外国人労働者受け入れ拡大の政策論点と課題――国際貢献・条件整備・範囲拡大

外国人労働者問題は、どこの国においても非常に政治的な議論になっている。欧州では、一方で極右勢力の躍進もあり、外国人排除の動きもある。他方で、移民も含めた人権保護支援勢力も根強い。経済の活性化のためにも外国人受け入れを拡大しようとする意見もあれば、多様な問題を引き起こしているとして受け入れを制限するべきとの意見もある。

 

受け入れに積極的な国から慎重な国まで、各国で基本姿勢が異なるのも事実である。ただし、多くの先進諸国では外国人はすでに多数になり、外国人を排除したら成り立たなくなってしまう産業や職種もあり、簡単に改革できるものではない。日本とはレベルが違うが示唆することが大きい欧州の事例を紹介しよう。

 

 

労働者の自由移動と欧州

 

EUでは創設以来、域内における労働者の自由移動が奨励されてきた。必要とされれば国境を渡って労働者が自由に移動することが、欧州全体の経済活性化につながると理解された。EU28加盟国の間では人の自由移動が認められ、いずれかの加盟国市民であれば、他の加盟国において当該国市民と同じように扱われる。介護や看護に限らず、あらゆる職種、自営業者も自由に移動して就労、営業活動もできる。

 

もちろん、通常の雇用と同様に、外国からオファーがあって採用されなければ移住には至らない。職業紹介ネットワークは欧州レベルで展開しており、資格認定も欧州基準で統一的に整備されてきた。製造業に限らず、医療、建設、農業、福祉等いたる領域においても外国人労働者は多数入っている。もはや、国内で就職することと他の加盟国で就職することはほとんど違いがない。

 

以上はEU加盟国域内の話であるが、EU加盟国以外の国々からの移民に関しては主として加盟各国の自治下に入る。最近の傾向としては、EU域外からの移民も拡大している国が多い様に思われる。政府自らが世界中に出て行って、外国政府と労働者の供給を協定している場合もある。

 

 

介護労働者の国際移動

 

欧州も高齢社会であり、介護労働者は数少ない成長職種となっている。欧州といっても施設介護が一般的な国もあれば、公的介護施設は少なく家族や個人契約の介護労働者が多い国もある。また、税方式の介護サービスを展開する国から、介護保険で対応している国もある。南欧や東欧では、施設入所型の介護施設は比較的未整備であり、家庭内介護も多い。無報酬の家族による介護から、ボランティア、個人契約の介護労働者の雇用が普及している。その際、比較的低賃金の外国人を雇用する場合が増えている。

 

例えば、イタリアでは、公的介護施設が比較的不備で、家庭内の在宅介護が根強い。核家族化の進行もあり家族介護者の限界から、個人の家で雇う介護労働者が増えている。家庭内の介護労働者総数のうち外国人の家庭内介護労働者の比率は1991年に16.5%であったが、2003年には83.3%で490,678人に達した。とくに、要介護度の高い高齢者や障害者は、ほとんど外国人の家庭内介護労働者を雇うと言われている。今となっては、イタリア政府や自治体が開発途上国に出向いて、介護労働の職業訓練サービスを提供し、そこで養成された人材をイタリアに送り込んでいる。もはや、家庭内の介護労働者はほぼ外国人となりつつある。

 

世界同時不況にあり、これを克服するためにさらなる自由化の促進が先進諸国の間で主張されている。とくに、サービス貿易の自由化は新たに強調されてきた領域でもある。日本におけるインドネシアやフィリピンからの看護師や介護士の受け入れも、EPAという自由貿易を促進する協定に基づいて始められたものである。貿易立国である日本は、貿易の自由化には参画していかざるをえない。他方、IT関連技術者をはじめ専門技術者の奪い合いが展開されている。国際競争を有利に進めるためにも世界中の優秀な専門技術者を受け入れることはどこの国も行っている。欧州でも、専門職者の移動はより自由に展開されてきた。さらに、一般の労働者においても、とくに国内で不足する労働力については受け入れが認められやすくなっていた。

