スウェーデンはいかに危機に対処してきたか――すべては自国の安全保障のために

2014年は第一次世界大戦の勃発から100年、そしてスウェーデンの外交政策にとって2014年は1814年以来200年にわたって戦争をしていないことになる、節目の年である。

 

トルストイがクリミア戦争での従軍経験を題材にした短編小説『セヴァストーポリ』は1854年の同地を舞台に物語が始まる。それから160年経ったいま、クリミアの地をめぐって、自国の安全保障か、それとも国際貢献かを天秤にかける議論がスウェーデンで沸き起こり、スウェーデン外交が大きく揺れている。

 

 

「中立」への道

 

スウェーデンの外交といえば、長らく「中立政策」の代名詞として語られてきた。しかし確固たる理念があって「中立」が導入されたものではなく、歴史の流れの中で国是として掲げられてきたものにすぎない。

 

スウェーデンの外交に初めて「中立」という概念が導入されたのは、1834年にスウェーデン王カール14世ヨーハン(Karl XIV Johan)が将来の英露間の戦争に備えて発した中立宣言であり、そこでの「中立」の核心とは「厳格で、非依存の中立のシステム」(system av sträng och oberoende neutralitet)とされた。なぜスウェーデンは「中立」を導入するに至ったのか。

 

 

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かつては強大な軍事力をもってバルト海周辺地域を支配したスウェーデンだが、“往年の宿敵”であるロシアに大北方戦争(1700-1721年)で敗れ、「バルト海支配権」(Östersjöväldet;「バルト海帝国」とも呼ばれる)を失った。さらにナポレオン戦争に際しては、その一端であった「フィンランド戦争」(1808-1809年)の結果、「フレードリックスハムン条約」(1809年)によりそれまで支配していたフィンランドをロシアへ割譲することを余儀なくされた。これはすなわち“宿敵ロシア”との緩衝地帯であるフィンランドとその豊富な森林資源を失ったことを意味し、スウェーデンにとっては死活的な問題であった。

 

さらに1814年1月の「キール条約」では1905年まで続くノルウェーとの同君連合を形成することになったものの、「スウェーデン領ポメラニア」(Svenska Pommern)などのドイツ領を失い、スウェーデンにスカンディナヴィア半島の「小国」へと転落したという意識が芽生える。「中立」という選択は、国力の低下に伴う国際情勢への適応という形で便宜的に「中立」いう選択がなされていったといえる。

 

こうした「小国」意識に加えて、スウェーデンと周辺諸国間との戦争の可能性が低下したことも「中立」を選択する上では大きな意味を持った。19世紀半ばにスウェーデン、デンマーク、ノルウェーの北欧三国を一体とする「スカンディナヴィア主義」(Skandinavism)と呼ばれる復古主義的な思想と密接に関連した同胞意識が育まれる。これによって北欧三国間で戦争が勃発する可能性は徐々に減少していった。また、軍事的緊張も生じさせた、19世紀末のノルウェーで活発となった同君連合からの分離独立の動きも、1905年に平和的に達成されたことで北欧地域での戦争の火種はなくなった。このように周辺地域の安定もスウェーデンが「中立」を選択する上で大きな影響を与えた。

 

 

スウェーデン外務省本館。右手の騎馬像はグスタヴ2世アードルフ(Gustav II Adolf)。(2010年筆者撮影)

スウェーデン外務省本館。右手の騎馬像はグスタヴ2世アードルフ(Gustav II Adolf)。(2010年筆者撮影)

 

 

 

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