2025.10.18

ネイティブ発音を目指す必要がない理由

英会話を学びはじめると、多くの人がいちばん気にするのが「発音」です。
ネイティブのような発音で話せるようになりたい。
その思いから、発音教材や発音矯正のレッスンに取り組む学習者も少なくありません。

たしかに、相手が聞き取れるくらいの発音である必要はあります。
しかし、発音の重要性が強調されすぎるあまり、「発音がネイティブのようでなければ英語は通じない」と思い込んでしまう人も多いのです。

実際には、英会話学習において、発音の優先順位は決して高くありません。
そして何より、「ネイティブのような発音を目指すこと」そのものが、現代の英語使用の現実とは大きくずれています。

この記事では、なぜ「ネイティブ発音神話」が広まり、それがどのように日本人の英会話学習を縛ってきたのかを見ていきます。
そして最後に、英会話学習における発音の“本当の位置づけ”を考えます。

日本の英語教育における「アメリカ英語一辺倒」

日本で「正しい英語」と言えば、ほとんどの場合それはアメリカ英語を指します。
学校教育でも、発音教材でも、ニュース番組でも、耳にする英語の多くは標準アメリカ英語(General American)を基準にしています。

こうした傾向が強まったのは、戦後のアメリカ文化の影響が大きいと言われます。
映画、音楽、ニュース、留学──日本人が「英語」に触れる場の多くがアメリカを経由してきました。
そのため、「アメリカ英語こそ標準」「他の発音は派生的」という感覚が自然に根付いていったのです。

この流れは教育現場にも波及し、教科書の音声、リスニング教材、英会話スクールのモデル発音までもがアメリカ英語で統一されるようになりました。
そして気づけば、「英語の正しい発音=アメリカ英語の発音」という前提が、ほとんど疑われることなく広く共有されてしまっています。

ネイティブ発音の多様性

しかし、実際は、「ネイティブ発音」に、ひとつの正解は存在しません。
英語を母語とする国だけでも、アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドなどがあり、それぞれの国で発音やイントネーションの特徴は大きく異なります。

たとえば、同じ単語 water でも、アメリカでは「ウォーラー」、イギリスでは「ウォーター」、オーストラリアでは「ウォーダ」に聞こえる。
どれも「ネイティブ発音」ですが、同じにはなりません。

しかも、ひとつの国の中にも、さらに違いがあります。
アメリカ英語の中にも、東海岸・南部・中西部・西海岸など地域ごとに特徴があり、階層や教育、年齢、そして人種によってもアクセントは変化します。
いわゆる「ニュースキャスターのような標準英語」は、じつはごく一部の階層が話す“人工的に整えられた英語”にすぎません。

つまり、教材で聞く「完璧なネイティブ発音」とは、現実の英語社会ではかなりかぎられたバリエーションにすぎないのです。
ネイティブスピーカーといっても、誰もが同じ発音をしているわけではありません。

言語学では、英語には「標準発音」という単一の基準は存在しないとされています。
むしろ、World Englishes(世界諸英語)という概念が示すように、英語は地域ごとに固有の発音体系を持つ複数の変種として存在しているのです。

グローバル視点:世界の英語の現実

いま、英語はもはや「ネイティブだけの言葉」ではありません。
世界で英語を話す人のおよそ3分の2は、母語が英語ではない人びとです。
つまり、英語を使う人の多数派は「非ネイティブスピーカー」なのです。

たとえば、国際会議、ビジネス、学術、観光──
英語が使われる多くの場面で、英語でコミュニケーションしているのは非ネイティブ同士です。
そこでは、インド英語、シンガポール英語、フィリピン英語、ナイジェリア英語など、それぞれの国や地域の発音・リズムをもつ英語が普通に使われています。

こうした英語は決して“間違った発音”ではありません。
むしろ、多様な英語が共存し、相互に理解し合うことこそが現代の英語の姿です。

応用言語学者ジェニファー・ジェンキンスの研究では、国際的なコミュニケーションにおいて、ネイティブの発音よりも「相互理解可能性」が重要であることが示されています。
実際、非ネイティブ同士の英語の方が、お互いにゆっくり話し、わかりやすい単語を選び、確認しながら進めるため、通じやすいケースも多いのです。

このように、英語はいまや「特定の発音を正解とする言語」ではなく、多様な話し手のあいだで共有される共通のコミュニケーション手段になっています。

英会話学習における発音の優先順位

英語を学ぶ目的が「通じること」だとすれば、発音の優先順位はそれほど高くありません。
もちろん、相手に聞き取りやすく話すために、基本的な発音の習得は大切です。
母音や子音の違いを意識し、単語をはっきり区切って発音することは、コミュニケーションの土台になります。

しかし、そこからさらに「ネイティブのような発音」を目指す必要はありません。
第二言語習得研究では、英語の理解度を決める要因として、発音よりも語彙の選択、文法の正確さ、内容の明確さの方が大きく影響することが繰り返し示されています。
つまり、多少アクセントがあっても、文が整理され、話の流れが分かりやすければ、相手に十分に伝わるのです。
逆に、どれだけ発音が美しくても、言いたいことが整理されていなければ理解されません。

また、会話の中では「聞き返す」「言い換える」「確認する」といったやりとりも普通のことです。
これらのスキルこそ、実際のコミュニケーションでは発音よりも重要です。

要するに、英会話学習で大切なのは、「完璧に発音すること」ではなく、自分の英語が相手にとって理解しやすいかどうかです。
通じる発音であれば、それで十分。
むしろ、その分の時間と労力を、語彙・内容・会話練習に回した方が、より実用的な英語力につながります。

通じる英語があればそれで十分

発音を矯正することは、相手にとって聞き取りやすい話し方を身につけるという意味で、たしかに役立ちます。
しかし、発音を完璧にすることが英会話の目的ではありません。

世界中で英語を使う人のほとんどは非ネイティブです。
それぞれの国や地域のアクセントで話しながら、互いに理解し合い、仕事をし、日常を過ごしています。

大切なのは、発音の正確さよりも、伝えようとする意志と、相手に理解される工夫です。
ネイティブのように話そうとするよりも、自分の英語で相手に伝える力を育てること。
それが、英語を学ぶ上でずっと大切で、そしてずっと現実的な目標です。

英語を学んできたのに話せない。

問題は知識量ではありません。
あなたの脳が「英語で思考を組み立てる回路」を持っていないだけです。

「文法や単語は知っているのに、言葉が出てこない」
「訳しながら話そうとして、途中で止まってしまう」
それは、頭の中で日本語を英語に変換しているからです。 これは「翻訳回路」であって、「英語の思考回路」ではありません。

実際の会話では、日本語の台本など存在しません。
思考を直接、英語の語順で組み立てる——
この回路がなければ、いくら知識があっても話せないのです。

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