2014.04.28
どうする、どうなる日本のマンション――『マンション総合調査』から見えてきた課題
全国にどれくらいマンション戸数があるかご存じでしょうか。
2012年末現在で、何と約590万戸のストックがあります。わが国の1世帯当たりの平均人数は2.46人なので、居住人口にして約1450万人がマンションの住人になる計算です(国土交通省)。
国土交通省は5年に一度「マンション総合調査」を実施、公表しています。2014年4月23日には、5年ぶりに「平成25年度マンション総合調査」の結果が公表されるに至りました。本稿では、約350頁に及ぶ膨大な調査データから、昨今とくに課題とされているマンションの建替え・耐震・防災・見守り・専門家活用などをキーワードに、弁護士、そしてマンション管理士の視点から調査結果を概観します。
目次
Q1.そもそもマンション総合調査って何?
Q2.どんな人がマンションに住んでいるの?
Q3.首都直下や南海トラフ地震に備えた「耐震化」は大丈夫?
Q4.老朽化するマンション、建替え? 売却?
Q5.防災活動、災害対策、要援護者名簿はどうしているの?
Q6.専門家の活用は有効なのか?
Q1.そもそもマンション総合調査って何?
「マンション総合調査」は、マンションについて国土交通省が行う総合的な調査です。管理組合向けと、分譲マンション所有者(区分所有者)向けのアンケートを実施します。マンションに関して権利を持つ当事者の声が集積される貴重な資料であり、今後の国の政策の検討に当たっての基礎資料として活用されます。また、自治体、不動産業界、マスコミ等にも活用されています。
概ね、5年に一度実施され、前回は2008年(平成20年)に実施され、翌年に公表されました。今後の5年間のマンション政策の基礎となる大変重要な資料です。
調査事項は、マンション居住の状況、マンション管理と管理事務委託の状況、建物・設備の維持管理の状況、管理組合運営等の状況等であり、ハード・ソフト両側面のデータが集積されます。
Q2.どんな人がマンションに住んでいるの?
世帯主の年齢構成(図1)をみると、上位は、「60歳代」が31.1%、「50歳代」が22.8%、「40歳代」が18.9%、「70歳以上」が18.9%となっています。60歳以上のトータルは、全体の50.1%に及びます。5年前の調査では、60歳以上のトータルは、全体の39.4%でした。この5年で10.7ポイントも上昇しています。60歳以上の居住者が急増しているのは、当然ながらわが国の人口動態そのもの、少子高齢化問題が反映されているものと思われ、マンション居住者としても例外ではないということです。
永住意識に対するアンケート結果(図2)をみると、「永住するつもりである」が52.4%、「いずれは住み替えるつもりである」が17.6%となりました。平成5年の調査までは「住み替え派」が多かったのですが、平成11年の調査で逆転し、その後は「永住派」が増加傾向にあります。
『終の棲家』としてのマンションの在り方が検討課題になっています。ある方は、「『いずれは一戸建て』というのは、なんとなく頭にあったが、就職して退職するまで、長い間マンションやアパートでの生活をしてきたので、いざ一戸建となると、日常生活はかえって不便、定年退職後もマンション居住を選択するだろう」とお話しされていたことがあります。
とくに分譲のマンションの高齢化は新たな課題を生み出しました。分譲マンションでは、法律上当然に管理組合がつくられます。所有者である組合員から役員を選出することが一般的です。しかし、高齢化が進んだマンションでは、マンション管理組合の運営を行う役員の成り手がいない、という事態も起きています。管理組合は、後述のように「耐震化」「老朽化するマンション」、「防災活動」など、マンション管理にかかわる様々な問題ついて、今後の管理方針を決める重要な役割を担っています。そのため、成り手がいないということはそれだけ大きな問題をはらんでいるということなのです。
これに対しては、マンション管理業者側でトータルサポートを実施したり、専門的知識を有する「マンション管理士」などが、管理組合の理事長などに就任し管理組合運営を行ったりするケースも出始めています。
現状では、マンションの「管理者」(マンション管理組合で選任されるマンションの管理を実施する者、通常は管理組合の理事長)は、区分所有者の理事長が全体の88.2%と圧倒的に主流です。しかし、区分所有者以外の第三者が管理者に選任されているマンションも6.0%あります。マンション管理業者やマンション管理士などがその任に就いています。
Q3.首都直下や南海トラフ地震に備えた「耐震化」は大丈夫?
