2025.10.15
TOEIC高得点でも英語が話せない理由
TOEICで高得点。会議資料は読める。メールも書ける。 リスニングも、ほぼ問題ない。
でも、会議で意見を求められると——言葉がうまく出てこない。
「もっと勉強が必要なのか?」 「語彙が足りないのか?」
いいえ、違います。
問題は、TOEICが測っている力と、会話で必要な力が、まったく別物だということです。
TOEICで高得点を取る。 これは、膨大な時間の学習を積み重ねた証です。
リスニングもリーディングも高い精度で処理できるでしょう。
しかし現実には、「会議で沈黙してしまう」「商談で言葉が出てこない」という人が少なくありません。
理由ははっきりしています。
TOEICが測るのは「英語を正しく理解できるか」。
会話で問われるのは「自分の考えを即座に言葉にできるか」。
つまり、TOEICで高得点を取る力と、会話で必要な力は別ものなのです。
この違いを理解しないまま「TOEIC=会話力」と思い込むと、どれだけ点数を上げても会話の壁は越えられません。
以下では、このギャップの中身をひとつずつ明らかにしていきます。
TOEICが測っている力と、測っていない力
TOEICはあくまで「試験」です。
測る範囲は明確に決まっています。
リスニング: 音声を聞いて、選択肢から正しい答えを選ぶ。
リーディング: 短文や長文を読んで、正解の選択肢を選ぶ
つまり、TOEICが測るのは「理解力」です。
英文を処理して、与えられた選択肢の中から正しいものを選べるか。 それだけです。
では、測られていない力は何か?
それが「即座に自分の言葉を組み立てて発する力」です。
具体例で見る、決定的な違い
たとえば、会議でこう言いたいとします。
「今回の提案はコストが大きいので、再検討したほうがいい」
TOEICなら: この文を読んで理解できるかを問われます。 高得点がとれる人なら、間違いなく理解できます。
会話では: 「いまこの瞬間に、自分の口で言うこと」が求められます。
“This idea costs a lot…” “Maybe we should reconsider…”
これを瞬時に組み立てて言う—— この能力は、TOEICの勉強では一度も要求されません。
なぜ”わかる”のに”言えない”のか
TOEICで高得点を取れる人は、文法知識も語彙力も十分に持っています。
英文を見ればほとんど理解できますし、リスニングも大きな支障はありません。
それでも口を開くと止まってしまう。
なぜか?
理解と発話は、まったく別のプロセスだからです。
理解と発話は、脳の異なる領域を使う
TOEICは「読む・聞く」テストです。 会話は「つくる・出す」行為です。
理解(入力): 目や耳から入った情報を処理する。
発話(出力): 頭の中で文を組み立てて、口から送り出す。
この2つは、脳のまったく異なるプロセスです。
TOEICで高得点を取るために鍛えられるのは「入力」だけ。
「出力」の訓練は、ほぼゼロです。
だから、高得点を取れても口から英語が出てこないのです。
これは「知識が足りない」からではありません。
思考を取り出して組み立てる回路が、脳内に構築されていないからです。
TOEIC対策が会話力を妨げる
問題は「TOEICでは発話が問われない」だけではありません。
TOEIC対策の勉強法そのものが、会話に必要な回路を阻害します。
1. 「正解は1つ」という刷り込み
TOEICの全問題には、必ず「唯一の正解」が用意されています。
対策のために問題を何百問、何千問と解きつづけると、 「英語には必ず正解がある」という思考が脳に刻み込まれます。
しかし会話では、正解など存在しません。先ほどの「再検討の例ですと、
“We should reconsider this.”
“Maybe we need to think about it again.”
“I think it’s worth reviewing.”
どれも正しい。どれを言ってもいい。
会話で大事なのは「言葉を止めないこと」です。
ところがTOEIC脳は、「どれが正解か?」と考えてフリーズしがちです。
2. 時間をかけて「処理する」訓練
TOEICは2時間で200問。 1問あたり約36秒の計算ですが、実際には、
- 長文問題:2〜3分かけてじっくり読む
- 文法問題:選択肢を見比べて、正しいものを選ぶ
つまり、「時間をかけて正確に処理する」訓練です。
しかし会話では、相手は待ってくれません。
“What do you think about this idea?”
