甲状腺検査の心理社会的な影響は?

東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、福島県は、原発事故当時18歳以下だった全県民を対象に、甲状腺検査(甲状腺がんスクリーニング;甲状腺がんの可能性の有無をふるい分ける検査)を行っています。

 

原発事故から9年が経過し、この甲状腺検査が、多くの問題を抱えていることが明らかになっています。そのひとつが、心理社会的な影響(検査を受診する当事者への、心理的影響や社会生活における影響)の大きさです。

 

福島第一原発事故が起きるまで、原子力災害後の甲状腺検査について、国際的にもデータはほとんどありませんでした。1986年のチェルノブイリ原発事故の際に、超音波機器を用いた甲状腺検査が行われましたが、検査の心理社会的な影響についての検討はほとんどされませんでした。

 

福島県立医科大学の緑川早苗准教授らの研究グループが、甲状腺検査の心理社会的影響について、受診者に生じる利益と害を分析しました。

 

・検査によって生じる害

 

(1)偽陽性(超音波検査でがんの可能性があるとされたものの、精密検査の結果、がんではなかったもの)→高頻度で起こる

 

(2)偽陽性診断を受けた人の心理的負担→高頻度で起こる

 

(3)過剰診断(見つけなければ一生気づかず、症状を呈することがなかった甲状腺がんを発見したもの)→高頻度で起こる

 

(4)過剰診断を受けた人の心理的負担→高頻度で起こる

 

(5)手術後の感染症や後遺症→まれに起こる

 

・検査で得られる利益

 

(1)検査によって防げる健康被害→あまり期待できない

 

(2)検査がなければ被る健康被害のすべてを漏らさず診断する→可能かどうか不明

 

(3)早期診断・早期治療で得られる健康面の利益→医学的な根拠なし

 

以上のように、甲状腺検査によって受診者に生じる害は、5項目のうち4項目が高い確率で起こり、一方の利益は、3項目すべてにおいて、起きる可能性が低かったり実際に得られるかが不明だったりすることがわかりました。

 

研究グループは、研究結果から、「原子力災害後の、子どもや若者を対象にした甲状腺検査については、心理社会的に多くの問題がある」と指摘しています。

 

参考リンク

「Psychosocial Issues Related to Thyroid Examination After a Radiation Disaster」(Asia Pacific Journal of Public Health)

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1010539516686164

 

 

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