2014.12.01

自然エネルギーの過去、現在、未来についての考察

エリック・マーティノー 北京工科大学エネルギー・環境政策研究所教授

社会 #自然エネルギー#Energy Democracy

私にとって2014年は、自然エネルギーの驚異的な成長の10年の終わりと、自然エネルギー開発の新たな段階のはじまりを象徴するものとなりました。この新しい段階は、過去10年とは著しく異なるものになります。そのため、私はこの分野での25年の経験をもとに、自然エネルギーの過去、現在、そして未来について考察する良い機会だろうと思いました。

このような視座をもつことの重要な理由のひとつは、現在の自然エネルギー市場、技術、そして政策状況は比較的新しく、また、急速に変化し続けるため、自然エネルギーの現在の状況と今後向かうであろう方向についての私たちの思考が現実とともに時代遅れになってしまうからです。多くの人々は、いまだに1995年もしくは2000年ごろの自然エネルギーについて考えています。しかし、それらの年代は自然エネルギーの「フロッピーディスク」時代を象徴するものです。私たちの思考は現実に追いつく必要があるのです。

現代の自然エネルギーの起源は、エイモリー・ロビンスによる1976年刊行「ソフトエネルギーパス」に見ることができるでしょう。1970年代後半から1980年代の間、特に米国における技術開発や電力市場政策に牽引され、自然エネルギー技術は一定程度の商業化とコスト削減を達成し、これは現代の自然エネルギー時代のはじまりを象徴するものとなりました。例えば、米国のPURPA法は、特にカリフォルニア州で、風力発電開発の大幅な急増につながりました。(世界の風力発電の90%がカリフォルニアに導入されていた時期のことを覚えている人はほとんどいないでしょう)

1992年〜2003年 商業化から主流化へ

自然エネルギーを商業化から「主流化(Mainstream)」の道筋にのせるため、1990年代に多くの政策が登場しました。米国の生産税額控除は1992年にはじまり、いくつかの州が自然エネルギー固定枠政策を制定しました。日本は太陽光発電の商業展開のため1993年に独自の「サンシャインプログラム」と補助金制度を開始しました。そして、1991年にドイツで電力の固定価格買取制度が世界初の固定価格買取制度として導入され、多くの国での自然エネルギーの支援政策への広がりのはじまりを表すものとなりました。1990年代を通じて、デンマーク、イタリア、インド、スペイン、スウェーデン、スイスなどを含む一部の国々でも固定価格買取制度が制定されました。(ドイツからはじまった固定価格買取制度は、2013年までに世界の80の国と19の州/地方を含む99件が立法されています。)

この期間中、中国や他の発展途上国では遠隔地での太陽光発電やバイオマス技術による自家発電市場が立ち上がっていましたが、依然として世界市場においては単なる脚注扱いに過ぎませんでした。

中国は事実上、系統に接続された太陽光発電市場はなく、主に二者間援助を通じて資金調達された多数の小規模なプロジェクトによる風力発電市場が存在するという状況でした。1990年代後半には、世界銀行や地球環境ファシリティが発展途上国における自然エネルギーの「市場開発」活動や投資プロジェクトに対する助成金や資本提供をはじめました。加えて、数多くの援助提供機関が、発展途上国での実証と商業化プロジェクトを実施しはじめました。インドは風力発電の主要な市場となり、農村部での系統非接続の太陽光発電への関心を高めていました。しかし中国、インド、南アフリカおよびその他の途上国での市場の発展は、まだ10年遅れている状況でした。

1990年代後半には、自然エネルギーのビジョンやシナリオがより頻繁に現れはじめました。石油会社のシェルは1999年に「持続的な成長」のシナリオを発表し、2050年までに世界のエネルギーの50%が自然エネルギーによって供給されるという内容は人々に衝撃を与えました。長い間、自然エネルギーに対する評価について保守的と考えられてきた国際エネルギー機関(IEA)は、2003年の報告書「2050年までのエネルギー:持続可能な未来のためのシナリオ」を発表し、自然エネルギーのシェア35%という「持続可能な開発」のシナリオを描きました。(2013年に達成した実際のシェアは19%でした。)

