相次ぐ犬の大量遺棄事件――なぜ捨てられるのか? ペット流通の闇に迫る

2014年、相次ぐ犬の大量遺棄事件が問題になった。事件の裏側にある、ペット流通の姿とは。TBSラジオ・Session-22「各地で相次ぐ犬の大量遺棄事件。なぜ捨てられるのか?ペット流通の闇に迫る」より抄録。(構成/伊藤一仁)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

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大量生産

 

荻上 今夜のゲストをご紹介します。『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日文庫)の著者で朝日新聞社メディアラボ主査の太田匡彦(おおたまさひこ)さんをお迎えしました。宜しくお願い致します。

 

太田 太田ですよろしくお願いします。

 

荻上 今回の事件を考える前に、ペットの流通について伺いたいと思います。そもそも、ペットがお客さんに買われるまでの、流通システムはどのようなものなのでしょうか。

 

太田 今の日本のペットの流通システムは生きている犬、生体を小売業という業態で販売するビジネスモデルを頂点に成り立っています。

 

小売店、つまり食品スーパーとかホームセンターなどと同じ業態で生き物を売るわけですから、その先には大量消費という世界が広がっています。そして大量消費の裏側には、大量生産がある。その大量生産・大量消費をもとに成り立つ生体小売業を中心としたビジネスモデルが、日本にはあります。そのために生まれたのが「パピーミル」と呼ばれるような子犬繁殖工場です。ここで大量生産を行っています

 

荻上 大量生産・大量消費があるという事は、賞味期限があるお弁当等のように大量廃棄もあるわけですよね。ペットは赤ちゃんの頃は売れるけれども年を取ると売れなくなってしまう。だから、そこには「処分」が発生してしまうと。

 

太田 仰る通りです。そもそも生産された商品を100%売り切ることができる小売業は、常識的に考えてありえません。どうしても不良在庫、売れ残りが出てきますよね。そうやって売れなかった子犬を、この業界ではずっと捨て続けてきたのです。

 

加えて申し上げると、大量生産している現場である工場には当然、生産するための「設備」が必要です。この場合の「設備」は、繁殖するための雄犬と雌犬なんですね。どんな商品を製造する工場だって、設備が古くなれば新しいものに取り換えます。犬という商品の工場の場合は、雌犬も雄犬も繁殖のために使えなくなったら捨てられてしまう。そうした構造が、生体小売業を中心としたビジネスモデルの背景にはあると言えます。

 

荻上 そもそもペットショップに来る前、繁殖の段階から遺棄は存在しているというわけですね。その手段が不法であるかないかの違いがある。

 

太田 昨年施行された改正動物愛護法において、犬の引き取り業務を行っている都道府県や政令指定都市などの全国の自治体は、犬猫などを販売している業者が犬猫を捨てに来た場合、引き取りを拒否できるようになりました。実はそれ以前は、自治体には業者からであろうとも引き取る義務がありましたので、業者は最寄りの自治体に捨てに行けば良かったんですね。

 

ただ、動物愛護法は改正されたのですが、ビジネスモデル自体はまったく変わっていません。設備の更新は相変わらず必要だし不良在庫の処分も必要なまま。でも自治体は引き取ってくれなくなった。じゃあ、じゃあどこに行くか、というわけで今回いくつもの「事件」として顕在化したと言えます。

 

荻上 つまり受け取れなかった「在庫」を、そこらへんに不法投棄したという格好になりますね。

 

太田 改正動愛法では業者に終生飼養も義務付けていますから本来はやってはいけない事ですけれども、どうしてもやってしまう業者が出てくるんです。

 

 

「処分」とはなにか

 

荻上 ここでリスナーの方からの質問を読みたいと思います。

 

『一般的にペットショップで売れ残ってしまった犬はどうなるんでしょうか。ショップの店頭にいる子犬が全部売れているとは思えません。成長するにつれて値段を下げて売りに出しているようですが、それでも売れない場合はその犬はどうなるんでしょうか。』

 

荻上 「処分」という単語が先ほどから出ていますよね。「処分」とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。

 

