2026.08.09
英語が話せるようになるには?――なぜ「瞬間英作文」では話せないのか
これだけ広まったのに、なぜ話せないのか
「瞬間英作文」という言葉が使われるようになって、もう20年近くになります。
短い日本語の文を見て、瞬間的に英語にする。
この練習を繰り返して、考えなくても英文が出てくるようにする。
2006年に刊行された『どんどん話すための瞬間英作文トレーニング』をきっかけに、このメソッドは広く知られるようになりました。
シリーズの累計発行部数は170万部を超えています。
ここまで普及した英会話のトレーニングは、ほかにはなかなかありません。
ところが、です。
瞬間英作文がこれだけ普及しても、「英語は勉強してきたのに、実際の会話になると話せない」という悩みがなくなる気配はありません。
もちろん、170万部売れたからといって、それだけで日本人の英会話力が上がるはずだ、とは言えません。
本を買っても、ちゃんと取り組まなかった人もいるでしょうし、なによりひとつの教材で日本人全体の英会話力について語るのは、バランスを失しているでしょう。
とはいえ、これほど多くの人が、長いあいだ取り組んできたトレーニングです。
もし瞬間英作文を繰り返すことによって、実際に英会話が上達するのであれば、もう少し違った光景が見えていてもよさそうです。
瞬間英作文は、いまでは「英語を話す」ための代表的なトレーニングになっています。
英語コーチングやスクールでも広く採用されています。
そして日本では、瞬間英作文ほど広く共有された「話すためのトレーニング」は、ほかに見当たりません。
しかし、私たちが目にする光景は、たいてい以下のようなものです。
瞬間英作文であれば、英語が言えるようになった。
けれど、実際の会話で自分の考えを話そうとすると、思うように英語が出てこない。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?
英語を話すとき、頭の中では何が起きているのか
ここで、瞬間英作文からいったん離れて、私たちが話すときに、そもそも何をしているのかを考えてみます。
たとえば、「週末に何をしたのか」と聞かれたとします。
いくつかのことが頭に浮かぶはずです。
そこからひとつ選んで、「レストランに行ったことについて話そう」などと考えます。
それを言葉にして、
I went to a restaurant with my wife.
と口にする。
実際には、こうした処理はもっと細かく、しかも非常に速い速度で進んでいます。
発話研究では、おおまかに、
何を言うかを考える。
それを言葉のかたちにする。
そして、実際に口に出す。
という段階に分けて考えます。
ここで重要なのは、最初の「何を言うかを考える」という段階です。
「レストランに行ったことを話そう」と考えたとき、頭の中に「私は週末に妻とレストランに行きました」という完成した文ができているわけではありません。
まずあるのは、まだ言葉になっていない、漠然とした内容です。
その内容を、私たちは言葉で明確にしながら、話していきます。
母語で話しているときには、あまりに自然に行われているので、こうした過程を意識することはほとんどありません。
しかし、外国語を話す練習をするときには、この違いが決定的に重要になります。
何を伝えるのかを考え、それを言葉にしていく。
この過程こそが、話すという行為の中核だからです。
瞬間英作文では、「何を話すか」がすでに与えられている
では、瞬間英作文ではどうでしょうか。
たとえば、
「私は昨夜、妻とレストランに行きました。」
という日本語を見て、
I went to a restaurant with my wife last night.
と答える。
ここで注目したいのは、英語ではなく、その前にある日本語です。
この一文によって、何について話すのかは、すでに決められています。
昨夜のことを話す。
妻とレストランに行ったことを話す。
その出来事について、どこまで伝えるのかも決まっています。
先ほど見た発話の過程のうち、「何を伝えるのかを考える」という部分を、自分でやる必要がありません。
つまり瞬間英作文は、「話す」という行為全体の練習ではありません。
それは、発話の一部を切り出して、そこを繰り返し練習するトレーニングなのです。
そうすることで、「日本語から、それに対応する英語をすばやくつくる」という処理の速度を高めていきます。
そのため、練習してきた「日本語と英語」の組み合わせから外れると、急に英語が出にくくなります。
瞬間英作文をやっている人に、
「言える英語はすらすら言える。でも、言えない英語になると、まったく出てこない」
ということが起きるのは、このためです。
実際に話すためには何を練習すべきか
では、実際に英語を話すためには、何を練習すればいいのでしょうか。
必要なのは、英語を話すときの「頭の動き方」そのものを練習することです。
たとえば、「週末に何をしたの?」と聞かれたとします。
頭に浮かぶのは、妻と食事に行ったときの記憶や、そのときの場面です。
そこから、まず何を伝えるのかを決める。
そこで、「妻とレストランに行ったことを話そう」と決めたとします。
そのとき、「私は昨夜、妻とレストランに行きました」と、頭の中で日本語を完成させてから話し始めてはいけません。
それでは、いつまでたっても英語の話し方が身につきません。
英語では、ほとんどの場合、文の中心に「誰が・何が、どうする」を置きます。
だから、最初に言葉にするのは、
「私は、行った」
という部分になるのです。
ここから、「どこに行ったのか」という情報を加える。
to a restaurant
とつづける。
さらに、誰と行ったのかを伝えたければ、
with my wife
と加える。
いつのことなのかも伝えたければ、
last night
と加える。
重要なのは、最初から
I went to a restaurant with my wife last night.
という英文全体を頭の中につくっているわけではない、ということです。
まず、文の核になる部分を英語にする。
その上で、その先に必要な情報を考え、また英語にする。
このように、考えることと英語にすることを同時に進めながら、前から文をつくっていく。
完成した日本語を英語に置き換えるのではなく、まだ文になっていない内容を、英語の順番に沿って少しずつ言葉にしていく。
シノドス英会話では、この「頭の動き方」そのものを身につけるためのトレーニングを行っています。
「話せない」原因は、人によって違う
ただし、英語が話せない原因は、すべての人に同じではありません。
頭の中で日本語を完成させてから英語にしようとしている人もいます。
一文をきれいにつくろうとするあまり、話し始めるまでに時間がかかる人もいます。
知っている単語や文法は十分にあるのに、実際の会話の速度になると使えなくなる人もいます。
同じ「英語が話せない」でも、どこで止まっているのかは、人によって違います。
だから、必要なトレーニングも同じではありません。
シノドス英会話では、まず実際に英語を話してもらいます。
そこで見るのは、単語をいくつ知っているか、文法問題にどれだけ正解できるか、といったことだけではありません。
英語を話そうとしたときに、頭の中で何が起きているのか。
どこで止まり、何が負荷になっているのか。
それを見たうえで、必要なトレーニングを組み立てます。
瞬間英作文をかなりやった。
それでも、実際の会話では思うように話せない。
そんな人は、さらに同じ練習を増やす前に、一度、自分がどこで止まっているのかを確かめてみてください。
シノドス英会話の現状診断セッションでは、実際に英語を話してもらいながら、その原因を分析します。
