北朝鮮は国際的に孤立していない!?北朝鮮と深い関係をもつ国々は何を求めているのか

日本ではその国際的な孤立が取り上げられる北朝鮮。度重なるミサイル発射や核実験を受けて、国連安保理では制裁強化に向けた採決が行われた。一方で、制裁の実態を調査する国連の専門家パネルは、数多くの制裁逃れを指摘している。制裁の背後で北朝鮮と関係を続ける国々とその理由、今後の対策について、専門家の方々に伺った。2017年9月13日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「北朝鮮は国際的に孤立していない!?北朝鮮と深い関係をもつ国々は何を求めているのか」より抄録。(構成/増田穂)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

制裁に真剣なのは10か国

 

荻上 ゲストをご紹介します。北朝鮮の政治、経済、外交に詳しい聖学院大学教授の宮本悟さんです。よろしくお願いいたします。

 

宮本 よろしくお願いいたします。

 

荻上 今回の制裁、中身は一体どういったものになっているのですか。

 

宮本 当初は石油の全面輸出禁止など、かなり強い内容が入っていましたが、実際にはそうならず、当初の構想とは少々異なるかたちになりました。具体的な内容としては、石油輸出に関しては現状維持。つまりこれ以上増やさない。天然ガスの輸出に関しては、全面禁止です。また、北朝鮮からの輸入については、繊維製品の輸入が全面禁止になりました。

 

去年から行っている制裁もあわせて考えると、理論的には北朝鮮の輸出、外貨収入の90%をおさえることになったと評価されています。とはいえ、実際に90%おさえているかどうかは別の話になります。

 

荻上 これまでと比較すると、制裁は強化できたのでしょうか。

 

宮本 比較としてはそうです。ただ、想定していたほど強くはないと思います。

 

荻上 制裁が強すぎると暴発を招くのではないかと懸念する声もありますが、こちらについてはいかがでしょうか。

 

宮本 中国やロシアが強すぎる制裁に懸念を示しているのは確かです。しかし、恐らく中国やロシアが示しているのは一般的に考えられている暴発、つまり軍事的な暴走ではなく、一般の北朝鮮人が経済的に困窮し、難民となって中国やロシアに逃れて来ることでしょう。事実、90年代に北朝鮮経済が崩壊したときには、数多くの難民が中国に押し寄せました。

 

当時、北朝鮮は市民の経済的な困窮を背景にミサイル開発を進めました。中国からすると、あれだけ経済が崩壊してもミサイル開発を続けた以上、今回も制裁で経済を崩壊させたところで北朝鮮がミサイル開発や核兵器開発をやめることはないだろうと思うわけです。だからこそ、強い制裁には反対しているのだと思います。

 

 

宮本氏

宮本氏

 

 

荻上 そうした懸念を抑えての今回の制裁強化でしたが、効果が増したとは言いがたいわけですか。

 

宮本 言いがたいですね。もう一つには、そもそも制裁自体がそこまで強化されなかったことがあります。さらに、国連の専門家パネルの中間報告書発表によると、制裁に参加することになっている国々のうち、半分以上は実質的には制裁を実施していないことがわかってきています。制裁逃れですね。その分、制裁の効果は薄くなることになります。

 

荻上 全会一致で制裁が決まっても、賛同した全ての国が実施しているわけではないと。

 

宮本 そうなります。皮肉なことに、国連安保理非常任理事国の中には制裁決議に賛成しているにも関わらず、自分で制裁を破っている国がありました。ウガンダですね。世界規模で考えると、北朝鮮に注目して、制裁の必要性を強く意識している国々は限定的です。むしろ北朝鮮に対して危機意識を持っている国は本当にごくわずかなのが実態と言えるでしょう。北朝鮮がICBMを発射した日、私はトルコにいたのですが、その日にニュースでより多く取り上げられていたのはロヒンギャの問題でした。

 

荻上 実際にどれくらいの国が制裁に参加していないのでしょか。

 

宮本 正確な数字はわかりません。ただ、国連安保理は国連加盟国に対し、制裁措置の実施について報告するよう求めています。去年末までにその報告書をあげているのが193カ国のうち102カ国です。半分くらいですね。102というのも、やっと去年半分を超えたのであって、それまでは半分以下でした。北朝鮮への制裁は10年ほどになりますが、これまでずっと、半分以下の国々しか報告してこなかったのです。

 

荻上 報告書ではどのようなことを報告するのですか。

 

宮本 その報告もひどいもので、国内法で制裁措置を決めましたとか、関係省庁に制裁決議があったと通達しましたとか、その程度の内容です。私も実際の報告書を見たことがありますが、大体A4用紙1枚にもならない簡単なものです。英語で10行くらいというのもありました。

 

荻上 実効的な中身が伴うものと考えると、この102か国の参加も怪しいわけですね。実質的な効果を意識して制裁を行っている国は、全体の何割くらいなのでしょうか。

 

宮本 一生懸命やっているのは、10カ国くらいだと思います。その10カ国の中に中国も入っているんです。

 

荻上 あ、一生懸命のうちに?