1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認を受けた建物は、新耐震基準によるものです。それ以前のものは、「旧耐震」基準による建物となり、区別されています。
阪神・淡路大震災では、建物倒壊被害は「旧耐震」に集中しました。旧耐震基準のマンションについては、改めての耐震診断を実施し、その結果次第では耐震化を図ることが急務となっています。マンション総合調査では、マンションのうち新耐震基準が63.3%、旧耐震基準が16.7%という結果になりました。
ところが、この旧耐震基準のマンションのうち、耐震診断を実際に行っているマンション管理組合は、33.2%にとどまるという結果になりました。そもそも耐震性があるのかないのかもわからないマンションが7割弱あるということになります。また、旧耐震基準のうち、「耐震性がないと判断された」マンションは、32.6%もありました。これらは当然に耐震化を図る必要があるマンションです。しかしながら、実際に耐震改修を実施したマンションは、そのうちの33.3%にすぎませんでした(図3)。
マンション所有者からすれば、53.0%が耐震性について「不安」とし、「大規模な地震の場合は被害を受けると思うので不安だ」(18.4%)、「耐震性が確保されているのかわからないので不安だ」(13.4%)という声があります。
しかし、なぜ耐震診断と耐震改修は低迷しているのでしょうか。
耐震診断をそもそも行っていない理由としては、「不安はあるが耐震改修工事を行う予算がないため耐震診断を行っていない」が44.4%と最も多く、「管理組合として耐震診断を行うことをこれまで考えたことがなかった」という声すら24.0%と、多くありました。
このような実態を踏まえ、国の制度も動いていますのでひとつ紹介をします。
「建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部を改正する法律」(改正耐震改修促進法)が成立し、2013年11月に施行となりました。耐震改修計画の認定基準が緩和され、容積率や建ぺい率の緩和措置も盛り込まれています。また、区分所有建築物については、耐震改修の必要性の認定を受けた建築物について、大規模な耐震改修を行おうとする場合の管理組合の決議要件を緩和(4分の3以上から過半数に緩和)するというものです。耐震化を行おうとする管理組合の意思決定を容易にするものとして制度の活用が期待されます。
Q4.老朽化するマンション、建替え? 売却?
マンションの老朽化もまた深刻な問題です。マンション老朽化問題について何らかの議論を行っているマンション管理組合は35.9%ありました。検討の結果、「建替え」(2.6%)、「修繕・改修」(62.0%)などの明確な道筋をつけた場合もあれば、「議論はしたが、具体的な検討をするに至っていない」(30.5%)など、明確な答えが出ないままになっている管理組合も多くあります。
国の制度としては、2014年の通常国会で「マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律案」が提出されています(本稿執筆時)。法案は耐震性不足のマンションの建替え等の円滑化を図るべく、多数決(区分所有者等の5分の4以上)によりマンション及びその敷地を売却することを可能とする制度を創設するものです。
老朽化マンションについて、建替えという従来の方法の他に、一括売却という新たな選択肢を設けたものです。また、耐震性不足のマンションの建替えの際にも、容積率を緩和する制度を設けています。これにより、資金不足になっている老朽化マンションの更新や再開発が促進することが期待されています。
Q5.防災活動、災害対策、要援護者名簿はどうしているの?
大規模災害への対応状況としては、前回調査時と比較して、具体的な取り組みが増加しています。「定期的に防災訓練を実施している」(37.7%)、「防災用品を準備している」(26.9%)、「災害時の避難場所を周知している」(25.1%)、「自主防災組織を組織している」(19.0%)が上位となっています(図5)。2011年3月11日の東日本大震災を受けての防災意識の高まりが具体的な行動に結びついているという一定の評価ができると思います。
一方で「特になにもしていない」(29.2%)も高い割合です。防災や災害対策の先行事例を収集し、周知をすることで取り組みを促すなどの政策が必要になるでしょう。また、特に何もしていない中には、マンション居住者の高齢化などで防災活動の音頭をとる区分所有者がいないというケースもあります。マンション管理業者やマンション管理士を活用し、災害への備えを促進させることも検討しなければなりません。その場合の資金面での援助も不可欠になってくると思われます。
注目したい項目の中に「高齢者等が入居する住戸を記した防災用名簿を作成している」(8.3%)という項目があります。これは、いわゆる「災害時要援護者」の支援のためのものです。すなわち、高齢者や障害者など、災害時に一人で避難や生活ができない者を事前に把握し、避難支援・安否確認・生活再建支援に漏れがないようにするために名簿を作成するものです。
平常時から災害時要援護者を把握し、コミュニケーションをとっておかなければ、いざ災害が発生した時に救助ができません。個人情報の管理と活用について、マンション管理組合においても正確な知識と、共有するためのノウハウを習得しておく必要があります。個人情報の取扱いに対する正確な理解が進めば、高齢者等の名簿作成と共有に対する住民理解も得やすくなります。
Q6.専門家の活用は有効なのか?
