シノドス・トークラウンジ

2024.05.21

2024年8月7日(水)開催

【レクチャー】レヴィナスの哲学をいま考える――他者・デモクラシー・戦争/平和(全4回)

松葉類 フランス現代思想、ユダヤ思想 ホスト:坂本かがり

開催日時
2024年8月7日(水)20:00~21:30
講師
松葉類
ホスト
坂本かがり
場所
Zoom【後日、アーカイブ動画での視聴も可能です】※本レクチャーは8/7、6/14、7/4、7/18の全3回です。
料金
9800円(税込)

政治や社会を論じる文脈で、「他者」という言葉をよく目にします。しかし、よく考えてみると、他者とは誰のことでしょうか。わたしとは異なる存在と定義する場合、わたし以外の存在はみな他者であることになりますし、何がどれくらい異なるかを考えると、「それほど他者ではない、すこしだけ異なる他者」のような存在もそこに含まれるのかどうかを考える必要があります。
本講義では4回にわたり、エマニュエル・レヴィナス(1906-1995)の他者思想を扱います。レヴィナスのテキストを手掛かりに、「他者」「倫理」「政治」「国家」について考えましょう。毎回異なる角度から論じるつもりですので、かならずしも全部出席する必要はないと思いますが、それぞれに通底する問題は共通しているため、できれば連続での受講をおすすめします。

第1回 顔との出会い(8/7)
レヴィナスは主にフランスで活動したユダヤ系リトアニア人の哲学者で、独特の他者思想によってその名を知られています。初回は彼の思想的遍歴を概観するとともに、彼の他者思想のキーワードである「顔」を中心に解説します。
たとえば主著である『全体性と無限』のなかで、レヴィナスは他者の現れのことを「顔」と表現しています。なぜ他者は「顔」をもつのか、「顔」との出会いは何をもたらすか、わたしは「顔」を前にどのように応答するか……といった問いを扱います。現代社会における、価値観や生き方を変えるような他者との出会いの可能性について、レヴィナスを手掛かりに考えましょう。

第2回 他者とは別の他者(8/14)
第2回ではレヴィナスの政治思想を扱います。レヴィナスが政治を論じる際の図式に登場するのが、「第三者」という概念です。わたしたちは初回でお話ししたような、ある意味で特別な「他者」と世界に二人きりで存在するわけではありません。それどころか、多数の人間によって成り立つ社会のなかで暮らしています。そしてそのそれぞれが特別な存在であったりなかったりするはずです。このことを考えるためのヒントとなるのが「第三者」です。
主にレヴィナスの後期思想において「第三者」は、他者とは別の他者を指します。この概念を通して、わたしは異なる他者たちを前にして誰を優先すべきか、誰を助けるべきか、誰と共同体を営むか……といった問いが提起されます。現代社会において、ときに対立する正義を調停することの困難について、レヴィナスを手掛かりに考えましょう。

第3回 国家の彼方のデモクラシー (9/4)
第3回ではレヴィナスの共同体論を扱います。もしかすると普段は意識することがないかもしれませんが、政治と共同体の関係はじつは一筋縄ではいきません。共同体を動かすためには政治が必要ですが、この政治が具体的にどのような機能をもち、どのような形式で、誰によって動かされるかは、共同体の存立そのものとは別のルールにしたがっています。
レヴィナスが共同体を論じる際にキーワードとなるのが「デモクラシー」という語です。彼はこの語を少し変わった仕方で用いています。一般にこの語は、多数決による議決、罷免制度、自由選挙などといった制度によって実現する政体を指しますが、レヴィナスはそうした制度の裏側にあるデモクラシーそのものを、より根源的なかたちで考えようとしているのです。民主主義をめぐる対立の先鋭化する現代社会において、この語の意味をレヴィナスとともにもう一度考えてみましょう。

第4回 戦争の対義語ではない平和 (9/18)
最終回の第4回はレヴィナスの戦争/平和論を扱います。レヴィナスは20世紀を生きたユダヤ人であり、時代状況に翻弄されながら、戦争と平和について考えた哲学者です。一般に平和は、戦争がない状態として考えられることがありますが、レヴィナスは別の仕方で、他者とともに実現する平和を論じようとしています。
レヴィナスによれば、戦争とは、戦略的配置によってすべての存在者の意味が簒奪され、エゴイズムによって支配されている状態です。終戦したとしても、この状態が終わらない限りはただの戦間期にすぎません。平和そのものを考えるためには、道徳を差し止めてしまう例外状況であるような戦争のなかでさえも実現しうる、絶対的な平和の根源をみつけなければならないのです。それがこの講義でいう、戦争の対義語ではない「平和」です。イスラエル・パレスチナ情勢をはじめ、いまも各地で展開される国家間戦争や国内紛争を考えるために、レヴィナスとともに戦争と平和についてもう一度考えてみましょう。

【参考文献】
エマニュエル・レヴィナス『全体性と無限』藤岡俊博訳、講談社、2020年。
エマニュエル・レヴィナス『存在の彼方へ』合田正人訳、講談社、1999年。
エマニュエル・レヴィナス『われわれのあいだで〈新装版〉』合田正人・谷口博史訳、2015年。
松葉類『飢えた者たちのデモクラシー レヴィナス政治哲学のために』ナカニシヤ出版、2023年。

プロフィール

松葉類フランス現代思想、ユダヤ思想

1988年生まれ。京都大学文学研究科博士課程研究指導認定退学。博士(文学)。フランス現代思想、ユダヤ思想。現在、立命館大学間文化現象学研究センター客員協力研究員。著書に『飢えた者たちのデモクラシー レヴィナス政治哲学のために』(ナカニシヤ出版、2023)、訳書にジャン=フランソワ・リオタール『レヴィナスの論理』(法政大学出版局、2024)、エマヌエーレ・コッチャ『メタモルフォーゼの哲学』(共訳、勁草書房、2022)、ミゲル・アバンスール『国家に抗するデモクラシー』(共訳、法政大学出版局、2019)などがある。

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