2003年には世界的な自然エネルギーへの投資が約250億ドルへに達し、1995年の約60億ドルと比較して4倍となっていました。(Martinot, Renewable Energy World 7(5), 2004)2003年には、世界の風力発電は40 GW、系統接続型太陽光発電は1.1 GWあり、1年間に導入された系統接続型太陽光発電設備は「信じられない」ことに365MW追加されました。(2003年の市場は、その後数年間におこる年率50〜60%の成長の始まりをあらわしていました。今日では、2003年1年間に導入されたものと同量の365MWが世界中で80時間毎に導入されています。)そして、世界の約40カ国は自然エネルギーを支援する政策を制定し、それらの中には市場拡大のさらなる後押しをはじめるものがありました。これらの政策は、急速な技術コスト削減、主流投資家による受容、先進国での商業市場拡大、そして、途上国での商業市場の出現へとつながりました。

2004年〜2013年 主流化から多数派へ

2004年〜2013年の間に、化石燃料と原子力と比較して、自然エネルギーは年間投資額と年間導入設備容量に関して「主流(Mainstream)」から「多数派(Majority)」となりました。

ドイツ政府は2004年に「ボン自然エネルギー国際会議2004」という 100カ国以上から3,000人の参加者や代表者が参加した大規模な会議を開催しました。これを自然エネルギーの高速成長期のはじまりと捉えることができます。2003年から2012年にかけ、自然エネルギーへの世界の年間投資額は250億ドルから2,500億ドルへと10倍に増加しました。そして、風力発電容量は40 GWから推定320 GWへと8倍に増加しました。(2013年の最終データは本稿執筆時点で保留)太陽光発電容量は45倍に増加し3 GWから推定140 GWに達しました。バイオマス(電力と熱)、太陽熱(熱利用)、地熱、水力にも大きな成長が見られました。コストは急激に低下し、特に太陽光発電技術における低下は著しいものでした。そして、自然エネルギーを支援する政策を持つ国の数は現在、2003年と比較して3倍の120カ国以上になり、その多くが途上国のものでした。(この節のほとんどの統計は過去と現在のREN21「自然エネルギー世界白書」 からの引用)

2004年から2013年の間に、特にヨーロッパおよび米国の主要金融機関によるビジネスとしての自然エネルギーの受容は大幅に拡大しました。リスクは十分に理解され、プロジェクト·ファイナンスが通常のものとなりました。電力会社自身もバランスシート上で自然エネルギー事業への資金投下を大幅に増やしました。2012年には世界の自然エネルギーへの年間投資額は化石燃料や原子力発電資産の年間投資額を超えていました。

2011年と2012年の両方で、世界的に追加された自然エネルギー電力設備容量は化石燃料や原子力の発電設備容量に等しかったのです。そして、これは2013年の最初の10ヶ月間、中国でもそうでした。一方、欧州では、自然エネルギーは2012年に追加された設備容量の70%が自然エネルギーとなり「多数派(Majority)」となっていました。2012年には、世界の自然エネルギーによる発電量は 原子力発電の2倍程度のレベルに達しました。(BP Statistical Review 2013)ちなみに中国では、2012年に風力発電が原子力発電と同等の発電量を生み出しました。これらの重要な出来事は、近年の現実の転換点をあらわしています。

この期間中、中国とインドは自然エネルギーの主要な市場となりました。中国は、2005年に固定価格買取制度を含む自然エネルギー支援政策を立法しました。(私は当時北京に住んでいたため、この法律がいかに重要な役割を果たしたのかを覚えています)法の施行は2006年に開始され、その後の成長はご承知の通りです。2012年までに、中国は風力発電事業や太陽光パネル製造など、自然エネルギー投資の世界的リーダーとなっていました。2003年から2009年まで、中国の総風力発電設備容量は文字通り毎年倍増し350 MW(2003年)から750MW、1.5 GW 、3 GW 、6 GW 、12 GW そして25 GW(2009年)と成長しました。その後、国内の系統接続型太陽光発電設備容量も同様に2010年から2013年にかけて1 GW(2010年)、3 GW 、7 GW から15 GWと発展していったのです(2013年は推定)

中国以外にも、途上国は2004年から2013年の10年間自然エネルギーの強力なリーダーとして浮上した。これは、農村地域での系統費接続型事業と都市部の系統接続事業の両方にみられました。2013年までに138の国が自然エネルギーに関する導入量もしくは導入割合の政策目標を設定しており、それらの大半は発展途上国であった。近年、農村部での系統非接続型「住宅用太陽光発電システム」の利用は1,000万件以上を記録し、農村バイオガスシステムも数千万件が導入されています。(その他多くの農村部の注目すべき開発については「自然エネルギー世界白書」第5章を参照)

