2015.06.29

太陽活動から天気を読みとけ!――宇宙気候学の挑戦

『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか』著者、宮原ひろ子氏インタビュー

情報 #新刊インタビュー#宇宙気候学#地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか

星空を見上げ「なんて自分はちっぽけなんだ」と思ったことはないだろうか。たしかに普通に暮らしていて宇宙との関わりを感じることは少ない。しかし、実は宇宙は自分たちの身近な生活に影響を与えているのかもしれない。そんな宇宙と地球とのつながりに迫る「宇宙気候学」を丁寧にわかりやすく伝える注目の本『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか―太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来』の著者、宮原ひろ子氏に宇宙気候学とは何か、宇宙気候学の今後について話をうかがった。(聞き手・構成/岩沢康宏)

地球の天気は宇宙とつながっている?

――「宇宙気候学」とはどのような学問なのでしょうか。

地球の気候の変動を、地球周辺の宇宙を含めた視点で理解していこう、という学問です。地球を取り巻く宇宙環境は、いつも静穏とは限りません。大きな変化が起きたら、それが地上の気候や天気に影響してくる可能性があるわけです。宇宙気候学では、その具体的な影響や物理メカニズムを明らかにしようとしています。

宇宙気候学の研究が発展していけば、現在では難しい半年後や1年後、もっと先の10年後20年後の気候予報も可能になるかもしれません。

――宇宙の研究というと自分たちの生活には関係ないものと思っていました。

宇宙気候学は、気象予報など私たちの身近なところにも役に立つ分野です。これほど生活に密接に関係してくる分野は、宇宙関係の研究の中では珍しいかもしれないですね。

――宇宙の影響とは具体的にどのようなものがあるのですか。

代表的なものは太陽の活動です。太陽の活動はダイナミックに変化していて、その変化には様々な周期性をあります。太陽の変化と地球の気候変動の周期を比べてみると、一致するところが結構多いんですね。

例えば、太陽は約27日かけて自転していて、活発だったり静穏だったりが27日周期で繰り返されます。この周期は太陽が持つ一番短い周期ですが、面白いことに世界中のあちこちで雷や雲の量の変化に27日周期が観測されているのです。ほかにも、200年周期や1000年周期といった共通の周期性があります。ですから、太陽の活動と地球の気候には何らかの関係性がある可能性が高いのです。

ただ、どうして太陽の活動が変化すると地球の気候に影響が出るのか、そのメカニズムについてはまだ詳しくはわかっていません。

太陽の影響で一番わかりやすいのは地球に届く光ですが、その光の量自体にはそれほど変化がないことがわかっています。そのため、光以外の影響について考えていく必要があります。

――光以外にはどのような要因が考えられますか。

私が注目しているのが太陽の磁場の影響です。太陽は強い磁場を持っている星で、その磁場が太陽の外に広く漏れ出していて、地球やその他の惑星もその太陽の磁場にすっぽりと覆われています。この磁場は太陽の活動によって大きく変化するので、それが地球の気候にも影響を与えている可能性があって、それを重点的に調べています。

――太陽の磁場が変化するとどのような影響があるのでしょうか?

宇宙にはたくさんの恒星があって、銀河系だけでも約2千億個の星が存在しています。それらは核融合の材料が尽きると死んでいきますが、大きな星は死ぬときに大爆発を起こします。そのときに生じる衝撃波で電気を帯びた粒子が加速されて宇宙放射線となります。こういう、宇宙放射線や宇宙線と呼ばれる粒子が、宇宙の中を飛び交っているんですね。

この放射線は当然地球にも降り注いできます。何もない状態だと大量に放射線が地球に入ってきてしまいますが、地球は太陽の磁場に包まれているので、それがシールドの役割を果たして放射線の侵入をある程度防いでくれています。

ただ、太陽の活動が弱くなると太陽の磁場も弱くなって、その隙につけこむような形で、よりたくさんの放射線が地球に入り込んでしまいます。その放射線が地球の大気に影響しているのではないかと考えられています。

――どうして宇宙放射線が気候に影響を与えるのですか。

まだ分かっていない点が多いのですが、放射線が雲をつくっているという説があります。容器に大量の蒸気を閉じ込めて過飽和にしておいて、そこに放射線を入れると、放射線の通り道に飛行機雲のような白い霧ができるという現象が昔から知られています。

これに似たことが大気中でも起きている可能性があるわけです。雲が増えると、太陽光が遮られますので地表は寒冷化します。ただ、宇宙線と雲の関係性はとても難しく、詳しいことはまだよく分かっていません。

