2020.10.15
韓国の非熟練外国人労働者の受け入れにみる日本の政策へのインプリケーション
はじめに
2019年4月、日本政府は改正出入国管理法を施行し、外国人労働者政策を大きく方針転換した。これまで原則認めていなかった非熟練労働者(単純労働者)を正式に受け入れるという、重要な政策転換だ。
新たな在留資格「特定技能」を創設し、一定の技能と日本語能力のある外国人(特定技能労働者)に、日本での就労を認めた。
特定技能は、最長5年間の期限付きで家族帯同を許されない1号と、在留期間の延長が無制限で家族の帯同ができる2号に分かれる。特定技能の資格を取得する要件として、「日本語能力試験」と「技能評価試験」の両方にパスすることを課した。
また、特定技能制度の開始にともない、外国人との共生社会実現に向けて「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」をまとめた。
その大きな柱となるのが、全国100カ所の相談窓口「多文化共生総合相談ワンストップセンター」の設置や行政サービスの多言語化、在留外国人への日本語教育の充実と教育体制の整備である。
さらに2019年6月、日本で暮らす外国人への日本語教育を促進する「日本語教育推進法」を制定した。
同法は、日本語教育を充実させるため、国は法制の整備や財政措置を講じなければならないと規定している。国や自治体は日本語教育を進める責務が、企業は雇用する外国人に教育機会を提供するよう努める責務があると明記した。
日本が最近になって、こうした制度的枠組みの整備に乗り出したのに対し、韓国は類似の取り組みを2000年代中盤から、多額の予算を計上し矢継ぎ早に推進してきた。
韓国政府は 2004年に「雇用許可制(EPS:Employment Permit System)」を導入し、非熟練外国人労働者を正式に受け入れるルートを整備した。また、ビザ取得の要件として「韓国語能力試験(EPS-TOPIK)」の合格を課してきた。
また、2007年に公布した「在韓外国人処遇基本法」に基づき、外国人労働者の相談窓口となる「ワンストップセンター」を全国に設置した。併せて、入国後の外国人居住者への韓国語教育や、社会統合政策も体系的に構築してきた。
このように韓国では16年前から非熟練外国人労働者を正式に受け入れ、支援体制を形成してきた。こうした韓国の経験は、日本が今後、外国人労働者政策を推進する上で、どのような点で参考になるだろうか。
本稿では、まず韓国が非熟練外国人労働者を受け入れるシステムとして導入した雇用許可制度について説明する。次に、外国人労働者向けの総合相談ワンストップセンターの運用、および外国人労働者への韓国語教育の2点について韓国の取り組みを検証し、日本へのインプリケーションは何かを検討する。
1.雇用許可制とは何か
韓国が導入した雇用許可制には「一般雇用許可制(非専門就業ビザ)」と「特例雇用許可制(訪問就業ビザ)」の二種類がある。
後者の特例雇用許可制は、中国朝鮮族や旧ソ連地域出身の高麗人など、韓国系外国人だけを対象にした特例制度である。表1にある「在外同胞ビザ(F-4)」も同様に、韓国系外国人が対象のビザである。
本稿では紙幅の都合により、非熟練外国人労働者を対象に「非専門就業(E-9)」ビザを発行する一般雇用許可制のみ取り上げる。
一般雇用許可制は、韓国政府が送り出し国の政府と覚書(MOU)を結び、年ごとに受け入れ人数を決定し、労働者の募集や選抜、研修、韓国企業への割り当て、帰国まで一元的に管理する仕組みである。中間業者を排除し、受け入れ過程に政府が直接関与することで透明性を確保している。
受け入れ対象となるのは、製造業、建設業、農畜産業、サービス業、漁業の5業種である。2019年時点で、16カ国の送出国との間で覚書を交わしており、就業者の国別人数をみると、ベトナム、カンボジア、ネパール、インドネシアの順に多く、この4ヵ国でほぼ5割を占める。
希望職種に関係なく求職者には一律に、韓国政府公認の資格審査である「韓国語能力試験」で合格することを課している。
試験は自国で受験し、200点満点中80点以上を得点すれば合格となる。つまり、入国前に基本的な韓国語能力を自力で習得することを求めている。
試験は、読解問題とリスニングから成り、基礎的な意思疎通能力、作業現場で必要な語彙力、韓国社会や産業安全に関する理解力などを測定する。試験問題は、韓国教育省所管の国立国際教育院の専門家が作成する。
雇用労働省は韓国語試験の学習教材として「EPS-TOPIKのための韓国語標準教材」を各国に配布している。教材は、韓国産業人力公団のHPから無料でダウンロードできる。
ただ、語学試験に合格してもすぐに入国できるわけではない。韓国人の就労機会を奪うことがないよう、毎年、政府が国内の雇用情勢や業界ごとの労働力需給を把握し、導入する業種、受け入れ人数の上限や送出国を決定している。
