「体罰は許されない」では解決しない理由

昨年、大阪の高校で起きた、運動部顧問教師による体罰を苦にした生徒の自殺事件をきっかけに、学校などスポーツ指導の場における体罰が問題となっている。件の教師には先日、傷害と暴行の罪で、執行猶予付きではあるが有罪判決が下された。

 

判決が出たことで、この件については1つの区切りがついたわけだが、もちろん失われた命が戻るわけではないし、体罰問題全般が解決したわけでもない。スポーツ指導の場での体罰自体は今に始まった話ではないが、本件は自殺という取り返しのつかない結果になってしまったことと、折からいじめ問題やスポーツ界の諸問題がクローズアップされていたというタイミングが重なったせいもあってか、いつもより大きな社会的関心を呼んだ。せめてこの問題について真剣に考える機会とすべきだろう。

 

 

・「桜宮高の体罰自殺、元顧問に有罪 大阪地裁判決」(日本経済新聞2013年9月26日)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASHC2600Y_W3A920C1000000/

 

昨年12月に自殺した大阪市立桜宮高校バスケットボール部主将の男子生徒(当時17)に暴行を加えたとして、傷害と暴行の罪に問われた部顧問だった元教諭、小村基被告(47)=懲戒免職=の判決公判で、大阪地裁(小野寺健太裁判官)は26日、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)を言い渡した。

 

 

気になる風潮

 

いうまでもなく、教育の場における体罰はいけない。もともと他人に対して暴力をふるうことは犯罪だ。学校での体罰も法律で禁止されているし、何が体罰にあたるのかについてのガイドラインも定められている。さまざまな弊害があることも知られている。スポーツの場においても同じだ。

 

 

・学校教育法第11条(昭和22年4月1日施行)

校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

 

 

・児童懲戒権の限界について((昭和23年12月22日付法務庁法務調査意見長官回答))

http://www.jinken-library.jp/search_detail/55677.html

 

 

・学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方(文部科学省通知平成19年2月5日)

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/07020609.htm#a01

 

 

・運動部活動での指導のガイドラインについて(文部科学省 2013年5月27日)

http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/jyujitsu/1335529.htm

 

 

・「『部活の体罰でPTSD』 中学生、宇都宮市などを提訴」(朝日新聞2013年10月03日)

http://digital.asahi.com/articles/TKY201310030219.html

 

生徒は昨年3月8日朝、バレーボール部の練習中、注意を無視したなどとして、教諭に胸ぐらをつかまれ、投げ倒されるなどした。その後、生徒は校内で教諭とすれ違うと体調が悪くなり、学校を早退、欠席することもあった。PTSDと診断され、現在も通院治療を続けている。

 

 

私は現在教員という立場にあるが、仕事の場で(もちろん家庭でも)体罰を行ったことはないし行うつもりもない。世の中には「体罰の会」なる団体があるようで、上記の学校教育法第11条但書の削除を主張しているらしいが、それには賛同できない。メディアの中にも、信頼関係があれば体罰も有効と主張する人が一部いるようだが、問題として表面化しているのは信頼関係がなかったケースであるから、もとより主張として無意味だ。

 

 

・体罰の会 趣意書

http://taibatsu.com/

 

体罰とは、進歩を目的とした有形力の行使です。体罰は教育です。それは、礼儀作法を身につけさせるための躾や、技芸、武術、学問を向上させて心身を鍛錬することなどと同様に、教育上の進歩を実現するにおいて必要不可欠なものなのです。

 

 

・「一定条件下の体罰は必要 殴るのにも技術がいる」(産経新聞2013年1月27日)

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/other/625375/

 

教師と生徒の間に信頼関係があれば、殴られても生徒は悪感情をもたない。その場合、体罰はむしろ有効である。だから、体罰の全否定には反対である。

 

 

それらを前提としての話だが、このところの一連の流れには、懸念を感じている。

 

「このところの一連の流れ」というのは、体罰をおよそ人にあるまじき極悪非道のふるまいであると頭から断じ、そんなことをする指導者は問答無用で即刻教育やスポーツ指導の現場から追放せよ、犯罪者として処罰せよ、といった過激な主張を展開する人たちが次々と出てくる状況だ。

 

体罰は悪くないといいたいのではない。しかし、このところの体罰をめぐる世間での議論のあり方はどんどん過激なものとなってきているようにみえて気になる。「何が何でも体罰は許されない」という問答無用の主張からスタートして、それに従わない「頭の古い」指導者を糾弾することばかりに注目が集まり、より厳しい態度や過激な表現であればあるほど偉いかのような風潮すらみてとれる。

 

 

・「生徒諸君、体罰教師を現行犯逮捕しなさい。」(BLOGOS2013年1月15日)

http://blogos.com/article/54004/

 

犯罪である以上、生徒が現行犯逮捕すればよい。それが体罰を根絶する最も有効な方法なのに、大人は誰もそう言わない。なぜだろう。

 

 

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