最近では、欧州原子核研究機構(CERN)で大型加速器を使った実験が行われるなど、本格的に宇宙放射線と雲のでき方の関係を明らかにしようとする研究が進んできています。こういった研究が進んで詳しいことが雲の明らかになってくれば、宇宙気候学も大きく前進するかな、と期待しています。

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変化する太陽

――太陽の活動はどのように変化しているのでしょうか。

太陽の活動はアップダウンを周期的にずっと繰り返しています。その周期も様々で、11年周期、88年周期、200年周期、1000年周期、2000年周期があります。基本周期として、約11年のリズムがあり、その強弱のピークに数十~数千年周期のゆるやかな変動があるというかたちです。

太陽の周期は、太陽の表面に出現する黒点と呼ばれる領域の数の増減に見て取れます。黒点は強い磁場が太陽の表面に上がってきて、太陽の熱いプラズマが遮られることで温度が下がり、暗く見えている部分です。

太陽は全体としてみれば棒磁石のように南北にN極とS極極を持っていますが、そこに小さな粒状の磁石がたくさんくっついているような状態になります。イメージとしては、肩こりの時に貼る磁石入りの絆創膏のようなものですね。黒点は局所的に強い磁場を持っていますので、太陽表面での活動の活発化を引き起こします。

黒点は、数年をかけて数が増えていき、ピークを迎えると、また数年をかけて数を減らしていきます。この増減の周期がだいたい11年で、この11年周期のピークのときの黒点の数に200年や1000年の周期があります。

この黒点数の周期の他に、太陽の磁場の反転にも周期があり、これが22年周期で起こります。

――磁場の反転とはどういうことでしょうか。

先ほど言いましたように、太陽は棒磁石のようになっていて、南北の極域にS極とN極があります。地球の場合は、ここ数十万年間にわたってずっと、北極にS極、そして南極にN極がありますが、太陽の磁場は11年ごとにS極とN極とが反転してしまうんですね。

黒点の数が11年周期のピークを迎えたときに、太陽のN極がある極域側に黒点のS極がどんどん運ばれて、一方でS極がある極域側に黒点のN極がどんどん運ばれて、というようなことが起こり、しばらくすると磁場が反転しまいます。

――磁場の反転も、地球の気候に影響を与えるんですか。

その可能性が高いことが最近分かってきたんです。地球の気温や降水量などの気候データを見てみると、22年周期というのが頻繁に観測されます。これはとても面白い結果なんですね。

というのも、太陽の光量や紫外線の変動にはこの22年周期はなくて11年周期しかないんです。ただ、磁場には22年周期があるので、磁場によって遮られている宇宙放射線にも22年周期があります。地球の気候に22年周期があるということは、磁場や宇宙放射線が、太陽と地球を密接につないでいる可能性が高いんです。

まだまだ若い学問、宇宙気候学

――宇宙が地球の気候に影響を及ぼしているという考えは昔からあったのでしょうか。

太陽の影響が気候に影響しているのではないか、という考え自体は数百年前からあったんですが、1980年代に人工衛星で太陽からの光の量を正確に測ってみたらそれほど変わっていないことが明らかになりました。これが衝撃的な発見で、光の量が変わらないのなら、太陽が地球の気候に影響することはないだろうという意見が主流になりました。

だから、20年くらい前までは、この宇宙気候学という分野はほとんど注目されることはなくて、半分エセ科学のように思っていた人も多かったと思います(笑)。

――エセ科学ですか……、宇宙気候学が注目を集めるきっかけはあったのでしょうか。

1997年に数十年分の宇宙放射線の観測データと、人工衛星で観測した地球の雲の量のデータを比較する研究があり、両者に相関がみられるという報告されて議論を呼びました。ただし、本当に関係性があるのかは決着がつきませんでした。

でも2001年に、大昔の気候変動と太陽の活動との相関を厳密に調査する研究が行われ、1000年周期や2000年周期といった長いスパンでも太陽活動の周期と気候変動の周期が対応していることが明らかになったんです。

この発見は太陽と気候のつながりを示す決定的なもので、それ以降、どうやって太陽が地球に影響しているのか、そのメカニズムを探る研究が盛んに行われるようになりました。

――過去の太陽の活動や気候の変化はどのように調べるのですか。

観測データは長くても100年程度しか残っていません。それより前のデータを手に入れるためには、自然に残っている古木や地層などから調べることになります。

例えば、木の年輪をみてみると、その幅が太かったり細かったりしているところがあることがわかります。これは、その年の気温が暖かかったのか寒かったのかが影響しているので、年輪を調べることで気候情報を得ることができます。

