2025.09.27
「英語で考える」ことができない4つの理由
単語も覚えた。文法も理解している。
瞬間英作文だって、何百回と繰り返してきた。
それでも、いざ会話になると——頭の中は日本語でいっぱいになる。
一生懸命、日本語を英語に翻訳している自分がいる。
「英語で考えられない」という壁。
これは多くの学習者が最後まで突破できずに悩む、大きな難関です。
しかしこの現象は、脳の認知プロセスと学習習慣によって、科学的に説明できます。
この記事では、なぜ「翻訳回路」が固定化されてしまうのか、その理由を4つに整理し、 どうすれば「思考回路」へと切り替えられるのかを解説します。
理由①――母語の影響(転移)
英語で考えられない大きな理由のひとつは、母語である日本語の影響です。
日本語と英語は、文の成り立ちが根本的に異なります。
たとえば日本語では、主語を言わなくても会話が自然に成立します。
「行ってきたよ」と言えば、相手は誰が行ったのかを文脈で理解してくれます。
しかし英語では、必ず「主語+動詞」から文を始める必要があります。
この違いはたんなる文法規則ではありません。
「思考をどこから立ち上げるか」という、脳内処理の出発点そのものを変えてしまうのです。
心理言語学者ウィリアム・オドリンは、この現象をLanguage Transfer(言語転移)と呼びました。
人は母語で確立した処理パターンを、無意識のうちに第二言語にも持ち込んでしまう。
さらにマックウィニーのCompetition Modelでは、母語で強化された手がかり(語順や格)が、新しい言語の処理に干渉することが説明されています。
解決策:主語と動詞から始める
ではどうすればよいのでしょうか?
答えはシンプルです。
必ず主語と動詞から文を始める習慣をつけること。
たとえば「私は行った」と思ったら、まずI went…と口に出す。
そのあとで「どこに?」— Yokohama
さらに「何をしに?」— to see a friend
最初はぎこちなくても構いません。
大切なのは、日本語の文を完成させてから訳すのではなく、英語の語順で思考を立ち上げること。
これが「日本語で考える」から「英語で考える」への最初の突破口になります。
補足:語順で考える習慣を育てる
ここで大事なのは、理屈を理解するだけでなく、それを日常の習慣に変えることです。
多くの学習者は、母語の影響があると知っていても、「語順で思考を立ち上げる」練習を実際にはほとんどしていません。
そのため、会話になると日本語文を完成させてから訳そうとして、途中で止まってしまうのです。
効果的な方法は、不完全でもまず英語で口に出すこと。
たとえば頭に「行った」という断片が浮かんだら、とにかく I went…と言ってしまう。
そのあとで to Yokohama、さらに to see a friend と、考えながら、少しずつ補えばよいのです。
最初から正確な日本語文を準備せず、断片を積み上げていく。
この小さな練習を繰り返すことで、頭の中に「英語の語順で考える」回路が少しずつ定着していきます。
理由②――翻訳回路の強化
多くの学習者がつまずくのは、「日本語で考えてから英語に直す」という癖が抜けないことです。
学習初期にはやむをえない方法ですが、この経路を使い続けると、頭の中に「日本語 ➡ 翻訳 ➡ 英語」という遠回りの回路が固定されてしまいます。
心理学者クロールとスチュワートは、この現象をRevised Hierarchical Modelで説明しました。
第二言語のことばは、初期段階では、必ず母語を経由して意味と結びつきます。
つまり「犬」と思い浮かべてからdogに変換するのです。
熟達するにつれて、「dog ➡ 意味」という直接の結びつきが強くなりますが、日本語経由の習慣を放置すると、いつまでも翻訳回路が優勢のまま残ってしまいます。
解決策:イメージから直接英語へ
この壁を超える方法も明快です。
日本語を経由せずに、イメージから直接英語を引き出す練習をすること。
たとえば写真を見て、そのまま A boy is running in the park. と描写してみる。
あるいは、日常の場面を頭に思い描きながら、そこに浮かんだイメージを直接英語にして口に出す。
さらに効果的なのは、「日本語の指示文を封じる時間」をつくることです。
たとえば、英語の質問を聞いたら、必ず英語で返す。日本語で答えを準備しない。
最初はもどかしくても、少しずつ「イメージ ➡ 英語」という新しい回路が育っていきます。
この練習によって翻訳を経由する遠回りが減り、英語で考える力が着実に養われます。
理由③――処理資源の制約
英語で会話が難しいのは、単語や文法の知識が足りないからではありません。
大きな原因は、脳の「処理資源」に限界があることです。
