『ヤバすぎる経済学』――政治をもっとよくするためのインセンティヴ

700万部突破のベストセラー『ヤバい経済学』シリーズの最新版『ヤバすぎる経済学』(東洋経済新報社)。テロ、犯罪、戦争から家族や人生の問題、エロい話まで、いま激動の世界で起こっているすべてを解決する131話より、「民主主義に代わるもの?」と「政治家にもっとお金を払ったらもっといい人が政治家になる?」を転載する。(シノドス編集部)

 

 

民主主義に代わるもの?

 

アメリカの大統領選挙がそこまで来ている。みんな政治のことが頭から離れないみたいだ。大部分の人と違って、経済学者は投票に関しては無関心であることが多い。彼らの考えだと、個人の投票が選挙の結果を左右する可能性はほとんどないと言っていいぐらい小さい。だから、投票そのものがなんだか楽しいのでなければ投票に行ってもあんまり意味はない。そのうえ、この問題には理論的に何度も結論が出されている。中でも有名なのはアローの不可能性定理だ。この定理は、政治体制や投票の仕組みをうまく作って有権者の選好を信頼できる形で集計するのがどれだけ難しいかを示している。

 

そういう、民主主義のいいところと悪いところを理論的に突き詰めてみました、みたいな話を聞くと、だいたいぼくはあくびが出てしまう。

 

ところがこの前の春、ぼくの同僚のグレン・ワイルがとても単純で美しいアイディアを話してくれたときは、そんなことそれまで誰も考え付いたことがなかったんでびっくりした。グレンの投票の仕組みでは、有権者は好きなだけ何度でも投票できる。でもアイディアのキモは、投票するたびにお金を払わないといけなくて、払う金額は投票した回数の2乗の関数で決まることにある。その結果、もう1回投票すると費用は前回の投票より高くなる。ちょっと考えるために、1票目には1ドルかかるとしよう。2回目の投票には4ドルかかる。3票目は9ドル、4票目は16ドル、なんて調子だ。100票目なら1万ドルかかる。だから、ある候補がどれだけ気に入っていても、人が投票する回数は有限回になる。

 

この投票の仕組みのどこがそんなにすごいんだろう? 有権者それぞれの投票回数は選挙の結果をどれだけ気にしているかに比例して決まることになる。この仕組みは有権者がそれぞれどの候補を好きかだけでなく、どれだけ好きかも取り込める。グレンが使った仮定の下では、得られる結果はパレート効率的、つまり社会の中で、誰か他の人の満足度を低めることなくして、誰の満足度も高めることはできない状態である。

 

この手の仕組みに投げつけられそうな批判といえば、まず、お金持ち優遇だ、だろう。考えようによっては、今の仕組みに比べてそういう面もある。あんまりウケのいい主張じゃないけれど、経済学者ならこんなことを言いそうだ。お金持ちはなんだって人よりたくさん消費するでしょう、それなら、政治への影響力だって人よりたくさん行使するのがなんでいけないんですか? 選挙活動への献金の仕組みが今どうなってるかを見れば、貧乏人よりお金持ちのほうが、すでにずっと影響力を持っているのは疑いようもない。だから、この投票の仕組みを導入し、合わせて選挙活動費を制限するほうが、今の投票の仕組みより、ずっと民主的かもしれない。

 

グレンのアイディアに対する批判にはこういうのもあるかもしれない。お金で票を買う不正を働く強いインセンティヴが働きかねない。あんまり関心もない有権者の1票目をたくさん買うほうが、ぼくの100票目を買うよりずっと安いだろう。票に値段を付けた途端、人は投票をお金のやり取りを伴う取引だと捉え、票を売ったり買ったりし始める可能性は高い。

 

ぼくたちは「1人1票」の仕組みをずいぶん長い間使っている。政治の大きな選挙で、グレンのアイディアが実際に使われる可能性はとても低いとぼくは思う。他にも2人の経済学者、ジェイコブ・ゴーリーとジンジン・チャンがグレンに似たアイディアを研究して、実験室の環境で試した。すると、とてもうまく行っただけでなく、普通の投票方法とこのお金を出して買う仕組みのどちらかを選べと言うと、参加者は普通、お金を出す仕組みのほうを選んだ。

 

この投票の仕組みはどんな状況にでも使える。複数の人が2つ以上の選択肢からどれかを選ぶ状況ならなんだっていい。何人かで集まって映画なりレストランなり、どれに行くか決めるときとか、一緒に住んでる人たちの間で、どっちのテレビを買おうかとか、なんて状況がそうだ。そういう状況では、票を投じた人たちから集めたお金は均等に割って参加した人たちで分けるのがいいだろう。

 

こんな投票の仕組みをちょっと試してみようって人が、みなさんの中から出てきてくれたらと思う。もし試してみたら、どういうことになったかぜひ聞かせてくださいな!

 

 

政治家にもっとお金を払ったらもっといい人が政治家になる?

 

政治体制のことを考えて不満に思うと、いつだってこんなことを考えるでしょう。政治家の連中がろくでもないのは、いい人たちが政治って仕事に手を染めようとしないからってことかもしれない。そういうことなら、政治家のお給料を大幅に上げてやれば、ちっとはましな政治家が出てくるかもしれない。【次ページにつづく】

 

 

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