関東の看護師が足りない――西高東低と地域活性化

看護師が足りない。今年6月、千葉県は県内の59病院で合計2517床が稼働していないと発表した。このうち38病院は「看護師不足」を理由に挙げた。

 

看護師不足は千葉県に限った話ではない。07年7月には、東京都保健医療公社荏原病院の産科病棟の一つが看護師の欠員を原因に閉鎖した。当時、荏原病院の看護体制は定数316人に対し、欠員が58人だったという[*1]。これでは、病院機能は維持できない。

 

看護師不足は全国一律に生じているわけではない。図1をご覧いただきたい。人口あたりの看護師数が極端な西高東低になっていることがおわかりいただけるだろう。関東は九州、四国、中国地方の半分強しかいない。

 

 

各県の人口10万人あたりの看護師数(正看護師と准看護師の合計)

図1:各県の人口10万人あたりの看護師数(正看護師と准看護師の合計)

 

[*1] 『深刻な医師・看護師不足、東京都の危機的な病院運営』東洋経済

 

意外かもしれないが、我が国でもっとも看護師が不足しているのは関東圏だ。東京も例外ではない。荏原病院は氷山の一角である。

 

この状況は医師とは対照的だ。東京の医師数は多い。東京で育成された医師が千葉や埼玉で勤務することで、関東圏の医師不足を緩和している。

 

ところが、看護師の場合には、東京自体が不足しているため、東京で看護師を養成し、周辺の地域に移出することはできない。今後、この地域で団塊世代が高齢化し、医療ニーズが急速に高まることになる。この地域の医療がどうなるか想像もつかない。

 

看護師不足のツケは最終的には患者が払うことになる。荏原病院のように病床が閉鎖されれば、住民はまともな医療を受けることができなくなる。

 

また、看護師が不足すると、医療事故が起こりやすくなる。例えば、2003年に米国の研究者らがJAMA(アメリカ医師会誌)に発表した研究によると、外科や救急病棟では大学卒の看護師が10%増えると、患者の早期死亡率が5%低下していた。この研究は、高学歴の看護師を大勢配置したほうが、致死的な医療事故が減ることを示唆し、患者4人に一人の看護師を配備することが推奨されていた。我が国では患者7人に1人の看護師が配備されているのが現状だ。

 

この研究結果は欧州でも再現され、今年英国のランセット誌で報告された。我が国からの研究はまだないが、看護師の質と量が急性期医療の現場では患者の生死に直結することは、世界の医療界でコンセンサスとして受け入れられつつある。

 

 

地域格差を生む養成格差

 

高齢化が進む我が国で、看護師不足対策は喫緊の課題だ。ところが、その解決は医師不足以上に難しい。それは、医師とは対照的に、看護師の多くは女性で、他の地域からの移住が期待できないからだ。多くの看護師は、地元の学校を卒業し、地元に就職する。結婚して家庭をもつと、看護師不足の地域で働くために「単身赴任」することは難しい。

 

では、看護師不足を緩和するには、どうすればいいのだろう。私は、看護師の労働条件を改善すると共に、地元での育成数を増やすしかないと思う。

 

前者については、すでにさまざまな対策が採られ、成果が上がりつつある。日本看護協会によれば、新卒看護師の離職率は7.9%だ。最近は、大卒の新入社員の約3割が、入社後3年間で辞めている。看護師の離職率が飛び抜けて高いわけではない。

 

一方、看護師が不足していることは、国民の間で情報が共有されておらず、社会の危機意識は弱い。

 

繰り返すが、我が国の看護師不足の状況には、著しい地域差がある。一般的に、看護師は西日本に多く、東京や大阪などの大都市で少ない。特に、関東の看護師不足は深刻だ。

 

平成24年現在の人口10万人あたりの就業看護師数(准看護師を含む)は、西日本は1498人、関東は806人と倍以上の差がある。このため、看護師の求人倍率は、西日本では1-2倍の県が多いのに対し、関東地方では3倍程度となっている。なぜ、こんな差がつくのだろう。それは、各地の看護師の養成数に格差があるからだ。図2をご覧いただきたい。

 

 

図2:各県の人口あたりの看護師養成数と人口あたりの看護師数の関係

図2:各県の人口あたりの看護師養成数と人口あたりの看護師数の関係

 

 

平成24年現在、人口10万人あたりの看護師養成数は西日本が80人程度であるのに対し、関東は約40人に過ぎない。看護師数と同じく、養成数も二倍程度の差がある。

 

 

「西高東低」は明治維新以降の名残

 

養成数の格差は、我が国の近代化を反映している。明治以降、病院や医師会が中心となって、看護師を養成してきた。病院や医師の数は「西高東低」である。

 

病院や医師数の「西高東低」は、明治維新以降、官軍の地元であった西日本に多くの医学校が設立された名残だ。戦前までに官立の医学部は13校が存在したが、内訳は九州3、中国1,近畿2,北陸1,東海1,関東2,東北1,甲信越1,北海道1だ。九州の充実ぶりが目立っている。

 

高度成長期、国土の均衡ある発展を目指し、各県に医学部が設立されたが、これも格差を助長した。それは、西日本と比べて東日本の県の人口は多いからだ。西日本の県の多くが、西国雄藩がそのまま県になったものが多いのに対し、東日本は多くの藩が合併した。その典型が福島県だ。会津、中通り、浜通と、今でもまとまりが悪い。

 

具体的にご説明しよう。一県一医大制度のもと、人口約400万人の四国には、3つの国立大学医学部が新設されたが、当時、ほぼ同規模の人口を抱えていた千葉県には、すでに千葉大学医学部が存在していたため、新設は見送られた。その後、千葉県の人口は50%程度増加し、四国の人口は380万人に減少した。この結果、四国は人口95万人に一つの医学部があるが、千葉県は人口600万人に一つしかない。四国には医師も看護師も多く、千葉県は医師・看護師不足に喘いでいる。無医村をなくすための政策が、関東の医療崩壊を助長したのだから、皮肉である。【次ページへつづく】

 

 

 

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