左派・リベラル派候補がアピールすべき要点

「財政危機論はデマです!」

 

さて、保育や教育の無償化、奨学金給付、介護士や保育士の待遇改善等々、福祉・医療・教育・子育て支援などの充実に関しては、私から言われるまでもなく、みなさん十分力説されていることと思います。

 

その上で、上述したような積極的な財政出動を唱えたならば、ただちに「財源はどうするのか」と反対陣営から攻撃を受けることでしょう。「こんなにたまった国の借金を減らさなくていいのか。支出を増やしている余裕はないぞ!」と。ときには味方陣営からそんな攻撃が飛んでくるかもしれません。

 

そこでまず、財政危機を煽るのは財務省高官や新自由主義者のプロパガンダだということを強調してください。財政危機論を煽って緊縮財政にすれば、財界は、財政負担を避けることができます。小池さんたちが提唱しているような、国有財産の安売りや、歳出削減による新たなビジネスチャンスでもうけることもできます。福祉削減や教育費削減でやむなく働かざるを得なくなった安い労働力をこき使うこともできます。軍事費は聖域扱いですので、福祉を削れば削るほど、軍事費にまわすことができ、軍需でもうかることにもなります。

 

だから、大企業を支配する人や富裕層といった一握りの人の利益のための財政危機論キャンペーンなのであって、決して私たちの「将来世代」のためではないということを強調してください。消費税増税や緊縮で不況になったら、そもそも「将来世代」が生まれなくなるぞと言いましょう。

 

そもそも「将来世代に負担をかけない」というスローガンはおかしいです。誰かの支出は同世代の誰かの収入であることに注意しましょう。一世代全体をまとめて見たら、増税するとその分将来世代に残す資産は減りますので、将来世代の手元に残るのは、現在増税しても将来増税しても同じです。違いがあるとしたら、単に世代内部の再分配の問題です。

 

今増税・緊縮しないことで将来世代に残す負担があるとしたら、旧世代の消費する生産物を作ることばかりに労働が割かれると、機械や工場を作るのにまわす労働が減って、将来世代が入手できる財の量が減ってしまうという効果だけですが、失業が発生する可能性があるならばこうはなりません。現在増税・緊縮して景気が悪くなって失業者が増えたら、機械や工場など、将来世代に残すものも減って、将来世代も本来できたはずの生活ができなくなります。

 

それに、実は日本の政府の借金は、財務省を支配する人たちが煽るほど大変なものではありません。国債の四割以上は今、日銀が持っています。そのうち、将来インフレが高まったときにそれを抑えるために売りに出したりする分を除けば、残りは民間に出ていくことなく、期限がきたら永遠に借り換えして、政府がおカネを返すことなく日銀の金庫の中に存在し続けます。

 

たしかにその分の利子を政府は日銀に払いますが、日銀は経費を除いてもうかった分は政府に利益を納める決まりになっていますから、結局日銀職員を公務員扱いして税金で養っているとみなせば、利子なんか払っていないのと同じです。要するにその分は国の借金が消えてなくなっているとみなすことができるのです。

 

しかも、インフレ抑制のために使われずに日銀の金庫の中に残る国債は、日本の正常な経済規模が名目額で成長するかぎり増え続けます。返さなくていい国債の額は、長期的には増えていくということです。政府の借金の問題は気にする必要はないのだと大声で言って、人々を財務省の洗脳から解きましょう。

 

それに、オリンピックや万博のために国債を発行しても、それが将来の生産に役立つわけではないですが、子育て支援や教育のために国債を発行したら、それで労働人口が増え、知識や技能の水準が上がり、将来の生産力の維持拡大に役立ちます。その分税収も増えて元が取れることになります。だから将来世代に負担を残すなどと言うのは言いがかりです。やらない方が将来世代に負担をかけるのだとキャンペーンしましょう。

 

 

「ないところからとるな。あるところからとれ」

 

その上、日本にはまだ税金をとれるものがたくさんあります。

 

みなさんは、不用意に「格差が拡大している」と口にすると突っ込まれますから注意してくださいね。所得再分配後のジニ係数など、数字の上では改善している統計が多いです。それは当然で、失業して所得を得ていなかった人が、職に就いて所得を得るようになり、パートや派遣の時給など賃金が低い地位ほど賃金が上がっていますので、個人所得で全体をまとめるとそうなるのです。

 

しかし、日本はアメリカなんかと違って、形式的な個人所得を比べるとそれほど格差はないのですが、実は経営者の人たちは、会社のおカネを自分の私的な利益のために自由にできる場合が多いです。当然それはジニ係数を測る計算には入ってきません。それに日本でも、働かなくても、株の配当や不動産所得が莫大に入ってきて大もうけしている人はいますが、全体のジニ係数を左右するほど数は多くないだけなのだと思います。

 

今、庶民の所得がわずかしか増えていない中で、大企業や富裕層が史上空前のおおもうけをしていることは、みなさんよく説明されているとおりです。

 