心理学者アラン・バデリーが提唱したワーキングメモリモデルによれば、人が同時に処理できる情報量にははっきりとした上限があります。
会話中には「意味を把握する」「語順を組み立てる」「音に変換する」という複数の作業を同時に進めなければならず、母語と英語を並行して動かそうとすると、処理資源がすぐに飽和し、「頭が真っ白になる」状態に陥るのです。
解決策:スピードを追わない
ここで大切なのは、「速さ」を無理に追いかけないことです。
会話のテンポに合わせようと焦ると、処理資源が限界を超えてしまいます。
むしろ意識すべきは、主語と動詞から始め、語順に沿って少しずつ積み重ねること。
たとえばI went…と言ってから、一拍置いて、to the stationを足す、といった具合です。
この練習を繰り返すことで、脳の処理が徐々に効率化され、結果的にスピードも自然とついてきます。
補足:スピードは「結果」であって「目標」ではない
多くの学習者は「もっと速く話さなければ」と焦ります。
しかし第二言語習得研究が示すように、流暢さとは、練習の中で処理が自動化された結果にすぎません。
自動車の運転を思い出してください。
最初は「ミラーを見る ➡ ハンドルを回す ➡ ブレーキを踏む」と、一つひとつ意識していたはずです。
しかし経験を重ねるうちに、流れが自動化され、ほとんど無意識に運転できるようになる。
英語もまったく同じです。
だから、焦ってスピードを追いかけるのではなく、語順に沿って英語をつなげて行く習慣をつくること。
その習慣さえ守れば、流暢さは必ず後からついてきます。
理由④――自分の思考を英語にする経験の不足
多くの学習者は、文法や単語の暗記に多くの時間を費やしています。
しかし、「自分の頭の中の考えを英語で形にする」練習は、圧倒的に不足しているのが実情です。
第二言語習得研究におけるメリル・スウェインのアウトプット仮説によれば、言語知識は「使って表現しようとする過程」でこそ運用力へと変わっていきます。
つまり、ただ知識を増やすだけでは不十分で、実際に自分の思考を言葉にしてみる経験が不可欠なのです。
解決策:日常の思考を英語で言葉にする
解決の鍵はシンプルです。
日常の小さな思考を、英語で言葉にする習慣を持つこと。
たとえば、
「今日は何を食べたか?」を英語で表現してみる。
「最近どんなことに驚いたか?」を英語で振り返る。
「明日やりたいことは何か?」を短く英語で言ってみる。
こうした練習を重ねることで、頭の中にある思考を、直接英語で取り出す回路が育っていきます。
暗記やテスト勉強に偏っていては、いつまでも「頭に英語が浮かばない」状態が続いてしまいます。
だからこそ、「自分の思考をゆっくりでも英語にする」時間を、毎日の練習に組み込むこと。
これが、翻訳回路から英語の思考回路へ切り替えるための最後の鍵となります。
まとめ――「翻訳回路」から「英語の思考回路」へ
ここまで、英語で考えられない理由を4つに整理してきました。
① 母語の影響(転移)――日本語の処理パターンを無意識に持ち込んでしまう
② 翻訳回路の強化――日本語を経由してしまう癖が固定される
③ 処理資源の制約――脳の容量オーバーで真っ白になってしまう
④ 4自分の思考を英語にする経験の不足――知識を「使う」経験が圧倒的に足りない
これらはどれも、人間の認知や学習のしくみによって説明できることです。
だからこそ、解決策もシンプルで、誰にでも実行可能です。
まず主語+動詞から始める習慣をつける。
イメージから直接英語を出す練習を積む。
スピードを追わず、語順で積み上げる。
日常の小さな思考を英語にする時間を毎日とる。
こうした小さな実践の積み重ねが、「翻訳回路から英語の思考回路」を着実に進めていきます。
最初はゆっくりで、まったく問題ありません。
大切なのは、「考えを日本語で準備してから話す」やり方を少しずつ手放し、英語の語順で思考を立ち上げる経験を重ねることです。
その習慣が育ったとき、あなたの頭の中には、自然に英語が浮かぶようになっていくでしょう。
英語を学んできたのに話せない。
問題は知識量ではありません。
あなたの脳が「英語で思考を組み立てる回路」を持っていないだけです。
「文法や単語は知っているのに、言葉が出てこない」
「訳しながら話そうとして、途中で止まってしまう」
それは、頭の中で日本語を英語に変換しているからです。 これは「翻訳回路」であって、「英語の思考回路」ではありません。
実際の会話では、日本語の台本など存在しません。
思考を直接、英語の語順で組み立てる——
この回路がなければ、いくら知識があっても話せないのです。
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