また、年輪の中にある同位体の量を調べることで、降水量や太陽の活動に関する情報が得られます。

私も屋久島に残されている切り株からそういったデータを手に入れて、研究に使っています。屋久島の樹木には、1年ごとに2000年分のデータは入っているので、貴重な試料であるといえます。

また、地層に埋まっている古い木を用いると、もっと昔の、1万年前や2万年前といった時代のデータを得ることもできます。

その他に、サンゴや南極の氷を使って調べることもできます。

面白いものでは、古い文献に記されている花の開花日を追うことで、その当時の気候状況を復元する研究も行われています。植物の中で起きる反応は、気温によって決まっているので、正確な気候情報を手に入れることができます。

宇宙気候学で地球と宇宙の謎を解く

――本の中には「地球史の謎は解けるか?」というトピックがありましたね。

地球の歴史をみていくと、かなり大きな気温のアップダウンがあったり、生物種数が周期的に増減したりしていて、この現象の原因を地球の中だけで考えるのは難しいんですね。でも、その時代の地球を取り巻く宇宙環境、具体的には太陽系が属している銀河系に目を向けると、ひょっとしたら、すっきりと必然的に解けるかもしれない、というわけです。

銀河の中には「腕」と呼ばれる明るい領域と、暗い領域があります。明るいところには太陽のような恒星がたくさんあり、暗いところには死んだ星の残骸が漂っていて、その物質を材料にまた新たな星を生まれていきます。

私たちが住む太陽系は銀河の中を猛スピードで周回しているので、死んだ星の残骸に近づいたり、場合によってその中に突っ込んだりしてしまう可能性があるんです。そうなると、桁違いの量の放射線が地球に降り注いだり、塵が降り注いだりして、地球に激しい変化が生じることが考えられます。

先ほどの銀河の暗い領域、腕と腕のあいだの領域を、太陽系は約1.4億年の周期で通過していると考えられていますが、実は、海底の地層から得た海水温のデータを見てみると、地球上でも1.4億年周期で変化があったということがわかっています。

――宇宙の研究というと天文学がありますが、宇宙気候学とどう関係しているのですか。

天文学は、宇宙で発生しているX線や電波などの光を望遠鏡で観測して、天体や銀河がどのように生まれて進化するか、というようなことを研究する学問です。最近では、銀河系の中に、地球に似た惑星があるかを探す研究も盛んに行われています。

こういう「第2の地球」を探す研究にも、宇宙気候学は大きく関連してきます。惑星に生命がいるかどうかは、その星の住みやすさによって決まるからです。

例えば、太陽のような恒星に近すぎたら暑すぎてしまうし、逆に遠すぎたら寒すぎて生命は生まれないんですね。地球はちょうどいいところにあったので生命が誕生し進化することができました。だから、基本的には、惑星が公転している恒星の明るさ、それから恒星と惑星の距離という2つの要因によって住みやすさが決まってきます。

でも、これに宇宙気候学の観点を加えると、恒星の磁場がどうなっているのか、そしてその恒星系が銀河のどのあたりにいるのかも、住みやすさを知る上で重要なポイントになってきます。地球外に生命体を探査するとき、本当に幅広い知識が必要になってくるんです。とても楽しみな分野です。

――本の中の余談として、研究したいことと研究に用いる手段が自分に向いているかは一致しないということが書かれていましたよね。

物理学科の4年生になって研究室を選ぶことになったときに、ぼんやりと、天文台に籠って宇宙の観測をしてみたいなと思ったんですが、研究室をいくつか見学したら、みんな望遠鏡づくりをしているんですよ。天文学の研究というのは、半田ごてを使って電子回路の工作をして、カメラを作って、という世界なんですね。

それを見たときに、私には天文学は合わないな、と思った経験があります。もともと化学実験は好きで、木の化学分析から宇宙の研究ができる研究室があったので、そこでこの研究を選びました。

宇宙気候学の今後

――宇宙気候学は今後どのように役に立っていくのでしょうか。

地球史の解明や「第2の地球」探しにも役に立つとは思いますが、やはり気候予測の面で大きく貢献できるだろうと思います。

特に農業の分野で非常に役に立つと思います。気温が1度下がると、植物が生育できる期間が2~3週間短くなって、収穫できる作物の量が少なくなってしまいます。1991年にピナツボが噴火したとき、その影響で日本では1993年に気温が2度下がりました。日本中で米不足になりタイなどからお米を輸入する事態になったことを覚えていらっしゃる方も多いかと思います。

