2019.01.31
中欧における「法の支配の危機」――EU内部に深まる亀裂
優等生から問題児へ?
中欧諸国は冷戦後、競い合うようにしてEUへの加盟を果たしてきた。とりわけ2004年にEU加盟を達成したポーランドとハンガリーは、中欧の「優等生」とみなされ、旧共産主義諸国の体制転換のサクセスストーリーを体現する存在であった。EU加盟実現後は、EU内部での地域間格差を解消するための「構造基金」をはじめとした多くの支援を受け、着実な経済成長を遂げてきた。
とくにポーランドに関しては2009年に、「EU大統領」とも称される欧州理事会常任議長のポストに、元首相のドナルド・トゥスクを就任させるに至っている。中欧出身の政治家がEUのトップに就いたことは、冷戦後のヨーロッパにおけるポーランドの地位の上昇を強く意識させる事例となっていた。
しかし2010年以降、ポーランドとハンガリーは、EUの基本的な価値観とは相いれないさまざまな改革を推し進め、今ではヨーロッパ統合を揺るがせかねない「問題国家」とみなされるようになった。法の支配に対するあからさまな挑戦を加盟国がつきつけることは、これまでのヨーロッパ統合の歴史では見られなかった現象である。以下ではこの両国に焦点を当て、両国がヨーロッパ統合に突きつける諸問題とはなにか、またEUはこの問題にどのように対処しようとしてきたのかを概観する。
ハンガリー:憲法改正と「ストップ・ソロス」
まずはハンガリーの状況から考察してみたい。2010年4月、「フィデス・ハンガリー市民連盟(以下「フィデス」)」が8年ぶりに政権の座に就き、オルバン・ヴィクトル党首が同国首相に就任した。オルバンは1998年から2002年にも同国の首相を務めており、当時のハンガリーをEUおよびNATO加盟準備に向けて牽引した実績を持つ。当時のフィデスは中道右派であったが、2002年の下野後ほどなくして急速に極右的な性質を強めるようになっていった。
そして、政権に返り咲いた直後から8年にわたり、EUの基本政策とは相いれない改革を実施していく。2014年7月には悪名高い「非リベラル民主主義(illiberal democracy)」演説をぶち上げ、「非リベラル」という用語の知名度を一気に高めた。しかし国内での支持は高く、2018年4月の選挙では圧勝し、三選を果たしている。
オルバン政権は政権復帰後すぐに、「共産主義時代の負の遺産を払しょくするため」と称して急進的な憲法改正に着手した。しかしその内容は、憲法裁判所の権限の大幅な縮小、裁判官の定年年齢の引き下げ、国営メディアによる選挙キャンペーンの独占など、法の支配や報道の自由を侵害する内容を含んでいた。EUや米国による強い批判も空しく、同憲法は2012年1月に発効した。
さらに近年では、表現や学問、結社の自由を制限する方向で進む国内法の修正・制定が深刻化している。オルバン政権の一連の政策の主なるターゲットは、ハンガリー系米国人の投資家であるジョージ・ソロスである。オルバン政権は、ソロスがハンガリー国内に設立した大学やNGOは、ハンガリーをグローバリズムの波に巻き込み、国家のアイデンティティを危機にさらすと主張して、敵対的な措置を次々と打ち出してきた。
なかでも物議をかもしたのが、ソロスが設立した中欧大学(CEU)の閉校問題である。CEUは、米ニューヨーク州で認可を得た大学院大学として、1991年にブダペストに設立された。ハンガリーと米国の双方の学位が取得可能であることが売りのひとつであり、授業はすべて英語で実施されてきた。中欧のトップクラスの大学のひとつとしての評価を確立していた。
しかしオルバン政権は2017年4月に、いわゆる「高等教育法」を改正し、外国が設立した大学に対する諸規則を大幅に厳格した。これに基づき、CEUは2019年1月1日以降、新規の学生を受け入れることができない見通しとなった。CEUは、同校はすでにハンガリーの法律はすべて順守していること、こうした措置はCEUをターゲットとした恣意的な措置であることなどを挙げて反発しつつ、オルバン政権と数年にわたる法廷闘争を重ねてきた。しかしCEU側は2018年12月3日、同大学の研究・教育拠点の多くをウィーンに移転することを正式に発表した。
