2016.05.20

21世紀は腸の時代!?――健康を左右する腸内フローラとは

辨野義己×荻上チキ

科学 #荻上チキ Session-22#腸内フローラ

「腸内フローラ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。人の大腸内に存在する細菌の分布を意味する。技術の進歩により、腸内フローラがインフルエンザ、花粉症、老化にも関係があることがわかってきた。医学界で大きな注目を集めている「腸内フローラ」の秘密に迫る。TBSラジオ「荻上チキ・Session22」2016年02月18日(木)放送「医学界が注目する腸内フローラとは?」より抄録(文責:シノドス編集部)

 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

腸内フローラってなに?

荻上 腸内フローラの研究はどこまで進んでいるのか、一から伺っていければとおもいます。今日のゲストは、国立研究開発法人理化学研究所の辨野義己さんです。

辨野 どうも、便を研究している辨野(べんの)と申します。40年間、人の大便の研究をしてきました。

荻上 名前負けしない研究ですね。実は、辨野さんがいらっしゃるということで、お名前に触れようか悩んだんですよ。

辨野 ほとんどの方はペンネームだとおもっていますが、本名です。自分でもこんな道に入るとはおもっていませんでした。もともと、ぼくは獣医だったんですが、担当していた先生に「腸内フローラの研究は人の研究にとって大事。獣医は人の健康と動物の健康を含めた仕事だからこの分野は重要だ」と騙されてこの道に入りました。それが45年前ですね。当時は、腸内細菌の研究は変人だとおもわれました。腸をやっているのは医者じゃないとまでいわれていたんです。

でも、21世紀はまさに腸の時代です。人の臓器の中で最も病気しやすい臓器が大腸です。大腸がん、大腸ポリープなど様々な疾患がありますが、なぜかというと腸内細菌がそこに住んでいる。さらには、腸内細菌は肥満や糖尿病、脳疾患、ぜんそくとも関係してきます。21世紀はまさに、この分野がどんどん開拓されています。

荻上 まずは、リスナーの方からこんなメールが来ています。

「腸内フローラって細菌の巣なのでしょうか。そもそも人間の体内には数多くの細菌が生息しているんでしょうが、その中でどのくらいの細菌が悪さをするんでしょうか。フローラって悪さをする細菌の巣なのでしょうか。」

辨野 基本的に、腸に住む微生物の集団を「腸内フローラ」といいます。1000種類以上の細菌が住んでいます。大腸内にいる最近の重さは1.5kgもあるんです。

荻上 細菌だけで?

辨野 そうです。さらに、胃腸、皮膚、咽喉、女性には膣内にも菌がいますから、男性で2kgの細菌、女性で2.5kgの細菌。ですから、本当の体重はこの菌を引いた値ともいえますね(笑)。子どもはお母さんから菌を受け継いで一生涯持ち続ける。いろんな影響を受けながら、腸内環境がどんどん変わっていきます。

荻上 「フローラ」という菌があるわけではないと。

辨野 集団のことを「フローラ」と読んでいます。腸内にはいろんな菌がいて、お花畑のようであると。

荻上 男性で2kg、大腸内で1.5kgということは、だいぶ大腸内に多いのですね。

辨野 そうです。大腸に多くの菌が集中しています。皮膚や口の中にも菌がいますが、それぞれの場所にいる菌は全部違います。

荻上 腸内細菌はどのような働きをしているのですか?

辨野 基本的にはいい働きをしていません。たとえば、無菌状態で動物を飼育すると、菌を持っている動物の1.5倍長生きします。我々の体内微生物は我々の寿命に大きく関係あるのです。

腸内にはいい働きをする20%の善玉菌、悪い働きをする10%の悪玉菌、70%の日和見菌があります。日和見菌は、わかっていない未知の菌です。腸内細菌の3割はわかっていますが、7割は謎です。実際、この世の中の微生物は100万種いるのですが、人類はまだ1%しかわかっていない。これから、いろんな微生物がわかってくる可能性があります。

荻上 こんなメールが来ています。

「善玉菌は増えすぎてもよくないのでしょうか。それとも善玉菌ならば増えすぎても問題ないのでしょうか。」

辨野 難しい質問ですね。悪玉菌だっている意味があります。善玉菌が暴走すれば悪玉菌や日和見菌が抑制することも考えられる。腸内環境のバランスをどのように持つのかが一番大事でしょうね。ですから、善玉菌が多すぎてもいけない。2対1対7のバランスをどう持つのかが大事です。このバランスが崩れると、免疫の破たんや病気の発症になります。