太田 ご質問にある通り、生体を小売りしているいわゆるペットショップのほとんどが、絶対に売り切ることはできません。ですから、従業員さんが引き取って育てているというようなペットショップチェーンもあります。

 

メールにもあるように、確かに値段を下げればもしかしたら売れるかもしれません。実際に、店頭で展示しながらどんどん値下げしているペットショップもあります。ですが、2万円でしか売れない犬と20万円で売れる犬が占めるスペースって一緒ですよね。2万円になってしまった犬は成長しているということだから、もしかしたらより大きなスペースが必要かもしれません。2万円の犬を置いておくよりも20万円の犬を置いておく方がビジネスとしては儲かる。

 

そうなると、売れなくなったらやっぱり捨てられると。動物愛護法が改正される以前は、業者は、売れなくなった犬を各自治体が運営する保健所や動物愛護センターなどに捨てていました。私が取材した大手ペットショップチェーンの中では、例えば生後6ヶ月のビーグルを殺して捨てていましたし、ほかにも売れなかった子犬をまとめて保健所に持っていく事例もありました。

 

荻上 棚を占有する分、ビジネスチャンスを失うことになると判断されるわけですね。改正される前は、保健所や愛護センターに持っていくということですが、行った先でその犬たちはどういう道を辿るのでしょうか。

 

太田 基本的には殺処分、殺されてしまう。もちろん動物愛護団体さんなどが努力されて譲渡、里親さん探しされるケースもありますし、自治体そのものが里親を見つける事もあります。ですが、私が取材を始めた7、8年前ごろは自治体が引き取った7割以上は殺処分してました。この1、2年は改善されてきましたが、それでも5割以上が殺処分されています。

 

荻上 逆に言えば2、3頭に1頭は誰かに飼われていると。

 

太田 動物愛護団体さんによる譲渡活動が一般化するに従って、新たな飼い主を見つけて命が救われるという事も徐々にですが増えてきてはいます。

 

荻上 『犬を飼いたいと思ったらペットショップではなく保健所や保護団体からもらうという選択肢がある事も多くの人に知ってほしいです』とあるのですが、殺処分の件数は把握されているんでしょうか。

 

太田 自治体で殺処分の件数は把握しています。2012年度ですと犬は、負傷犬も含めて39359頭でした。私が取材を始めた頃は、8万頭くらいでしたし、もっと遡れば10万、さらに遡れば20~30万、100万という時代もあった事を考えれば、減っていると言えるでしょう。

 

ただ問題は、行政で殺処分されている数がこのくらいだ、という事です。先ほど申し上げたように業者が闇で葬っている数については把握されていません。不幸な犬が減ったとは言えないんです。

 

荻上 実際はどうなんでしょうか。動物愛護法が変わった事によって、業者が自治体に渡さず自分たちで処分するというインセンティブが高まるというのは分かるんですけれども、この間減り続けてきたというのは努力が実ったという面もあるんですか。

 

太田 動物愛護団体さんへの譲渡を各自治体がどんどん取り入れるようになりました。それ以前は動物愛護団体のような組織に対しての譲渡をほとんど行っていなかったんです。

 

「団体譲渡」と言うのですが、こういう形態が普及すると、団体は組織的に里親探しをされるわけですから、その分飛躍的に譲渡率が上がっていくんです。

 

その結果として殺処分される数も減っています。ただ皆さんすごく頑張っていらっしゃって、中にはお一人で2匹、3匹と大きな犬を飼われている方もいます。ですから、そこだけに頼っていくのはそろそろ限界ではないかと私は思っています。

 

 

ペットオークション

 

荻上 ペットショップに来る動物は、どういった形で生まれ、どのような過程を経てペットショップまで来るのでしょうか。

 

太田 ペットショップはまず大量に仕入れる必要があります。大きいチェーンだと50店舗、なかには100店舗近くを全国に展開していて、年間何万頭という子犬が必要になってくる。

 

そういったペットショップの仕入先が、「ペットオークション」と言われる犬猫の競り市です。全国に約20ほどあります。

 