 

宮本 ええ。中国やロシアを入れてそれだと思います。

 

 

武器輸出による経済発展

 

荻上 北朝鮮は核開発を進める一方で、経済発展も目指しています。現在北朝鮮はどのような経済成長モデルを描いているとお考えですか。

 

宮本 90年代までの北朝鮮は、大変閉鎖的な経済政策を行っていました。貿易も、外貨を伴わない物々交換方式の貿易だったので、貿易量が限られていました。結果として、北朝鮮が持つマーケットは非常に狭い範囲でした。その政策の愚かさに気づいたのが90年代です。90年代の経済没落はすさまじいものでしたので。

 

以降、自由貿易ではありませんが、それに近い貿易拡大を目指す方針に転換しました。これにより、経済成長が始まったわけです。北朝鮮にとっては、人々がお金を使って外国からものを買うこと自体が新鮮な経験でした。外貨を伴っての貿易を始めると、北朝鮮のものでも意外と外国で売れるものがあることに気づきます。それを売って、外貨収入を得て、そのお金で新しい工場設備を買い、生産を増やし、また製品輸出する、という流れで経済成長していきました。その中に、武器などの軍事関連のものが多く含まれていたのです。

 

荻上 どのような武器が輸出されているのですか。

 

宮本 一番多いのはロケット弾や小銃です。ただ、外貨収入で考えると、やはりミサイルは大きかったと思います。ミサイルによる外貨収入が90年代の北朝鮮経済を支えました。当時中東では北朝鮮のミサイルは飛ぶように売れていました。今でも中東では、イスラエル以外の国は北朝鮮のミサイルを備蓄しているはずです。

 

荻上 北朝鮮からミサイルを買う理由は何なのでしょうか。

 

宮本 やはり「売ってくれるから」というのが一つあります。そして安い。意外と、サウジアラビアやアラブ諸国連邦、カタールなど、アメリカと関係が深い国の中にも、北朝鮮のミサイルを買っていた国はあるんですよ。こうした国々は、アメリカから軍事支援も受けていて、アメリカとの関係も深く、しかもアメリカ軍の基地があるような国です。それでも北朝鮮からミサイルを買うのは、アメリカが売ってくれないからです。アメリカは、こうした国々にミサイルを売ると、中東の戦乱がさらに拡大する可能性があり、危険だと考えています。一方で、サウジアラビアとしては、隣国イラクで戦争が起こっていて、自分の国を守るために強力な武器がほしいわけです。そしたら北朝鮮が売ってくれた。だったら買う、ということなんです。

 

荻上 こうした市場は、今回の制裁があっても、広がっていくことになるのでしょうか。

 

宮本 どれだけアメリカや国連安保理が参加諸国に働きかけていくかによります。今北朝鮮から武器を輸入している国は、恐らくシリアやイランなどがメインと考えられます。それも大型のミサイルではなく、小型や中型のミサイルですね。イランなんかは自分たちの国でも大型ミサイルを生産できるでしょうから、技術を北朝鮮から導入することはあっても、わざわざ北朝鮮から大型ミサイルを輸入するようなことにはならないと思います。シリアが北朝鮮から輸入する小型・中型ミサイルの資金をイランが負担している可能性があると思います。

 

荻上 外貨獲得のため北朝鮮労働者も国外で就労するようになっていますが、それに伴う国外情報の流入について、北朝鮮はどう国内の統制をとっているのでしょうか。

 

宮本 北朝鮮にとっては頭が痛い話ですよね。だから完全な自由貿易には移行できないんです。しかし、貿易を認めなければ経済成長が見込めないから、貿易を拡大するために自由市場は認める、しかし価格に関しては国家が決める。国家は市場の動向によって価格を決める。中途半端な折衷案で、効率は悪いですが、統制と経済発展を見込むためにはここを妥協するしかない、という方針をとっています。

 

荻上 数少ない北朝鮮の情報の中でも、現地からはビルが立ち並ぶ風景や人々がスマートフォンを使う様子が伝えられ、国民の生活水準は上がっているようにも見えます。

 

宮本 ええ。よく発展は平壌だけだと言う声を聞きますが、どんな国でも首都だけ発展させるという器用なことはできません。首都が発展しているとその影響は地方にも波及します。北朝鮮全体のGDPが上がっていると考えていいでしょう。日本でも東京が一番発展しています。青森県や長野県に行って、これが日本の代表的な風景だというのはちょっと違いますよね。当たり前ですがそれは北朝鮮も同じです。

 

荻上 先日はアントニオ猪木議員も訪朝していますが、こちらはどうお考えになっていますか。

 

宮本 アントニオ猪木さんの師匠が力道山なのですが、彼がもともとは朝鮮生まれの方なんですね。力道山は朝鮮で15歳くらいで結婚して娘が生まれるのですが、妻子を置いて日本に来ました。娘さんが成長して結婚なさった方が北朝鮮の体育大臣になりました。今は辞められましたが、そういう関係もあり、アントニオ猪木さんは北朝鮮の訪問をして、力道山つながりの交流を進めています。

 

荻上 スポーツ外交ですね。

 

宮本 そうです。しかしこれは、核問題やミサイル問題とは別問題です。アントニオ猪木さんはこれまでも度々北朝鮮を訪問しています。しかし、その間に北朝鮮はどんどん核開発、ミサイル開発を進めてきました。今回アントニオ猪木さんが訪朝したからといって、北朝鮮の核開発やミサイル開発になんの影響を与えるわけでもありません。

 

今回の訪朝に限ってこれだけ目されたのは、これで何らかの外交的成果があるのではないかと、日本の社会が期待したからでしょう。しかし、猪木さん自身もそんなことを期待されても困ると思いますし、やはりそれは期待するべきではないのではないかと感じています。

 

荻上 出口が見えず、情報も少ない中で、猪木さんの会見だけ注目されてしまったのかもしれませんね。【次ページにつづく】

 

 

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