状のしっかりした座席を備えたキャパ約120人の堂々たる劇場が組み上げられた。回り舞台が上手・下手に2つ。劇場のいたるところに30トンもの本水が仕込まれている。クライマックスでは大量の水が吹き上がり、轟々と落ちる。水とライトを浴びた役者が負けじと叫ぶ、そのシーンはまさにスペクタクル、壮大な見世物だ。

 

時代背景は明示されないが、確認できただけでも、古代、中世の日本、革命前夜のロシア、1960年代の網走、津軽、東京、そして現在の東京のどこか。物語は時空を超えてさすらう。もちろん観客も道連れである。貧しい生まれで両親に捨てられ、勉学の道を閉ざされ、好いた相手との縁談も破棄され、子どもを流させられて精神を病んだセツと、その弟で、さまよいたどり着いた土地の映画館のスクリーン裏にもぐりこみ姉の幻に呼びかける少年ノリオ、姉弟をめぐって話は進む。

 

ノリオが出会う映画館のもぎりの女の子、自分を捨てたロシア人の父と出会うために同じ曲馬団の調教師になったハーフの少女、日本人街のボス、セツをとらえようとする精神病院の女医、都を追われて流浪する千年の時を超える国栖の一族など、多彩なキャラクターが登場する。そして、さすらい続けた物語は、ノリオが放った4発の銃声がセツの耳に届いたところで終わる。

 

ノリオは、1968年に19歳で連続射殺事件を起こした永山則夫だ。獄中で本を書き、1997年に死刑が執行された。「貧しいからこそ、セツは夢を盗まれたのであります」。桃山は劇中でそう語らせる。水族館劇場はずっと、貧困や無知ゆえに社会の最下層に追いやられる人たちの物語を描いてきた。けれど、目の前で繰り広げられるスペクタクルや、叙情的な台詞に心をわしづかみにされながらも、ある引っかかりが消えなかった。

 

1970年以降に生まれた人が人口の約半数に達する今の日本で、永山則夫という固有名詞はどこまで届くのだろうか。町中どこもかしこも開発されていく世の中で、水族館劇場はこれからもかりそめの劇場を建てる場所を見つけることができるのだろうか。

 

前置きが長くなりました。作・演出の桃山邑さんのインタビューをお届けします。(聞き手・構成/長瀬千雅)

 

 

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ラジカルな旅劇団に飛び込む

 

ーー 結成は1987年ですね。

 

この芝居のために四国から上京した巌基次郎と、主演女優の千代次と、ぼくでと旗揚げして、東京から筑豊へ向かいました。

 

 

ーー その時にもう水族館劇場という名前があったんですか。

 

ありました。あまり難しい名前にはしたくなかった。水族館劇場って、耳にポップでしょ。

 

 

ーー カラフルな魚が泳いでいそうですね。

 

そういうほうが新しい人も入ってきやすいんじゃないかと思った。水のイメージは最初からありました。それまではずっと火を扱っていたんです。曲馬舘の時も、驪團(りだん)の時も。芝居のなかで火炎瓶を投げるような劇団でした。

 

曲馬舘という、全国を転々と放浪する旅劇団があったんですね。そこに79年に入って、80年に解散してしまったんだけど。ぼくは田舎から東京に出てきて、建設現場で働いていたんですが、曲馬舘はテントに建築資材を使ったりしてたんですね。何かと重宝されました。曲馬舘は日本演劇史のなかでもっとも政治的だったと言われる集団です。機動隊とぶつかって公演を中止にされ、10何名も逮捕者を出してますし、公安警察がずっとマークしてました。だから、演劇史とは言いましたけど、当時のメンバーは明らかに演劇史とはまったく違う潮流のなかで芝居を考えていたんですね。

 

 

ーー 1980年まで続いたということですが、1972年を過ぎるとだいぶ政治的な活動はしづらい雰囲気だったのではないかと思うんですが。

 

その時代はぼくは登場していません。子どもでしたし。やはりあの世代の人たちは、69年の安田講堂陥落から後退戦を余儀なくされたんだと思います。曲馬舘が結成されたのは三里塚闘争のなかからだと聞いています。大学闘争が雲散霧消して三里塚に行く。ところがやはりそこでも戦いを継続できなくなる。その人たちが次にどこへ行くかというと、山谷などの寄せ場です。しかし山谷も労働マーケットが解体されつくして、運動はどんどん収縮していった。

 