外国人労働者の雇用を希望する国内企業は、韓国人優先雇用の原則にしたがい、一定期間、韓国人労働者の求人を行う。韓国人の応募がなかった中小企業に限り、外国人労働者が紹介される。
採用が決まると、企業は送出国にいる外国人と雇用契約を結ぶ。母国と韓国で研修を受けた後、受け入れ企業に派遣される。外国人労働者が負担するのは、渡航費とビザの手数料などの実費のみである。
雇用許可制で受け入れる期間は基本的に3年だが、一定の条件を満たせば、最長で9年8ヵ月働ける。それ以上の滞在は、定住化が進むとして認めていない。
この点で、韓国の外国人労働者政策とは、一部の例外を除き、移民の受け入れを目的としているのではなく「循環型政策(ローテーション・システム)」にすぎないことがわかる。
2.ワンストップセンターと社会統合政策
(1) ワンストップセンター
韓国政府が2007年に公布した「在韓外国人処遇基本法」は、「国および地方自治体は在韓外国人が大韓民国で生活するのに必要な基本的素養と知識に関する教育・情報提供および相談などの支援ができる」と規定している。同法は、外国人居住者への社会適応支援策を実施する法的根拠となっている。
それに伴い、雇用労働省は「外国人勤労者支援センター」を全国に設置した。2019年現在、全国9カ所の拠点センター、34カ所に設けた地域センターが稼働している。
外国人勤労者支援センターは、政府の補助金で運営している。有資格者が教える韓国語講座のほかに、テコンドー教室やパソコン講習、各種の相談業務を提供している。
外国人政策の進展に伴い、全国の大学で増えた多文化共生学科に在籍する学生が、パソコン教室などの講師を務めている。韓国の大学ではボランティアが必修科目となっているため、人材の確保にはこと欠かない。
また、韓国語の講師は、ホランティア頼みではなく、国家認定の「韓国語教員資格」を有した教師が採用され、レベル別の指導がなされている。
センターごとに異なるが、16の送出国すべての言語で相談できる窓口が設けられている。各国語の外国人相談員が常駐し、ボランティアとして登録している弁護士や医師、社会福祉士らと協力して、相談内容に応じ解決に向けて連携する。
一部のセンターは、内科や歯科などの無料診療所、海外への送金所、シェルター、保育所、多言語図書館などを設置しており、まさに「ワンストップセンター」として外国人労働者を支えている。
他にも、多くの市民運動団体や宗教団体が独自の外国人労働者支援センターを開設し、労働者の人権擁護や労働問題解決のための相談業務を担っている。その運営費は政府の補助金、企業・個人からの寄付金などである。
一連の支援活動を推進・持続する原動力には、外国人労働者の人権問題の解決だけではなく、韓国は人権を重視する国家であるという国際的イメージを向上させたいという思いもある。
(2) 社会統合政策
韓国政府が外国人居住者全般に提供するのは「社会統合プログラム」である。2009年から多額の予算をかけて、外国人居住者の韓国社会・文化への適合を促す社会統合策を講じてきた。
社会統合プログラムの実施機関は、2020年8⽉現在、全国374ヵ所に上り、年々増設されている。ここでは、極めて体系的かつ高水準の415時間に及ぶ韓国語教育および社会・文化理解コースを、教材費を除いて無料で提供している。
プログラムの根幹である韓国語教育は、基礎から4段階まで5つの課程がある。受講者は、各自の韓国語の習熟度に応じて段階別に履修する。最終的に「社会統合プログラム韓国語能力試験」に合格すれば修了証が授与され、永住権や帰化申請時に加点されるというインセンティブが付く。
社会統合プログラムは、元々は国際結婚の急増に伴う結婚移民者の定住支援策として始まった。数年前から、平日の夜間や週末はもちろん、オンラインでの受講も可能となったことで、受講者が一気に多様化した。
中でも、学習時間の確保や通学が難しかった外国人労働者の参加は、受講形式の柔軟化に伴い急増している。2009年の発足から2018年までの10年間で、世界126カ国から来た約54万人が、社会統合プログラムを受講した。
2018年の韓国法務省『法務年鑑』によれば、2017年に社会統合プログラムを受講した外国人居住者は計4万1,500人。うち結婚移民者が1万8,766人(全体の45.2%)と半数近くを占めていた一方、非熟練外国人労働者も6,976人(同16%)に上った。
3.外国人労働者への韓国語教育
各職場に配属された後の韓国語学習は、外国人労働者の自助努力に任されている。雇用主に対し、学習機会を提供するよう義務付ける法律はない。
ただ、外国人労働者が勤務時間外に無料で韓国語を学べる機関は多くある。
前述したように、雇用労働省が設置した外国人勤労者支援センターは、すべての機関が国家予算で公的な韓国語学習体制を整えている。土日や夜間の時間帯には、複数の韓国語講座を設けており、初級クラスはもちろん、センターによっては上級クラスや韓国語能力試験の受験クラスまで、無料で提供している。
