シングルマザーが福祉から排除されるとき

あなたが離婚したシングルマザーだとする。子どもは4歳。かわいくもあり、そして若干生意気でもある。仕事は契約社員で月収20万円。人とかかわるのが好きなので、シェアハウスに暮らすことになった。家賃は6万円。ほんとうに暮らすのはギリギリだけど、児童 扶養手当3万なにがしかを月々もらってなんとかやっていけている。平均的なシングルマザーだ。

 

このシェアハウスは、いろいろな人が出入りしている、楽しいシェアハウスだ。女性三人と男性二人がいて、キッチンは共有しているが、部屋は独立してある。広いロビイでは音楽のイベントなどもやっている。住人は子どもたちをかわいがってくれるので、ひとりだけで育てるよりもずっと気持ちが楽になった。

 

ところが最近、役所が変なことを言ってきた。どうも、同じ屋根の下に、独身男性がいたら、事実婚とみなすから、その独身男性が私の配偶者であり、配偶者から子どもが扶養されているということになるので、児童扶養手当を支給停止にするというのだ。

 

その男性と私は同じシェアハウスで暮らしているが、部屋も別だし、もちろん交際などしていない。びっくりした。3万円の児童扶養手当が支給されなくなるどころか、シェアハウスに住み始めた時点からの児童扶養手当を返還しろと市は言っている。それはあんまりだ。

 

 

国立市・児童扶養手当のシェアハウス問題

 

上の例は筆者が想定してつくった例だが、似たような事例が最近、東京都国立市で問題となった。いわゆる児童扶養手当のシェアハウス問題である。

 

40代の女性が6歳の長女と国立市内のシェアハウスに引っ越したのは2013年4月。市は当時、同じハウスに別の夫婦が住んでいることを確認。台所などは共同だが、部屋に施錠ができて生活空間が別であることから、国制度の児童扶養手当と都独自の児童育成手当として月額約4万円の支給を決めた。

 

ところが、市は昨年10月の現況調査で別の部屋に親族以外の男性が暮らしていることを把握した。女性に対し、「賃貸借契約書や光熱水費の請求書などの客観的証明がある場合においても、同一住所に親族以外の異性がいることによって、支給要件を満たさなくなる」と通知。昨年12月から手当の支給をやめた。(朝日新聞 2015年1月19日)

 

つまり、おなじ屋根の下に、夫婦がいる場合には夫婦であるから、事実婚とはみなさないが、しかし、親族以外の男性が暮らしているならば、それは事実婚にあたるとしたのだ。

 

東京都の児童扶養手当の運用マニュアルにはこうした事例が書いてあったということで、ほかの区でも同様に児童扶養手当は打ち切ってきていた。

 

 

児童扶養手当法の事実婚の規定とは

 

これだけ聞くと、あまりにも突飛な事例のように思うだろう。実際、この事例が新聞記事やネットで取り上げられたとき、多くの人が「考えられない」とツイッターでも多くの人が憤った。しかし、この問題はシングルマザーが福祉を受けるときの本質的な「排除」の問題とかかわっていると私は思う。こうした運用は30数年継続されてきたのだ。

 

現在、年収約365万円以下のひとり親家庭には、児童扶養手当が支給されている。満額支給で42000円である(2015年4月現在)。

 

パート就労が多く、平均年間就労年収が181万円に過ぎない母子家庭にとっては、まさに命綱で、124万世帯の母子家庭のうち、約73%が児童扶養手当を受給し、就労収入を補いなんとか暮らしているのが日本の母子家庭の現状である(生活保護受給世帯は約14%)。

 

では、児童扶養手当の打ち切りは、どのような基準があるのだろか。児童扶養手当法には、支給対象外である規定として「母の配偶者に養育されているとき」(児童扶養手当法4条2項7号)を上げている。

 

さらに、1980年に出された通知[※1]によりこの配偶者には、母が事実婚をしている配偶者も含まれ、児童はその実質上の父から扶養を受けることができるので、児童へ児童扶養手当を支給する必要がないとしている

 

[※1]「児童扶養手当及び特別児童扶養手当関係法令上の疑義について」(昭和48年5月16日児企画第二八号 各都道府県民生主管部(局)超宛厚生省児童家庭局企画課長通知)第五次までの改正があり、この内容になったのが第三次改正の1980年。

 

つまり、母が結婚をしている場合のみならず、「事実婚」をしている場合にも児童扶養手当は支給されないことになる。では、実際どのような場合に「事実婚」とみなすのだろうか。この通知ではやや感情的な文章が連ねられているが(「社会一般の倫理観に反し(中略)児童扶養手当が非倫理的な行動を助長しているとの批判を免れない」等)結論としては

 

(1)当事者間に社会通念上夫婦としての共同生活と認められる事実関係が存在しておれば、それ以外の要素については一切考慮することなく、事実婚が成立しているものとして取り扱う

 

(2)事実婚は原則として同居していることを要件とする

 

(3)ひんぱんに定期的な訪問があり、かつ、定期的に生計費の補助を受けている場合あるいは、母子が税法上の扶養親族としての取扱いを受けている場合等の場合には、同居していなくとも事実婚は成立しているものとして取り扱う

 

とされた。シェアハウス問題でいえば、おなじ屋根の下に異性が同居しているという事実をもって、「事実婚」とするという運用が、事実婚の通達と、東京都の運用マニュアルによって行われたということがわかってきた。

 