ぼくが入った頃も、かなり重苦しい総括会議があるわけです。新しくきた人たちは、芝居が終わって、ミーティングに入るとかなりやめていきました。ぼくはまあ、そういう話し合いに耐えられる気質だったんですね。この人たちの言っていることをいい加減に聞いて、俺はめんどくさいからやめるっていうのはどうも違うんじゃないかと思い始めて、最後まで付き合おうと思った。もう解散の空気が出ていましたから。

 

 

水族館劇場座付き作者、桃山邑さん。1958年生まれ。

水族館劇場座付き作者、桃山邑さん。1958年生まれ。

 

ーー 自分はあとから入ってきたしだいぶ年下だから、当事者じゃないとは思わなかったんですね。

 

そんなこと言ったら殴られます。京大に、京大西部講堂連絡協議会っていう、自主運営組織があるんですけど、旅の宿りで寄らせてもらったら、喧々がくがくの会議をやっているわけですよ。ある有名な劇団があとからきて、使わせろ、使わせないのと、トラブルになっていた。防衛線張ったりまでしました。それは80年でしたけど、その当時でもそういうことをやってたんですね。でもぼくは何も聞かされてないわけです、新人ですから。それで、「西部講堂連絡協議会って何ですか」って聞いたら、殴られましたね。「おまえだよ。おまえが西部講堂だよ」って。

 

 

ーー むちゃくちゃですね……

 

めちゃくちゃな論理です。でも考えてみれば、主体はどこにあるのかというようなことを問い続けている劇団ですから、新人だからどうとかまったくない。いちばん想像力を持ってるやつが主導権を握るというのがその人たちの考え方だった。そういう空気のなかでだんだん鍛えられますよね。

 

 

ーー 火がモチーフだったというのは、サーカスの曲芸みたいなイメージですか?

 

もっと危ない。本当に火炎瓶を投げてましたから。

 

 

ーー それはもう芝居じゃなくて闘争ですね……

 

だけど、闘争って言っても相手がいない。結局、芝居は現実を変える力はないわけです。変革と言いながらなぜ芝居の世界に甘んじているんだ、現実を変革しろという人と、いややっぱり自分は芝居だと思い定めている人に分かれていく。

 

彼らは10年近くもの年月そういうかたちで集団をやってきて、傷ついている人もいたし、やめていった人もいた。最後の賭けに出た旅も失敗して、借金を重ねて、結局解散した。今でもいさぎよかったと思っています。いちばん傷つかなかったのが若かったぼくでした。それで、じゃあ資材を引き取って、劇団を始めるよと。ぼくは若かったんで、勤続疲労を起こしてなかったんですよね。先輩たちができなかったことを、やってやろうという気負いもあった。それが驪團(りだん)という劇団です。

 

 

ーー 驪團はどれぐらい続いたんですか。

 

ぼくは3、4年いて出るかたちになったんですが、そのあとも1年は続いて、85年か86年が最後だったと思います。5回ぐらい全国を旅しました。

 

北海道大学で公演をつぶされたこともありましたね。北大に恵迪寮という有名な自治寮があるんですが、大学の管理が厳しくなるなかで建て替え問題が起こっていて、反対した人たちが芝居を呼ぼうというんで、ぼくらに白羽の矢が立ったんです。来て下さいというので、行きましょうと。ところが、大学に着いてトラックを入れようと思ったら、工事してるんです。劇団を絶対入れさせないとチェーンを取り付けていた。で、それを破ろうとして。まあ、ケンカですよね。機動隊と大学当局、ぼくらは学生諸君と、支援してくれる札幌のメディアや知識人。結局つぶされましたけど、リベンジで12月にやりました。吹雪のなかで。

 

その有様を見てた予備校生がいたんですよ。市原(健太)さんというんですが、彼が時を経て、今では静岡で知る人ぞ知る「水曜文庫」という古本屋をやっているんです。彼と何十年ぶりかで再会して、去年、彼の古本屋でぼくが芝居をやりました。それから、東京の千駄木に古書ほうろうという古本屋があるんですが、店主の宮地(健太郎)さんも、ぼくらが駒込大観音で芝居をしていた時代からの付き合いです。そういう、今の世の中これではまずいんじゃないかというふうに思って、自分にできることをやりながら、人のつながりを地域のなかで展開していきたいという人たちと、芝居を通じて出会っていくというネットワークを水族館になってつくれるようになってきた。

 

 

 

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