2014.10.14
どうなっちゃうの?NPO税制
現在、NPO法人には3つの心配事がある。寄付金税額控除の廃止議論、法人寄付特別損金参入・みなし寄付金の見直し、そしてNPO法改正だ。来年度の税制議論が始まり、ますます不安が高まるNPOの関係者たち。そうした声を受け、10月9日に「どうなっちゃうの? NPO税制」シンポジウムが開催された。いま政府でどんな議論が行われているのか、与党・野党それぞれの立ち位置など、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏とNPO議員連盟の各議員が議論を交わした。(構成/金子昂)
NPO税制、どうなっちゃうんだろうか!?
松原 こんばんは、NPO法人シーズの松原明です。今日はお忙しいところ「どうなっちゃうの? NPO税制」シンポジウムにお集まりいただきありがとうございます。
現在、全国に約5万のNPO法人があり、そのうち約700の認定・仮認定NPO法人がございます。ちょうど昨日(10月8日)、与党税制協議会が始まり、税制の議論がスタートされました。10月から12月までは、来年度の税制を決める大切な時期なんですね。そんな中、われわれNPOが、税制議論に関連して、心配なことが3つあるんです。
ひとつめが、寄付金税額控除についてです。いま、個人が認定・仮認定NPO法人に寄付をした場合、所得控除か税額控除のどちらかを選択して、控除を受けられるという仕組みがあるのですが、この税額控除を取りやめようという声が一部から出ているんですね。
ふたつめが、認定NPO法人に対して企業が寄付したとき、損金参入限度額が拡大される仕組みがあるのですが、これが見直しの対象になっています。さらに認定NPO法人が収益事業で得た利益を、非収益事業に使用した場合に、この分を寄付金とみなす「みなし給付金」という制度も見直しに対象になっているんです。法人税引き下げによって税収は減るため、いろいろなところから税源を集めようとしているのではないかと思っています。
みっつめが、NPO法改正です。2011年にNPO法が大改正され、その際3年後に見直しをすると決められました。その期限が来年3月にせまっているにも関わらず、議論がほとんど進んでいない。どう変わっていくのか、いったいどうなっちゃうんだろうと思っております。
今日は、NPO議連の先生方にお集まりいただき、ぜひ「みなさん心配されていますが、大丈夫ですよ」とお話いただけたら、そして後退を阻止するだけでなく、むしろより前向きなお話ができればと思っております。短い間ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは本日ファシリテーターを務めていただきます、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんにバトンタッチいたします。
駒崎 みなさん、こんばんは。認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹です。いま松原さんからご案内があったように、今日は「NPO税制どうなっちゃうんだろうか!?」という我々の心配をつまびらかにしていきたいと思っています。
日本はいま、世界でも有数の寄付しやすい税制をもっている国なんですね。というのも、認定NPO法人に寄付した場合において、最大で50%もの寄付がバックされるという仕組みがある。これは今日お越しいただいた超党派のNPO議連の皆さんが、汗をかいて勝ち取ってくださった制度です。その素晴らしい税制を見直す声が、与党や財務省の税制調査会で上がっているようなんですね。われわれNPO業界はもちろん、学校法人、公益社団法人、社会福祉法人にとっても不安なことです。
しかし、新聞など報道をみていても、これから議論がどのような方向に進んでいくのかがよくわかりません。そこで、政治の中枢にいらっしゃる先生方にお話をお聞かせいただきたいと思い、本シンポジウムを企画しました。それでは、まずNPO議連の代表であられる中谷元衆議院議員にご挨拶もかねて、現状についてお話いただきたいと思います。
「まだどうなるかはわからない」
中谷 みなさんこんばんは。自由民主党の中谷元です。NPO議連には代表者が2人おりまして、わたくしと江田五月参議院議員が議員を務めております。この議連は超党派でございまして、私と辻元さんが一緒にいるという異様なものでございます(笑)。
辻元 あはは(笑)。
中谷 今日は、社民党の吉田忠智参議院議員、みんなの党の山内康一衆議院議員、民主党の岸本周平衆議院議員、同じく民主党の辻元清美衆議院議員、そしていまはいらっしゃいませんが後ほどいらっしゃる公明党の谷合正明参議院議員がNPO議連から参加させていただきました。