3秒以内に何か言わないと、会話が止まります。
TOEIC対策で育つのは「じっくり考える力」。
会話で必要なのは「瞬時に出す力」。
真逆です。
3. 「読む→理解する」の一方通行
TOEIC対策では、こう練習します。
「英文を見る ➡ 意味を理解する ➡ 正解を選ぶ」
この流れを何千回と繰り返すと、 「英語=読んで理解するもの」という回路が固定化されます。
しかし会話で必要なのは、
「思考を持つ ➡ 英語の語順とロジックで組み立てる ➡ 口に出す」
頭の使い方がまったく違います。
TOEIC対策を続けるほど、「入力回路」は強化されますが、「出力回路」は未発達のまま放置されます。
4. 「間違えたら減点」という恐怖
TOEICは1問5点。 1つ間違えるごとに、スコアが下がります。
この経験を積み重ねると、 「間違えてはいけない」という恐怖が刷り込まれます。
会議で言いたいことがあっても、 “We need to discuss about… wait, discuss に about は要らない? discuss on? それとも just discuss?” などと考えているうちに、発言のタイミングを逃す。
間違いを恐れるあまり、何も言えなくなる。
これが、TOEIC高得点者ほど陥る典型的なパターンです。
つまり、TOEIC対策は:
✗ 「正解は1つ」という刷り込み ➡ 会話で迷ってフリーズする
✗ じっくり処理する訓練 ➡ 瞬時に出せない
✗ 入力回路の強化 ➡ 出力回路は未発達
✗ 間違いへの恐怖 ➡ 英語を話すことに躊躇する
TOEICで高得点を取るために積んだ努力が、皮肉にも、会話力を阻害しているのです。
この壁を越えるために必要な視点
TOEICで積み上げた知識は確かな財産です。
文法を理解している。語彙も持っている。リスニングもできる。
にもかかわらず口が動かないのは、学習の設計思想が「正解を当てる」ことに縛られてきたからです。
この壁を越えるために必要なのは、「正解ではなく、伝達を優先する」という発想の転換です。
1. 「正解主義」から「通じればよし」へ
TOEICは100点満点の世界。
それに対して、会話は、「通じるかどうか」がすべてです。
“We discussed this yesterday.”
文法的にはaboutは必要ありませんが、問題なく通じます。
大事なのは、「言葉を止めないこと」であって、文法的な完璧さではありません。
TOEIC高得点者ほど、”discuss” と “discuss about” で迷ってフリーズします。
しかし相手にとっては、完璧な文法より、「何か言ってくれること」の方が重要なのです。
2. 「一文で完璧に」から「短く刻んで」へ
TOEICの長文問題は、複雑な文を一度に処理する訓練です。
しかし会話では、短く刻んで言えばいい。
TOEIC脳が目指す文:
“The client requested several modifications to the proposal we submitted last week, and we are currently working on implementing those changes with a target completion date of next Friday.”
会話で実際に言うべき文:
“The client asked for changes.” “We’re working on them.” “Deadline is next Friday.”
これで十分に伝わります。
むしろ、短く刻んだ方が理解されやすいのです。
TOEICで培った「一文で完結させる」癖を捨てること。
これが、会話をスムーズにする第一歩です。
3. 「知っている」から「呼び出せる」へ
知識をため込むだけでは会話に使えません。
本当に必要なのは、「知っている単語や表現を瞬時に取り出して口にできる」状態です。
これは「知識量」の問題ではなく、「回路」の問題です。
TOEICで育つのは:
英語 ➡ 日本語(理解する)という「入力回路」
会話で必要なのは:
思考 ➡ 英語(組み立てる)という「出力回路」
この切り替えが必要です。
TOEICの努力を会話につなげるには、試験の延長線上に答えを求めないことが大前提です。
必要なのは、点数ではなく「場を前に進める言葉」。
その視点を持ったとき、TOEICで得た知識がようやく「使える力」に変わり始めます。
英語を学んできたのに話せない。
問題は知識量ではありません。
あなたの脳が「英語で思考を組み立てる回路」を持っていないだけです。
「文法や単語は知っているのに、言葉が出てこない」
「訳しながら話そうとして、途中で止まってしまう」
それは、頭の中で日本語を英語に変換しているからです。 これは「翻訳回路」であって、「英語の思考回路」ではありません。
実際の会話では、日本語の台本など存在しません。
思考を直接、英語の語順で組み立てる——
この回路がなければ、いくら知識があっても話せないのです。
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