ローコンテクスト社会で<通訳する>ということ――新潟県立大学「政治学入門」授業公開

新潟県立大学国際地域学部では、「政治学入門」はカリキュラム・ポリシー上「共通基幹科目」として位置づけられていており、1年生後期に開講されている。2年次進学時に、4つのコースの中から「国際社会コース」や「地域環境コース」に進む場合、必修科目になっている。

 

入門科目という特性上、「国際政治学」「比較政治学」「計量政治学」「比較地球環境政治・経済」など2年次以降の発展的学習に向けて土台を築くことを目標にしている。同時に、コース選択はどうであれ、幅広い「教養」のひとつとして履修する学生も対象にしている。そのため、政治学であれ法学であれ、「見知らぬ街」にたどり着いたときに、まず「地図」を手にする体験とはどういうことなのか、についてもメタ的に伝えたいと考えて、シラバスを作成し毎回授業に臨んでいる。

 

その一環として、外交という「別の街」の第一線でプロフェッショナルに仕事をしている田村優輝氏(外務省アジア大洋州局地域政策課課長補佐)に「出講/出向」していただき、2016年10月12日に特別講義を開催した。その全容をお届けする。なお、田村氏の発言は個人的見解を示すものであり、日本政府の公式見解を反映するものではない。

 

 

●田村優輝「ローコンテクスト社会で<通訳する>ということ―外務省通訳担当官としての経験を踏まえて」

 

 

浅羽 今日は特別講義と題してみなさんにお届けします。外務省から私の尊敬する友人、田村優輝さんにお越しいただきました。 

 

最初に30分間、田村さんから「ローコンテクスト社会で<通訳する>ということ―外務省通訳担当官としての経験を踏まえて」と題してお話いただきます。続く30分間は、主に私が質問役になって田村さんとクロストークをおこないます。最後の30分間は、みなさんから質問をしてもらって田村さんにお答えいただく時間になります。貴重な機会ですので、質問を考えながら、積極的に講義に参加してほしいと思います。 

 

ごく簡単ではありますが、田村さんのプロフィールを紹介します。いま、ここにいるみなさんの多くは1年生だと思います。1年生のみなさんにとっては15歳年上になります。2001年4月に東京大学に入学し法学部に進学した後、2005年4月に外務省に入省されます。2007年から2年間イギリスで研修をして、ケンブリッジ大学で修士号を取得しています。その後、アフリカのガーナ、ガーナチョコで有名なガーナで2年間勤務して、2011年に帰国し、それからは東京にある外務省の本省で働いています。東京では総合外交政策局海上安全保障政策室、大臣官房総務課を経て、いまはアジア大洋州局地域政策課で課長補佐としてご活躍中です。課長補佐というのは、外務大臣の国会での答弁の作成を、実は田村さんみたいな方が担っている。同時に、今日お話いただくように、総理大臣や外務大臣の英語の通訳を担当しています。

 

学生のみなさん、本当に貴重な機会ですので、卒業後、国際的な舞台で働いている自分の姿を思い描きながら、いろいろなインスピレーション、ヒントを得る貴重な機会にしてくれることを願っています。拍手で田村さんを迎えたいと思います。

 

(この間、田村が浅羽の日本語を英語に訳出する逐次通訳をおこなう)

 

 

外務省通訳担当官のスクリーニング

 

田村 いま私が実演してみせたことがまさに逐次通訳で、誰かが話したあとでそのまま英語に訳すというものです。

 

 

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まず、そもそも通訳はどういうことをしているのか、誰が担当しているのかという話をします。外務省の通訳担当官は、若手から中堅の外務省員が担っています。よくニュースで、総理大臣や外務大臣の後ろのほうに黒っぽいスーツを着ている男性や女性がいるのがちらほら見えることがあると思います。あれが通訳で、実は外務省員です。実は、外務省員は通訳だけを専門にしているわけではありません。本来は別の仕事があるのですが、「君に今度通訳してもらいたい」と言われて、普段とは異なる仕事として通訳をするわけです。

 

私の場合、いつもは外務省アジア大洋州局地域政策課というところで、本業は南シナ海問題やASEANに関する仕事をしています。ですが、同時に外務省の通訳担当官でもあるので、通訳のときは普段の仕事とはまったく関係ない世界にいるわけです。最近でも、国連関係で海外の要人が訪日し、日本の政府要人との面会時に私が通訳をした時には、自分の普段の仕事とは異なる語彙を用いました。

 

外務省において、通訳担当官がどのように選ばれるのかについて説明します。国家公務員総合職試験、専門職試験に合格し、官庁訪問という面接プロセスを経て採用された外務省員は、入省時に必ずひとつの言語を選択することになります。「それはあなたの専門言語だ」と言われます。私の場合は「英語、それもイギリス英語だ」と言われて勉強をしました。他にもメジャーどころでは中国語、フランス語、ロシア語、韓国語といった言語もありますし、より話者が少ない言語ですと、たとえばラオス語です。東南アジアのラオスという国でしか話されていませんが、外務省には10人以上ラオス語の専門家がいます。その人たちは、まず文字を一から学んで、ラオスに行き、現地の大学で勉強して、そのまま大使館で勤めて、人脈を深めて……ということをしているんです。このように「少数言語」といわれる言語に関しても、通訳担当官がいます。

 

もちろん、外務省員が全員通訳をするわけではありません。外務省員は非常にシビアに語学の能力をテストされます。若手のうちは、年に一回「統一語学試験」を受験する必要があります。これは全世界共通――どの留学先でも、東京の本省に勤めていても――で、語学ごとにまったく同じ問題です。その答えをかつてはカセットテープ、いまはICレコーダーに吹き込む。一発勝負であり、ズルしないようにテスト会場には試験官がいます。その後、そのICレコーダーは、外国人の講師がいる外務省研修所に世界各地から集められ、全員が同じモノサシで「あなたはこのくらいの語学のレベルですね」と厳密に測られるわけです。

 

外務省員は1-2年間東京で働いた後で、さきほど話したとおり各人に決められた国で2-3年間研修する機会が与えられます。大学や大学院で学ぶお金は公費負担です。国が払ってくれるということは、当然のことながら税金に見合うだけの仕事をしなければいけません。2年間終わって使い物にならないのでは話にならない。したがって一生懸命勉強して、外務省員として使い物になるだけの語学力を鍛えるわけです。統一語学試験の結果、「このレベルなら通訳として使い物になるかもしれない」と判断される成績を取ると、東京に戻ったあと通訳としてのトレーニングが始まります。

 

その後、まず、比較的年次の若い国会議員の方々が就く、政務官や副大臣などの通訳を担当します。そして、ある程度場数を踏んで「この人ならやっていけるかもしれない」と判断されたら、「じゃあ外務大臣通訳として試してみるか」となるわけです。私の場合、「副大臣の通訳を」と言われて現場に行ったら、見知らぬ人がいました。その人は実は、私のパフォーマンスを見るためだけに現場に来ていた、天皇陛下の通訳をしている大先輩でした。そうやってシビアに私のパフォーマンスを観察し、上でも使える人材なのかを測っていくわけです。私は幸運にもパスすることができて、今では総理大臣や外務大臣といった方々の通訳を担当しています。【次ページにつづく】

 

 

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