2005年は、私が最初のREN21「自然エネルギー世界白書」を書きはじめた年でした。当時はまだ市場、政策、投資の世界的な概要を提供する他の出版物はありませんでした。そして、自然エネルギー世界白書はその後数年にわたり世界的な数値やトレンドに関する1次データの役割を果たしたのです。自然エネルギーが以前と変わってきていることをすべての世代が意識し、「全体像」を理解した上で取り組むことができるように自然エネルギー世界白書を役立てよう、と私は考えていました。

2000年代半ばには、他にもいくつかの重要な出版物が定期的な発行をはじめており、国際エネルギー機関の「エネルギー技術展望(初版2006年)」や、グリーンピースと欧州自然エネルギー協議会による「エネルギー革命シナリオ(初版2007年)」などがあります。この時期に自然エネルギー市場が力強く成長し続けたように、自然エネルギーの将来についての理解と展望もシフトしました。多くのシナリオで、長期的な自然エネルギーの割合は30〜50%と描かれ、なかには50〜80%を描くものもありました。(その他のシナリオや詳細については、REN21「世界自然エネルギー未来白書」第1章を参照、また近年のシナリオ50件については参考資料2を参照)【次ページへつづく】

2014年〜2025年 多数派から優勢へ

私は、自然エネルギーが今後数十年間で確実に成長し続けることは明らかだと考えています。それはREN21「世界自然エネルギー未来白書」の執筆に費やした2年間が私に確信させました。( 詳細は同書の「エピローグ:個人としての考え」参照)自然エネルギーはもはや経済や技術の問題ではなく、金融、ビジネスモデル、新たな政策や電力部門の規制、そして建物、輸送、電力網などの複合的な課題をどのように統合して解決していくかという問題なのです。(同書の第2章「統合」参照)

新たな転換の徴候は至る所で確認する事ができます。例えば、2013年8月のファイナンシャル·タイムズにはシティグループのスポークスマンが次のように述べています。

「我々は現在、補助金によってではなく、冷徹で堅固な経済システムによって需要が駆動されるような時期に突入しており、これは大きな転換である」(8月8日、「Renewables: A rising power」)

これは、年金基金や保険基金といった新たな資金供給源が現れつつあることを裏付けています。(「世界自然エネルギー未来白書」第3章参照)また、これは過去10年間の市場成長の主な原動力となった補助金や固定価格買取制度といったコストに対する支援政策が、今後10年間においては必ずしも主な原動力となるわけではないことも示しています。今後はさらに多くの自然エネルギー事業は補助金なしで収益をあげることができるようになるでしょう。(「世界自然エネルギー未来白書」第6章参照)しかし、それは政策支援が不要になるという意味ではありません – ただその形式を変えていかなければならないということです。

今後数年間で、私たちは全く新しい世代の自然エネルギー支援政策を見ることになるでしょう。私はこれらを 「自然エネルギー統合政策」と名付けたいと思います。これには、集中/分散型供給と柔軟な需要調整方法(デマンドレスポンスや蓄電を含む)を組み合わせ、公正かつ効率的な基盤を提供するための電力市場や規制を再構築する政策が含まれています。つまり、電力市場で新たに生まれつつある明確な特徴は、需要と供給の両面で「柔軟性」に非常に大きな市場価値がおかれるということです。そして、市場構造と規制は、P2Pや地域規模のエネルギーサービス事業が、新たに生まれつつある機会から収益をあげることができるような新たなビジネスモデルの競争市場を作っていかねばなりません。(「規制」という言葉にうんざりしている人々へ、電力には自由市場は存在しません。全ての電力市場は、経済性、勝者/敗者、また発電コストそのものさえも規定する基礎的なルールや系統運営の実践に影響を受けているのです。)

実際に、高価な蓄電設備がなければ風力や太陽光の変動に対処できないという俗説が常にあります 。これは真実ではありません。自然エネルギー電力の割合が高くなることで照明が消えるわけではありません。蓄電池を利用することなく、より安価ですでに活用されている多数の選択肢が世界中にあり、それらを利用することで変動する自然エネルギーを電力系統上でバランスすることができるのです。(「世界自然エネルギー未来白書」第2章参照)

もっとも良い例は、2013年の昼間ピークの電力需要の60%を太陽光発電や風力発電で供給したドイツです。2013年10月のグリーンテックメディアの記事では次のように述べられています。