さらに、オルバンが2018年4月に地滑り的勝利で三選を果たすと、同国議会は同年6月に、いわゆる「ストップ・ソロス法」を採択した。これにより、難民申請希望者を支援する弁護士やNGO等に対し、刑事罰を科すことが可能となった。この措置は、ソロスがイスラム教徒のハンガリー移住を支援しているとの政府の主張に基づくものである。
また2018年8月には、ソロス氏が設立し、主に中・東欧諸国における民主化や市民社会の育成等をめぐる諸問題に取り組んできた助成団体で、やはりニューヨークに拠点を有する「オープン・ソサエティ財団」も、ハンガリーにおける事業継続が困難になり、ドイツのベルリンに活動拠点を移していた。同財団はヨーロッパ各国に拠点を有していることもあり、財団全体の活動が大きく損なわれたわけではない。しかし、CEUとオープン・ソサエティ財団という、中欧の知を代表する2つの組織が1年を経ずしてブダペストから撤退することになったことは、ハンガリーの国際的評価を大きく損なうものである。また、ソロスに対する攻撃は、ハンガリー国内における反ユダヤ主義の傾向を増長しているとの指摘もあり、深く懸念されている。
ポーランド:度重なる司法介入
一方ポーランドでは2015年10月、保守系の「法と正義(以下PiS)」が8年ぶりに政権を奪取し、ベアタ・シドゥウォとマテウシュ・モラヴィエツキという2名の首相を経験した。PiSは政権について間もなく、新法の制定や人事を通じて、強力に司法への介入を進めてきた。この一連の措置は、共産主義時代の手法を一掃するためであり、いわば同国司法制度の近代化のための方策であるというのが政権側の主張であるが、その手法はEUからの強い懸念を呼び起こすものとなっている。
同政権は2017年中には、最高裁判所の判事任命に関する改正案を次々と成立させた。判事の定年を70歳から65歳に修正し、大統領の特別な許可がなければ判事としての任務を継続することができなくなった。このため、約3割にわたる最高裁判事が退職を余儀なくされることとなった。これに加え、新たな判事の任命には政権の意向が強く反映されていると指摘されていた。EUからの批判に対し、PiS政権は「どの国もそれぞれの伝統に合わせて司法制度を形成する権利がある(モラヴィエツキ首相)」と主張してきた。
これ以外にもPiS政権は、公共放送のトップ人事を掌握するための改正や、妊娠中絶禁止の厳格化など、メディアや表現・言論の自由に逆行するようなさまざまな政策を打ち出してきた。さらに、「ポーランドの対外イメージを守るため」との理由から、同国が第二次世界大戦中にホロコーストに加担したと公に主張することを禁止する法案も2018年2月に成立させ、米国やイスラエル、ウクライナなどの諸国から強い反発を受けた。
こうした動きに対しては国内的な反発も根強く、2017年以降は野党や市民グループの呼びかけでデモも頻発した。その一方で、2018年11月の同国建国記念日にはPiS政権主導で大規模な記念集会が実施され、一部報道によれば25万人が参加したともいわれているが、このときの集会には極右政党も組織的に参加していたともされ、政権と極右勢力との接近も露呈する結果となっている。
決め手を欠くEUの対応
EUの基本条約であるリスボン条約第2条には、EUが「人間の尊重、自由、民主主義、平等および法の支配の尊重、ならびに少数者に属する人々の権利を含む人権の尊重という価値を基礎にする」とある。すなわち、EU加盟国である以上、高いレベルでの民主主義を維持させていく義務があるというのが当然の前提となってきた。
しかし、2010年代に入って急速に非リベラル化を進めるハンガリーやポーランドに対し、EUは決定的な対抗手段を欠いていたというのが実情である。そもそも、体制転換以降の中欧諸国は、上記のリスボン条約第2条の諸原則や規範を十分に理解したうえでEU加盟を実現したものと理解されており、それとあからさまに逆行するような改革を進める加盟国が登場するなど、EUにとっては完全に想定外だったのである。