さらに、あるシングルマザーに恋人がいて、同居していればもちろん「事実婚」とされるが、家に訪問している場合にも事実婚を疑われるのである。

 

 

「事実婚」による排除

 

実際に、1980年代に「シングルマザーの家に男性がいる」という通報があり、区役所の担当者が調査訪問をしたところ、「男性がいるのを見た」ということで、支給停止になったシングルマザーがいた。

 

しかし、よく調べてみると、訪問介護の夜勤明けでシャワーを浴びていた当人のシングルマザーのショートカットでやや体格のいい後ろ姿を「男性」と区役所職員が誤解していたことが分かった。この事例で彼女は「なぜ、ドアをノックして事実を聞いて帰らなかったのか。なぜ覗きだけして帰ったのか」と憤ったという。

 

こうした「事実婚」の疑いをかけられたために、児童扶養手当の疑義が生じて、支給停止になったり返還請求がきたりした例は、私が理事長をしている「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」への相談事例としては年に5~6件はある。必要なときは自治体に掛け合ってきた。

 

結婚しないで子どもを産み、シングルマザーとして児童扶養手当の申請に行ったところ、相手の男性との妊娠に至る経緯をレポート用紙3枚に書いてくるように言われたりするなどの事実婚の疑いを晴らすために自分のプライバシーをさらけ出すような運用もあった。

 

最近しんぐるまざあず・ふぉーらむにあった相談では、偽装離婚を疑われるケースも増加している。11年前に離婚し、夫がたまたま近くに住んだため、偽装離婚を疑われ、事実婚状態が続いていると解釈されたために、児童扶養手当を受給できなかった、という相談もあった。

 

このシングルマザーは子どもの教育費を捻出するために、母子父子寡婦福祉資金貸付金の相談に行き、そこで、相談員に児童扶養手当を受給していないことに驚かれたために問題が分かった。11年間の児童扶養手当額は年間40万円とすれば、約400万円を超す。申請主義のために遡及支給はしないからこの女性はこのお金を窓口の対応のために損害を負ったことになる。

 

あるいは妊娠したシングルマザーが出産を決意したときに、児童扶養手当が妊娠時に遡って返還請求されたという相談も年に数件はある。よくよく聞くと、その妊娠中の子どもの父親は1回しか会っていない。でも、産みたいという決意をもっているその女性は、今育てている子どもとの生活の糧を奪われかねない。

 

シェアハウスに清掃業務で入る業者男性だと「頻繁な訪問」にあたるとして、事実婚規定に抵触すると自治体がシェアハウス経営者に指南して、清掃員は女性とした、という笑い話に相当するような画一的な対応をしてきた事例も聞こえてきた。

 

いったい、何回までの訪問であれば事実婚とみなすのか、月々いくら以上の生計費の補助であれば事実婚とみなすのか、明らかにされていない。いやそもそも、婚姻とは、訪問と生計費の補助だけなのか。本人がその人物と婚姻関係にあるという意思は問われないのか。

 

それどころか、妊娠という事実をもって性関係を想定し、事実婚とするのは、実は訪問や生計費の援助だけでなく、性関係があれば婚姻関係となるという認識で運用されているように思える。しかし、現代社会で性関係=結婚という図はとうに崩れている。いや男性の場合には以前から許容され、女性にのみ厳しい秩序を要求してきただけである。

 

母子家庭は清く正しく、男性と交際してはいけない、二夫にまみえず、というのは古い話のようだが、実際には今でも、こうした制度が続いている。

 

 

面会交流と養育費は事実婚にはならない

 

この事実婚による児童扶養手当の支給停止は、実は子どもの面会交流や養育費を取得する権利を侵害する恐れがある。つまり、別れて暮らす子どもの父親が、面会交流として訪問してきた場合を「ひんぱんで定期的な訪問」とし、あるいは養育費の送金を生計費の補助として扱えばいとも簡単に「事実婚状態」であることになるのだ。

 

子どもの権利条約は第9条で「児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」としている。

 

さすがに厚生省は1990年代後半に面会交流と養育費の送金をもって、事実婚とすることにはあたらないという通達を出した。しかしそれでも「偽装離婚」を疑われるケースも後を絶たない。

 

 

調書と自治体の運用

 

事実関係の調査の権限が市区町村には与えられることになる。

 

このために「事実婚の調書」あるいは「生計維持調書」など様々な調書がつくられてきた。収入、家賃やコメ・野菜の親族援助まで書かせて、収入に比して家賃が高い場合には仕送りをする事実婚状態の男性(パトロン?)がいるのではないかと疑われたりした。

 

市区町村は、疑義が生じれば調査をしなければならない。自治体の担当者に聞くと、「あの母子家庭は不正受給である」との通報が住民からある場合もあるという。自治体担当者も決して楽しい仕事ではない。しかし、住所氏名を明かした通報には対応しなければならないとされている。

 

また一方では、男性と同居を始めながら児童扶養手当を受け取っているシングルマザーがいないわけではない。こうした調査の結果についてのデータはないので、実態はわからないが、実際に事実婚関係だった場合もあるだろう。どのような制度にもある程度の不正受給はある。

 

問題はこうした場合に児童扶養手当の窓口が「審査」の機能を担う窓口となり、「支援をつなげる」窓口になりにくくなることである。

 

今データを発見できていないが、児童扶養手当の窓口に対して、屈辱的な思いを抱えたりなどがあり、窓口で相談したいと思わないシングルマザーは多い。【次ページにつづく】

 

 

 

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