ビットコインをめぐる共同幻想と同床異夢

要旨:

◎ビットコインは通貨としての機能には疑問符。むしろ投機対象

◎ビットコイン利用者のニーズは多様で、互いに相矛盾する

◎通貨として定着させたいなら価値の安定が必要

◎ビットコイン自体より、それが引き金となるイノベーションに注目すべき

 

*  *  *

 

ここのところ、ビットコインのニュースがさかんにマスメディアに流れてきている。

 

ビットコインが始まったのは2009年だったが、日本でメディアが取り上げ始めたのは2013年になってからのことだ。最初は「こんなものがある」といった紹介程度の扱いだった。それがその後、みるみるその存在感を増し、とうとう新聞やテレビのトップニュースを飾るまでになった。もちろん、ご存じの通り、悪いかたちでだ。世界最大のビットコイン取引業者になっていたマウント・ゴックス社の経営破綻のニュースは、その利用者が世界に広がっていたことや、そこで伝えられた損害のあまりの巨額さもあって、大きな衝撃として世界を駆けめぐった。

 

 

「ビットコインのマウント・ゴックス破綻 民事再生法申請」(朝日新聞2014年2月28日)

http://digital.asahi.com/articles/ASG2X64VLG2XUTIL03P.html

同社の調査では、顧客から預かったコイン75万枚(時価約410億円相当)と、自社でもつコイン10万枚(約55億円相当)の大半がなくなったという。さらに顧客から預かった現金のうち最大約28億円が同社の銀行口座になく、消失しているという。

 

 

マウント・ゴックス破綻の衝撃

 

実際にはその後、なくなったとした85万ビットコインのうち20万ビットコインは残っていることがわかったようだ。

 

 

「ビットコインの一部が残存 破綻した取引所で」(朝日新聞2014年3月21日)

http://digital.asahi.com/articles/ASG3N7WCKG3NULFA02Q.html

インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」の私設取引所「Mt.Gox(マウント・ゴックス)」(東京)の運営会社は20日、消失したとしていた85万ビットコイン(時価約510億円相当)のうち、20万ビットコイン(約120億円相当)が見つかったと発表した。

 

 

とはいえ損失額合計は400億円弱ではあるわけで、かなり大型の経営破綻であることにちがいはないが、この大半は、同社が顧客から預かっていたり同社自身が保有していたりするビットコインを、破綻時点の交換レートで円に換算したものだ。ビットコインの相場は乱高下を繰り返している。2012年の秋ごろには1ビットコインあたりせいぜい100ドル程度だった。その約1年後、2013年の12月ごろにはその10倍以上に跳ね上がり、1月にその半値近くまで急落した後再び高騰し、マウント・ゴックス社の経営危機が表面化する前までは800ドル前後で推移していた。

 

もちろん、マウント・ゴックス社が顧客から預かっているビットコインの量も増えたのであろうが、このような大きな損害額のかなりの部分は、ビットコイン自体の価格高騰によるものだ。高いレートでビットコインを購入した人もいるから、問題は軽微とはいいがたいが、なんでそんな無名の会社がそれほどの金額を、と驚くのはややスジがちがう。もともとそんな金額ではなかったのだ。

 

マウント・ゴックス社自体、もともとはカードゲームのトレーディングカードのオンライン取引を行う業者だった。急成長したのはビットコイン取引に転業して以降のことである。ちなみに2010年5月、世界で初めてビットコインで購入された2枚のピザの代金は10000ビットコインだったという。仮にピザ1枚を20ドルとするなら、当時の1ビットコインの価値は0.004ドルといったところだろう。それからわずか4年でその約30万倍にも上がったわけだ。

 

念のため一応書いておくが、今回経営破綻したマウント・ゴックス社はビットコインそのものの発行や運営の主体ではなく、その一取引業者だ。顧客からビットコインを預かり、取引の注文に応じて決済を行ったり、現金との両替を行ったりする。破綻時点で世界最大のビットコイン取引業者であったとはいえ、この会社がなくなったからといって、ビットコインそのものの価値がなくなったり、すべてのビットコインが使えなくなったりするわけではない。実際、ビットコインは、ピーク時よりは低い相場(概ね600ドル前後だろうか)ではあるが、今でもふつうに使われている。ビットコイン自体が破綻したかのような言説は誤りだ。

 

 

「ビットコイン「破綻すると思っていた」 麻生財務金融相」(朝日新聞2014年2月28日)

http://digital.asahi.com/articles/ASG2X2VKKG2XULFA006.html

 

 

ただ、この会社に顧客が預けたビットコインのうちかなりの部分は奪われ、なくなってしまったようだ。ビットコインは、その取引業者も含め、少なくとも日本ではこれまで規制を受けておらず、もとより自己責任の世界の話だが、これほどの額となると、「あきらめろ」で納得する者は少ない。案の定、経営者には米政府から召喚状が送られ、米国では訴訟も起こされた。とばっちりで同社の取引銀行であったみずほ銀行も訴えられている。これから紆余曲折はあるだろう。しかし、被害者がこの件での損害をすべて取り返すことは難しいと思われる。

 

日本での巨額経営破綻にもかかわらず、国内でそれほど大きな騒ぎになっていないのは、利用者の99%が海外在住であるからだ。逆にいえばこの経営破綻は、海外では日本におけるよりはるかに大きなインパクトをもって受け止められている。諸外国では、今回の件が発生する以前から、ビットコインに対し、さまざまなかたちで規制をかける動きが広がりつつあったが、今後ビットコインをどう扱っていけばいいかはさらに大きな関心事となろう。日本政府に対応を求める声も上がっており、政府にも検討する動きが出ている。一方、これに対して、安易な規制をすれば新しい動きをつぶしてしまうといった懸念の声もある。

 

 

「ビットコイン規制の法整備「必要あれば検討」 政府見解」(日本経済新聞2014年3月18日)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC18001_Y4A310C1EB2000/?n_cid=TPRN0006

 

「ビットコイン「規制は拙速」 新経連の三木谷氏」(産経新聞2014年3月5日)

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140305/biz14030514310023-n1.htm

 

 

ビットコインについては、ここのところあまりに多くの情報が流れてくるため、かえって状況がつかみにくくなっているきらいがある。さまざまな見解があるのはそれぞれの論者が置かれた立場に違いがあるためでもあるが、問題は一刀両断できるほど単純ではない。ここでいったん、少し引いた視点で考えてみる必要があるのではないか。

 

ビットコインそのもののしくみや、今回のマウント・ゴックス社の経営破綻についてはあちこちで解説記事が書かれているので、ここではより根本的な部分を中心に、できるだけニュートラルな立場を心がけて書いてみる。ビットコインに関しては国際大学GLOCOMの楠正憲客員研究員がいろいろとまとめておられるので、そちらを併せご覧いただきたい。

 

 

「Bitcoinについて」(Slideshare 2014年3月17日)

http://www.slideshare.net/masanork/bitcoin-20140317glocom

 

 

「Bitcoinは当世のチューリップか、近未来のグローバル貨幣か(上)」(楠正憲 Yahoo!ニュース個人2014年2月28日)

http://bylines.news.yahoo.co.jp/kusunokimasanori/20140228-00033081/

 

 

 

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