国家のあり方を読み解く「未承認国家」という鍵

【シノドスに参加しよう!】

▶メールマガジン「αシノドス」

 https://synodos.jp/a-synodos

▶セミナー「シノドス・サークル」

 https://synodos.jp/article/20937

▶ファンクラブ「シノドス・ソーシャル」

 https://camp-fire.jp/projects/view/14015

ウクライナ危機やロシアによるクリミアの編入問題など、「国」をめぐる問題で揺れ動く世界。これは、竹島や尖閣諸島の問題を抱える私たち日本人にとっても、決して遠い問題ではない。不安定化した世界を読み解く上で、大きなカギとなるのが「未承認国家」という存在だ。この未承認国家の存在から国際問題の原点を探ろうとしたのが、今年8月に出版された『未承認国家と覇権なき世界』だ。著者・廣瀬陽子氏に、未承認国家の概要と、そこから見えてくる今後の課題点についてのお話を伺った。(聞き手・構成/若林良)

 

 

「未承認国家」とは何か

 

―― 「未承認国家」は日本人にとってはあまり聞き慣れない言葉ですが、「国家」と「未承認国家」の違いとは何なのでしょう。

 

ごく簡単に言ってしまいますと、他の国からの広い国家承認を受けているか、否かですね。例えば台湾は後者で、60年以上も台湾島を初めとした領土を維持しておりますが、国際的な影響力が強い中国が台湾の独立を認めていないため、未承認国家のままとなっています。中国も台湾も、領域、人民、権力という、国家の要件のほとんどを満たしているので、逆に言えば、国家を考える上では、国家承認の意味がすごく大きいといえます。

 

未承認国家についてもう少し細かく考えてみると、ある一定の「国境線」をもつ「領土」が確保されていて、政治が機能しており、かつ「国民」ないし住民が、納税など「国民」としての権利や義務を果たしていて、その状態が2年間以上保たれている、というのがおおよその目安になっています。英語ではUnrecognized Statesですので、非承認国家という研究者も少なくありません。他に英語で、De facto States(事実上の国家)という呼び方も広く使われていて、この概念を示す言葉は画一的ではないというのが現状です。

 

 

―― 台湾のような冷戦期に生まれた未承認国家と、ウクライナのようにソ連崩壊に伴って生まれた国家の違いは顕著なのでしょうか。

 

冷戦時代に生まれた未承認国家については、明らかにアメリカとソ連を中心とした、東西分裂が背景にあります。一方、冷戦後の未承認国家は、純粋なナショナリズムと周辺国の個別の利害関係がその成立に大きく影響しているように思います。

 

構図的には、冷戦後に生まれている未承認国家の方が複雑な気がしますね。ソ連解体をはじめ、冷戦の終結でこれまでの国家のシステムが変わることで、「自分のアイデンティティが脅かされる」と感じる人が分離の動きに出たことが大きかったと思います。それが力のない動きであれば、簡単に潰されてしまう訳ですが、一定の力のある人たちが集まり、ある程度のリソースも得られれば、新たな「国」が生まれ、承認を得ていないながらも存続することができてきた。構図としては、だいたいそのような感じであると思います。

 

 

―― ソ連の崩壊にともなって生まれた未承認国家の方が愛国心は強いと思われますか。

 

それはまた別の問題だと思います。

 

多くの場合、国家の成立は戦争を経ていますが、戦闘の中で醸成されるナショナリズムは極めて強いと思うのです。たとえば、台湾と中国を分けたのも、最初は政策の方針やイデオロギー的な差異だったはずですが、戦闘のプロセスで「台湾アイデンティティ」が芽生え、大きくなってきた。韓国と北朝鮮の場合も、南北それぞれのアイデンティティがどんどん強化されていったはずです。そういう意味では、愛国心の強さを冷戦期、冷戦後で比べることはできないのではないかと思います。

 

 

81Egl+QF+9L

 

 

領土保全と民族自決

 

―― 本書を読んで「領土保全・主権尊重」「民族自決」が恣意的に運用されてきたことで、問題が複雑になっていることがよくわかりました。

 

未承認国家に関わる国際原則として、「領土保全・主権尊重」と「民族自決」が対立する概念として、ずっと併存してきました。

 

実際のところ、基本的には、領土保全の原則の方が優位に立ってきました。小さい国がどんどん独立していくと、未成熟な国が増えるだけでなく、新たな国境がたくさんできて地域の秩序も崩れるなど、地域が不安定化しやすくなります。そのため、国家の数はむやみには増やさないという共有された方向性があるんです。また、国家の領土が保全されていないと、どの国も国家経営に常に不安を抱えることになります。

 

このように、領土保全の原則が基本的に最優先事項として認識されているのですが、その一方で民族自決という、様々な民族が他国や他民族に従属させられることなく、また干渉を受けることなく、自らの意志に基づいて、その帰属や政治組織、政治的運命を決定する集団的権利を持つという原則も存在します。