そこで競りをしながら子犬を仕入れてきます。大体一つのオークションで一日に300~1000匹の子犬が競られますので、私の推定で年間35万匹くらいはオークション経由で流通していると思われます。

 

そんなボリュームの競り市を開くことができる背景にあるのが子犬繁殖工場で、そこでは雌犬は一生ケージから出られないような状況で繁殖をさせられています。ケージの下部はだいたい金網になっています。うんちおしっこでケージないが汚れないようにするためです。金網の更にその下にトレイを敷いておいて、すぐに引き出せるようにしているんですね。つまりパピーミルで繁殖に使われる雌犬は一生金網の中、金網の上で暮らす事になっています。

 

これが約30年前から成立してきたビジネスモデルの全体像です。つまりペットショップで大量に売るようになった結果、効率よく仕入れるための競り市が出来、その先に子犬繁殖工場ができたんです。

 

荻上 雌犬たちは、「子犬を生み続ける機械」のような扱いをされるのですね。生めなくなった犬は処分されてしまうのでしょうか。

 

太田 そうですね。犬の引取申請書というのがあります。犬を自治体に捨てる時、その犬の所有者は自治体宛てに何匹どういう犬を、どういう理由で捨てるのか書かないといけないんです。その書類を以前情報公開請求で取った事があるのですが、7~8歳くらいの純血種の雌犬をまとめて捨てている業者さんはたくさんいました。例えば7、8歳の柴犬の雌ばかりを5~6匹……のように書いてあるんですね。繁殖出来なくなった子たちをそうやって処分するのは、もう延々行われてきた事です。

 

荻上 しかも今まではその殺処分を自治体の保健所などに任せていたと。

 

太田 敢えて言えば税金を使って業者の尻拭いをしていたという状況ですね。

 

荻上 先ほど競りの場があるとお聞きしたんですけど、その競りの場でも競り落とされないような種類や犬もいるわけですよね。

 

太田 そうですね。繁殖業者は、繁殖が終わった犬の処分と売れ残った犬の処分の両方をやっています。もちろんまともな、優良な業者さんもいるんですよ、たくさん。僕は「ブリーダー」という単語と「繁殖屋」という単語は使い分けた方がいいと思ってるんです。

 

ブリーダーさんというのはその種を愛してその種の血統を残していこうという、その種の専門家なわけですよね。そういうブリーダーさんは繁殖が終わった子も大事に自分の手元で育てたりしています。

 

売れ残った子犬についてもきちんと自分の所で面倒を見ています。そういう優良なブリーダーさんはたくさんいます。ただ、そういうブリーダーさんたちは今まで申し上げてきたような生体小売業を頂点として形作られたビジネスモデルの外側にいます。

 

荻上 ペットショップがリーダーの方から買う事はあるんですか。

 

太田 ブリーダーさんと取引するのは非常に大変です。ブリーダーさんは全国に散らばっているのと、大量生産をしているわけじゃないので月に数匹生まれるかどうか……みたいな話なわけですよ。

 

そういうブリーダーさんたちと個別に取引しながら何万頭とばらばらの犬種を店頭にラインナップするのは、すごい大変なんですね。だからブリーダーさんと直接取引だけでやっている大手のペットショップは、私が知っている限り1、2社だけです。他は皆さん競り市で仕入れています。

 

競り市を取材していると、本当にそういう大手ペットショップチェーンのバイヤーさんがたくさん来ていることがわかります。大手のバイヤーが、どんどんと子犬を競り落とし、次々と自分たちの目の前に積んでいくんです。生き物というより、まさに段ボール詰めされたモノを積んでいくように。基本的には、そういう形で仕入れています。

 

荻上 そのブリーダーさんから買う大手の会社は、どういった理由でそうした買い付けをしているのでしょうか。

 

太田 そのチェーンの経営陣にしてみれば、やっぱり業界を正常化したいというのがあり、さらには彼らからは、オークションで競られた犬を消費者に売る事の申し訳無さも感じます。やっぱり自分たちが見定めたブリーダーから直接仕入れた子犬たちを販売したいと、そういう思いですよね。

 

この業界も悪い人たちばかりではないので、真面目に取り組んでいる業者さんももちろんいるわけです。

 

 

運命を感じちゃう!?