EUは2014年3月に「法の支配を強化するための新たなEU枠組み」(法の支配枠組み)を新設し、この枠内でハンガリーやポーランドとの対話を模索していたものの、EUとこの両国との関係は冷却化の一方を辿っていた。2015年にはユンカー欧州委員長が会合開始前にオルバンを出迎えた際、「やあ独裁者さん、こんにちは」と皮肉たっぷりに挨拶をしたと報じられている(注1)。いかに冗談めかしていたとはいえ、EUの行政府のトップが、加盟国の指導者を面と向かって「独裁者」呼ばわりすることは異常事態であり、EU内部の亀裂の深刻さを露呈したのである。
(注1)“Juncker greets Orbán with ‘Hello dictator!,” Euractiv, 23 May 2015. https://www.euractiv.com/section/justice-home-affairs/news/juncker-greets-orban-with-hello-dictator/
こうした状況に対し、EUは主に3つの手段で対処しようとしてきた。
一つ目は、リスボン条約第7条の発動である。
同規定では、ある加盟国がリスボン条約第2条の価値に対して「重大な違反が生じる明確な危険」があると認定したり(第1項)、「重大かつ継続的な違反の存在」が認められると決定したりすることができる(第2項)。こうした決定がなされた場合、加盟国の全会一致が得られれば、議決権の停止を含む権利の停止を決定することができる(第3項)。
EUは両国に対して複数にわたる是正勧告を行ってきたが、両国の状況はほとんど改善せず、両国における法の支配への「体系的脅威」は増幅されているとの認識を強めていた。この結果、ポーランドに対しては欧州委員会が主導して2017年12月に、ハンガリーに対しては欧州議会が主導して2018年9月に、それぞれ第7条に基づく制裁手続きを開始した。いずれも、ヨーロッパ統合史上初めてのこととなる。
ただし、この措置が実行に移されるためには加盟国の全会一致が必要である。もとよりハンガリーは、ポーランドに対する第7条の発動には拒否権を行使すると明言しており、同様にポーランドも、ハンガリーに対して同様の発言を行っていた。このため、この制裁手続きが実際にハンガリー及びポーランドの議決権停止に至る可能性はきわめて低いとされる。
二つ目は、現状では構想レベルにとどまっているものの、法の支配に違反した国々に対するEU補助金の削減である。2018年5月2日に発表されたEU多年度財政策組(MFF:2021-27年のEU中期予算)は、法の支配などのEU基本原則の順守と加盟国への補助金の分配を連動させる制度を導入することを試みている。これが実現すれば、ポーランドとハンガリー向けの補助金は大幅に削減されることになる。しかし、こうした予算措置に対しては、「自分たちの政府が犯している過ちの犠牲者である両国の国民をさらに疎外してしまうだけだ(ヒー・フェルホフスタット欧州議員)」という慎重論も根強く、実現するか否かは不透明である。
三つ目は、EU司法裁判所(ECJ)への提訴である。つまり、欧州委員会などのEU機関が、法の支配に反する加盟国に対して法的手段をとることを意味しており、第2条違反を根拠とした提訴はヨーロッパ統合史上前代未聞である。欧州委員会は2018年9月下旬、ポーランド政府の最高裁判所人事への介入について、司法独立の原則を犯しているか否かの裁定をECJに依頼した。
以下で論じるように、この措置はポーランド政府の司法介入を、限定的にではあるが抑制する効果を持つことになる。上述の通り、第7条に基づく制裁手続きは実際には政治プロセスであり、実際に議決権の停止に至る可能性は限りなく低い。全会一致はほぼ確実に、ポーランドかハンガリーのどちらかがブロックするとみられるからである。しかし、ECJによる法的手段は、他の加盟国がブロックできるような性質のものではない。
EUの圧力は効いたのか?