 

歴史的には、例外的に民族自決が優位になった時期がありました。第一次世界大戦の後、第二次世界大戦の後、冷戦の後になります。二度の世界大戦後は主に旧植民地が宗主国から独立したことで、また、冷戦後はソ連、ユーゴスラビア、チェコスロバキアの解体とそれらを構成していた国の独立によって、独立国の数は一気に増えました。またそれ以外でも、東ティモールや南スーダンのように、本国が認めたことによって新たに独立するケースもあります。でも、基本的には、民族自決の原則が尊重されることはまれなのです。

 

冷戦後の話で言いますと、ソ連などの解体にあたって、西側諸国はかつての連邦内の行政境界線を維持し、その境界線の変更は認めない、つまり、たとえばソ連の場合は15の共和国で成り立っていたので、それら15の共和国はそれぞれ独立するけれども、それ以上の境界線の変更は認めないということで合意しました。

 

「アゼルバイジャンやグルジアは独立したのに、なぜ同じコーカサスに位置するチェチェンは独立できないのか」ということをよく聞かれますが、それは、今申し上げた原則に基づけば当然のことで、前者と後者では行政の単位が違うからなのです。アゼルバイジャンやグルジア、またアルメニアという南コーカサス三国はソ連を構成していた共和国なのですが、チェチェンはロシアの中の自治共和国でした。つまり、行政のレベルが一段下になるわけです。

 

これはロシア人形のマトリョーシカを例に考えるとわかりやすいかと思います。マトリョーシカは胴体の部分で上下に分割でき、中にはより小さい人形が入っている。そしてその中には、またさらに小さい人形が入っているという入れ子構造となっているのですが、この例を当てはめると、ソ連という一番外側のマトリョーシカを1個開けて出てきた人形は、みんな独立できたけれども、その中の人形は独立できなかったというわけです。

 

そういう風に、「一個開けたところしか独立させない」という約束をしたにも拘らず、セルビアの中の自治共和国であるコソヴォについては特例として独立させる方針を取り始めた欧米は、やはりダブルスタンダードなのではないか。そういった考えは、必ず付きまといますね。

 

 

―― そもそも、民族自決を一時的に優先した時に、自治共和国の中にいた人たちはどうしてダメなのかという問題もあるでしょうし、マトリョーシカを、1個開けたところまでで止めるのは恣意的だなと……。

 

そうですね。もっと突き詰めると、ソ連時代に行われた国境線引きにも多く起因する問題といえるでしょう。中央アジアの地図を見ると、ソ連構成共和国の間に直線の国境があるのがご理解いただけると思います。それはアフリカと同じように、「上が勝手に引いた」境界線である証拠ともいえます。

 

そもそも現在の中央アジア諸国には、「国」という概念がなく、ソ連が国境線を引き、人々が何民族であるかを確定して、はじめて、「国」が成立したという経緯があります。たとえば、ウズベキスタンとタジキスタンの間に境界はなく、彼らはほとんど同じ民族として生活し、都市に住む人は「サルト」と呼ばれるくらいの状況でした。しかし、ソ連がウズベキスタン、タジキスタンの二つの共和国に分割するに際し、トルコ語系の言葉を話す人はウズベキスタン、ペルシャ語系の言葉を話す人はタジキスタンという形で住民を分け、領土にも線引きをしてしまったのですね。

 

つまり、それ以前は民族的な分け方はなかったにも関わらず、勝手な線引きをされて、「国」にされてしまったわけです。それは後に民族問題にも影響していくのですが、押し付けられた独立では、ナショナリズムはなかなか育たないですよね。

 

やはり国民国家としての伝統を欠いている国では、民族問題も生じやすい傾向があるように思えます。中央アジア諸国も、ソ連解体後に急に独立国として放り出されたので、自分たちのナショナルアイデンティティを作るために、いろいろ苦労しました。タジキスタンは長期化した激しい内戦を経験しましたし、キルギスでもウズベク人問題が影を落としています。また、ウズベキスタンは、ウズベク人でもないティムールを国の英雄として祭り上げて、ナショナリズムの高揚に一役買わせるなど、どの国も国民を1つにまとめるために、本当に涙ながらの苦労をしてきたのだと思います。【次ページにつづく】

 

 

1 2 3
シノドス国際社会動向研究所

vol.265 

・大賀祐樹「こんな「リベラル」が日本にいてくれたらいいのに」
・結城康博「こうすれば介護人材不足は解決する」
・松浦直毅「学び直しの5冊〈アメリカ〉」
・山岸倫子「困窮者を支援するという仕事」
・出井康博「「留学生ビジネス」の実態――“オールジャパン”で密かに進む「人身売買」」
・穂鷹知美「ヨーロッパのシェアリングエコノミー――モビリティと地域社会に浸透するシェアリング」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(9)――「シンクタンク2005年・日本」第一安倍政権崩壊後」