精神障がいを抱える親を持つ子どもの声を聞いてください

精神障がいを抱える当事者への支援が注目されることはあっても、精神障がいを抱える親を持つ子どもにはなかなか注目が集まらない。そんな中、親&子どものサポートを考える会の土田幸子氏による「精神障がいを抱える親と暮らす子どもたちに必要な支援とは」をシノドスに掲載したところ、大きな反響があった。そこで、当事者の皆さんのご協力のもとで、精神障がいを抱える親の子どもたちにお集まりいただき、それぞれの困ってることをお話いただいた。「当事者」といっても、それぞれ異なる境遇の中で、浮かび上がってきた課題とは……?(構成/金子昂)

 

 

異なる境遇の4名の当事者たち

 

土田 今日皆さんにお集まりいただいたのは、以前、シノドスに精神障がいを抱える親を持つ子どもについての論考を掲載したところ[*1]たいへん反響があり、ぜひ当事者である皆さんの声を届けたいと思ったからです。「精神障がいを抱える親の子」といってもいろいろな境遇があるため、異なる境遇の方々に集まっていただきました。初めて会う方もいるので、まずは簡単に自己紹介をしてください。

 

[*1] 精神障がいを抱える親と暮らす子どもたちに必要な支援とは

 

タナカ タナカ(仮名)と申します。20代の男性です。母が統合失調症で、自分が小学校一年生のときに発病しました。いまでも母は入退院を繰り返しています。長男なので、自分がなんとかしないと家族が終わるという気持ちが強く、あまり協力的でない父をなんとかしてほしいと、父方の祖父母にお願いをしたりしていました。

 

キムラ キムラ(仮名)です。55歳、女性です。父親が若い頃に、「精神衰弱」と診断されています。なにかがちょっとおかしいんですよね。人間関係がうまくできなかったりして。私は、発達障害なんじゃないかな? と思っています。父は、40代後半にはうつ病を発症しています。

 

また母は母で強迫神経症を持っています。結婚後に発症しているのですが、父が「そんななまけ病は許さない」と、薬も飲ませないし、暴力もふるって、病院にも行けず、鎮痛剤や風邪薬でなんとかしていたのですが、年を取るにつれて症状が悪化してしまいました。

 

モンガラ こんにちは、モンガラ(仮名)です。48歳、女性です。ウチは母親が精神障害で、医療機関に繋がっていないので病名はもらっていないのですが、母親の症状からネットで調べてみたところ、おそらく統合失調症ではないかと思います。私が生まれる前から発症していたので、発症前の母親を知らないまま50年近くが過ぎました。どうやって付き合えばいいのかわからなくて、若い頃は毎日胃が痛い状態でした。

 

カメノコ カメノコ(仮名)です。23歳、女性です。母が41歳のときで、自分が10歳のときに統合失調症を発病しています。親の病気のことを言えるようになったのは、ここ1年半くらい。「精神病の人は差別されるの。あんたもその子どもだから同じ目に遭う。病気のことは人に言っちゃだめ」と母親から毎日のように言われました。10代の頃は、病気のことはよく分かりませんでした。でも漠然と、自分は社会で差別されるべき存在だと知りました。このことが知られたら、就職や結婚もできなくなると思っていました。だから困ったときも誰にも相談できませんでした。ある先生との出会いをきっかけに、少しずつ人に話せるようになっています。

 

 

子どもたちへの光の当て方

 

土田 ありがとうございます。精神障がいを抱える方ではなく、その子どもの話は、これまであまり取り上げられてきませんでした。「ようやく光が当たりだした」という思いもあれば、「知られていなかったからこそ楽だった」という思いもあると思うんですね。皆さんはどう受け止めていますか?

 

タナカ 「やっときたか!」と思いましたね。反響があったことに対しては、いろいろな思いはあるのですが、この波に乗りたいと思う。

 

キムラ いい時代になったなあとは思いますね。私はいま55歳で、子どものときは精神障がいについての情報なんて全然手に入りませんでした。世間もいまより理解がなくて、偏見の目があった。そのせいで医者にかかるのも難しくて。心療内科もなかったんですよね。内科か精神科に行くしかなかったんです。いまは何かしらの方法で情報を手に入れられますし、発信をすれば反応もある。誤解はあるんだろうけど、やっぱり嬉しい。

 

モンガラ うつ病が市民権を得たところがあるから、そこから精神障がいの人にもスポットが当たっていくといいですよね。

 

土田 先ほどカメノコさんはお母さんから「人に話したらいけない」と言われているとおっしゃっていましたが、そうでなくても精神障がいって、人には隠しておきたいという気持ちがあると思うんですね。

 

カメノコ 精神障がいに限らず、障害自体、隠しておこうって考え方が昔からありますよね。うちの母はそこに相当とらわれていたんだと思うんです。当事者である母親にも偏見があって。偏見は私の中にもあったんだと思うんですけど、当事者の母から植え付けられたところもあるのかも。

 

モンガラ 子どもの頃は、遺伝するんじゃないかって言われるのが怖かったんですよね。

 

タナカ わかります。

 

