継続するグルジアとロシアの「冷戦」  

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継続するグルジアとロシアの「冷戦」

 

2008年のグルジアとロシアの戦争が停戦を迎え、2年以上が経ち、その話題も日本ではほとんど触れられなくなっている。しかし、彼らの「冷戦」状態はいまだつづいている。

 

停戦成立後、ロシアは欧米諸国にグルジアに兵器を売らないよう働きかけたり、南オセチアやアブハジアが「反グルジア」プロパガンダを世界に広げるために米国のPR会社を雇う費用を提供したり(なお、グルジアはグルジアで米国の別のPR会社を雇って反ロシアプロパガンダを有利に展開してきた)、サアカシヴィリとたもとを分かったグルジア人政治家(ニノ・ブルジャナゼ元国会議長、ズラブ・ノガイデリ元首相など)の取り込みを図ったりと、グルジアに対し、多くの敵対的な行動をとってきた。

 

そして、「戦争」での勝利につづき、「冷戦」の遂行でもロシアが優勢に立っているかのようにみえていた。しかし、ここ1ヶ月ほどの間には、グルジアの方がむしろ優勢に思われる出来事がつづいた。その動向を具体的に追ってみよう。

 

 

グルジアが北コーカサス諸民族に査証免除へ

 

グルジアは、サアカシヴィリ大統領による大統領令で、10月13日から「北コーカサス在住の非ロシア人に対し、グルジアのビザ」を廃止した。

 

査証を免除された北コーカサスの人びとは、今回のサアカシュヴィリの決定を大歓迎している。北コーカサスには、紛争により難民がグルジアに避難しているケースが多いだけでなく、歴史的な近接性により、グルジアに親族や家族、友人が居住しているというものが多くいる。そのような人びとは、グルジアとの往来の障害がなくなったと大いに喜んでいる。

 

また、グルジアへの出稼ぎや商業活動のチャンスが増えたことを喜ぶ者も多い。グルジアの国境開放は、「陸の孤島」と化している北コーカサス地方に新しい門戸を開くことになる。

 

だが、ロシア政府はこの決定に激しく反発し、グルジアのプロパガンダだと断罪した。ロシアのラブロフ外相は「文明的な国家は、このような問題を相互に検討する」として、グルジアが一方的に決定したことに不快感をあらわにした。通常、査証に関する問題は、国家間の合意にもとづくものであり、今回のような一方的な措置は外交儀礼に照らして異例のものである。

 

ただ、ロシアとグルジアの外交関係は2008年グルジア紛争後に断絶しており、交渉すらままならないというのも事実ではある。ロシアではスイス大使館がグルジアの利益を代表し、査証発行など業務を代表しており、ロシア人がグルジアを訪れる際は、スイス大使館か空港で申し込むことが必要だ。

 

この問題、じつは根が深い。ロシアとグルジアの関係が悪化したのは、親欧米派の大統領サアカシヴィリが誕生した2003年の「バラ革命」以後だという見方をされることが多いようだ。だが、じつはそれは間違いであり、「バラ革命」で失脚したシェワルナゼ前大統領時代にも、ロシアとグルジアの関係は極めて悪かった。

 

グルジアのアブハジア紛争や南オセチア紛争をロシアが支援したことや、ロシアがグルジアに軍基地をおいていたことなどにより、グルジアの反露感情は悪化していた。

 

グルジアはグルジアで、ロシアが主導するCIS安全保障条約機構から脱退し、反ロシア的なグループGUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドヴァで構成され、グループ名は構成国の頭文字をとっている。一時、ウズベキスタンも加盟していた)を結成して反ロシア色を鮮明に打ち出すなど、反ロシア的な姿勢を貫いた。

 

ロシアもそれに応えて、グルジアに送電を停止したり、CIS加盟国であれば免除される査証も、グルジア人に対してのみ「免除規定を一方的に無効にして査証を強要」する一方、アブハジアと南オセチアの住民には査証を免除としたり、とシェワルナゼ時代から多くの反グルジア的政策をとっていたのである(なお、グルジアはグルジア紛争後にCIS脱退を表明し、所定の事務手続き期間を経て、2009年に正式脱退した)。

 

このような経緯を見れば、グルジアがCIS加盟時代の査証問題に関する恨みを、いまロシアにつき返しているとも読めるのである。

 

 

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