マンションの管理運営は、マンション管理組合が行います。その構成員は当然ながらマンションの所有者です。マンション所有者が「自分事」として管理運営に積極的に関与することが必要です。もっとも、所有者が必ずしも管理運営のノウハウを持っているわけでもなく、その時間もないという場合が多いと思います。そのようなときこそ、マンション管理業者の支援や、マンション管理士との連携が不可欠になると考えます。
専門家の活用状況は「建築士」(24.4%)、「弁護士」(18.7%)、「マンション管理士」(16.4%)の活用が多いという調査結果になっています。ところが、「活用したことがない」(45.4%)が一番多いという結果でもあります(図6)。専門家へのアクセスを容易にする政策などが求められると言えます。
マンション管理士はマンション管理運営のスペシャリストではありますが、単独ではすべての紛争や管理を成し遂げられない場合もあります。管理組合といては、マンション管理士・マンション管理業者との連携、弁護士など法的な専門家との連携、建築士、土地家屋調査士、技術士等の技術系の専門家との連携など、多士業を同時に活用することも視野に入れることで、より充実したマンション管理運営が実現すると考えられます。
たとえば首都圏では「災害復興まちづくり支援機構」が
◆「首都直下地震に備えたマンションなんでも相談デスク」
http://www.j-drso.jp/mansyon_sodan.html
を設置する等、多士業でのマンション管理支援の取り組みを実施しています。
マンションの運用は大部分が管理組合の自主性に任されてきました。素晴らしい取組を行い、資産価値を維持し続けているマンションもありますが、資金不足に陥ったり、コミュニティ形成が困難になっているマンションも少なくありません。生活面において高い利便性を発揮し、私たちを守る家となるマンションも、老朽化や耐震不足があれば、巨大災害時には、たちまち私たちの命を奪う凶器になってしまいます。
また、日頃からのマンション居住者の把握ができなければ、安否確認などもスムーズには行きません。マンション生活を快適なものとし、資産価値を維持し、そして巨大災害時に備える知恵を「マンション総合調査」から読み取り、専門家をうまく活用していただきたいと思います。
参考資料
・国土交通省住宅局市街地建築課マンション政策室「平成25年度マンション総合調査結果報告書」(平成26年4月)
※記事の図表は全て上記報告書から抜粋した。
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/manseidata.htm
プロフィール
岡本正
弁護士。医療経営士。マンション管理士。防災士。防災介助士。中小企業庁認定経営革新等支援機関。中央大学大学院公共政策研究科客員教授。慶應義塾大学法科大学院・同法学部非常勤講師。1979年生。神奈川県鎌倉市出身。2001年慶應義塾大学卒業、司法試験合格。2003年弁護士登録。企業、個人、行政、政策など幅広い法律分野を扱う。2009年10月から2011年10月まで内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員。2011年4月から12月まで日弁連災害対策本部嘱託室長兼務。東日本大震災の4万件のリーガルニーズと復興政策の軌跡をとりまとめ、法学と政策学を融合した「災害復興法学」を大学に創設。講義などの取り組みは、『危機管理デザイン賞2013』『第6回若者力大賞ユースリーダー支援賞』などを受賞。公益財団法人東日本大震災復興支援財団理事、日本組織内弁護士協会理事、各大学非常勤講師ほか公職多数。関連書籍に『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会)、『非常時対応の社会科学 法学と経済学の共同の試み』(有斐閣)、『公務員弁護士のすべて』(レクシスネクシス・ジャパン)、『自治体の個人情報保護と共有の実務 地域における災害対策・避難支援』(ぎょうせい)などがある。