その一方で、大企業にも富裕層にも一方的に有利になる税制改革が続いてきたことも、いつもご指摘されているとおりです。1990年代には法人税の実効税率は約5割でした。それが、90年代末と民主党政権期に引き下げられました。さらに安倍政権になってからは、「世界で一番企業が活躍しやすい国」とのスローガンのもと、特に熱心に引き下げが続き、2016年にはついに3割を切りました。さらに2018年には29.74%に下げる見通しです。それだけでなく、経団連は2025年までに、消費税を19%にまで上げるよう提言しています。

 

この点については、小池百合子さんも、特定業種での法人税実効税率20%までの引き下げを公約しています。特定業種と言っていますが、実現すれば、やがて対象は拡大していくでしょう。安倍政権の批判だけでなく、忘れずにご指摘ください。

 

2016年の法人税減税に際しては、抱き合わせで、利益が出ていなくても課税される外形標準課税を拡大して、赤字法人は負担増で淘汰される設計にしてあります。すなわち、多くの中小企業には負担増で、主に大企業ばかりがもうかる仕組みです。この法人税減税により、2017年度は国税で2390億円、地方税で3940億円の減収が見込まれています。

 

大富裕層に対する税金の優遇もなされてきました。1970年代には75%だった国の最高所得税率は、80年代、90年代を通じて引き下げられ、現在45%になっています。住民税も含めると、93%だったのが50%になっています。税率の刻みの数も大きく減らされています。

 

また、小泉政権以降、証券税制優遇策や、個人投資家の投資利益に対する軽減措置など、資産課税の軽減策が進められてきました。しかも、株の配当や株を売ったときのもうけは、普通の所得とは切り離して課税され、どれだけもうかっても一律15%しか所得税がかかりません。大富裕層の人たちは、働いて稼ぐ所得よりも、労せずに株から入ってくる所得の方がはるかに多いですから、こんな税制の結果、所得1億円を超えると、所得が高くなればなるほど所得全体に占める税率が低くなっていることはご存知のとおりです。

 

このかん、財政赤字が拡大した原因の第一は、税収が傾向的に減っていることです。それは、消費増税や雇用流動化で人々の購買力を抑制して緊縮政策を続けたために、長期不況が深刻化したことも一因ですが、法人税減税や累進軽減で税収が減ったことも大きな要因です。このつけを庶民にまわすような政治をこれ以上続けてはならないと、大いに宣伝してください。

 

だから、法人税と累進課税の累進度を、せめて90年代レベルに戻すのだと主張したらいいと思います。もっと上げることを掲げてもいいと思いますが、90年代当時はそんな税率でもその後と比べるとはるかに好調な経済を維持できていたのですから、説得力を持つと思います。株からの利益など、財産所得はすべて他の所得といっしょに総合課税して、超高額所得者も所得が高いほど税率が高くなるようにすることも力説してください。「ないところからとるな。あるところからとれ」がスローガンです。

 

なお小池さんたちは、法人税は減税すると言いながら、内部留保に課税すると主張しています。株主に配当する分は、法人税として取られる中には含まれますが、内部留保には含まれていません。ということは、株主への配当を促進する仕組みになっています。大金持ち優遇の姿勢が表れていると宣伝してください。

 

 

「日銀の作ったおカネは有効に利用します!」

 

そして大事なことは、中小零細業者とか、家のローンを組んだ人とか、世の中には金利が低くなって助かっている人はゴマンといるということです。不用意に低金利批判なんかしたらゴッソリ票を失います。死活問題の人がたくさんいますからね。例えば、自民党系の組織に組み込まれている人が、適当にお付き合いで手を抜いて選挙運動するか、必死になるかが、野党側のそんな言動で左右されますからご注意ください。

 

むしろ、日銀が国債を買っておカネを作って出していることを利用しない手はありません。教育や子育て支援の効果は、ターゲットの子どもたちが大人になって活躍するようになってやっと、税収として現れるのですから、日銀にタダみたいな金利にしてもらっているこのときこそ、30年国債を出して資金調達して、デフレ脱却までにできることに集中して取り組めばいいじゃないですか。

 

奨学金は、いずれは全部給付型にして、既存の奨学金債務はみんなチャラにしてしまうべきだと思いますが、それは時間がかかることです。だとしても、少なくとも、今ある有利子奨学金の原資を、今のゼロ金利の市況で国が借り換えして、全部無利子にしてしまうことは、ほとんどコストがかからずにすぐにできることだと思います。

 

最低賃金引き上げは、みなさん掲げていらっしゃることと思いますが、ぜひ派手な数字を上げて、低賃金で苦しんでいる人たちの支持を集めて欲しいところです。しかし、その一方で、経営の苦しい中小零細企業の人たちを退かせてしまいかねないところがあります。法人税などの負担を軽減するのもいいのですが、ただ企業規模だけで負担増と軽減を分けるというのも限度があります。そこで、中小零細企業のために、デフレ脱却までは、日銀の作ったおカネを超低金利で賃上げ資金として融資する仕組みを提案し、中小零細業者の人たちに安心してもらいましょう。

 