腸年齢チェックシート

辨野 大事なのは、毎日お通じがあるか。日本人の48%が便秘で、その65%は5日に1日しか便を出していない。便秘の一番ひどいのが女性の若い層です。20代は2人に1人が便秘。10代でも10人に3人が便秘です。しかし、無頓着な人が多く、病気じゃないとおもっている。太りやすくなったり、免疫力が低下したり、イライラするのは、腸内のバランスが悪くなっている。

特に女性の場合は生理があるので、どうしても便秘になってしまう。そういう状態が続くとますます悪化していく。自分の足で階段を3階分くらいは歩く。9000歩は歩くことで解決します。

荻上 自分は体質的に3日に1回だとおもっている人もいるとおもうんですが。

辨野 いらっしゃいますね。ですが、毎日便通はあった方がいい。一番大事なのは野菜です。ある学者がウガンダの黒人女性とイギリスの白人女性の食べたかすが何時間後にでるのかを検査しました。

ウガンダの黒人女性は18時間以内にでた。それは大量の芋を食べているから。イギリスの白人女性は肉類が多いので平均して72時間かかってしまう。ですから、食べ物によって、どれだけ体内に便があるのかが決まってきます。いいお通じがあるのは健康のパラメーターでしょうね。

荻上 「腸内環境が良いかどうかどのように判断すればいいのでしょうか。」

辨野 私は腸年齢チェックシートをつくっています。本当は腸内細菌を調べるのがベストなんですが、調べるのが大変だということで、チェックシートをつくりました。

荻上 今回は特別に10項目のチェックシートをつくってもらいました。リスナーのみなさんも自分が10個中いくつ当てはまるのか数えてみてください。

□野菜不足だと感じ肉が大好き

□朝食は食べないことが多い

□牛乳や乳製品が苦手

□お酒を沢山のむ

□運動不足が気になる

□ストレスをいつも感じる

□顔色が悪く老けてみられる

□排便後も便が残っている感じがする

□うんちやおならが臭いといわれる

□ころころしたうんちがでる

以上10項目です。

辨野 排便後も便が残っている感じがするというのは、運動不足なんですよ。出すときに出し切れていない。これはインナーマッスルが鍛えられていない。ころころした便がでるのはストレスです。ご自分が感じていなくても体のストレスを感じていますと。

荻上 たまにでますよ、あいつ。ころころしたやつ。

辨野 うんちとおならが臭いとき。特に女性の場合は、うんちを我慢してしまう。それが腸内環境をどんどん悪くしています。あと、食べ物は野菜ですね。肉を1として野菜は3。350g以上の野菜をとりましょうとおすすめしています。野菜の食べ方は旬のものをしっかりとる。熱を加えてかさを減らす。かさを減らすと、小鉢5皿くらいで350gの野菜が取れます。

荻上 ぼくは3つ当てはまりましたね。

辨野 3~5個以上の場合はもう崖っぷちです。人は歳をとると腸内環境も老化してきます。いわゆる老人制賽便といって細いひものようなうんちになっている。でも、いまの老人は野菜をすごく食べていて元気です。むしろ今の女性の方が腸内環境を悪くしている。

ですから、チェックが多くてもご自分のライフスタイルを改善する。野菜不足を感じれば野菜を一日でいいですから意識して。朝はバナナをたべて、昼は野菜サンドを食べて、夜はメカブを食べる。そういう感じで野菜を理解してもらえれば。

荻上 バナナも野菜に入るのですか。

辨野 そうです。

荻上 朝、パンからバナナに変えよう。野菜ジュースはどうですか。

辨野 ご自分で野菜ジュースをつくるのはいいかもしれませんが、市販のものは不溶性の食物繊維が少ないんですね。実は、私は50代になるまで野菜とヨーグルトを食べていませんでした。大嫌いだったんです。

荻上 え!研究していたのに。

辨野 いやぁ、野菜はね、虫が食べるものだとおもっていたし……。

荻上 すごい偏見だなぁ。

辨野 ヨーグルトは酸っぱくて食べ物じゃないとおもっていました。なのに、若いころからヨーグルトの効果の実験とかさせられてうんざりしていたんです。それで、体重が88kg、体脂肪率が30%以上、コレステロールもすごいことになった。悪玉菌も増えてきた。友人に聞くと、「君が嫌いなもの食べればいいんだよ」といわれました。

