ドキュメンタリー番組の罠

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マスメディアによる情報は、多くの人達の目に触れ、情報源として重要な位置を占めています。特にテレビからの情報は、震災の前後に関わらず各年齢層ともに主要な情報源となっています。(参考:東日本大震災を契機とした情報行動の変化に関する調査結果 http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/survey/telecom/2012/megaquake311-a.pdf

 

ここでは、制作者側の意図が強く反映された「ドキュメンタリー番組」により事実が歪められて伝えられた事例について取り上げます。1つは日本で放送されたNHKの番組、もう1つはフランスで放送された番組です。どちらも同じ様な改竄の手口が使われていることが発覚しました。

 


ドキュメンタリー番組の罠

 

【その1.NHKで放送された「追跡!真相ファイル 低線量被ばく・揺らぐ国際基準」での虚偽と捏造】

 

昨年12月に放送されたNHKのこのドキュメンタリー番組は、ICRPが原発推進の意図で放射線によるリスク評価を低く見積もっていると告発をしているもので、評判をよびました。この番組を視聴したことで、ICRPは信用のできない組織であるという認識を持ってしまった人達も多い様です。

 

しかし、この番組の内容には虚偽がいくつもあり、誤った内容になっていることが指摘されています。 ICRPの日本委員8名は、このNHKの番組に抗議して、放送倫理・番組向上機構(BPO)に連名で提訴状を出しています。 http://icrp-tsushin.jp/files/20120614.pdf この内容を要約して紹介します。

 

まず、ICRPは原発推進側が作った組織であると間違って伝えていると指摘しています。
ICRP は、1928 年に「医療放射線の防護」を目的に作られたNPO法人です。(最初の原子力発電所であるソ連のオブニンスク発電所が運転を開始したのは1954年で、ICRP設立からずっと後です)

 

また、番組ではDDREF (dose and dose-rate effectiveness factor:線量・線量率有効係数)の意味を低線量リスクと間違って伝えていました。

 

「放射線の健康影響をめぐる誤解」の【その2.線形閾値なし( linear no-threshold: LNT )モデル】http://synodos-jp/science/1568 で説明した様に、DDREF は強い放射線を一気に被曝した場合と比べて、同じ総量でも、低い線量をゆっくりと時間をかけて被曝した場合には、生物に与える影響が小さくなるという「線量率効果」を補正するための係数であり、低線量リスクという意味ではありません。

 

この「線量率効果」は、放射線生物学や放射線医学の分野で広く認められています。ICRP は、DDREF の値について1977 年に2という値を採用していましたが、DDREFの値としてどの数値を使うかについては議論があり、国際的に見直しの機運が高まっていることは事実です。提訴状では、番組制作担当者がもしもDDREF の値を取り上げるのなら、線量・線量率効果係数という正しい訳語を用いてこの問題を正面から議論をするべきで、低線量リスクへのすり替えは、行うべきではなかったと指摘しています。

 

また、ICRP が原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR:United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)を無視してリスク値を独自に定めることはありません。UNSCEARが科学的知見の取りまとめとリスク値の推定を担当し、ICRP はUNSCEAR が提示したリスク値をもとに放射線防護システムを構築しています。UNSCEARとは、 繰り返される大気圏内核実験からの放射性降下物が人類に与える影響が懸念されていた1955 年に、国際連合が設置した委員会です。次の表は、提訴状より引用しました。

 

 

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1977年 ICRPがDDREF の値を2に設定

 

1986年 原爆放射線の線量見直しによるリスク値の上昇

 

1990年 ICRPは、従来2.5%であった高線量率でのリスク値を4倍の10%に変更したことで、低線量リスクも従来の1.25%から5%に引き上げた。

 

従って、その番組中で「ICRP が低線量リスクを低く据え置いた」という主張は歴史的事実に反しています。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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