 

外国人人口の総人口に対する比率を見ると、2011年現在で日本は僅かに1.7%であった。ドイツの8.6%、イギリスの7.6%、フランスの6.0%、アメリカの6.8%と比べてもかなり低水準である。韓国でも2.0%である。外国人を受け入れることが国際的な要請であれば、国際比較する限り、日本はもう少し受け入れ拡大しても良いものと思われる。

 

 

日本における政策論点

 

外国人労働者問題は多様な側面を伴うものである。重要と思われる論点をここで示したい。

 

最初に強調したいのは、短いスパンでの経済戦略として議論することは危険が大きいということである。かつて、経済成長期に外国人受け入れが進められ、不況期になると外国人排除した政策が繰り返されてきた。モノやカネと違って、ヒトは権利を持つ。当然、意思も持つ。どのような国であろうと、ヒトを完全に管理することはできない。一度外国人を受け入れてしまえば、もう二度ともとには戻れなくなる可能性が高い。

 

高度経済成長期に外国人を大量に受け入れた欧州が、経済不況に陥って様々な帰国奨励策を展開したが、多くは帰国しなかった現実がある。新たな受け入れを止めるだけでは不十分であった。長期滞在外国人はより重たい権利を持ち、帰国を強制することは困難となり、家族呼び寄せを拒否することも人道上不可能となる。

 

第2に、長期的な労働市場への影響である。世界には無尽蔵の労働力がある。入口を一度緩和すると、途中で線引きすることが難しくなる。安い大量の労働力へのニーズは先進諸国側にも無限に存在する。安い労働力を求める国内のニーズが一挙に爆発する危険性がある。イタリアの事例のように、ある時ふと気が付けば、その職種はほとんど外国人によって行われる仕事になっていたと言う事例も少なくない。

 

また、外国人だと賃金が安くてすむということも、状況はすぐに変わっていく。一部で育児や家事サポーターとして外国人の受け入れが提案されているが、いつまでも安い賃金で運営できるものではない。膨大な貧富の格差が当然となっている開発途上国と比べれば、富の分配が比較的平等な日本とは、状況が違う。国籍による差別は認められない。最低賃金は外国人にも適用される。外国人の賃金も最初は安くても、時間とともに日本人と同じになっていくであろう。外国人の労働供給は無限にあり、賃上げをしなくても労働力が確保されてしまうと、賃上げされないで相対的に低賃金職種にとり残される可能性がある。そうなると、国民がやりたがらない職種は外国人の独占的な職種に近づいていく。

 

第3に、少子化対策として外国人の受け入れを主張する人もいる。年金の担い手として外国人に期待する意見もある。現在の日本の外国人比率は僅かに1.7%で、先進国では最も低い水準である。少子化の人口対策として効果を持たせるのは、桁違いの受け入れが必要になることは明らかである。また、外国人も年をとる。年とった外国人の年金を支えるためにさらに多くの外国人を受け入れなければならないことになる。多くの外国人は帰国しないで居続ける。人口構成の均衡化のために外国人を入れ続けるなら、無制限の外国人依存社会になってしまう可能性がある。

 

第4に、社会的コストに言及したい。外国人は労働者としてやってくるが、社会に入れば一人の市民であり、その文化や生活スタイルを受容しなければならない。宗教一つとっても、教会やモスク等が街角に増えて建設されても当該国民は受容できるだろうか。外国人が異国で生活するには多様な労力とコストもかかる。社会統合のために語学教育をはじめ多用なサービスを設ける必要がある。例えば、外国人の多い地域の学校で、外国語対応できるスタッフを雇用している。外国人のためのソーシャルワーカーも必要となる。医療費を払えない外国人の入院費用を自治体が肩代わりすることもある。外国人の受け入れに伴い多大な社会的コストが必要である。この社会的コストは企業でなく、国民が負担することになる。企業の便益だけ考えても不十分である。

 

 

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