泣く泣く50gのヨーグルトを食べるところからはじめて、2年後には毎日500gのヨーグルトを食べるようになっています。市販の大きなパックのヨーグルトをよく振ってそのままのんでいました。

一番よかったのは、2年後に体重を72kgに下げたのと、花粉症が軽減しました。ぼくはひどい花粉症患者だったんです。ぼくは北海道にいたのですが、北海道は花粉がないので、東京にきてから、23歳で発症して50歳まで花粉症で悩んでいました。ヨーグルトを食べて2年後に「治った」とはいいませんが軽減したんです。やはり食べ物と生活を気をつけるだけで大きく変わる。講演会にいっても、その話ができるので体験してみてよかったです。

ヨーグルトの力

荻上 よく、乳酸菌は胃で止まって腸には届かないと聞くのですが。

辨野 最近のものは、腸まで達します。特にトクホマークがついている商品は大腸に達しなきゃいけないと決まっています。

荻上 腸内フローラの状況をみるには、便をみるのがいいのでしょうか。

辨野 そうですね。トイレに行って気持ちよく出す。よくみなさん、大便というと食べ物のカスだとおもっていますが、そんなことはありません。じつは成分の80パーセントは水です。残りの20%の3分の1は確かに食べかすです。残りの3分の2は生きた腸内細菌とはがれた腸の粘膜で大便が出来上がっている。

気持ちよく、ストーンとでるうんちは、水が80%ほど含まれています。あんまり臭くありません。色もできれば、黄褐色がいいでしょう。ヨーグルトを一日300ml以上とると必ず黄褐色になります。野菜をベースにした食生活をすると良い便がでます。そして、一日300g以上の便を出す。

どうやってわかるのかというと、体重計をトイレの前に置きます。行く前と行く後にはかるとだいたい便の多さが見えますから、今日は◎、今日は△、×、と一週間記録してみれば、調子の良いときはその前日になにを食べたのか、知恵を働かせることができる。

荻上 ヨーグルトがどうしても苦手な人はどうしたらいいのでしょうか。

辨野 いまはサプリメントもありますから、それを利用してもいいかもしれません。

荻上 味噌などでもいいのですか?

辨野 味噌はどれくらい菌がいるかわかりません。ですが、ヨーグルトの場合は菌の数が決められています。それに税金優遇制度があるのでヨーグルトは安いんです。ましてや、トクホの場合は人がどう変わったのか検査しています。ですが、ほかの食品の場合は検査していませんから、ヨーグルトは優れた食品だとおもいます。

教えて、辨野先生

荻上 「お通じが毎日でるのは普通のことなんですか。ぼくはずっと不定期です。毎日でる時もあるんですが、でないときは3~4日開くこともあります。これはぼくの腸が変ということなんですか。」

辨野 非常に良い質問だとおもいます。毎日でる習慣をいかに身につけるのか。それがご自身の健康の第一歩だと考えてください。毎日でた時の食生活や運動、リラックス度を見極めてでないときの状態と比べてみてください。自分にとっての、毎日でるための条件はなにか、つかめるはずなんです。

荻上 「はじめてメールします。まさしく自分もおならが止まりません。ヨーグルトなどの消化の良いものを気にしていますが、朝からお腹が張っておならがすごいです。また、以前には午後から臭いの少ないおならが何回もでました。特別なものを食べた記憶がないのですが、全体の食生活が悪いのかとおもっていますが。」

辨野 おならが臭いときは、悪玉菌が有害物質を出しています。腸内ガスはそれほどにおいません。たとえば、サツマイモを食べるとおならがでるといいますが、確かに食物繊維を食べるとガスが良くでる菌がでてくる。これは健康な証です。ですが、臭いと便秘気味であったりお腹で悪玉菌が頑張っている。やはり食生活の改善や運動をしっかりするのが大事だとおもいます。

やはりヨーグルトよりも野菜をもう少しとっていただいて、ご自分でお腹は張るかもしれないけど、腸内環境が変わっていく時期だと理解した方がいんじゃないんでしょうか。

荻上 「45歳女性です。小学生のころからお腹がすきすぎるとガスでお腹がパンパンに張り、おなかが痛くなります。そのあとになにか食べてしばらくすると、おなかにたまったガスがおならになって体の外にでていき楽になります。この症状は今でもです。また、ここ2、3年はウサギの便のようなコロコロとした便しかでませんが、毎日、または2日に1回お通じがあります。その前はコロコロ便と下痢を繰り返していました。腸内フローラ-を増やせば改善の余地があるのでしょうか。」