「ベルナルド・シャボー氏の分析によると、今月初め、ドイツではピーク時で電力の59.1%を風力と太陽光発電で供給している … それは非常に風の強い晴れた10月3日の正午でした … また、ピーク時61%という記録もあり、さらに今年初めに59% … その日全体では太陽光と風力で発電量の36.4%を占め、特に太陽光発電に関しては11.2%を供給しています。」(Eric Wesoff、 2013年10月30日)

スペインとデンマークも電力系統上で日常的に自然エネルギーの割合を高く維持し、照明が消えることもなく対処できている国の例としてあげることができます。

「自然エネルギー統合政策」は、自然エネルギーを建築物へ統合させる政策も意味しており、新たな自然エネルギー統合型建材を使った建築や建設、冷暖房需要を最少に抑えることができる低エネルギー建築物やゼロエネルギー建築物の設計の実践と学習を促進します。また、統合政策は地域の充電インフラの拡充や(柔軟な需要調整方法としての)自然エネルギー電力と電気自動車の統合といった電気自動車支援政策にもおよびます。

私たちはすでに国、州/地方、地域レベルで電力系統、建物、輸送のための統合政策や市場枠組みの多くの例を見ています。私は、今後数年間でこれらの動向をとらえ、文書化したいと考えています。

未来について、私は4つのことを懸念しています。まず、喫緊の懸念は2008年以降消え去ることがなく、世界的に進行中の金融危機です。 私たちは根本的に問題を解決せず、問題点を後回しにしています。近いうちに自然エネルギーは金融市場の混乱による影響を受け、金利上昇によるマイナスの影響を被る可能性があります。一方、今日その他の数多くの既存のペーパー資産と比較して、自然エネルギーには「保証されたリターン」と「インフレ耐応」という特性があることから、年金基金はますます自然エネルギーに投資しています。私は、自然エネルギーへの投資がリスク軽減とインフレヘッジ手段として幅広く保有されるようになってゆくと強く信じています。(「世界自然エネルギー未来白書」第3章「投資」参照)

2つ目の懸念は、既存の主要なエネルギー企業が自然エネルギーの系統への圧倒的な流入にどのように反応するかという問題です。これは、世界自然エネルギー未来白書「重要な論争6」で「電力事業者は先導するか、追随するか、先送りするか、消滅するか?」と述べたものです。その議論は次のようにはじまります。

「自然エネルギーの増加により、多くの既存のエネルギー企業のビジネスモデルや収益源は、脅威もしくはストレスにさらされている。それらの企業は市場シェア、収入を失い、活動を継続するのに必要な利益さえも失うことになると、多くの専門家が考えている。将来の自然エネルギー開発は、既存の電力会社(「既得権益」と呼ばれることもある)がどのようにそのストレスに応答するかにかかっている」

そして、自然エネルギーによる既存のエネルギー企業の収益への脅威がこれまでのように_ごく小さなものに留まらず、本格化しはじめるにつれて、彼らが押し返す事例も多く見られるようになりました。実際に私は、脅威と認識された自然エネルギーに対するバックラッシュがより増えている状況を追跡しています。この「押し返し」はますます頻繁に報告されはじめています。最近、Oilprice.com では「電力会社にとってクリーンエネルギーは「完璧な嵐」となる」という記事で次のように述べられています。

「UBSの新しいレポートには、自然エネルギーや蓄電技術が大電力会社には「完璧な嵐」として現れている。太陽光発電やエネルギーの効率化、電気自動車などのコスト低下が集中型発電をひっくり返すように脅かし、既存のエネルギー事業を危険にさらしている」(Nick Cunningham、2013年12月22日)

しかし、大手の「既存事業者」の市場シェアと収益性が失われるということ、また、彼らの「行き詰まった資産」をどのようにあつかうのかという本当の議論を隠すため、自然エネルギーの問題点を指摘する他の議論が進められています。(例えば「系統の安定性」など)

一方で、いくつかの電力会社はこの動きを牽引しているか、もしくは適応しています。最近の Greentech Media の記事では「脅威の下で、ドイツ第2位の電力会社は新しい「プロシューマービジネスモデル」を作成すると発表」とあります。また、RWEは「私たちは、自然エネルギー事業を可能にし、運営し、システムを統合する者として私たち自身を位置づけていきます」とあり、記事は次のように述べています。

