どうして妻は不機嫌なんだ?――産後に冷え込む夫婦の愛情

「子どもが生まれてからなぜか妻が不機嫌だ……」「一緒に育てるって言っていたのに、話が違う!」あるデータによると出産後に夫婦の愛情は急速に冷え込み、その後の夫婦生活に致命的なひびがはいってしまうらしい。この現象を「産後クライシス」と名付け、そのメカニズムを解明したNHK報道記者の内田明香さんとディレクターの坪井健人さんによる『産後クライシス』(ポプラ新書)。「妻はもう夫を愛していない?」「夫の愛情は妻に伝わっていない?」著者の内田明香記者にお話をうかがった。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

夫の愛は一方通行!?

 

―― ご著書では出産後に夫婦の愛情が冷え込むことを「産後クライシス」と名付けられています。どういった経緯でこの問題に気が付かれたのでしょうか?

 

ベネッセ次世代育成研究所が発表しているデータによると、妊娠期に「(配偶者を)本当に愛していると実感する」女性の割合は7割。子どもが生まれた直後の0歳期で45.5%、2歳児期になると34.0%にまで落ち込んでいるんです。一方で、男性も7割から始まるのですが、女性と同じように下がってはいくものの、2歳児期の時点でも51.7%が妻のことを愛していると感じているんですね。

 

私はこのデータをみても「まあそうだろうな」と思いましたし、同僚の女性記者たちに見せても同じような反応で、「もう子どもがいればいいよね」という会話が交わされていたんですけど、男性の上司たちに見せてみたら「自分たちはこんなにも妻に愛されていないのか……!」と、とてもびっくりしていて。むしろ私たちは「えっ! 夫って妻を意外に愛してたわけ!?」という風に驚いていたんですけど。

 

「これはニュースになるんじゃないか?」と思い、「出産後、冷める愛 夫しだいで保つ」というタイトルで2011年12月5日に放送しました。そしたら本当にたくさんの反響があって。NHKのニュースサイトでも特集が組まれたのですが、2011年度下半期の特集項目のなかでは、災害関連をのぞけばアクセス数トップを記録しました。

 

これだけの反響があるということは、大きな社会問題なのではないかと思い取材を重ねました。するといろいろなことがわかってきたので、NHKで平日8時15分から放送している「あさイチ」で一緒に番組を作ったことのある坪井ディレクターに声をかけて、特集を組むことにしたんです。そのときに生まれた言葉が「産後クライシス」。これは坪井ディレクターが考えた言葉なのですが、そもそもこの問題に彼が食らいついたもの、当時彼に思い当たる節があったからなんです(笑)。

 

番組作りのために打ち合わせをはじめると、制作スタッフのなかから「産後クライシス」と思われる経験談がぞくぞくとでてきました。厚生労働省の「母子家庭調査」を調べてみると、「母子家庭になった時期」でもっとも多いのは子どもが0~2歳の時期で、全母子家庭のほぼ3割にのぼります。これは約1400世帯を対象にしたデータですから、産後離婚の実数はわかりません。その他のデータも使って調べてみましたが、離婚の原因が産後クライシスなのかは定かではありません。

 

そこで「産後クライシス離婚」の実態を知るために、インターネットを通じてアンケート調査を行いました。1500人あまりにアンケートを行い、そのなかから産後の夫婦関係にトラブルのあったというご夫婦に直接お話をうかがうと、やはり「産後クライシス」があったというお話をされるんです。

 

さらに調査を続けていくと、「産後クライシス」はその後の夫婦仲にずっと影響を与え続けることがわかりました。東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長の渥美由喜さんの、女性の愛情の配分の変化についてライフステージの時期を区分けした調査によると、出産後に夫への愛情がガクリと落ちて、その後、回復組と低迷組に二極化するんですね。

 

本でもいくつかご紹介しましたが、産後の夫の言動で、夫への愛情を失い、「お金のため」と呟きながら、日々の家事をこなしている方もいました。でも、夫は妻からの愛情をすでに失っていることに気が付いていないんですよ。

 

 

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―― ぼくはまだ結婚していませんが、ご著書で紹介されている生々しいお話を読んでいて身の毛がよだちました。そして「ぼくは気が付けるだろうか」と心配になりました。取材をされていてびっくりするような夫の行動ってありましたか?

 

出産して育児のためになかなか外出できない妻がいるのに、ふらっとでかけて、バイクを買って帰ってきた男性がいましたね。妻が外に出られないのに、遠くに行けて、しかも決して安くないバイクを買っちゃう(笑)。

 

その例はともかく、制作スタッフの男性陣はやたら男性をかばうんですよね。子どもが夜遅くに泣いていたら夫が珍しく起きてきたので、「寝かしつけてくれるのかな?」と思った妻に投げかけた言葉が「明日早いんだけど」の一言のみで、そのまま布団にもぐりこんだ夫に対しても「きっと仕事に疲れていたから眠りたかったんだろう」とか。言い訳じゃなくて本気で言っているんですよ。妻の愛情を失っていることに気付いてないんです。

 

「あさイチ」で産後クライシスを取り­あげたとき、渋谷にある「スタジオパーク」を訪れた家族連れのご夫婦に「産後クライシスはあったか」と○×形式でインタビューをしてみたんですね。そしたら10組中6組は「産後クライシス」があったと答え、そのうち4組は妻が〇を、夫が×を掲げていたんです。

 

この調査は「そもそも家族連れの夫婦なのだから、少なくとも夫婦仲は悪くないだろうから、番組としてオイシイ結果はでないんじゃないか」という話もあったんです。でもふたを開けたら、夫が産後クライシスに気付いていないことがよくわかった(笑)。インタビュー中の妻の恨み節に言葉を失う夫もいました(笑)。【次ページにつづく】

 

 

 

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