難民とデモクラシーを考える──デンマークの難民支援NGO「トランポリンハウス」

ヨーロッパをめざす難民

 

近年、ヨーロッパをめざす難民が後を絶たない。アフリカや中東、西アジア諸国から、戦争や政治的対立を背景に、安全な生活を求めてやってくる人の多くは、命からがら母国を脱出し、親戚や知人を頼りながらも偶然のようにホスト国にやってくる。

 

一時期を除き2000年以降、右派が強い政権が続くデンマークでは、EUの中でも厳しい難民政策で知られる。それまで年間4000人から7000人程度だった難民申請が2014年に倍増し、難民をめぐる世論は急激に硬化した。滞在許可を得て長期滞在する人の数は隣国ドイツやスウェーデンと比較すると極端に少ないものの、1980年代はイランやイラク、1990年代はアフガニスタンやパレスチナ、2000年代に入るとポーランドやルーマニアから断続的に移民は流入しており、2014年にはシリアやエリトリアなどからやって来た14,732人、2015年には21,316人、2016年には 6,235人が難民申請をしている。2017年7月現在、デンマーク国内には34の難民センターがあり、約8000人が滞在している(注1)。

 

(注1)REFUGEES.DK2017年6月20日付の記事による。

 

デンマーク・コペンハーゲン市ノアブロ地区にあるNGOトランポリンハウス(Trampoline House)は、滞在許可を求めて難民センターに滞在する人や長期滞在する移民に、情報と居場所を提供するコミュニティセンターである。

 

都市郊外の難民センターの難民たちは、将来の見通しも立たないまま、数ヶ月から数年にわたり、極端に行動を制限された生活を余儀なくされる。子どもたちは幼稚園や学校に通うものの、大人たちがすることはほとんどなく、ホスト国の制度や慣習を知る機会もないまま排外主義に晒されることもある。

 

トランポリンハウスはこのような状況を改善しようと、2010年、アーティストや学生、難民、専門家によって設立された。理事会を構成するのは弁護士や大学教授、アーティストなど7名で、プログラムコーディネーター、ファンドレイザー、PR、ソーシャルワーカー等の役割を担う専門スタッフが6名いる。学生インターンやボランティアも積極的に受け入れ、年間200名ほどの難民たちの活動拠点となっている。

 

シノドス・ラボがお届けする、「世界の市民活動」シリーズ第4回。今回はデンマークの難民支援NGO「トランポリンハウス」の活動をレポートする。

 

 

ワークショップ形式の授業

 

トランポリンハウスの活動の中心は、様々なワークショップ形式の授業である。法律、医療、心理相談、職業訓練、教育制度、社会福祉制度に関するカウンセリング業務のほかに、デンマーク語、英語、アラビア語、ペルシャ語、編み物と裁縫、合唱、ペルシャ語で読む聖書、女性クラブなど、数名から20名ほどが集まることのできるプログラムを定期的に開催している。

 

 

Counseling+by+Anna+Emy

(出典:Trampoline House HPより、カウンセリングの風景)

 

 

2016年2月に見学した英語の授業ではクウェート、イラン、パレスチナ、シリアから来た7人の男女がテーブルを囲んでいた。アフガニスタンで英語教師をしていたという男性が、この日の教師役を引き受け次々と質問をする。“How long have you been in Denmark?”, “How do you like living in Copenhagen?”, “What time did you have your dinner yesterday?”現在形と過去形の違いを中心に、母国で英語を学ぶ機会のないままやってきた人が文法を理解できるよう、男性は全員に質問を繰り返す。

 

英語は、外国人である彼らにとって、移動の先々で期待される言語であり、デンマーク以外の国に住むことになる場合にも必要となる。滞在期間が長く、デンマーク語を理解する人にとっても、英語がわかれば職を得る際に有利に働く。滞在期間が短く、デンマーク語をまったく解さないものの英語を話す人にとっては、教師役を補助し、持てる能力を発揮する時間となる。

 

郊外にある難民センターからコペンハーゲン市ノアブロ地区にあるトランポリンハウスまで移動するのは、交通費の高いデンマークでは経済的負担が大きい。活動を始めた当初、トランポリンハウスのスタッフは難民センターに滞在する人たちに無料の交通チケットを渡し、ハウスに来てもらおうと働きかけた。しかし、チケットをただ渡しても、街に出て買い物をするだけで帰ってしまったり、第三者に売り渡されたりしまうことがわかり中止した。無料というチャリティの論理が、難民たちに間違ったメッセージを与えていたのではないか、と創立者のひとりモーテン・ゴル氏は説明する。

 

難民たちは活動に参加し、能力を開発し、次のステップに進みたいと考えているが、援助されたいと思っているわけではない。現在では、トランポリンハウスでの仕事、料理、皿洗い、掃除、庭仕事、コーヒーカウンターの当番といったハウスの仕事をする代わりに交通費が無料になるというシステムに変更し、ハウスに通う人の数も増加した。多くの参加者が集まるようになったおかげで、新しい活動も生まれている。【次ページにつづく】

 

 

◆◆「αシノドス」購読でシノドスを応援!◆◆

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.228 特集:多様性の受容に向けて

・安藤俊介氏インタビュー「『許せない』の境界を把握せよ!――アンガーマネジメントの秘訣」

・【PKO Q&A】篠田英朗(解説)「国連PKOはどのような変遷をたどってきたのか」

・【今月のポジだし!】山口浩 ことばを「『小さく』すれば議論はもっとよくなる」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」第九回:こんなところでジャズ