歴史は2001年の10月、認定NPO法人制度が創設され、国税庁に認定されました。寄付金についての税制上の優遇が認められてもう13年。節目となる10年目の2011年には大改正が行われ、より便利な制度になりました。
現在NPO法人は49,173あり、そのうち一般社団財団法人が32,505、社会福祉法人が19,821となっています。このうち58.6%が健康医療に関するもの、47.4%が社会・教育、町づくりに関する団体です。第二の公共とも言われますが、補助金やお役所の仕事ではなく、市民自らが社会的な活動を大いに広めていくことは非常に大事なことですので、これからも議連として、全力で取り組んでまいりたいと思います。
駒崎 ありがとうございます。連続で恐縮なのですが、いま与党内で一部見直しの議論があるという話があることについて、内実について中谷先生からお話をお聞かせいただけますでしょうか。
中谷 日本の財政は毎年、財務省を中心に、12月に税収の見積もりと予算案を決めておりますが、今日まさに、自民党内で議論が始まったところです。
消費税増税、法人税の引き下げ、軽減税率など、非常に難しい問題が多々ありますが、その中でいま、NPO税制が俎上に載せられているんですね。結論は12月に出ますから、その間に、国会での論戦などで野党の先生方から指摘をうけたりしながら、政治的に決定がなされる。ですから、いまの段階でどうなるかは言えません。ただ、せっかく作った税制ですから、現状が悪くならないように精一杯働きかけをしているところです。
主税局「くやしい!」
駒崎 なるほど、まだどうなるかはわからない、と。では野党側の立場から見るとどうなのでしょうか? 状況としてはマズそうなんですか? それとも頑張っていけば、なんとかなるような状況なのか……そうですね……目があったので、岸本先生、お願いします。
岸本 目が合いました、民主党の岸本です。
私はもともと財務省の人間です。随分昔ですが、若い頃には主税局で寄付金税制を担当していました。当時からいいことだと思っていましたので、寄付対象となる特定公益増進法事からの申請は、私が担当していた2年間、すべてを即座に認めていました。ああ、もちろん審査しなかったわけじゃないですよ(笑)。
しかし主税局というのは、お金をとる、増税するのが仕事の部署です。増税してもボーナスがあがるわけではありません。べつに悪い人たちというわけじゃないんです。現下の財政のために、増税をしているわけですね。ただ政治的にあげることができなくて、いまのような惨憺たる状況になっているわけです。
主税局には「くやしい」という言葉があります。税金をまけるのがくやしい。地方税もあわせて、寄付した金額の半分が戻ってくるという制度は、もっともケチな日本の財務省の、主税局の職員からするととにかく「くやしい!」わけなんです。もともと主税局にいた人間ですから、よくわかります。主税局にとっては、いわば喉に引っかかったとげ。できればなくしたい。というのも、いま対象になっていない方々も同様の制度を欲しがりますから、どんどん波及していくわけですよ。だからとにかくやめたくてやめたくて仕方ない。きっといままさに、この議員会館で蠢いていると思いますよ。危機的な状況だ、と私は考えています。
もうひとつ懸念があります。皆さんお忘れかもしれませんが、私たち民主党が政権を担っているときに、いいことも少しはしているんですよ。「少しは」って私が言っちゃいけないんですけどね(笑)。例えばNISA、あるいは教育資金の贈与を受けた際に、贈与税を非課税にするなどですね。いまの政権は民主党がやったいいことも否定していっている。税額控除についても、民主党が法律をつくって、議員立法で適用を広げていったんですよ。なかには中谷先生のような寛大な方がいらっしゃいますが、すべての先生がそうではない。きっと主税局のように「くやしい!」というメンタルをお持ちの方もいらっしゃる。それが自民党の税制調査会で働く可能性はあるわけです。この2点において、頑張っていかないといけないことなんだと思っております。
女性が輝く社会と地方創生をするならば
駒崎 ありがとうございます。岸本先生のお話を伺っていると、わりと不吉な状況になりそうですが、辻元先生、いかがでしょうか。
辻元 民主党の辻元清美です。NPO議員連盟では幹事長を務めております。今日はNPOの関係者が多くいらっしゃっていますから、むしろ中谷先生の方をむいてお話をしたいなあって感じですが(笑)。
安倍総理が、女性が輝く社会をつくりたいとおっしゃってますね。そして地方創生を実現したい、と。それならば、この市民公益税制は絶対に守るべきなんです。もし、たった30%しかいない、儲かっている企業の法人税を減税するために、NPOや学校法人、社会福祉法人などの税額控除も含めて、税の優遇を切り捨てるのであれば、女性の輝く社会も地方創生も実現しません。みなさん、違いますか?