辨野 まず、コロコロしたうんちの場合、ストレスが大きな要因です。実は私たちのおなかの中で腸内ガスは1L近く作られています。それはほとんど排便時にガスがでる。便秘気味ででない場合はたまっています。それは腸から吸収されて、臭くなって肺からでています。

この方の場合、鼓脹症の可能性があります。ガスがたまっていつもお腹が貼っている。この場合、我慢せずにおならをすることが大事だとおもいます。そういう意味で貯めずにいつも出すのが大事です。

荻上 便座の上に体育座りをするとよくでるなと感じるのですが。

辨野 そうですね。多くの人は便座に姿勢よく座ればでるとおもっていますが、ちょっと前かがみになってお腹を押さえながら出すとスムーズです。またお腹に「の」の字を書くのも効果的です。

荻上 ぼくはでないときに、ベットで膝を抱えながらゆりかごのように動きます。あれやるとでるんです。

辨野 素晴らしいですね。それは腸そのものを鍛えているとおもいます。

荻上 「私は以前から乳酸菌飲料、ヨーグルト、整腸剤などをのんだり食べたりしてきましたが、特に変わった印象はなかったとおもいます。それが数年前これらに比べてビール酵母をとりはじめて劇的に変わりました。まずどんな真夏でも食欲が落ちなくなりました。また便が粘土状だったのが褐色のバナナ状になりました。また、腸が免疫に関係していると聞きますが、あまり風邪をひかなくなったとおもいます。乳酸菌とビール酵母の関係は研究されているのでしょうか。」

辨野 ビール酵母に関してはかなり進んでいますが、ぼくは専門じゃないので答えづらいですね。乳酸菌やビフィズス菌にビール酵母を加えてもいいかもしれません。人それぞれ違うので、一概にはいえません。この方にとってみればビール酵母が身体にあっていたのでしょう。

荻上 この人にとってはこのままでいいということですね。

腸内フローラと健康

荻上 腸内フローラと免疫の関係について教えてください。

辨野 消化管には小腸と大腸があります。小腸は消化吸収する場、大腸は大便をつくる場。小腸と大腸を比べたら、腸内細菌が多いのは明らかに大腸です。免疫担当細胞の7割近くは小腸に集約されています。つまり、上から来た病原菌をいち早くキャッチするのは小腸なんです。消化吸収だけではなく、免疫もつかさどる大事な臓器です。

われわれの場合は、もともともっている免疫力もあるんですが、外部からの異物に対する免疫も小腸からつくられていく。

荻上 いい食生活をしていくと普段の免疫力に加えて、パワーアップすると。

辨野 おっしゃる通りです。ですから、腸内環境が悪いとどうしても疲れやすいとか、風邪をひいて治りにくい。免疫力の低下はがん細胞にも関係しています。我々の身体の中にいつもがん細胞はできていますが、それを排除する免疫担当細胞もある。これに正常な腸内細菌のバランスを持っていることが、免疫力をアップするために一番大事なことなのではないか。

たとえば、花粉症の患者さんを調べていると、免疫担当細胞が大きな作用をしていることもわかっていますし、腸内細菌にも大きな動きがある。花粉症患者の腸内細菌が季節ごとに変わっていることも知られています。また、アレルギーをもっている妊娠したお母さんに乳酸菌を与えたところ、産まれる子どものアトピー症状が軽減しました。

荻上 腸内フローラの今のトレンドはなんですか。

辨野 腸内細菌が、肥満や糖尿病、自閉症、認知症、ぜんそくにも関係することがわかりました。また、切迫流産と通常分娩の妊婦では腸内細菌に差があるというデータもでています。いかに腸内細菌をコントロールするかが正常な日常生活をするうえで重要なポイントだと。

いま、私がやっているのは、健康管理を推進する応用研究です。4500人から大便をいただき、生活習慣のアンケートをとりながら、統計的に微生物と生活習慣がどう結び付いているのかを解き明かそうとしています。いま、だいたい8つのパターンに分かれることがわかってきました。「あなたはこの菌が増えているので、しっかり運動してください、野菜を食べてください」といえるところまでは来ています。

40年間腸内研究をしてきて、基礎研究ももちろん大事なのですが、健康管理法も大事であると考えました。メカニズムを調べる一方で、人のあり方を変えていくような仕事も大事です。「あなたは20代ですが、腸内細菌はおじいちゃんです」と診断されて、本人が運動を増やしたり野菜を食べたりして、腸内細菌を整えていく。腸内細菌から自分の健康意識を変えていく手助けになれば。