ECJ中間裁定は10月19日に出され、ポーランドの最高裁判所の構成を政府決定以前の状態に戻すことを支持するものだった(最終判決は2019年4月に出される予定)。さらにECJ長官は、仮にポーランドがECJの判決に従わない場合、同国は「ブレクジットに類似したプロセス」、すなわち離脱に向けた状況に自らを置くことになると発言した。
この一連の動きはポーランド内外で、同国のEU離脱、すなわち「ポレクジット」がにわかに現実味を帯びてきたと理解された。その直後に実施された統一地方選で、PiSは敗北を喫し、ポーランド国民がEU離脱という事態を望んでいないことが明らかになった。
こうした事態を受け、PiS政権は11月下旬までに、法改正に基づいて定年させられた最高裁の判事らを復職させたことを確認した。国会が可決し、さらに大統領署名を経て成立した改正法が撤回されるのは初めてのことであった。PiSのカチンスキ党首は、「EU法には従うが、ポーランドは上告する権利もある」と、強気の姿勢を崩してはいないが、ポレクジットへの危機意識がPiS政権の路線を微調整することに至ったことは事実であろう。
一方ハンガリーについては目立った改善は見られない。とはいえ、同国政権の強硬姿勢に影響を及ぼしうる事態が皆無というわけではない。同国では12月16日、議会で可決された労働法改正に反発した国民がデモを実施し、デモ隊の一部と警察との間で乱闘になる等の事態に至った。同法では、雇用主が要求できる年間残業上限を現行の250時間から400時間に引き上げ、残業手当の支払いも最大3年延長できるとするもので、「奴隷法」との批判が出ていた。
デモには学生、労働組合、そして緑の党から極右ヨビックにいたる全野党が参加し、参加者数は1万5千人に及んだという。オルバン政権に対するこのような超党派の大規模抗議行動は、2010年の同政権復帰以降初めてとなった。フィデス政権は、このデモの背後で「ソロスのネットワーク」が糸を引いているとして、このデモを新たなソロス批判につなげている。もっともこのデモは、EUからの圧力を受けて発生したものではなく、国内的な要因が大きいが、こうした抗議活動がオルバン政権の基盤を足元から突き崩していく可能性はある。
党派政治による妥協的共存?
以上みてきたとおり、ハンガリーとポーランドにおいては、法の支配の危機が長期間にわたって継続しており、この状況は今後しばらく終息の兆しを見せないであろう。ポーランドに関しては、すでにみたようにECJの裁定により、PiS政権は微調整を迫られたものの、同政権の本質的な路線変更はもたらしていない。またハンガリーでは現在、さらなる憲法改正に向けたプロセスが進行中である。
ヨーロッパ統合の歴史において、EU加盟国となった国が、このように長期にわたり、体系的に法の支配を脅かし続けてきたことは前例がない。その意味でこの両国が突きつける危機は、これまでEUが経験してきたさまざまな諸問題とはまったく性質を異にするものである。かつての中欧の「優等生」であり、EUとしても多大な援助を注ぎ込んできたハンガリーとポーランドが、このように大きく変質してしまったことに対し、強い憤りを隠さないEU加盟国も少なくない。
しかしその一方で、とくにハンガリーに関しては、EUレベルでの党派政治が問題解決を遅らせてきたという側面もある。
フィデスは、欧州議会最大勢力で中道右派の欧州人民党(EPP)に属している。同じくEPPに参加するドイツのキリスト教民主同盟(CDU)を所属政党とするアンゲラ・メルケル首相は幾度となく、フィデスをEPPから追放しようと試みてきたが、CDUからの支持は得られなかった。フィデスを追放することにより、EPPが過半数を割り込む可能性があるからである。2018年9月の同国に対する第7条発動にあたっては、EPP所属の議員の多くも賛成票を投じたといわれているが、それでもEPPからフィデスを追放する動きは本格化していない。このため、多くのEPP議員がフィデスに対する嫌悪感を抱えつつ、同一会派の中で妥協的に共存している状況である。
仮にフィデスがEPPから追放された場合、同党は「ドイツのための選択(AfD)」やオーストリアの自由党(FPÖ)など、EU内部のさまざまな民族主義的政党に接近するとみられていることも、EPPによるフィデス追放を躊躇させている側面はある。しかし、EUによるハンガリーへの圧力が本格化しない背景の一つとして、党派政治が存在する――すなわち、数の論理を優先し、法の支配を遵守しない党に対して宥和的な立場を採っている――ことは紛れもない事実であろう。
他のヨーロッパ諸国との「共通項」?
