2015.01.27

運動部活動は日本独特の文化である――諸外国との比較から

中澤篤史 身体教育学

教育 #部活動#海外比較

はじめに

日本の学校では、授業ではなく課外活動として、放課後や休日に運動部活動が広く行われている。

全国調査によれば、7割以上の中学生と5割以上の高校生が運動部活動に加入し、ほぼすべての学校が運動部活動を設置しており、半分以上の教員が運動部活動の顧問に就いている(運動部活動の実態に関する調査研究協力者会議、2002)。このような運動部活動の風景は日本では馴染み深い。

それでは、諸外国の青少年スポーツも、日本と同じように、学校で運動部活動として行われているのだろうか。もしそうだとしたら、諸外国の運動部活動と日本の運動部活動には、どのような違いがあるのだろうか。

こうした疑問を入り口にしながら、本稿は、第1に青少年スポーツの国際状況を概観し、第2に学校間対抗スポーツの国際状況を比較し、第3に日本・アメリカ・イギリスの運動部活動を比較する。それらを通じて、日本の運動部活動が、実は日本独特の文化であることを論じたいと思う。

青少年スポーツの国際状況

まず、青少年スポーツの国際状況を概観してみよう。各国の青少年はどこでスポーツを行っているのか。表1は、世界34カ国における中学・高校段階のスポーツの場を、「学校中心型」「学校・地域両方型」「地域中心型」に分けたものである。

「学校中心型」とは、学校の運動部活動が青少年スポーツの中心になっている国であり、「地域中心型」とは地域のクラブが青少年スポーツの中心になっている国であり、「学校・地域両方型」とは、学校の運動部活動と地域のクラブの両方で青少年スポーツが行われている国である。

これを見ると、「学校・地域両方型」が、欧州の大部分や北米を中心に20カ国でもっとも多い。多くの国の青少年たちは、学校の運動部活動と地域のクラブの両方でスポーツを行っている。

ただし、その内のほとんどの国では、運動部活動が存在するものの、地域クラブの方が規模が大きく活動も活発である。つぎに、「地域中心型」は、ドイツやスカンジナビア諸国など9カ国である。このように運動部活動がほとんど存在しない国も、珍しくない。

そして、「学校中心型」は、日本を含むアジア5カ国ともっとも少ない。ただし、日本以外の4カ国が「学校中心型」である理由は、地域のクラブが未発達なためである。

これらの国では、たとえば中国や韓国の運動部活動がわずか一握りのエリートのみしか参加していないように、運動部活動そのものの規模はとても小さい。青少年スポーツの中心が学校の運動部活動にあり、かつ、その規模が大きい日本は、国際的に珍しい国なのである。

表1:各国中学・高校段階のスポーツの場に関する類型

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 (注)文部省(1968)、Bennett et al.(1983)、Weiss and Gould eds.(1986)、Flath(1987)、Haag et al. eds.(1987)、Wagner ed.(1989)、De Knop et al. eds.(1996)などの比較研究等を元にして、筆者作成。

学校間対抗スポーツの国際状況

つづいて、運動部活動を元とした学校間対抗スポーツの国際状況を比較してみよう。表2は、Saunders(1987、p.117)が調査した、アジア・環太平洋地域22カ国の中学・高校段階における学校間対抗スポーツの状況である。調査項目は「実施状況」「生徒の参加率」「種目の数」「連盟の数」「全国/地区大会の有無」である。

この表を見ると、学校間対抗スポーツのそもそもの有無、そして種類や規模は、各国で多様であることがわかる。その中で日本は、学校間対抗スポーツの機会が「すべての学校」で用意され、「21%の生徒」がその機会を享受し、「30のスポーツ」が提供され、「30の学校スポーツ連盟」がそれを支援し、全国/地区大会が「有」る。

「30のスポーツ」「30の学校スポーツ連盟」という数は、この表でもっとも多い数である。運動部活動を元とした学校間対抗スポーツの状況を見ても、その規模が大きく、盛んな日本は、やはり珍しい国なのである。

ちなみに、冒頭で5〜7割の中高生が運動部活動に加入していると述べたが、この表では日本の生徒の参加率が21%になっている。これは、日本では多くの部員の中から選ばれた少数のエリートのみが大会へ出ていることを示している。このように大衆化と競技化が混交した点が、日本の運動部活動の特徴ともいえる。

表2:各国の中学・高校段階における学校対抗スポーツの状況

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(注)Saunders(1987, p.117)から日本語に訳して引用。Saundersは、アジア・環太平洋地域の各国のユネスコ委員会(national UNESCO commissions)を対象に、郵送での質問紙調査を実施した。

運動部活動の日米英比較

最後に、日米英の運動部活動を比較してみよう。アメリカとイギリスにも運動部活動はある。「extracurricular sports activity」「school athletics」「interscholastic sports」「varsity sports」と呼ばれる活動がそれであり、授業ではなく課外活動として、放課後や休日に学校でスポーツが行われ、それを元にして学校間対抗の試合や大会も行われている。

