2016.01.12

どこからがアウト? 法律からみたPTA――憲法学者・木村草太さんに聞く

聞き手 / 大塚玲子

教育 #PTA#PTAをけっこうラクにたのしくする本

強制加入や非加入者へのいじめなど、「違法PTA」(違法行為をするPTA)の問題を指摘している、憲法学者の木村草太さんに、お話を聞かせてもらいました。PTA がやっていいことと、やっちゃいけないことって、どう判断すればいいのでしょうか?

――PTAって、保護者を強制加入させることはできないんですか?

団体に加入するっていうことは、ひとつの契約なんですね。契約が成立するのは「両当事者が合意をした場合」です。逆にいうと、両当事者が合意していなければ、契約は成立しないわけです。

したがって、PTA は保護者を強制的に会員にすることはできない、ということになります。

――PTAは強制加入団体じゃないということですね?

強制加入団体というのは、法律で「なにかをする条件として、なにかの団体への加入が義務づけられているもの」なんです。

たとえば、「弁護士として営業するためには、かならず弁護士会に入らなければいけない」とか、「ある団地の区分所有者になるのであれば、かならずその団地の管理組合に入らなければいけない」とか、そういうものですね。

PTA の場合、「子どもが学校に入るなら、かならずこのPTA に入らなければいけない」というような法律はないので、強制加入団体ではありません。

――では、PTAが任意加入だと知らない保護者の口座から、会費を給食費といっしょに引き落としたら、まずいですか?

そうですね。その人とPTA とのあいだで、加入の契約が成立しているか、いないかという問題がありますが、どちらにしても、会費は返されなければなりません。

まず、契約が成立していないのであれば、引き落とされた会費は「不当利得」ということになるので、民法のルールに従って、PTA は会費を返さなければいけません。

もし契約が成立していたとしても、おそらく「詐欺の契約」ということになって、取り消せるでしょう。取り消しになった場合は遡及するので、やはり会費は返さなければいけないことになります。

「詐欺の契約」っていうのは、たとえば、詐欺のリフォーム業者がやってきて「消防法上、これをやらなきゃいけないことになってます」といって契約させられたような場合ですね。当然、取り消せます。

――そうすると、訴えられることもありえますか?(汗)

ありえるでしょうね。その場合、被告は「PTA」になるでしょう。法人格をもっていなくても、団体の長がいて、組織化されていれば、被告になりえるんです。

もし訴訟があれば、PTA は確実に負けます。合意もないのに、契約上の債務があるといってお金を引き落としているわけですから「振り込め詐欺」といっしょです。裁判所から代表者(PTA 会長)に通知がいって、「会費を返してください」ということになるでしょう。

ただし、全額返すことになるかは、わかりません。もしその保護者が、PTA からすでになんらかのサービスを受けていれば、実費を相殺して一部返金になるかもしれません。

PTAと名簿

――ところで、いまPTAに入らない人は、病気など個人的な事情を役員に伝えなければなりません。それがいやで、やめたいと言いだせずに、追いつめられる人も多いようですが……。

これはPTA が任意加入でやっていれば、起こりえない問題ですね。

そもそもの問題として、一連の個人情報保護法令により、学校は、保護者や児童・生徒の名簿を、PTA に渡してはいけないんです。ですから、PTA は本来、自分から「入りたい」と言ってきた人の名前や連絡先しか、把握していないはずなんです。そうすると、PTA に入りたくない人が、そのことをPTAに伝える必要は、最初からないはずなんですよね。

――学校は、保護者や子どもの名簿をPTAに渡しちゃダメなんですか?

ええ。名簿というのは、目的の範囲でしか使ってはいけない情報ですから、学校はPTA という別の団体に名簿を出してはいけないんです。

学校だけでなく、保護者も同様で、学校からもらったクラスの名簿を、PTA に伝えてはいけません。なぜならそれは、保護者が学校との関係で使う目的でもらった名簿だからです。

たとえば、私はいま、団地管理組合の会計理事をしているので、加入者全員の名簿を持っています。それをリフォーム業者の人に「はい、どうぞ」ってあげたらアウトですよね。あるいは、私がリフォーム業をやっていたとして、その名簿を使って営業したとしたら、それもやっぱりアウトです。

――なるほど、アウトですね。これも、もしかすると訴えられる可能性はありますか?

ありますね。「個人情報の第三者提供」ということになり、1件あたり数千円の損害賠償というのが、判例上の基準です。もし、クラス30 人分の名簿をPTA に流したとしたら、4000 円× 30 人分で、12 万円の損害賠償ということになります。

――学校全体だと、かなりの額ですね……。では、PTAは本来、どうやって名簿をつくればいいんでしょうか?

任意加入にして、申請書を集めて名簿をつくることです。そうすれば契約が成立して、いまある問題は、全部なくなります。

名簿というのは、そもそも、申請書を集めないことにはつくりようがないんです。名簿がつくれなければ、団体って存在しないのといっしょなんですよ。会員の人数だって、わからないんですから。

非会員の子どもは排除される!?

――現状では、PTAに「加入しない」とか「やめる」とかいうと、いやがらせを受けることがあるようですが?