さらに、明白な法の支配への挑戦という特殊性から一歩離れれば、ポーランド及びハンガリーの有する問題の多くは、他のEU加盟国とも多くの共通項を持つことにも注意が必要である。たとえば、極端な民族主義的、排外主義的なポピュリスト政党が台頭し、存在感を示している点である。
イタリアではポピュリスト政権が連立政権を組んでいるし、上述のドイツのAfD、オーストリアのFPÖ、オランダの自由党(PVV)、フランスの国民連合(RN、旧称は国民戦線(FN))などは、引き続き存在感を示している。英国の英国独立党(UKIP)が2016年の国民投票において、英国のEU離脱派の顔として大躍進したことも記憶に新しい。
現に、上述の2018年9月のハンガリーに関する第7条発動の際、UKIPの元党首で欧州議員のナイジェル・ファラージュや、オランダ自由党のヘント・ウィルダースなどが次々と、ハンガリー擁護の発言を行っている。西ヨーロッパにおいても、ハンガリー(およびポーランド)の「応援団」には事欠かないのである。
同様の共通項は、移民・難民問題に対する立場にも見出せる。2015年の欧州難民危機発生時には、ポーランドやハンガリーを中心とした中欧諸国は、EUによる難民割り当てに反発する急先鋒であった。しかし現在では、移民や難民の受け入れに対してはヨーロッパ全体が消極的になってきている。そのことを示す最大の例が、「安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト」(国際移民協定)への参加問題であろう。
国連総会は2017年12月19日、同協定を支持する決議を採択したが、このときの採決で決議に反対した米国など5カ国中、3カ国はハンガリー、ポーランド、チェコであった。また棄権した12か国のうち、オーストリア、ブルガリア、イタリア、ラトビア、ルーマニアの5カ国がEU加盟国であり、スロバキアは投票に参加しなかった。すなわち、9カ国ものEU加盟国が協定と距離を置いたかたちとなる。また、ベルギーは同協定に参加したものの、それに反発した連立第一党が協定への参加に反対し、政権が崩壊する事態まで引き起こした。難民受け入れに関しては、多くのEU加盟国が本音を隠さない状況になっているのである。
問われるEUの力量
上記のような共通項こそあれ、ポーランドとハンガリーにおける法の支配の軽視が、ヨーロッパ統合上、きわめて深刻かつ特殊な問題であることには変わりはない。EUが法の支配を尊重する諸国で構成されるという大原則は、EUにとってまったく妥協不可能なものである。
現時点での「救い」は、この両国ともに、EU離脱はまったく選択肢に入っていないことである。両国政府はEUには批判的な立場を採るものの、あくまでEUに所属しながら異議申し立てを行っていくという立場である。すでに述べたような「ポレクジット」への懸念が地方選挙の結果に影響し、ひいてはPiS政権の軌道(微)修正につながったことは、こうした背景によるものである。
EUとしては、EU加盟と法の支配の(再)確立とは不可分の関係にあることを両国に対して繰り返し強調しつつ、さまざまな法的手段や財政的手段も視野に入れながら、状況の改善に取り組んでいくより他はないのであろう。法の支配を軽視する国がEU内部から出てきた場合、いかにそれをEUの自浄作用で立て直すことができるのか。EUの力量がまさに問われている。
プロフィール
東野篤子
筑波大学人社系国際公共政策専攻准教授。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院修士課程修了、英国バーミンガム大学政治・国際関係研究科博士課程修了(Ph.D)。OECD日本政府代表部専門調査員、広島市立大学国際学部准教授などを経て現職。専攻は国際関係論、ヨーロッパ国際政治。主な関心領域は、EUの拡大、対外関係、国際統合理論。著作に、『解体後のユーゴスラヴィア』(共著・晃洋書房、2017年)、『共振する国際政治学と地域研究』(共著・勁草書房、2018年)等、訳書に『ヨーロッパ統合の理論』(勁草書房、2010年)。