2025.11.07

文法を完璧にする必要がない理由

「文法が正しくないと、英語は通じない」
多くの学習者がこう思い込んでいます。

そして、文法を正しいか確認しながら話すために、うまく英語が出てこない。
「正しい文を言おう」と意識するほど、会話がぎこちなくなってしまいます。

じつは英会話を身につける上で、文法を完璧にする必要はまったくありません
文法は欠かせない基礎であることは、たしかです。
しかし、文法の知識がそのまま「話せる力」になるわけではないのです。

英語が話せるようになりたければ、「文法を完璧にしてから話す」という考え方を捨てる必要があります。
言語習得のメカニズムから見ると、このような考え方は間違っているのです。

この記事では、「文法神話」と呼べるこの誤解を整理しながら、英会話における文法の本当の役割を見ていきます。

文法は話すためのサポートツール

文法は英語を話すための前提条件ではありません。
文法は、話すためのサポートツールです。

文法は、言葉を組み立てるための「設計図」ではあります。
しかし、わたしたちは会話の中で、設計図にもとづき、一から言葉を組み立てているのではありません。

私たちは、「言いたいこと」を伝えようとしながら、慣れた言い回し(パターン)を瞬間的に引き出し、それを組み合わせて話します。
その際に、必要に応じて文法で確認したり、微調整したりしているのです。
文法にもとづいて、その都度、文章をつくっているのではないのです。

この仕組みを、言語学者スティーブン・クラッシェンはモニターモデルという理論で説明しました。
彼によれば、言語には「習得(acquisition)」と「学習(learning)」という2つの経路があります。

「習得」とは、英語をたくさん聞いたり読んだりしながら、あるいは使ったりしながら、英語の「使い方の感覚」が自然に身についていくプロセスのこと。
このプロセスによって、とくに文法を意識せずとも、英語が自動的に使えるようになります。

一方の「学習」は、単語の意味や文法のルールを頭で理解するプロセス。
ここで得られるのは、意識して思い出す知識です。

会話で中心となるのは前者、つまり自動的に英語を操る力です。
文法の知識(学習)は、それを支える「モニター」として機能します。
たとえば、話したあとに、「いまの表現、過去形にすべきだったな」と気づくような働きのことです。

つまり、文法は会話の「土台」ではなく「補助輪」です。
話す前に完璧にしておく必要はなく、むしろ話しながら調整し、少しずつ正確さを高めていくものなのです。

文法を気にしすぎると話せなくなる理由

英語で話している最中に、「あれ、この文法で合ってるかな?」と考え込んでしまう。
そうすると、言葉の流れが止まってしまい、次の一言が出てこなくなります。
多くの学習者が経験するこの現象には、きちんと原因があります。

人間の脳は、同時に多くの処理を行うのが得意ではありません。
会話中は、たくさんの作業が同時に進行しています。
相手の言葉を理解し、自分の考えを整理し、それを英語で表現しようとする。
ここにさらに「文法チェック」まで加わると、
頭の中の処理が一時的にオーバーロードを起こしてしまうのです。

言語習得研究では、これを「認知負荷」の問題として説明します。
ワーキングメモリには限界があり、文法チェックに意識を向けすぎると、言いたいことを考え、それを言葉にするのに使える処理資源が減少してしまうのです。

また、「流暢さ(fluency)」と「正確さ(accuracy)」は、別のプロセスで動きます。
話している最中に“正確さ”を優先しすぎると、“流暢さ”、つまり自然に話す力が阻害されるのです。

本来、会話はリアルタイムの行為です。
相手の言葉に反応しながら、自分の意図するところをすぐに言葉にしていく。
このスピードの中で、文法を一つひとつ意識して確認する余裕などはありません。

むしろ、会話の最中は、言いたいことを伝えるのを最優先にした方がよいのです。
そして、話したあとで「いまの表現、ちょっと違ったかも」と気づく。
その気づきによって、文法の使い方が修正されて、知識ではなく「使える文法」になっていくのです。

つまり、文法を気にしすぎてフリーズしてしまうよりも、多少の間違いがあっても話しつづける方が、結果的に文法の定着も早くなるということです。

「正しさ」より「伝わること」

私たちは「正しい英語を話さなければ」と思いがちですが、実際の会話では、文法的な正確さよりも意味が通じることのほうがずっと大切です。

実際に、ネイティブスピーカーの会話をよく聞くと、文法的に完璧な文ばかりではありません。
主語が抜けたり、動詞の時制が混ざったり、センテンスを途中で変えて言い直すことも日常茶飯事です。

それでも会話が成り立つのは、意図と文脈が共有されているからです。

英会話の目的は、文法の正確さを競うことではなく、相手と理解しあうこと
もし伝わらなければ、もう一度言い換えたり、例をあげて説明したりすればいいだけのことです。

むしろ、間違いを恐れて口を閉ざす方が問題です。
話すこと自体が少なくなると、文法も定着しません。
「伝える」ことを優先して話す中で、少しずつ正確さが育っていく。
それが自然な学習の順序なのです。

言い間違いながら、聞き返されながら、そのたびに修正していく——それが自然な言語習得の流れです。

「正しく話す」よりも、「伝えるために話す」。
その姿勢が、あなたの英語を生きたコミュニケーションへと変えていきます。

英語を学んできたのに話せない。

問題は知識量ではありません。
あなたの脳が「英語で思考を組み立てる回路」を持っていないだけです。

「文法や単語は知っているのに、言葉が出てこない」
「訳しながら話そうとして、途中で止まってしまう」
それは、頭の中で日本語を英語に変換しているからです。 これは「翻訳回路」であって、「英語の思考回路」ではありません。

実際の会話では、日本語の台本など存在しません。
思考を直接、英語の語順で組み立てる——
この回路がなければ、いくら知識があっても話せないのです。

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