人間関係でなにか言われる、ということでしょうか。もしひどいケースであれば、侮辱という不法行為になると思います。

もしくは「(入っていないと)不利益がありますよ」などと言われて、加入を強制されたのであれば、脅迫または恐喝にあたります。これで会費をとったら、もちろん返さなきゃいけませんし、場合によっては脅迫罪も成立します。

こういうのもそもそも、任意加入であれば、生じえない話なんですが……。

――PTAに入っていない家庭の子どもが、学校内でおこなわれるPTA行事に参加させてもらえないケースは、どうですか?

それは、はっきりと〝アウト〟です。

なぜかというと、PTA というのは、会員限定サービスをする団体ではないからです。その学校に子どもが通っている保護者が、「学校の子どもたちみんなのために、いいことをしよう」というのが、PTA という団体なんです。だから、一部の子どもを排除するってことは、まったくおかしいわけです。

PTA って、学校の部屋を使えるとか、さまざまな特権をもっていますよね。学校という公共団体から、そういう特権をもらえるのはなぜかというと、「学校全体のために奉仕してくれる団体だから、協力しましょう」ってことなんですよ。

だからもし、会員の子どもに対象を限定したサービスをするのであれば、学校はそもそも、協力する理由がないんです。

たとえば、30 人のクラスのうち5 人の親が、「クリスマスのときにサンタさんのバイトを雇って教室に来てもらい、自分たちの子どもだけにプレゼントを配らせたい」って言ったとしたら、ふつうに考えて、先生は「NO」と言いますよね(笑)。そういう会員限定のサービスは学校でやらなくていい、家でやってください、という話になる。

これが「クラス全員に配りたいんです」っていうことなら、「ちょっと考えましょう」って話になると思うんですけどね。

――人数を減らして考えるとわかりやすいですね。そうすると、非会員の子どもが排除される心配はないわけですね。

そうですね。会員以外の子どもを排除するPTA であれば、学校はすぐに、学校内で活動できるという特権をやめさせなければいけません。

もし、PTA が会員限定サービスをしていることを知ったうえで、学校が活動を続けさせているとしたら、「学校施設の不適切な利用」ということになり、学校長は施設管理者としての責任を問われることになるでしょう。

ですから、全員に提供できないサービスだったら、やめるしかないってことです。もし人手が足りないのであれば、そのぶん、お金を集めてアルバイトを雇うとか、そういうくふうをすべきでしょう。

PTAと予算

――PTAでアルバイトを雇ってもいいんですね。では、役員に給料を払うのもアリですか?

ええ、もちろんアリですよ。みんな、すごく頭がかたくなってるみたいですけれど(笑)。

スタッフに給料を払うのは、労働組合でも、NPO 法人でもやっていることですから、いいんじゃないですか。

もちろん、たまにある話で、「長年理事長をやっている人が勝手に予算を決めて、毎月ウン十万円を自分でもらっている」とか、そういう悪質なことにならないよう、会員のなかでちゃんとルールに従って金額を決めていれば、まったく問題ないということです。

――では、PTA予算でなにかを買って学校に寄付するのは、どうでしょうか?

任意加入が前提であれば、ぜんぜんおかしくないことだと思うんですよ。みんなのためになることをやるわけですから。

もちろん学校は、学校教育法上の教育をするための最低限の備品等については、すべて公共の予算でまかなわなくてはいけません(『PTAをけっこうラクにたのしくする本』 118 ページ参照)。そこをPTA 予算で埋めあわせするのは、たしかにまずいです。それをやるのであれば、いったん自治体にお金を寄付して、自治体の予算に組み込んでから、学校に出すってかたちにしないといけないでしょうね。

ですが、その最低限度ではない、プラスアルファの部分について、PTA のお金を使うというのは、私は問題ないんじゃないかなって思います。

もし問題だと思うのであれば、これも一度、自治体に寄付して、自治体の予算から学校に出してもらうかたちにすればいい。

だから、なんでそれが問題になるかというと、強制加入で集めたお金だからでしょう。「押し売り」といっしょになってることが問題なんですね。任意加入なら、問題になりません。

――なるほど。では、PTAを任意加入にしたうえで「これはやっちゃいけない」っていうことは、なにかありますか?

PTA というのはあくまで、公共施設を借りている団体なので、公共性の観点から説明できる活動しかやっちゃいけない、という点です。

判断に迷うときは、つねに「公共的かどうか」を考えてみればいいでしょう。

お話をうかがって

いまのPTA には、〝違法〟と言わざるをえない面がいろいろとあることがわかりました。問題を一度に全部解決するのはむずかしいかもしれませんが、少しずつでも改善していくにはどうしたらいいか? それぞれのPTA で、考えていってもらえたらと思います。

・・・

本稿が収録された『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(太郎次郎社エディタス、2014年)には、PTAをけっこうラクに楽しくするための様々なくふうや先駆事例が多数紹介されています。いまのPTAに疑問がある方、いまのPTAをもっとよくしたいとお考えの方は、ぜひお役立てください。

プロフィール

木村草太憲法学者

1980年生まれ。東京大学法学部卒。同助手を経て、現在、首都大学東京教授。助手論文を基に『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)を上梓。法科大学院での講義をまとめた『憲法の急所』(羽鳥書店)は「東大生協で最も売れている本」と話題に。近刊に『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)『憲法の創造力』(NHK出版新書)がある。

この執筆者の記事

大塚玲子編集&ライター。

著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。主なテーマは「家族」「PTA」。東洋経済オンラインに「PTAのナゾ」を連載中。講演会も好評。OH事務所 http://homepage3.nifty.com/ohj/

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