2025.10.23
英会話学習にシャドーイングが効果的でない理由
英語学習法として人気の高い「シャドーイング」。
ネイティブの音声を聞きながら、少し遅れて発音をまねるこのトレーニング。
「リスニングにもスピーキングにも効く万能法」として、紹介されることがあります。
しかし、実際のところ──英会話を上達させたい人にとって、シャドーイングはとくに必要な練習ではありません。
たしかに、音声を正確に聞き取り、発音を矯正するという目的においては、一定の効果があります。
けれども、英会話において求められるのは、「自分の考えを組み立て、相手に伝える力」。
これは他人の音声をなぞるシャドーイングでは、まったく鍛えられません。
それでも多くの学習者がシャドーイングに取り組むのは、「ネイティブのように話せるようになる」という誤解が広まっているからです。
この記事では、なぜシャドーイングが英会話の上達に直結しないのか、その理由を整理します。
シャドーイングとは何か
シャドーイングは、本来「音声処理能力」を鍛えるための専門的な訓練法です。
耳で聞いた英語の音声を、ほとんど同時に口に出して再現することで、音の連結・リズム・イントネーションなどの特徴を、正確に再現できるようにすることを目的としています。
この練習が発展した背景には、同時通訳者のトレーニングがあります。
通訳者は、話を聞きながらほぼ同時に内容を訳して発話する必要があるため、「耳と口を同時に使う処理能力」を高める訓練が求められてきました。
シャドーイングは、もともとそうした特殊な職能訓練から派生した手法です。
第二言語習得研究の観点から見ると、シャドーイングはあくまでインプット処理(input processing)のひとつです。
つまり、耳から入ってくる音声を、脳がスムーズに認識・処理できるようにする練習です。
重要なのは、ここで扱われているのは「音」そのものの処理だということ。
文の意味を構築したり、自分の考えを言語化したりするトレーニングではありません。
そのため、発音やリスニングの質を高める点では、一定の効果がありますが、「自分の言葉で話す力」を伸ばす練習とは、性質がまったく異なります。
英会話力とのズレ
英会話で必要なのは、たんに音を再現する力ではありません。
相手の言葉を理解しながら、自分の考えを英語で組み立て、瞬時に口から出す力です。
このとき脳の中では、「何を言いたいかを考える ➡ 文をつくる ➡ 発音する」という複数のステップが同時に動いています。
一方、シャドーイングはそのどれとも違います。
そこでは「聞いた音をそのまま口に出す」ことだけを行っており、自分の頭で文をつくる工程が存在しません。
つまり、英会話の本質である“自分の言葉で話す力”は、このトレーニングではまったく鍛えられません。
この違いは、言語学や心理学の研究でも明らかになっています。
言語を本当に使えるようにするには、「意味を理解して使う経験」が必要です。
どれだけ音声を繰り返しても、それだけでは「自分のもの」として使える言葉にはなりません。
また、スキル習得の研究でも、「知っている」と「使える」は別物だとされています。
たとえば単語を聞いて意味がわかっても、自分でその単語を使って文をつくれるとはかぎらない。
「使えるようになる」ためには、自分で文を考え、何度も口にする練習が欠かせません。
記憶の研究から見ても同じです。
人は、聞いたことをそのまま繰り返すよりも、自分で思い出したり、言い換えたりする方が、記憶が定着しやすいとわかっています。
けれども、シャドーイングでは「思い出す」や「言い換える」といった働きが起きません。
聞いた音を短期的に保持して再生するだけなのです。
つまり、シャドーイングが育てるのは「音の再現力」。
一方で、英会話に必要なのは「意味をつくり出す力」。
この違いが、シャドーイングが英会話力に直結しない理由です。
誤解が広がる理由
シャドーイングを続けていると、多くの人が「効果を感じる瞬間」に出会います。
英語の音が以前よりクリアに聞き取れるようになり、口の動きもスムーズになる。
発音が改善し、ネイティブらしいリズムで話せる感覚が生まれる。
これらはすべて、シャドーイングの成果です。
音の再現力を高め、英語のリズムを体に染み込ませる点では優れたトレーニングです。
ただし、ここで注意が必要なのは、こうした「音声的な流暢さ」が、しばしば「英語が話せるようになった」という錯覚を生むことです。
実際の会話では、相手の話を理解し、自分の考えを瞬時に言葉にする力が求められます。
このとき必要なのは、発音のよさやスピードではなく、意味を生成して表現する力です。
シャドーイングで身につくのは、あくまで「音の再現力」であって、自分の頭の中から文をつくり出す「言語生成力」ではありません。
つまり、シャドーイングを続けることで、「英語が口から出やすくなった気がする」のは自然なことですが、それは“流暢に話せるようになった”というよりも、“英語の音やリズムに慣れた”だけなのです。
この「音の慣れ」と「会話力の向上」を混同してしまうこと。
それが、シャドーイングが万能なトレーニングだと誤解される最大の理由です。
シャドーイングの位置づけ
ここまで見てきたように、シャドーイングは英語の音声を処理する力を高める練習です。
発音、リズム、イントネーションを整え、聞き取りの精度を上げる点では、たしかに一定の効果があります。
その意味で、リスニングや発音を集中的に鍛えたい人には、有効なトレーニングになるかもしれません。
ただし、これはあくまで「インプットの質を上げるための練習」です。
繰り返しますが、英会話に必要な「自分の考えを言葉にして伝える力」を育てるものではありません。
英会話は、自分の意図を英語で構築する行為です。
そのためには、意味を理解し、言葉を選び、文を組み立てる「生成のプロセス」が欠かせません。
シャドーイングはその前段階──音を聞き取る準備運動のようなものにすぎません。
また、リスニング力を伸ばす方法としても、シャドーイングは万人向けの方法ではありません。
音声の処理速度がある程度備わっていないと、途中で音を追えなくなり、たんなる「音の模倣作業」になってしまうことがあります。
実際にこのトレーニングを効果的にこなせるのは、リスニングの基礎がすでにできている一握りの学習者にかぎられます。
多くの人にとっては、内容を理解しながら聞く練習や、文脈を意識したリスニングの方がずっと効率的です。
映画やニュース、ポッドキャストなど、自然な英語に触れる方法も豊富にあります。
つまり、リスニングの力を伸ばすために「シャドーイングをしなければならない」理由はありません。
英会話学習において大切なのは、「有名だからやる」「難しそうだから効きそう」といった感覚ではなく、自分の目的にあった方法を選ぶことです。
シャドーイングは音声面を磨くための、ごく限定的なトレーニングであり、英会話の上達に不可欠なものではまったくありません。
むしろ多くの学習者にとっては、自分で考え、自分の言葉で伝えるトレーニングに時間を使う方が、はるかに効果的なはずです。
英語を学んできたのに話せない。
問題は知識量ではありません。
あなたの脳が「英語で思考を組み立てる回路」を持っていないだけです。
「文法や単語は知っているのに、言葉が出てこない」
「訳しながら話そうとして、途中で止まってしまう」
それは、頭の中で日本語を英語に変換しているからです。 これは「翻訳回路」であって、「英語の思考回路」ではありません。
実際の会話では、日本語の台本など存在しません。
思考を直接、英語の語順で組み立てる——
この回路がなければ、いくら知識があっても話せないのです。
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