奇跡のエジプト革命? その下部構造を考える

経済が豊かになれば、民主化運動が起きる。それはいわば、歴史の法則といえるのかもしれない。けれどもエジプトでの革命は、ほとんど奇跡的であったようにもみえてくる。エジプト社会の下部構造について、考えてみよう。

 

 

世界史を塗り替えるほどのインパクト

 

昨年末からアラブ諸国でつづいている騒乱は、世界史を塗り替えるほどのインパクトをもつかもしれない。今年1月14日、チュニジアで23年間続いた長期政権が崩壊すると、その余波はエジプトにも波及した。エジプトでは、インターネットや携帯電話を駆使する若い世代が中心となって民衆のデモがつづき、ついに2011年2月11日、それまで29年以上つづいてきたムバラク大統領の強権政治を崩壊させるにいたった。

 

一部では「ネット革命」とか「フェイスブック革命」とも呼ばれるこの革命は、情報ネットワークがもたらす政治的効果を、ドラスティックに示したといえるだろう。現在、その余波は隣国のリビアにも波及し、予断を許さない情勢である。

 

いったい、民主化の波は、他のアラブ諸国にどこまで及ぶのか。あるいは革命の波は、たんなる内乱状態をもたらすだけなのか。アラブ諸国における一連の「騒乱」が、名実ともに「革命」と呼ばれ、それにつづいて実質的な「民主化」が成功するためには、どんな条件が必要であろうか。社会構造に照らして考えてみると、民衆の側にもさまざまな条件が成熟していなければならないだろう。

 

ここで考えてみたいのは、そもそも、民主化運動を促すための国民的な条件とは、どんなものか、という問題だ。ソ連の民主化を予測した社会経済学者として知られるフランスのエマニュエル・トッドによれば、出生率が低下すると、女性の社会進出が進み、それが原因となって民主化運動が起こる可能性が高いという。もちろん、出生率が下がるためには、同時に、女性の識字率が高くなっているはずであり、そのためには当然、教育投資も増えているだろう。また、GDPも増えているだろう。民主化のためには、さまざまな要因が相互に関連しあって、その条件が熟していくのであろう。

 

ではさまざまな国際指標のなかで、エジプトの革命を条件づけた要因は、とりわけどんなものであろうか。ここでは素人的な分析として、OECDが提供する人間開発指標のさまざまなデータ、および、国連が提供する出生率のデータを用いて、日本、中国、エジプト、イラン、リビア、チュニジアの六か国を比較してみることにしよう。

 

 

民主化運動を促すための国民的な条件 日本、中国、エジプト、イラン、リビア、チュニジアにおける諸指標

民主化運動を促すための国民的な条件
日本、中国、エジプト、イラン、リビア、チュニジアにおける諸指標

 

 

OECDは毎年、教育や貧富の格差や女性の社会進出などの諸指標を総合した「人間開発指標(Human Development Index)」を作成している。2010年のデータによると、日本は169か国中、第9位。また最近革命が生じたチュニジアとエジプトは、それぞれ81位と101位であった。これに対して、民主化の進んでいない中国とイランは、それぞれ89位と70位であり、紛争中のリビアは53位である。

 

この「人間開発指標」の総合順位をみるかぎりでは、あまり人間開発の進んでいない101位のエジプトで先に民主化が起きた、ということになる。逆にいえば、それ以上のランクの国々では、民主化が起きる可能性があり、とくに53位のリビアは可能性が高いといえるのかもしれない。

 

つぎに「基本教育」(暫定的にこのように名づける。これは15歳以上の人が短い文章を理解するなどの基本的なリテラシーを身に付けている割合である)の指標をみると、1980年から2010年までの30年間で、日本とチュニジアを除く多くの国では、大幅な改善がみられることが分かる。

 

ところが他の国と比較してみると、エジプト人の基本的なリテラシーは66.4%という最低の水準である。この値は、国民の三分の一が、まだ基本的な教育を享受できていないことを示している。ただ、エジプトでは若者たちの基本的リテラシーが急激に改善されているということなのかもしれない。その場合には、基本教育は民主化のための条件となりえたかもしれない。

 

第三に、期待教育年数(子どもたちがどれだけの期間、教育を受けると予測されるかについての値)をみると、この点でもエジプトは、他国に比べて、もっとも低い水準であることが分かる。期待教育年数という点では、イラン、リビア、チュニジアの方が上位であり、この順位だけを取り出してみれば、イランやリビアでも、民主主義の政治を営むだけの、十分な教育資源があるといえるのかもしれない。

 

 

 

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