2013年版の中小企業白書によれば、株式会社・有限会社における女性起業家の割合は17.3%、NPO法人の女性起業家の割合は52.7%となっています。さらに内閣府市民活動団体等基本調査報告書によると、女性スタッフが全体の半数以上を占める団体が約7割。そして約4割の団体では、スタッフは女性だけというような状況です。ということは、ですよ。女性の仕事を増やすことが、輝くということならば、これだけ頑張っているNPOや公益団体の女性をいじめるようなことは、やめていただきたい!
そしてもうひとつ。地方がものすごいしんどい中で、町づくりとか観光とか、介護などはいったい誰がやっているんですか? NPOですよね? そういうNPOが、活動を続けるために必死で寄付を集めているところを、安倍さんは切り捨てるのか、と。この点を国会で迫っていきたいな、と思っています。中谷さん、がんばってくださいねえ。よろしくお願いいたします。
廃止の考えはない
駒崎 ありがとうございます。なんだか疑似国会みたいになってきていますが(笑)。
ただいま公明党の谷合先生が到着いたしましたので、与党側の立場でお話をお聞かせいただきたいと思います。
谷合 公明党の谷合です。党ではNPO局長を、議連の方では事務局次長を務めております。
まず公明党として、税控除を縮小するような考えの下で、平成26年度の税制改正大綱にそうした内容を盛り込んだことはいっさいありません。公明党としては、税控除の縮小や、みなし寄付金制度の廃止をするという考えはまったくない、ということを冒頭でお話しておきたいと思います。
念のためお話をしておきますと、昨日、公明党の税調総会第一回がキックオフいたしました。税調会長の斉藤鉄夫衆議院議員は、NPO議連の役員も務めております。斉藤会長に寄付金税制はどうなるのか、縮小ではなく少なくとも継続、あるいは対象を拡大していく方向で見直すべきだと話したところ、廃止のために税制改正大綱に、税額控除制度の再検討の一文を盛り込んだつもりはない、と言っていました。そして今日、皆さんにそのことをお伝えください、と。
昨年、NPO議連でアメリカを視察しました。アメリカではNPO法人や公益法人が、日本でいう中小小規模企業のように、全国に網の目を張って様々仕事をしている。それを受けて、これまでNPO法人は一部しか対象になっていなかった信用保証制度を、より広く認めていけるように、経産省とやりとりをしております。
というのが、公明党の考えであります。遅れてしまったため、同じ与党である中谷先生がなにをお話になられたのかわからないのですが、与党としては、この制度をしっかり堅持していくつもりだということをみなさんにお伝えしたいと思います。
本当の寄付文化
駒崎 公明党さんに堅持すると明言いただけてとても心強いです。信用保証制度、いますぐ使いたいですね。では、続いてみんなの党の山内先生、よろしくお願いいたします。
山内 山内です。私もNPOで働いていたときに資金集めをしていたので、みなさんのご苦労を多少はわかっているつもりです。
さて、寄付金税制に関する問題点を2つ述べます。ひとつは辻元さんと同様で、営利企業の税金を減らすために、非営利企業を犠牲にするというのは、時代に逆行している、論外だということ。
もうひとつが、ふるさと納税についてです。これは納税とありますが、税額控除であって納税でもなんでもありません。評判のいい制度ではありますが、私はあえて批判したい。というのはふるさと納税が、日本の寄付文化をゆがめてしまうものだと思うからなんです。
ふるさと納税は、例えば700万円くらいの所得があるご夫婦が、ある自治体に3万円の寄付をした場合、2万8000円が戻ってくるというものです。つまり2000円の負担で3万円寄付できるという制度なんですね。そこまではいいのですが、見返りに自治体から、1万円分のハムやらメロンやらが送られてくる。これがおかしい。結局、2000円払って、自治体から贈り物を貰おうという人が寄付するようになっているわけです。
こんな不健全なことをやっていたら、本当の寄付文化は根付きませんよ。今の政府はふるさと納税を増やしていくつもりのようですが、そんな余裕があるなら、NPOの寄付金税制を、ふるさと納税なみに良くしてほしい。ぼくは、ふるさと納税はやめてしまって、NPOに対する税額控除と同じレベルに戻すべきだと思っています。そういった観点からも、政府の寄付に対する姿勢は間違っていると思います。
ともにがんばりましょう
駒崎 ありがとうございます。最後に、吉田先生お願いいたします。