モンガラ とてもじゃないけど人に言えなかった。私の兄が、子どもが欲しいといったら、義母から「精神病がうつるんじゃないか」って言われちゃって。

 

キムラ 知識がないんだよねえ。

 

モンガラ そう。誰もがなりうる病気なんだってことがわかってもらえたら嬉しい。

 

キムラ 今日、座談会に参加することもためらったんですよ。メディアがおちゃらけた伝え方をしたら、誤解が広まっちゃうかもしれない。でもやっぱり黙っていたら広まらないんですよね。編集長の荻上チキさんのラジオを聞いていたこともあるし、シノドスを読んで、原稿もこちらでチェックさせてくれるということだったので、参加することにしました。もし突然「インタビューしたい」っていわれたら、絶対に無理(笑)。

 

全員 あはは(笑)。

 

キムラ 最終的に、当たり前に取り上げられるような世間になったらそれはそれでいいのかもしれませんが、まずはちゃんとした媒体から、ちゃんとした形で出て欲しかった。

 

 

「あなたには助けが必要なんだよ」

 

カメノコ 学校だったら、クラスにひとりやふたりくらいは、私たちと同じような境遇の子はいると思うんですよ。だから先生とか教育関係の人に知ってもらえると助かるかもしれない。

 

キムラ やっぱり特殊なんですよね。小学校2、3年生のときから「これを言ったらヤバい」ってなんとなくわかる。そういうときに、スクールカウンセラーさんに相談できたらいいのかっていうと、実はそれも難しい。カウンセラーさんから、私が家の中のことを話したことが両親に伝われば、「どうして話したんだ」と叱られるし、そのことでまた、母が父に「おまえがそんなだから」と殴られてしまう。それに私の場合、そういった父親の暴力から母親を守らないといけなかったので、家にいるときは小学生でいられないんです。小学校にいる間くらいは子どもでいたかった。

 

カメノコ なるほど!

 

キムラ 子どもでいられる空間に親の問題を持ち込んで欲しくなかったと思う。だから個人的にアプローチするよりは、先生がみんなに精神障がいについての話をしてくれたらいい。クラスに当事者がいてもいなくても。なにを言っているかわからない子もいるかもしれないけれど、思い当たる子が「あっ!」って気が付いて、対処の仕方とか相談できる場所とかがわかるようになったら助かると思うんです。

 

タナカ 自分みたいな人間には助けが必要なんだってことを強く言って欲しいですね。壁を作ってきたから、声をかけられても避けてしまう。「助けてって言ってもいいんだよ」じゃなくて「あなたには助けが必要なんだよ」って。

 

モンガラ 確かに。

 

タナカ ある程度年をとってみて、助けが必要なんだってわかったんですよ。隠し通していく中で、人を信じられなくなっていく。人間不信を治すのに相当苦労しました。

 

カメノコ 小学生のときは「自分の家は助けが必要な家」って自覚がなく、先生に相談する発想もありませんでした。でもいま思えば、粘り強く言ってくれる人がいたら、「そうか、助けが必要なんだ」って思えたかもしれない。

 

理想論かもしれないけど、金八先生みたいに寄り添ってくれる先生がいたら、話せるようになるかも。私の場合、大学の先生が話を聞きだしてくれました。不安もあったけど、信用できる人だって思ったから、ちゃんと話せたんです。先生が「自分が苦労してきたことも、支援されるべき対象だということも認めなさい」って言ってくれた。

 

キムラ 的確なアドバイスをくれる良い先生に出会えてよかったね。

 

 

「サザエさん」なんてありえない

 

土田 「私の家は人の家と違う」って感じたのっていつごろですか?

 

モンガラ 友達の家に遊びに行ったら、友達のお母さんがケーキを出してくれるんですね。でも私の家の場合は、お菓子をちり紙に包んで、「外で遊んできなさい」って言われちゃうんですよ。この違いは子どもながらにショックでした。しかも友達の家にいったら、私の家にも招かないといけないと思っていたみたいで、友達の誕生会に呼ばれてもいけなかったんです。クラスで私だけ参加していない、みたいな。

 

カメノコ それはたいへんですね……子どものときってみんなと同じじゃないと仲間外れになっちゃう。

 

モンガラ そうそう。みんなと一緒で初めて安全が確保されるところがあるじゃないですか。子どもにとっては、家と学校が世界の全てだから、どちらも安心していられなくなっちゃう。

 

カメノコ 私も母が発症してからは友達を家に呼べなくなっちゃいました。それまでは大丈夫だったのに、いきなり。あとお弁当……。

 

キムラ ああ、お弁当問題かー!

