司法における「ブラック校則」問題と、これからの政治の役割

ブラック校則をめぐる悲鳴

 

法や規則というものは、さまざまな背景を有する人が存在する社会において、その多様性を尊重し、個人の尊厳を守るために存在する。ルールを作るということは、社会秩序を守ることそれ自体が目的ではなく、ルールを制定するという手段によって、各個人の権利を守るものだ。ペナルティ等は、あくまでそのための一手段、それも最終手段にすぎない。しかし実際には、合理性が認められないルールが温存され、「ルールはルール」として人を不当に抑圧や排除をし、場合によっては懲罰を課すというような事態も起こりうる。

 

本稿は、最近インターネット上などで話題になっている「ブラック校則」について取り上げる。「ブラック校則」とは、子どもの健康や尊厳を損なうような、近代的な市民社会では許容されないような理不尽な学校内のルールのことを指す。

 

筆者らはtwitter上で「#ブラック校則」というハッシュタグを用い、「かつて子どもだった大人たち」を中心に、実際に経験した理不尽な校則の事例を収集した。そこに集まってきたのは、髪の毛の色や長さ、地毛証明、下着チェックなど、身だしなみに対する過度な制約や、水分補給の禁止、給食を食べ終わるまで放課後になっても居残りさせること、果ては学内恋愛の禁止や防寒対策の禁止まで、さまざまな事例だ。

 

これらの中には、「校則」として明示されているもののみならず、明示がなくても、学校の雰囲気として、あるいは校長や担任などの裁量によって、「当然のルール」として機能しているものも含まれている。

 

「ブラック校則」に関する話題は、最近報道されたひとつの事件に端を発している。その事件とは、生まれつき地毛の色素が薄いにもかかわらず、黒髪を強要されたことを苦痛に感じ、不登校になってしまったと訴える大阪府立高校の生徒が、府に対して損害賠償請求を行ったというものだ。

 

これは特異な事例というわけではなさそうだ。2017年4月、朝日新聞が行った調査報道によれば、東京の都立高校のうち、約6割の高校が、生徒が髪の毛を染めたりパーマをかけたりしていないかを確認するため、一部生徒に「地毛証明書」を提出させていることが分かっている。

 

地毛証明は、生徒の「黒くまっすぐな髪ではない」という身体的特徴に着目し、自己申告させるものであり、当該生徒が「他と異なる」ことをことさらに強調してしまう。「申告しなければならない生徒」の心情に対する配慮を著しく欠くものだ。同時に、本来生徒を守る立場にあるべき学校が、生徒に不当なレッテルを貼るにも等しく、からかいや排除を助長させる可能性からしても問題である。

 

校則は、これまで学校が子どもを「管理」するために活用されてきた。もちろん、すべての校則が不要であるわけではないし、学校にも広い裁量は必要だ。だが、校則が不当な抑圧や排除のツールとして機能し、子どもの人権を侵犯するようなケースがあるのであれば、それは是正されなくてはならない。

 

また、しばしば、厳しい校則が教育的効果と結びつけて論じられることがある。しかし、その効果は、個人の経験則にもとづくものが多く、学術研究等にもとづくものはきわめて少ないと感じる。子どもの人権に対して制約を課す以上は、適切な根拠にもとづく校則の運用が必要であり、これにもとづかないで行われる厳しい制約は見直されるべきだろう。

 

「社会に出たら理不尽なことがたくさんある、だから子どものうちから理不尽なことに慣れなければ、温室育ちでダメになる」という主張をよく聞く。この理屈にはいくつも問題がある。学校は、社会で適切に生きていくための能力を培う場所である。社会にはさまざまな理不尽があるが、そこで必要なのは、そうした理不尽さに慣れ、過剰適応し、疑問を抱かないようにすることではない。

 

本来必要なのは、理不尽さに疑問を抱き、そこから距離を取り、改善を求めるような力である。そのため、「社会に出たら理不尽なことがたくさんある、だから子どものころから理不尽さにNOを言えるようにし、同時に大人たちが理不尽さをなくすように取り組んでいこう」と主張すべきであろう。【次ページにつづく】

 

 

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