吉田 みなさん、こんばんは。社民党の吉田です。社会党そして社民党では、辻元さんがNPOの問題を取り組んでいらしたのですが、担当がいなくなったものですから、私、党首になったのですが、そのまま引き続いております。
大企業の法人税実効税率が35%くらいですが、それを29%くらいに下げようとしている。だいたい1%で5000億円くらいですから、3兆円の財源を別のところから生み出さないといけない。わたしは法人税を下げても、内部留保を増やすだけだと思っていますから、基本的に引き下げには反対ですし、その上、代替財源としてNPOを狙い撃ちするのは大きな問題だと思っています。
さきほど岸本さんからもお話がありましたが、これは自民党がやりたいというよりは、財務省がやりたいのではないかと思っています。その証拠に「ローカルアベノミクス」の資料をみますと、「NPOの力を活用」という文言が入っているんですね。だからこそ、与党野党の力を合わせて、今の状況を跳ね返していきたい。
昨年度に内閣府が行った調査で、NPOの皆さんの要望事項がまとめられていますが、1番目が法人への資金援助、2番目が公共施設と活動場所の低廉・無償提供、3番目が法人に対する税制優遇処置の拡充があげられておりました。こうした政策をもっと充実させていかなければいけないと思っています。この議連で、超党派で、今の状況を跳ね返していきたい。ともにがんばりましょう。
誰が考えてるの?
駒崎 「NPOの力を活用」と掲げているならば、活躍しやすい環境を作っていただきたいですよね。野党の方々から、法人税を減税する代わりに非営利を犠牲にするのはちょっとないんじゃないのという話がありますが、中谷先生、いかがお考えでしょうか?
中谷 政府としては、皆さんの活動資金が減るようなことは考えておりません。ただ財政を考える上において、来年の税収を計算して、予算配分をします。その議論の中で、いまお話したワーキンググループからも、情報開示のあり方、NPOの情報基盤の充実、会計情報、指導・監督の方法など、いろいろな提案はでていますので、より拡充させていく方向に持っていきたいと考えております。ただ今後の議論で決まっていくものですから、必要性を主張して、認めてもらう必要があるでしょう。
駒崎 政府が考えていないとすると、誰が考えているんでしょう?
中谷 財務省でしょうね。もちろん財務省は政府の一員ですが。内閣府の事業部署としては、できるだけNPOを社会に普及させていこう、共生型社会を築いていこうという方針で考えております。先ほどお話がございましたが、地域創生においても、NPOの活動はひとつの要素になっておりますので、できるだけ活動していただきたいという気持ちはあります。ただ、これから財務省の中でも議論が行われますので、その打ち返しをしていくことが大事なのだと思います。
現場の声を聞いている?
駒崎 ありがとうございます。
今日はNPOの皆さんがいらっしゃっておりますので、ご意見をいただけたらと思っています。どなたか現場からの声をお聞かせいただけないでしょうか? ……ではそちらの女性の方。
参加者 認定NPO法人カタリバで資金調達をしております。よろしくお願いいたします。
私どもの団体でも去年5月に認定を取得しました。1年半ほどですが、制度の後押しを実感しているところです。例えば企業のCSR部の方は、支援団体を探す上で、認定NPOを条件にいれて探しているそうです。また税制優遇があることで、相続財産の寄贈を何百万もいただけたこともありました。月額で寄付してくださる会員さまが、認定後に倍増するということもありました。
ひとつ質問があります。本当に制度を改正するべきかという検討をする上で、十分な効果の検証が必要なのではないかと思っています。そうしたときに、現場のグッドプラクティスの情報収集をどのくらいされていらっしゃるのかな、と。
駒崎 中谷先生、現場の声を聴かれてどうでしょう。
中谷 内閣府では共助社会づくり懇談会が開かれています。座長は、中京大学総合政策学部教授の奥野信宏さんです。この会には3つのワーキンググループがあります。NPO法人コミュニティビジネスサポートセンターの代表理事・永沢映さんがメンバーの「人材ワーキンググループ」、京都地域創生基金理事長の深尾昌峰さんが参加されている「資金ワーキンググループ」、そして大阪大学公共政策研究科教授の山内直人さんがいらっしゃる「信頼ワーキンググループ」です。こうしたグループによる懇談会が、活動状況や地域における資金の流れなどを報告書にまとめています。
この報告書などで、NPOの皆さま方の活動を評価して、活動しやすい環境を作っていけるようにするという仕組みはございます。
駒崎 ありがとうございます。辻元さん、いかがでしょうか?
