旧ソ連諸国の権力維持の構造  

旧ソ連諸国の多くの国で目立つのが、自由の抑圧と権威主義的傾向である。

 

 

旧ソ連の権威主義的傾向

 

たとえば、世界各国の政治的自由度を測る上でしばしば言及されるフリーダム・ハウスの指標をみても、旧ソ連の自由の状況はきわめて由々しく、言論や信仰などの抑圧やメディアや政治的反対派への厳しい弾圧がつづいている。

 

 

表1 Freedom House の指標 旧ソ連諸国 2010 Freedom House HP(http://www.freedomhouse.org/template.cfm?page=1)より筆者作成

表1 Freedom House の指標 旧ソ連諸国 2010
Freedom House HP(http://www.freedomhouse.org/template.cfm?page=1)より筆者作成

 

 

旧ソ連の権威主義的傾向は多くの国でみられ、権威主義的指導者は彼らの権威を守るために自由の抑圧をしているといえる。

 

なお、権威主義とは、「限定された責任能力のない政治的多元主義を伴うが、国家を指導する精緻なイデオロギーを持たず、ただし特有のメンタリティーは持ち、発展のある時期を除いて、政治的動員は広範でも、集中的でもなく、指導者あるいは時に小グループが、公式的には不明確でありながら、実際にはかなり予測可能な範囲で権力を行使するような政治システム」である(旧ソ連についての権威主義についての詳細は、拙稿「アゼルバイジャンの権威主義の成立と変容」『国際政治』138号(2004年)を参照されたい)。

 

旧ソ連諸国の少なくない指導者が、ありとあらゆる手を使って、政治権力の維持を図っており、その手段も多様化してきた。そこで今回は、旧ソ連諸国の「権威主義的」といわれている指導者たちがどのような諸策によって、権力構造を長期、ないし永遠に維持しようとしているのかを各国別に概観し、その背景を考察したい。

 

 

ロシア ―― プーチン

 

ロシアでは、現在プーチン首相とメドヴェージェフ大統領の双頭体制が維持されているが、じつはプーチンが圧倒的な影響力をもっているという見解が強くもたれている。メドヴェージェフはプーチンに指名されて大統領になったが、メドヴェージェフは「つなぎ」とみなされる場合が多い。

 

ロシアでは、大統領の3選が禁じられており、大きな権力を握ったプーチンの2期目の期限が迫るにしたがって、ロシアの憲法を改正して、大統領の三選以上が認められるようになるのではないかとも予想されていたが、実際にはそのような憲法改正はなかった。

 

そこで、現在では、プーチンは自身に逆らうとは考えにくいメドヴェージェフを大統領に据えつつも、首相として実権を維持し、つぎの選挙でまた大統領になろうとしているのではないかとみられている。とくに、2008年11月に大統領の任期が延長される法案が下院を通過したことは、その予測を裏づける根拠とされた。

 

メドヴェージェフが同月5日の年次教書演説で大統領の任期延長(4年から6年へ)を提案すると、異例のスピードで憲法改正手続きが進められる一方、メドヴェージェフ本人は「自分には適用しない」と明言したのである。そのため、大統領の任期延長は、つぎに大統領に舞い戻るプーチンの長期政権のためのお膳だてではないかとみられている。

 

しかし、展望は複雑だ。なぜなら、メドヴェージェフ自身の再選への努力もみられるからである。たとえば、メドヴェージェフは、ロシア連邦を構成する民族共和国の大統領や州知事など、地方の首長には、新しく現代的な人材が絶対に必要で、若返りを進めなければならないと主張し、長らく在任している地方のトップの交代を推進する意向を8月30日のロシア国営テレビのインタビューで表明した。

 

地方の指導者は来年の下院選挙と2012年の大統領選挙を進める上で重要なカギとなるため、ロシアの「近代化」を進めているメドヴェージェフにとっては、地方の指導者の「近代化」を図り、自らの影響下にある人物をより増やせば、国民の印象もよくなり、集票も容易になる。一石二鳥なのだ。

 

また、反政府運動に対する当局の対応もソフトになり、それも今後の選挙対策ではないかとみられている。たとえば、モスクワ郊外の森林地帯を通ってサンクトペテルブルクまで建設される予定の有料道路の建設計画に対する抗議行動が最近、熱を帯びてきていた。環境保護派は森林破壊に反対し、人権活動家は政府が住民の声を無視したと批判したのだ。

 

以前であれば、こうした抗議行動は弾圧されたが、今回はプーチンが党首を務める統一ロシアが一部の建設準備の中止を求め、その数時間後にメドヴェージェフが中止の命令をだしたのである。このようなかたちを取れば、住民を納得させられる一方、住民の要求ではなく、与党の意見に配慮したということで、トップの体面も維持でき、一石二鳥である。つまり、それくらい現政権は次期選挙に対して敏感になっているといえる。

 

なお、専門家の多くは、この道路建設のためにすでに森林も伐採されており、ほとぼりが冷めたら予定通り建設は進められるのではないかとみているようだ。

 

ロシアでは、プーチンの権威主義体制がつづきそうだとする見解も多い一方、メドヴェージェフの動向も注目に値する。

 

 

 

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