いま、国民医療費が40兆円超えています。あと10年すると70兆円、80兆円になってしまう。病気でなくなっていくのか、健康長寿を全うするのか。そのために腸内環境をコントロールすることが大事なのです。

誰でも検査を受けられる環境に

荻上 これからどのような研究をしたいですか。

辨野 いま、腸内環境の検査は特殊検査で、2万円から3万円の費用がかかります。もっと簡単でわかりやすい、2000円から3000円ほどで誰でも検査を受けられる環境をつくりたい。

また、検査する機関もいまはバラバラです。統一した基準をつかって、正確な国民のデータをお伝えする。どういうかたちの研究をすればいいのか、医療関係者と手を組んでやっていきたいとおもっています。

荻上 ぼくはすぐ疑心暗鬼になる人間で、大ブームが起きたら、「腸内フローラ詐欺」がでてこないか心配で。再生医療がでたときも、そんな動きになりましたよね。これから、私たちが「腸内フローラ」の情報を得るときに、どのようなことに気をつければいいですか?

辨野 いま、肛門に正常な人の大便を入れる「大便移植」の試験研究が始まっています。移植じゃなくて、本当は投与ですけどね。これから効果があるのか検証がされます予定です。有用な微生物を10種類組んだものなどをつくって投与するなど、新しい医療の方法が確立されてくる。いま、抗生物質にも限界があるといわれています。微生物をうまく利用した展開の新しい治療、健康なあり方を加味していかないといけませんね。

荻上 そのガイドラインが欲しいですよね。一般の人からすると、有用なのか、でたらめなのか区別がつきにくい。

辨野 エビデンスのしっかりしたものを出していくことが大事でしょうね。

荻上 「今現在、私は大阪に住んでいるのですが、自分の腸内フローラを調べられる施設って全国にどれくらいあるのでしょうか。保険とかきくんですが?気になります」

辨野 まず保険はききません。いま、4か所から5か所ほどの場所で検査の取り組みがはじまろうとしていますが、実際に動いているのは2か所です。でたデータの解釈、解析の方法がバラバラなので、どこに検査出しても同じ結果がでる形に持っていきたいとぼくは考えています。

荻上 国内のそうした調査環境づくりが必要なわけですよね。また、こんなメールも来ています。

「最近はのむタイプのヨーグルトでインフルエンザを予防するとうたっている商品がありますが、インフルエンザウイルスを退治することとどのように関連するのか理解できなくてモヤモヤしております。ご教授いただければとおもいます」

辨野 ヨーグルトでインフルエンザに効果があるとはいえません。これは薬事法違反です。ですから、たぶん、「インフルエンザを退治する」とははっきりいってはいないとおもいます。「リスクと戦う」みたいな表現をされている。ぼくらからみたら、ああ、なるほど巧みな表現だなぁとおもいます。こういった健康表示は難しいですね。

基本的に食品素材はトクホマークがついているものは国が認めていますが、ちょっと怪しいものもあるので、よくよく考えて食品をとってほしい。インフルエンザに効果があるといっても、学問上の最先端の話です。その食品で実際にみなさんに効果があるかは、食品メーカーはいえないということですね。

荻上 「腸内フローラについて研究が進んでいるようですが、とりあえずいま、これをやっておいて、食べておいて損はないことはありますでしょうか」

辨野 やはり、野菜をしっかりとる。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を2対3の割合でしっかりとること。ぼくは肉欲の辨野といわれるほど肉が大好きだったのですが、野菜をベースにした食生活を17年間続けています。私はヨーグルトにサツマイモを入れて食べていますね。サツマイモは水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を1対1.4の割合で入っている。

荻上 おならが気になる方もいるとおもうのですが、おなら、した方がいいんですよね。

辨野 おならはした方がいいとおもいますよ。

荻上 いろいろな研究もこれから進んでいくということで、注目していきたい分野ですね。ということで、今夜はスタジオに腸内細菌研究の第一人者、辨野さんを迎えてお送りしました。

Session-22banner

プロフィール

辨野義己微生物学

1948年、大阪府生まれ。国立研究開発法人 理化学研究所特別招聘研究員。主な著書に、『「腸内細菌」が寿命を決める!』(ぱる出版)『腸内細菌革命』(さくら舎)『免疫力は腸で決まる! 』(角川新書)など。

この執筆者の記事