辻元 実態調査のお話ですが、内閣府による調査によれば、NPO法人の有給職員数の中央値は3名、事業規模は平均643万円、15万人の雇用を創出し、3200億円の市場規模となっているようです。しかしこれはNPOサイドによる実態調査よりも、数字が非常に小さいんですよね。
いまはソーシャルビジネスという社会問題解決型と、事業型のNPOがあちこちで大きな力を発揮しています。議連としては、これらの実態調査をしてほしいと内閣に申し入れているところです。どういう形で出来るか勉強してみますというお返事でした。市民応益税制度ができてから、どれだけの実績をあげてきたのか。そして、例えば「寄付した額の半分が返ってくるんですよ」と言えたら説明がしやすいですね。そういった影響も含めて、マインドがどれだけ変わってきたのかなど、アンケートの取り方や項目を調査にいれるように働きかけたいと思います。
駒崎 財務省の話がたびたび出てきていますが、岸本さんはいかがですか?
岸本 財務省の職員さんからすれば、寛大な税制すぎますからね。
いまのご質問にお答えしますと、税制ができて良かったという情報はたくさんもらっています。一方で、いま事務局長としてNPO法改正の法律を作っているところなのですが、認定・仮認定NPOが約700あるということを、大きいとみるか小さいとみるかで評価が変わると思うんですね。もともと土台が低かったことを考えれば大きいとも言えるでしょうね。ただ、アメリカと比べるとぜんぜん駄目。
個別に調査やお話を聞くと、監視管理が国税局から所轄庁に変わったことがあげられると思います。国税局の現場は、認めるものはたんたんと認める組織なんです。財務省って案外親切なんですよ。サービスがとてもいい。ただ所轄庁については、47都道府県によってものすごい差があるんです。認定に時間がとてもかかったり、不親切だったりする。ここを改善していきたいと思っているところです。
これからなにをすべきか
駒崎 ポジティブな形での制度改正を、ということですね。
私たちはやはり税制が変わることを心配しているのですが、谷合先生には、公明党はそんなつもりはないですよとおっしゃっていただきました。そこで谷合先生にお伺いしたいのですが、われわれはこれから何をすべきなのでしょうか?
谷合 現状をありのままにお伝えすると、公明党の税調会長は、寄付金税額控除やみなし寄付金の廃止は考えていないということで、それらを中心的な議題には、いまのところしていません。
与党税調が始まったということで、皆さんの声を伝えていくことが大きな後押しになると思います。そして、むしろみなさんにお願いしたいのは、この世界に誇る制度を、もっともっと活用してもらうための運動をしてほしいということです。社会にこの制度をPRしていくことが、中期的にはポジティブな動きになるのかな、と思います。もちろん「政府がやましいことを考えている! 気を付けねば!」と声をあげることも大事ですが。
駒崎 山内先生どうでしょう?
山内 そうですね。世論の力を盛り上げて、いかに不当であるかを伝えるのが一番だと思います。そもそもNPOをいじめたところで大した財源になるわけがないんですよね。冷静になれよ、財務省って思います。
会場 (笑)。
駒崎 そうですよね(苦笑)。われわれを叩いてお金がでてくるなら、苦労なんてしていないわけですから……。吉田先生、いかがでしょうか?