あるいは、法人税を大幅に上げるなどと言ったら、企業が設備投資をしなくなって景気が悪くなると有権者から心配されるかもしれません。本当に景気がよくなって、インフレの心配をする時期になったなら、法人税が重いせいで設備投資をしなくなるくらいが、総需要が減ってインフレが抑えられてちょうどいいのです。どうせ設備を拡張しても動かす人手が不足しますし。でもまだ景気が挫折しかねない今のような時期には、心配されるのももっともです。

 

そこで、日銀の緩和マネーをタダみたいな金利で調達して、「デフレ脱却設備投資・雇用補助金」として、設備投資や雇用拡大をする企業に給付することを提唱すればいいと思います。すると、取られっぱなしになるよりは使った方がましになりますから、設備投資や新規雇用が拡大し、景気に対してプラスになります。この際、複雑怪奇な大企業優遇の租税特別措置をすべて廃止し、この補助金に一本化します。

 

でも野放図にこんなことを続けたら、インフレがひどくなってしまうと心配されそうですので、歯止めもはっきり打ち出しておきましょう。歯止めは、当面は今の日銀のインフレ目標と同じ2%の値を引き継げばいいと思います。この補助金は、景気が拡大するとともに縮小し、インフレが歯止めの値を超えたら停止します。すると企業の正味の税負担が重くなり、総需要が減ってインフレが抑制される仕組みです。もちろんそのときには日銀もおカネを出すのを引き締めますので、インフレを抑えるのは簡単です。

 

同様に、日銀の緩和マネーをタダみたいな金利で調達して、「デフレ脱却手当」として、すべての日本居住者に毎月例えば一人三万円を配ることも提案したらいいと思います。これも、景気が拡大するとともに縮小し、インフレが歯止めの値を超えたら停止するのです。期間限定とはいえ、毎月配られるのですから、これまでの一回きりの給付金と比べて、消費拡大効果は大きいでしょう。

 

これらの仕組みにしたら、歯止めギリギリまでやるのは当然ですので、歯止めのインフレ率になるぞとみんな予想します。そうすると、借金が目減りするはずと思って、企業の設備投資が増えます。最低賃金や生活保護や年金なども、この歯止めのインフレ率プラスアルファで必ず上がっていく仕組みにしておけば、一般庶民も借金が目減りすると思って、住宅や耐久消費財の需要が増えます。かくして総需要が増えて景気がよくなります。

 

言ってはならないことは、すぐにも金融緩和を手仕舞いにして金利を上げるというようなことです。今そんなことをしたら景気が頓挫することは、どんな経済に疎い人でもわかります。とても票を集めることはできないでしょう。リーマンショックのときの景気後退は、日本ではリーマンショックの半年以上前(内閣府によれば2月)からすでに始まっていました。日銀による金融緩和打ち止めに日本経済が耐えられなかったのです。

 

 

若者は右派イデオロギーを望んでいるのではない

 

最後に、どこの党も「研修」名目の外国人奴隷制度の廃止を重点政策に掲げていないことに一言もうしておきます。外国人技能実習生制度は、その人権を無視した奴隷的な労働実態から、国連人権理事会ではこれを廃止するよう調査報告されています。

 

日本の労働者のあいだでは、せっかく労働市場が締まりはじめ、さあこれから賃金も上がってまともな水準になっていくと期待している矢先、政府が同様の仕組みを広げようとしていることもあり、はなはだしい低賃金で安くこき使える外国人労働者に、雇用を奪われるのではないか、雇用をめぐる競争で賃金が引き下げられるのではないかと怯える気持ちが広がっています。これは全く正当な不安です。そして今ならまだ、奴隷的条件で虐げられている「研修」名目の外国人労働者への素朴な同情も、搾取的な使用者への健全な怒りも、同時にいきわたっているものと思います。

 

ここで、こうした有権者の不安に応え、世界の恥である外国人奴隷制を廃止して、国籍によらない同一労働同一賃金を全うし、もとから日本にいる人々の雇用を奪うことのない高い労働条件を使用者に強制することを公約したならば、大きく支持を獲得することができるでしょう。しかし、左派・リベラル派の政治勢力がどこもこうした方針を目立つところに掲げないならば、同じ大衆の不安が、極右ヘイト勢力を隆盛させるエネルギーになるに違いないと思います。

 

今、若者ほど自民党支持が高いことがしばしば報道されていますが、これを「若者が保守化している現れ」とみなしてはなりません。ナショナリズムもヘイトも、たとえあったとしても「後付け」です。極右「日本のこころ」の政治家を迎え、一生懸命左派・リベラル派を排除した「希望の党」が、若者の支持を集めることができず、若年層支持率で大きく自民党に水をあけられていることからも、彼らの自民党支持の本質が右派イデオロギーにはないことがわかります。

 

ただ望んでいるのは、雇用不安のないこと、まともな暮らしのできる賃金、少しでも人間的な労働条件です。この気持ちに現状でアピールできているのが安倍自民党だけであるという事実を直視し、それを圧倒的に乗り越えるアピールをしてください。今年のイギリス総選挙では、保守党圧勝の前評判だったのに、労働党は反緊縮のマニフェストがウケて、大躍進して保守党を過半数割れに追い込みました。今からでも十分いけます。がんばってください。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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