「私たちは電力産業で史上最も劇的な変化を目の当たりにするかもしれない… 押し寄せる分散型自然エネルギーの波と収益の大幅な下落により、欧州最大の電力会社のひとつであるRWEは伝統的な電力供給者から自然エネルギーサービス提供者へと完全に遷移を予定している… 電力会社の新しい理念は:適応するか — もしくは衰え無くなるかのどちらか、である。」(Stephen Lacey、2013年10月23日)

将来への3つ目の懸念は、主要メディアが自然エネルギーと気候変動をしっかりと関連づけて取り上げ続けていることです。これによって「気候懐疑派」も自然エネルギーに反対することになってしまいます。一般の人々の認識の中で自然エネルギーが気候変動と完全にリンクされたままである限り、「気候変動は起きていない」または「深刻な問題ではない」という意見は「自然エネルギーは必要ない」という意味を含んでしまいます。私は近年、マスコミが行う「自然エネルギーバッシング」の多くは、主に「気候変動バッシング」というますます加熱された政治的な議論の間接的な形であると考えはじめています。今後、メディアによる自然エネルギーと気候変動の「分離(decoupling)」を期待しています。自然エネルギー導入にはいくつかの明確かつ重要な理由があり、そのひとつである気候変動の脅威を仮に完全に取り除いたとしても、他の理由はまだほとんど認識されていないままなのです。(「世界自然エネルギー未来白書」前書き参照)

そして、私の4つ目の懸念は原子力産業の世界的な復活である。自然エネルギー、エネルギー効率化、および原子力発電は、二酸化炭素排出量を削減するための3つの主要な選択肢です。(ガスへの燃料変換、実証されていない二酸化炭素回収貯留も選択肢に含まれるという議論もありますが )炭素排出量を削減するための政治的圧力が増加し続けるほど、原子力産業はますます炭素中立な解決策として自らを位置づけるようになり、「自然エネルギーが必要である」という認識を弱めるのです。しかし、自然エネルギーは原子力発電と同等の信頼性とサービスをより安価に提供できるという十分な証拠が存在します。私には、核廃棄物と汚染負荷の倫理的な問題を未来世代に残していることは、なによりも大きな問題であると感じられます。10,000年もかかる試験を行うこともなく、必要とされる数万年の間、廃棄物を安全に環境から分離できるという技術者の主張は傲慢であると感じます。(技術者とは試行錯誤によって設計を行うものであり、多くの場合、1度目は失敗します。例えば、1969年の月面着陸の成功には7回の設計と試験の反復を必要としました)もちろん、事故や核物質の拡散の脅威も現実の問題です。

一方で、懸念していないのは安価なガス、特にシェールガスです。多くの人がシェールガスはどのように自然エネルギーに影響するのかと私に尋ねますが、長期的には、ガスと自然エネルギーはどちらも集中型電力網を補完する分散型解決策として中立的な協力関係にあると私は考えています。電力と熱、もしかしたら輸送についても、ガスと自然エネルギーのサービスを組み合わせた新しいビジネスモデルが同じ会社の中で現れることになるでしょう。そのため、安価なガスは長期的に自然エネルギーを助けることができるのです。短期的には、競争圧力が生じるでしょうが、すぐに相補性が常識になると確信しています。

今後数年間は困難に直面するでしょうが、私は楽観的なままです。なぜならトレンド、要請、および利益は、明らかに自然エネルギーが大勢を占める未来に向かっているからです。多くのトレンドや要請がある中で、多くの道が開かれています。私は世界自然エネルギー未来白書の要旨に書いたように、「自然エネルギーの将来は基本的に選択の問題であり、技術や経済の動向予測であらかじめ定められた結果ではない」のです。私たち次第なのです。

元記事:Renewable Energy Futures to 2050, ”Reflections on Renewable Energy Past, Present, Future”(2014年2月26日掲載)著者許諾のもとISEPによる翻訳

オリジナル掲載:Energy Democracy, 自然エネルギーの過去、現在、未来についての考察(2014年11月28日掲載)

プロフィール

エリック・マーティノー北京工科大学エネルギー・環境政策研究所教授

北京工科大学エネルギー・環境政策研究所教授。再生可能エネルギーの研究において、国際的に知られる専門家、著者、教員。21世紀のための再生可能エネルギー政策ネットワーク(REN21)発行の世界自然エネルギー未来白書の2013年度版レポートの著者であり、2010年まで世界自然エネルギー白書の主執筆者を務める。現在、東京を拠点とする環境エネルギー政策研究所のシニアリサーチフェロー、ニュージーランド・ヴィクトリア大学ウェリントンにて客員教授。

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