吉田 辻元さんが言われたように、女性の活躍を考えるならば、NPOが活躍できるようにすべきだと思います。また地方で多くの役割を果たしているのがNPOだと思いますから、いまの制度を活用していくこと、そして認定されているにもかかわらず休眠状態にあるようなNPOが、活動できるような状況をつくっていくことが大事だと思います。さらに世論を盛り上げていくことも必要でしょう。
駒崎 やっぱり世論をもりあげていかなくちゃいけないわけですね。
中谷先生、与党の中で、ビッグサポーターとして汗をかいてきてくださったと思いますが、こうした声を受けつつ、われわれがすべきこと、あるいは与党からわれわれにしてほしいと思うことを忌憚なくお話いただけないでしょうか。
中谷 政府としては、NPOの普及・発展は前向きに考えています。内閣府の専門部署で、規制緩和や特区と一緒に、NPO制度のあり方を検討しているんです。
例えば、設立手続きの迅速化。というのも認証申請の添付書類の縦覧制度が現行は2か月もかかるので、これを廃止または短縮する。もちろん認証に関する審査期間も短縮。また仮認定制度の申請の期限がいまは設立から5年となっていますが、これを廃止するか特例措置を延長すること。また仮認定における実績判定機関が現行2事業年度となっていますが、これを廃止あるいは短縮する。そして今後、休眠法人が増加する懸念があるので、事業報告書を3年以上未提出の場合、認証を取り消すという義務規定をいれる、といった改正をしたい。そうしたことを真剣に検討しています。
また、寄付においては、世論調査によると「寄付したい」と回答した人は約23%にとどまっていました。市民ファンドにも関わらず、市民から十分に寄付を集められていないということはPR不足でもあります。また地域によって格差もあるんですね。今後キャンペーンの必要もでてくるでしょう。
それから、NPOの融資の拡大についても考えなくてはいけない。いま個人からの借り入れが7割を超えていて、銀行、政府系金融機関、信用機関はいずれも1割に留まっています。金融機関のNPOに対する理解が不十分なんです。こうしたものについては、NPOに関する制度や会計基準に関する勉強会を実施して、金融機関に理解をいただくなど課題があると思い、努力している次第です。
駒崎 周辺領域のバージョンアップを内閣府がしてくださるだろうということは、とても心強いです。一方で、例えばですが、与党の一部から声が上がっている、われわれが心配している点について、議論いただくということは……?
中谷 もちろん皆さま方のお気持ちは理解しておりますし、自民党内にも必要だと考えるグループはありますから、公明党の強力な力もお借りして……だいたい公明党の言った通りになっていますけど、自民党サイドとしても、全力で頑張ってまいります。
駒崎 いま中谷先生から「全力で頑張りたい」という心強いお言葉をいただけました。谷合先生からも「公明党はもともとそんなつもりはない」という断言をいただけましたので、よしんばなにかがあったとしても、公明党さんががんがん言ってくださるということで、安心いたしました(笑)。
この税制が今後どうなっていくか、まだわからないところがあります。みんながみんな中谷先生のような方々であれば問題ありませんが、そうじゃない方もいらっしゃいますので、われわれが、国民が声をあげて、世論を高めていかないといけないと思っています。
一方でわれわれも制度に甘えることなく、十分に使いこなして寄付を増やしていく。国民の誰もが寄付という行為を行って、社会を良くしていこうという動きに関われるようにしていかなければ、という思いを新たにすることができました。これで「どうなっちゃうの? NPO税制」シンポジウムを閉幕いたします。ありがとうございました。
プロフィール
松原明
1960年大阪府生まれ。神戸大学文学部哲学科卒。NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会代表理事。企業勤務、経営コンサルタントを経て、1994年にNPOの連合プロジェクトとして「シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」を結成。事務局長に就任。1998年の特定非営利活動促進法(NPO法)、2001年の認定NPO法人制度制定で、主導的な役割を果たした。2008年4月のNPO法人化の際、理事・事務局長に就任し、2010年4月から副代表理事。2013年3月からは代表理事を務めている。現在は、改正NPO法の普及や認定NPO法人制度のスムーズな施行・運用に注力しているほか、NPO政策連絡会議呼掛人共同代表としてNPO等からの各政党・政府への政策提言の取りまとめを行い、全国的なネットワークの中心となって尽力している。著書に『NPO法人ハンドブック』(シーズ)、共著に『改正NPO法対応 ここからはじめるNPO会計・税務』(ぎょうせい)、『NPOがわかるQ&A』(岩波ブックレット)、『フィランソロピーの橋』(TBSブリタニカ)など。
駒崎弘樹
NPO法人フローレンス代表理事。1979年東京都江東区生まれ。慶応大学総合政策学部卒業。「子どもが熱のときに預かってくれる場所がほとんどないという『病児保育問題』を解決し、子育てと仕事の両立が当然の社会を創ろう」と、05年4月に全国初の非施設型・共済型病児保育サービスを開始。2007年ニューズウィーク「世界を変える社会起業家100人」に選出。10年からは待機児童問題解決のための小規模保育サービス「おうち保育園」を開始。2011年内閣官房「社会保障改革に関する集中検討会議(座長:菅首相)」委員に就任。プライベートでは10年9月に1児(娘)の父に。経営者でありつつも2か月の育休を取得。著書に『「社会を変える」を仕事にする』『働き方革命』『社会を変えるお金の使い方―投票としての寄付・投資としての寄付』など。