 

荻上 太田さんから見て他にペット流通全体でどのような問題点があると感じられますか。

 

太田 生体小売業を営んでいると、子犬の「賞味期限」のようなものがどうしても生じてきます。だから業者はとにかく「早く売りたい」「在庫の回転率を良くしたい」と考えます。そのために結果として、消費者に衝動買いをさせます。

 

ペットショップに行かれた方だったらご経験あると思うんですけれども、ショーウィンドウの中を覗いていると「だっこしませんか」って店員さんが声を掛けてきますよね。「だっこさせたら勝ち」というのがペットショップ業界の格言みたいなものなんです。要するに、消費者がペットショップに行くと、ちっちゃくて、もこもこした子犬を手の上、膝の上にだっこさせてもらえる。すると、子犬は温もりがあってぷるぷる震えてたりする。冷静な判断力は、それで奪われる。そんな時に子犬と目が合ったりしたら、もう運命を感じちゃったりするわけですね。

 

荻上 この子だ、と。

 

太田 店員さんも「一緒にお家に帰りたがってるみたい」とか言っちゃうわけですよ。つまり、よく考える前に衝動買いさせようとするんです。その結果が、安易な遺棄に繋がります。年を取って動けなくなったからとか怪我をしたからとか吠えてうるさいとか噛むとか、犬だから当然じゃないですか、あらゆる事が。ペットショップが消費者に衝動買いをさせることで、そんな理由で安易に捨ててしまう飼い主さんを生み出しているんです。

 

荻上 つまり飼う側のハードルを下げる事によって、そもそも飼わなかったような人たちも当然大量に飼い主になる。そうすると無責任な飼い主も割合的には増えてしまうという事ですよね。こんなメールも来ています。

 

『キャバ嬢やってます。以前同僚が「お客さんから子猫をプレゼントされたんだけど面倒見切れないから捨てちゃった」と笑顔で話しているのを見ました。あれ以来、繁華街で営業しているペットショップを見ると、あのペットたちはどうなっちゃうんだろうと心配になります。』

 

荻上 以前の法改正の時には、深夜販売をどうするのか、販売する店舗の光の話が議論になっていましたよね。

 

太田 20時以降の展示販売は禁止されました。だから繁華街で煌々とやっていらっしゃる業者さんは基本的に、深夜の展示販売が出来なくなりました。

 

ところが取材をしていると店頭では、ケージに取り付けたのカーテンを閉めるだけでお客さんがちらっと開けちゃえば見える、というようなギリギリの事をやっている所があったりもします。そういうのを監視、指導するのは各自治体なわけですけれども、そういう業者についてはきちんと抜き打ちチェックをすべきだと思います。

 

荻上 夜のビジネスが盛んな所ではそういった店舗が良く露出していて、やっぱり同伴の客狙いでビジネスをしていたりもしますね。また、寂しいからという事で飼いたがる人も一定の割合でいる。その時間じゃないと買いに行けない方がいたりもする。そんななか、先ほど頂いたのは、プレゼントという形で、本人が欲しいのか分からないような状況の下あげてしまうというような、花束と同じ或いはそれ以下の扱いをされるようなケースもあるというメールでした。

 

太田 犬や猫を飼う場合には、これから10~20年の間ずっと責任を持たないといけないわけですよね。犬だったら毎日朝晩散歩しなければいけない、必ず餌をあげなければ死んでしまう存在です。そもそも酔って行くようなお店ではない。やっぱり異性へのプレゼントとしてあげるものではなく、自分の家族になるんだという意識の下で買うべきものであると思います。

 

荻上 例えば親が子に買い与えるというのと、カップルや恋人の段階であげるのと、人によるのかもしれませんけど随分ニュアンスは変わりそうですね。

 

太田 アメリカなどだと子供が生まれると一緒に犬を飼い始めるご両親が多かったりしますよね。動物と一緒に子供が育つ事によって情操教育上いい、といような考え方をする所もあります。

 

荻上 家族として迎えるという親側の目線ですもんね。【次ページに続く】

 

 

 

 

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