「戦争」の裏を支える――「民間軍事会社」は何をしているのか

戦場での後方支援や要人の警護などを請け負い、イラクやアフガニスタンでその存在感を発揮した「民間軍事会社」。正規軍の代わりに戦闘行為を代行する団体と誤解を受けることも多いが、実は彼らの業務の多くは非武装で行われる。退役軍人などが中核を成す「民間軍事会社」はいったい戦場で何をしているのか。国際政治アナリストの菅原出氏に伺った。(取材・構成/増田穂)

 

 

後方支援や警備などを担当

 

――「民間軍事会社」とはどのような組織なのですか。

 

「民間軍事会社」という名称はメディアや研究者が便宜上使っているものであって、そのような正式な業種があるわけではありません。例えば「警備会社」であれば、警備事業法に基づいて特定の許認可を受けた会社が「警備会社」として警備事業を行うことが出来ますが、「民間軍事会社」については、同様の法的なステータスがあるわけではないのです。自らを「民間軍事会社」と呼ぶ企業もほとんどありません。ただ、元軍人たちが、軍隊で培った技能、知識やノウハウを生かして商業活動をしていたり、かつては軍隊だけが行っていた業務を請け負う民間業者が出てきたため、こうした会社が、「民間軍事会社」と呼ばれるようになりました。

 

 

――どのような業務を請け負っているのですか。

 

軍隊が海外で長期間活動する際には、大人数の軍人たちがそこで生活をし、作戦行動をとるわけですから、様々な「仕事」が必要になります。基地を設営し、食料や燃料などの生活物資や武器弾薬を滞りなく手配しなくてはなりませんし、基地の安全を確保しなくてはなりません。そうした基盤があって初めて軍隊は作戦行動をとることが出来ますね。正規軍はこうした実際の作戦行動を行うわけですが、現在ではその活動基盤である基地の運営や武器弾薬の手配から兵器システムの維持管理、基地の警備といった、いわゆる後方支援はほとんどが民間業者が軍との契約の下で行います。

 

 

――産業としてはどの程度のものなのですか。特にアメリカが有名だと聞いています。

 

軍の民間委託は多岐に及びますが、明確な一つの産業として位置づけられておりませんので、正確な数字はわかりません。また、米国が海外で軍事作戦を実施し、多くの米兵を派兵すればその分費用は増大しますので、そうした米軍の活動状況によっても変わってきます。

 

例えば2010年には米国はイラクとアフガニスタン両国に大規模な軍隊を派遣しており、その数は28万人くらいいました。その頃、軍と契約して働く民間の契約者、つまりいわゆる「民間軍事会社」で働く民間人の数はこの2ヵ国で24万2千人に上っており、この2ヵ国で軍が民間業者に支払った額は2000億ドルという莫大な額に上ったことで問題になりましたので、その規模感が理解できるのではないでしょうか。

 

実際にはイラクやアフガニスタン以外の世界中の米軍基地で民間業者が委託を受けて働いておりますし、軍だけでなく、米国務省と契約して大使館警備などを提供したり、中東やアフリカで民間企業向けに武装警備を行う会社もあります。「民間軍事会社」と呼ばれている企業は、軍隊だけをお客さんにしているわけではなく、他の政府機関や民間企業向けに様々なセキュリティ・サービスを提供しております。いずれにしてもこうした様々な分野まで含めて一つの「民間軍事」産業として認識されていませんので、全体としてどのくらいの規模になるのか、正確な統計はありません。

 

 

――今お話に出たイラクでは、民間軍事会社が戦後統治で重要な役割を担ったと聞いています。

 

そうですね。ただ、イラク戦争はかなり特異なケースだったと思っています。当時のブッシュ政権は、国際的にも国内的にもイラク戦争に反対する意見が多い中で戦争を開始しました。そうした背景もあって、当時のラムズフェルド国防長官は、「簡単な戦争なので小規模の軍隊で短期間で片付く」と説明して小規模軍隊による作戦にこだわりました。事実、フセイン政権は戦争開始からわずか一ヶ月で崩壊しましたが、一方でブッシュ政権はその後の占領計画や戦後計画を綿密に立てていませんでした。各地で武装反乱が起き始めましたが、当時のブッシュ政権は「簡単に片付く」として治安維持のために増派することをせず、治安が不安定な中ですぐに復興事業を開始させ、多くの民間企業や開発支援関係者をイラクに送ってしまいました。

 

通常は紛争が片付き、治安が安定してから復興事業のために民間人が現地に入るのですが、イラク戦争の場合は、武装反乱が拡大する一方で復興関係の民間人がどんどんイラクに入っていったのです。当然彼らの安全が脅かされ、警備が必要になったのですが、米軍は兵力が足りませんでした。米国大使館の警備さえ出来ない状況で、ましてや民間の建設会社や石油会社やNGOの警備などをする余裕はない状態だったのです。

 

にも関わらず、イラクでは終戦直後から破壊されたインフラ設備の復旧や資源開発プロジェクトなど莫大な復興事業の案件が立ち上がり、数多くの民間業者がイラクに渡ったため、彼らの安全を確保するというセキュリティのニーズが生まれました。そのニーズにこたえるべく「民間軍事会社」が次々にイラクで事業を始めたのです。

 

米軍はイラクの反乱部隊を鎮圧する作戦を行ったのですが、反乱部隊はゲリラ戦術をとり、米軍関係者だけでなく、復興事業のためにイラクで活動する外国人たちを狙った爆弾攻撃、襲撃テロなどを仕掛けたため、外国人たちの警護を請け負う「民間軍事会社」の元軍人たちが戦闘に巻き込まれ、「武器を持った民間人である元軍人」が戦闘をしている状態が生まれたというわけです。

 

正規軍の増派が政治的な理由から出来ない、より厳密にはしたくないという状況の中で、「民間軍事会社」を使うという選択がとられたということになります。【次ページにつづく】 

 

 

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