 

カメノコ わかります?(笑)。お母さんがお弁当を作ってくれていたのが、病気になってからは父親が作るようになったんですね。お父さんとお母さん、どちらがお弁当を作ってくれてもありがたいです。でも周りはお母さんが彩りとメニュー豊富なお弁当を作ってくれていたから羨ましかった。学校行事にお母さんは来てくれないし、保護者面談もお父さんになった。「なんで?」って聞くと「病気だから」って言われる。お腹が痛そうでもないし、テレビを見ているだけなのに……と思って「なんの病気なの?」って聞くと答えてくれない。

 

キムラ お弁当問題はね、私の家もありました。幼稚園が終わってからハイキングごっこをする約束を友達として、「いまからハイキングごっこするからお弁当作って!」っていったら、「二回もお弁当なんてつくれない! なんでそんな約束してくるんだ! 今日は遊びに行くのやめなさい!」って怒られて。母にとって、お弁当作りはかなり負担だったんでしょうね。高校生の時にはまったく作れなくなっていて、毎日、購買の菓子パンでした。あと私の家も、人の家にあがると招かないといけないから行っちゃいけないって言われていましたね。

 

モンガラ 友だちに「お母さんが駄目って言ってるから」しか言えないからちゃんと理由が説明できないんですよね。そのせいで友達もだんだん疎遠になっちゃう。小さい頃から友達との関係を保ちつつ、親とも上手に付き合わないといけなかったから、24時間気を使っていて、気疲れするんですよね。

 

カメノコ 智慧が付きませんか? その年頃で身につけなくてもいいだろ! って智慧が(笑)。

 

タナカ ああ、わかりますね……。

 

土田 以前「サザエさんが嫌い」ってお話をされていたんですよね。みなさんそんな経験ありますか?

 

キムラ 私は、毎回必ず親子喧嘩するドラマ「寺内貫太郎一家」が、何であんなに人気があるのかわからなかったんですよね。「いや、私の家はもっと酷いことがおきてるんですけど……」って思っていました。親が暴れた後に片づけもしてるのに、テレビだとちゃぶ台がひっくりかえされて終わり。みんなには幸せな家があってジェットコースターみたいなドラマを楽しんでるけど、私は毎日ジェットコースターに乗ってますよって(笑)。

 

カメノコ わたしはサザエさん好きでしたね。ホームドラマも好きで、「こういうのいいな」って思ってました。一方で、「なんで、うちはこうじゃないの?」とも。

 

キムラ 大きくなってからは、「世間の人って、うちの家族より優しい……」って思いましたねえ。

 

カメノコ 差別する人もいるけれど、優しい人もたくさんいますよね。

 

 

関係性で変わる困りごとと家族へのケア

 

タナカ ……記憶がおさえられているので、昔のことがあまり思い出せないんですけど、自分は田舎に住んでいたので、友達を選べなかったんですね。近所にいる子と仲良くするしかなかった。ある日、悪がきがエアーガンで車を打ついたずらに巻き込まれちゃって。当然、乗っていた人が怒りだして、「親を出せ!」って言ってきたんです。でも、親を呼ぶことはできない。「母親を心配させるな、病気が酷くなるだろう」って言われてきたので。

 

全員 わかる!

 

タナカ 言っちゃえばよかったんですよね。「悪がきにやらされた」って。でも、言えない。もし母親に、やりたくなかったのにやらされたんだって話せたら、気も楽になったと思うんです。説教されたほうがいいんですよ。ちゃんと理由も話せるし、もしかしたら悪がきに巻き込まれない方法も教えてもらえたかもしれない。

 

土田 お母さんはタナカさんがおいくつの頃に発症されたんでしたか?

 

タナカ 7歳くらいですね。父親による母親へのDVが酷くて、よく母親に「キチガイ」って言っていました。「ぼくもきっとキチガイなんだろうな」って思ってた。

 

カメノコ 家族へのケアって大切ですよね。子どもは子どもで、親は親で、兄弟は兄弟で。関係性が違うと、困ってることも変わると思うんですよ。当事者だけじゃなくて、そうした集まりがあると助かる。

 

キムラ 子どもへのケアを考えると、配偶者がしっかりしていて、病気への知識もあれば、子どもにちゃんと説明できますよね。だから、支援する人たちは、まず配偶者に接触して、そこからケアするといいと思う。配偶者がケアできていれば、子どもをケアしなくても大丈夫なケースだってあるかもしれません。

 

タナカ いまのお話を聞いて、大学時代に父親を「なんで助けてくれないだ!」って責めたことを思い出しました。そのとき父は「医者から病気だと言われたけど、具体的にどうやって対処すればいいのかは教えてもらえなかった」って。

 

キムラ それもありますね。

 

タナカ 父は父で、自分なりのやり方を取っていたんだと思います。

 

カメノコ うちの場合も、たぶん医者から具体的なアドバイスは受けてなかったと思います。都内のメンタルクリニックって、診察時間が短時間で、いつも同じ形式的な質問しかされないんですよね。当事者ともっとも近い家族の話を聞かない。本人の気持ちだけじゃわからないことだってあるじゃないですか。私の家の場合、本人が精神病への偏見を持っていたくらいだし。家族の話を聞いてくれて、具体的な方法を教えてくれたら、本当に助かる。

 

あと父親から私の気持ちを聞かれたことはないですね。いまは父親もたいへんで仕方なかったのかなって思います。しんどかったときは「どうして!」って思っていました。小学生のときは詳しい話をされてもわからなかったと思うけど、私が成長するにつれて、少しずつ説明して欲しかった。【次ページにつづく】

 

 

 

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