太陽の活動が下がったとき、北半球の平均としては0.6~0.7℃程度しか気温が下がらないんです。ただ、場所によっては2.5℃もの気温の低下が起こります。北ヨーロッパやカナダや日本は影響が出やすい地域だということも分かってきています。

太陽の活動が200年周期の底を打った状態になると、気温が下がった状態が数十年間続くことになりますので、農作物への影響はかなり大きいものになると思います。

実際に、17世紀に太陽の黒点がゼロの状態が50~60年の間続いたときには、かなり深刻な影響がでたという記録が残っています。気温が下がって、北ヨーロッパを中心に小麦やジャガイモがとれなくなってしまった。直接的に関連しているかはわかりませんが、栄養失調による免疫力の低下で伝染病が流行って、各国で数百万単位の死者が出る結果となりました。

――気候予報に取り入れられるために解決すべき課題はなんですか。

課題はたくさんあります。

例えば計算の問題があります。現在、1つの積乱雲をコンピューターの中に作って宇宙放射線の影響を追うところまでは、できるようになっています。スーパーコンピューターを使って、雲の中にある水滴1つ1つについて運動方程式を解いているのです。ただ、莫大な計算量ですから、地球上のすべての雲について同じ計算をして気候予報まで持っていくのは、まだ難しいのが現状です。

また、太陽の活動の予測がまだ難しいという点があります。太陽の活動と気候の関係性が明らかになったとしても、気候予報に組み込むためには、まずは太陽の活動自体を正確に予測できるようにならなければなりません。そういった太陽物理に関する研究も、今後ますます進めていかなければなりません。

また、宇宙放射線の影響を受けやすい場所がどこで、どれくらい影響しているのかを調べる必要もあります。

――宇宙放射線の影響は場所によって違うのですか。

宇宙放射線が地球に降り注いでも、地球全体で雲が増えるというわけではありません。地球には放射線への感度が高い地域があって、そこで作られた雲が風に乗って移動して、世界各地に影響していくんですね。

おそらく、赤道が宇宙放射線の影響を受けやすいんじゃないかと思っていて、そこの雲のデータを詳細に調べる必要があると考えています。

――なぜ、赤道で影響が出やすいのでしょうか。

赤道と極域では、宇宙放射線の量だけ考えると、極域の方がたくさん降り注いでいるんです。これは地磁気が宇宙線を遮る度合いが赤道の方が大きいためです。ですから、赤道の方が不利です。ただ、雲の材料となるような水蒸気や、植物プランクトンが出すエアロゾルと呼ばれる物質はむしろ赤道に豊富に存在しているんですね。

それらの物質のせいで赤道では放射線に対する感度が高まっていて、かろうじて入り込んでくる宇宙放射線と反応して雲を作っているんではないか、と考えています。

いま太陽で特別なことが起きている?

――本の中で、今現在の太陽の活動は特別な状況にあると書いてありましたね。

2008年12月、11年周期の谷を迎えた時に、太陽の活動が100年ぶりか200年ぶりという弱さまで落ち込みました。11年周期のピークにあたる現在は黒点数が増えていますが、前回のピーク時の半分程度しか黒点が出ていない。全体的にすごく活動が弱まっているんですね。今がピークなのでこれからは下がる一方です。今後、太陽の活動はかなり弱くなっていくと考えられます。

――太陽の活動が弱まるとどのような影響が考えられますか。

太陽の活動が大きく低下した直後の2009年から2010年にかけて、世界中で記録的な豪雨や積雪、気温の低下が観測されました。今後、太陽の活動がどの程度まで落ち込むのかわかりませんが、数年間をかけて太陽活動が下がっていったときに、徐々に気候にも変化が見え始めてくる可能性はあります。

――宇宙気候学の研究においても重要な時期ですね。

そうですね。200年に1度の特別な太陽の状態を見られるチャンスなので、太陽の物理も大きく進むでしょうし、この10年で宇宙と地球の気候との関係をつなぐ重要なデータがたくさん出てくると思います。

プロフィール

宮原ひろ子宇宙気候学

武蔵野美術大学 教養文化・学芸員課程研究室 准教授。名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了。東京大学宇宙線研究所などを経て現職。専門は、宇宙気候学、宇宙線物理学、太陽物理学。

 

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