いじめ防止法の策定で何が変わるのか 

現在、各党で条文作成が進むいじめ防止法。順調に法案成立に向けた動きが加速する裏側で、国会議員はいじめに対してどのように考えているのだろうか。いじめ防止法策定によって、いじめ問題が多発する学校空間を変えることはできるのか。自らも高校教員として教壇に立った経験を持ち、いじめ防止対策基本法策定の中心人物でもある馳浩衆議院議員に話を伺った。(聞き手/荻上チキ、構成/出口優夏)

 

 

立法によっていじめの重大性を社会にアナウンスする

 

―― いじめ問題に取り組みはじめたきっかけを教えてください。

 

取り組みはじめたというよりも、高校の教員として少なからず教育現場に身を置いた立場として、いじめ問題には積極的に関わらなければいけないと長年思ってきました。

 

国会議員になって以来、多くの議員立法にかかわってきました。具体的には、児童虐待防止法、高齢者虐待防止法、障害者虐待防止法、性同一性障害者特別措置法、発達障碍者支援法、ダイオキシン対策特別措置法案といったものです。いずれの問題も、社会的弱者が不当に人権を侵害されている問題への救済法案です。

 

社会のどこからも顧みられない部分で苦しんで、もがいている人たちに焦点を当て、立法を通じて多くの人々と問題意識を共有したい。そして、それを解決する運動体をつくらなければいけないという意識でおりました。

 

学校空間において教職員が一番配慮しなければならないことは、いじめを許さないというクラスづくりです。いじめの発生には、必ず首謀者となる生徒の存在やクラスの雰囲気、いじめを受けている子の性格といったさまざまな要因が絡み合ってきます。だから、教職員はできるだけ子どもたちの情報を仕入れて、いじめがおこらない雰囲気づくりをおこなわなければいけない。それでもいじめがおこりそうなときには、早めに手を打ち、いじめがエスカレートするサインを見逃さないということが必要です。

 

わたしはいじめの解決は、表面的なもので済ませてはいけないという認識を持っています。つまり、いじめが発生した際に、教師が加害児童に注意をし、その場でその子が「分かりました」と言っただけでは片づけられるものではないということです。

 

生徒同士、生徒と教職員の関係に終わりはない。在籍中はもちろん、卒業した後も同窓生と恩師としてかかわりつづけるわけです。そういったなかで、被害児童にとって、いじめを受けた経験が生涯をとおした心の傷にならないようにしなければいけない。一方で、加害児童にもしっかりと指導をおこない、いじめはいけないことだと自覚させつづけなければいけない。このように、いじめ問題というのは終わりがないものです。

 

現在、社会では信じられないようないじめ事件が起こっています。学校側や教育委員会側の対応を見ていると、「なんでこんなことがおきているのに、そんなに感度が鈍いのかな」と思ってしまう。あらためて、人々が「いじめはどこにでも起こりうるものである」という認識を持たなければいけないと感じ、いじめ防止法の国会立法に取り組みはじめました。社会に対するアナウンス効果もふくめて、立法という措置が必要だろうと考えたのです。これが今日にいたるまでの経緯です。

 

 

教職員がチームでいじめに対応する

 

―― 自身も教師として教壇に立たれていました。この法案が通ることで、現場の教師にとってどういった効果があるとお考えでしょうか。

 

ひとつは人的配置のこと。いじめに関する専門的知識をもっている教職員の配置を促すことができます。

 

また、教育体制が強化できます。いじめ防止法案の制定によって、教職員はいじめ問題についての専門的な研修を受けなければならなくなるので、より専門性が高いかたちで、教職員がいじめに対応できるようになると思います。

 

それから一番大きいポイントは、クラスのいじめ問題で悩んでいる教職員に「あなたはひとりではない、ひとりで対処すべきではない」というメッセージを送ることができるということですね。

 

 

―― 教師ひとりでいじめの対処をおこなうのは難しいと実感された経験がおありだということですか。

 

そのとおりです。教壇に立ったばかりのときは、学校現場でなにが起こるかわかりません。しかし、すでに経験のある先生方に「こういうときはこういうふうにすればいい」と指示してもらえれば心の余裕ができる。わたしもこうした経験をとおして、「困ったら誰かに相談すればいい、ひとりで抱え込んだらダメだ」と気づきました。また、教職員がチームになることでより多くの生徒の情報を共有することもできます。

 

 

―― 担任の先生の「当たり外れ」でいじめが深刻化したりすることがないよう、解決のためにチームで取り組むことが重要であることは、徐々に共有されつつあります。

 

いじめには教職員がチームで取り組まないと意味がないとかつてから思っていましたし、今回の立法の際もその部分を非常に配慮しています。

 

人によってさまざまな価値観がありますから、ひとりの教師が自分の価値観だけで対処すべきではないと思います。自分の価値観が正しいとはかぎりません。

 

また、管理職を含めた教職員が生徒たちの情報を共有するだけでも、少し気になる生徒に声掛けをしたり、気をつけて見守るということが可能になります。「声掛け」と「見守り」というのは教育活動のなかでとても重要なことですので、これから与党としてのいじめ防止法案の条文化にとりかかっていく際にも、その点は重視していきたいと考えています。

 

それから、もうひとつ気をつけなければならないのは、加害児童と被害児童の保護者とも一定の情報を共有しながら、児童の指導をしなければならないということです。やはり子供同士だけでなく保護者も含めた状態で、お互いの事情を訊きながら問題に対処していかなければいけません。対処法はすぐに答えが出るものではありませんから、やはり継続的な学校側と保護者による「見守り」が必要になってきます。

 

こうした一連の流れを、いじめに対処する際のスタンダードにしていきたいですね。

 

 

hase

 

 

 

 

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