「アラブの春」は今どうなっているのか?――「自由の創設」の道のりを辿る

「アラブの春」と呼ばれた、チュニジアとエジプトに始まる、アラブ世界の社会・政治変動が生じてから3年が経とうとしている。リビア、イエメン、シリアと急速に連鎖し、一時はバーレーンを通じて湾岸産油国に及ぼうかと見えた変革の波は弱まり、むしろ逆行しているようにさえ見えるかもしれない。今年7月3日のエジプトのクーデタでは、民衆のデモが、選挙で選ばれた政権の軍人による排除を歓呼して迎えた。シリアでは社会からの異議申し立ては政権による過酷・苛烈な弾圧を招き、国土を焦土化する内戦の淵に沈みこんだ。リビアではカダフィ政権打倒に立ち上がった各地の民兵が、政権崩壊後も武装解除を拒み、国土を割拠した状態になっている。

 

しかしここで再び、「やはりアラブ人には民主主義は無理だ」といった「アラブの春」以前に通用していた文化決定論に戻ってしまっては現実を見誤る。解き放たれたデモの恍惚と、政権打倒の高揚を越えて、新たな新体制を作る地味で困難なプロセスに、「アラブの春」の先行諸国は入っている。そこにおいて生じる停滞や後退、一時の挫折は、達成しなければならない課題の大きさ、乗り越えなければならない壁の高さから見れば当然とも言える。

 

「アラブの春」は今どうなっているのか?

 

旧政権が崩壊するか、政治指導者が退陣を余儀なくされ、新たな体制を設立するための移行期に入っている、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンという4つの国について、ここでは、現状を、憲法制定を最大の課題とする移行期の政治的段階にいるととらえる。この段階における「暫定政権の担い手」と、憲法制定のための「代表者の選出制度」がいかなるものであるかを各国について考え、それらがどのような影響をプロセス全体に及ぼしているかという観点から見ていこう。

 

 

革命と立憲政治

 

ハンナ・アレントは、世界史上に数多く起きてきた「革命」の多くは実は「反乱」に過ぎず、それが「自由の創設」をもたらすという「奇蹟」を伴わない限り、多くは混乱と分裂のもとで再び独裁の軛に繋がれる結果に終わったと指摘する。しかし往々にして人々の関心は「反乱」の劇的な側面に向けられ、「自由の創設」の地味な側面への関心は高まらない。

 

 

「歴史家は、反乱と解放という激烈な第一段階、つまり暴政にたいする蜂起に重点を置き、それよりも静かな革命と構成の第二段階を軽視する傾向がある」(ハンナ・アレント『革命について』志水速雄訳、ちくま学芸文庫、1995年、223頁)

 

 

静かな革命における「構成」とはすなわち憲法制定(コンスティチューション)である。アレントによれば「根本的な誤解は、解放(リベレイション)と自由(フリーダム)のちがいを区別していないという点にある。反乱や解放が新しく獲得された自由の構成を伴わないばあい、そのような反乱や解放ほど無益なものはないのである」(アレント『革命について』224頁)。

 

アラブ世界の社会・政治変動に関するわれわれの関心も、ともすれば「反乱」の局面にのみ向けられてはいなかったか。デモよりも内戦よりも、自由の構成=憲法制定という地道で労の多い過程こそが、革命のもっとも重大な局面であるとすれば、「アラブの春」を経たチュニジア、エジプト、リビア、イエメンは、この段階での困難に直面しているといえる。それは成功を約束されたものではないが、失敗を運命づけられてもいないし、まだ終了してしまったわけでもない。

 

 

 

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