では、日米英の運動部活動には、どんな違いがあるのか。表3は、日米英における中学・高校運動部活動のあり方を「設置学校の割合」「各学校の部数」「生徒の加入率」「活動状況」「全国大会」「指導者」「指導目的」の観点から整理したものである。

順に見ていくと、三カ国ともほぼすべての学校に運動部活動が設置されている。日本とイギリスでは、多数の部を持つ学校が一般的である。対してアメリカでは、アメリカンフットボールやバスケットボールなどの代表的な少数の部だけを持つ学校が珍しくない。また入部に際してトライアウトを設けて、競技能力により入部希望者を選抜する場合もある。

生徒の加入率は、日本が約50%〜70%で高く、イギリスが約50%で続く。アメリカは、ほとんど参加しない名目的な部員も含めた加入率は50%に達するが、それらを除いた実質的な割合は30〜40%であり、やや低い。

活動状況は、日本とアメリカは活発で高度に組織化されている。ただし、アメリカはシーズン制を敷いており年間を通して活動しているわけではない。対してイギリスは、参加生徒の多くは週1〜2日気晴らし程度に活動するに過ぎず、活発とはいえない。

全国大会は、日本とイギリスで有るが、国土の広いアメリカでは無く、州レベルの大会で留まっている。ただし、アメリカの高校のアメリカンフットボールやバスケットボールの州大会は、多くの観客を集めるビッグ・イベントである。

指導者は、関心や経験の有る教師が担う点は、三カ国とも共通している。違いは、アメリカで教師とは別に雇われる専門のコーチも担当する点、日本で関心や経験の無い教師も担当する点である。そうした指導者の違いに関連し、指導目的にも違いが見られる。アメリカとイギリスの指導者は競技力向上を挙げるのに対して、日本では第一に人間形成を挙げる。

これらを踏まえて、日米英の運動部活動の総括的特徴を対比的に述べると、日本は「一般生徒の教育活動」、アメリカは「少数エリートの競技活動」、イギリスは「一般生徒のレクリエーション」として、まとめることができるだろう。

表3:日米英における中学・高校運動部活動の諸特徴

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 (注)文部省(1968)、Bennett et al.(1983)、Weiss and Gould eds.(1986)、Flath(1987)、De Knop et al. eds.(1996)などの比較研究、および、運動部活動の実態に関する調査研究協力者会議(2002)、National Center for Education Statistics(2005)、Sport England(2001)などの各国の実態調査報告書等を元に、筆者作成。

おわりに

以上から、多くの国で、青少年スポーツの中心は学校の運動部活動ではなかった。また、学校に運動部活動がある場合でも、規模が小さかったり、活発ではなかったりした。

そして、アメリカとイギリスの運動部活動は、教育活動というよりも、競技活動やレクリエーションとして行われていた。こうしてみると、日本では馴染み深い運動部活動が、国際的に見れば、実は日本独特の文化であることがわかる。

つまり、日本以外では、スポーツは学校教育と別に行われるのが一般的である。しかし、日本では、運動部活動として、スポーツが学校教育に強く密接に結び付けられているのである。

さて、こうした日本独特の文化である運動部活動は、なぜ、どのように成立してきたのか。なぜ日本ではスポーツは学校教育に結び付けられるのか。もし、本稿に触発されてそうした疑問を感じた読者がいたら、拙著『運動部活動の戦後と現在−なぜスポーツは学校教育に結び付けられるのか』(青弓社、2014)を、ぜひお読みいただきたい。

【文献】

運動部活動の実態に関する調査研究協力者会議(2002)『運動部活動の実態に関する調査研究報告書』。

文部省(1968)『外国における体育・スポーツの現状』。

Bennett, B. L., Howell, M. L. and Simri, U.(1983)Comparative physical education and sport, second edition, Lea & Febiger.

De Knop, P., Engstrom, L. M., Skirstad, B. and Weiss, M. R. eds.(1996)Worldwide trends in youth sport, Human kinetics publisher.

Flath, A. W.(1987)”Comparative physical education and sport”, 『体育学研究』31(4), pp.257-262.

Haag, H., Kayser, D. and Benett, B. L. eds.(1987)Comparative physical education and sport (volume 4), Human kinetics publisher.

National Center for Education Statistics(2005)Youth indicators 2005.

Saunders, J. E.(1987)”Comparative research in regard to physical activity within schools”, in Haag, H. et al., eds., Comparative physical education and sport (volume 4), Human kinetics publisher, pp.107-126.

Sport England(2001)Young people and sport in England 1999.

Wagner, E. A. ed.(1989)Sport in Asia and Africa, Greenwood press.

Weiss, M. R. and Gould, D. eds.(1986)The 1984 Olympic scientific congress proceedings (volume 10) Sport for children and youths, Human kinetics publisher.

サムネイル「ガンバレ高校球児」m-louis .®

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プロフィール

中澤篤史身体教育学

1979年、大阪府生まれ。東京大学教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科修了、博士(教育学、東京大学)一橋大学大学院社会学研究科専任講師。主著は『運動部活動の戦後と現在 なぜスポーツは学校教育に結び付けられるのか』(青弓社、2014)。専攻分野は身体教育学・スポーツ科学・社会福祉学。

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