質の高い教育を確保するため、韓国語教師になるには公的な資格が求められる。韓国政府公認の「韓国語教員資格」は1級から3級まであり、3級であっても難易度は高い。
教員資格取得者の大半は、韓国語教育や文科系の大学院修了者で、高学歴女性の雇用の受け皿として機能している。有資格者であっても非正規のパート勤務が多く、雇用の安定性には欠けるが、ボランティア頼みの日本と比べて専門性は非常に高い。
テキストは政府所管の国立国語院が、非熟練外国人労働者に特化した『移住労働者のための韓国語初級・中級』などを作成している。何度も改訂が重ねられ、内容も充実してきた。
体系的な訓練を受けた韓国語教師と、国が作成した韓国語テキストがあり、制度自体は万端である。
そのほかにも、キリスト教系の宗教団体、市民運動団体、福祉法人などが運営する外国人労働者向けの支援センターが多数あり、ここでも無料で韓国語講座を開設している。1990年代から外国人労働者支援を行ってきた団体も数多くある。
ただ、メインは労働問題や人権侵害に関する相談窓口の設置であり、韓国語教育は週末に2時間ほどのクラスが複数開講されている。
近年、韓国政府は、ハッピーリターン・プログラムと呼ばれる「外国⼈勤労者教育プログラム」に⼒を⼊れている。韓国での就労を終えて母国に戻る帰国予定者が自国にスムーズに再定着できるように⽀援する政策で、韓国語学習と帰国後に役⽴ちそうな技能を習得させるプログラムである。
プログラムの対象者は、期間満了で帰国を控えた非熟練外国人労働者で、韓国語能力試験(TOPIK)3級以上の合格を目標とする韓国語教育(60時間)や、帰国後の就職を見据えた自動車整備、調理、製菓、製パンといった技術指導(60時間)を無料で受講できる。
併せて、帰国後に韓国での経験を生かし事業を始め、大きな成功を収めた事例なども多く紹介している。帰国後の生活設計への不安を取り除くことで韓国に好印象を抱いて帰国させることや、現地で韓国語の普及に一役買ってほしいという思惑があってのプログラムである。
4.日本の政策へのインプリケーション
韓国の雇用許可制は、2010年に国際労働機関(ILO)から、アジアの先進的な移住管理システムとして高い評価を受けた。2017年には世界銀行から、透明性の高い優れたシステムとして評価された。
ただ、問題がないわけではない。2004年の導入から10数年が経過したが、賃金格差や差別、長時間勤務などの労働契約違反、雇用主からの暴言、暴行、セクハラ、退職金の未払いなどが多発し、人権侵害に対する批判の声はやまない。不十分な安全管理による労働災害も多い。
最大の問題点は、韓国人労働者と競合しないようにするため、外国人労働者の事業所移動に制限をかけている点である。やむを得ない事情で事業所を移動する場合でも、雇用主の同意を得なければならず、3年以内に最大3回と制限を付している。
そのため、劣悪な環境にあっても移籍できずにいる外国人労働者が失踪し、そのまま不法滞在者となるといった問題が絶えない。期間満了にともなう不法滞在も増加しており、2020年6月時点で39万人と史上最多を記録した。
外国人労働者を支援する市民運動団体は、こうした移動制限は外国人労働者の強制労働につながる恐れが高いとして、廃止を要求している。そして、普遍的な人権保障を重視し権利擁護に努めなければ、いずれ外国人労働者を確保することが困難になると政府への批判を強めている。
韓国は市民運動団体の力が強く、こうした持続的な問題提起によって政府に圧力をかけ、制度是正へと促す行動に余念がない。雇用許可制の導入の背景にも、こうした市民運動の働きかけが大きかった。
受け入れから帰国まで国が一括で管理するという透明性が高く、悪質な仲介業者が介在しにくい制度を構築しても、事業所内での人権侵害は容易にはなくならない。これらの問題は、事業所への監督を強化しなければ解決できないだろう。
日本政府は、非熟練外国人労働者の受け入れ拡大に備え、全国に「多文化共生総合相談ワンストップセンター」を設置する方針を打ち出している。前述したように、こうした支援センターの整備に関しては、韓国の取り組みに目を見張るものが多々ある。
韓国には、何か問題があっても外国人が母語で相談できる機関が身近に複数ある。外国人勤労者支援センターには、計13ヵ国語で対面相談を受け付ける窓口を設け、常時相談員が待機している。24時間体制で受け付ける電話相談も整備している。
さらに、すべての外国人居住者向け「外国人総合案内センター」のコールセンターは、計20ヵ国語で相談に応じている。自治体の窓口や学校、病院、薬局、タクシーなど生活する上で必要な場合に、間に立って通訳を提供している。
日本では現状、自治体や学校での多言語対応に翻訳タブレット端末を利用することが多い。デジタル化で日本に先行する韓国だが、タブレット端末ではなく対面、または電話通訳を介した対応が主となっている。
自治体や行政機関から送られてくる各種通知の多くも、多言語対応がなされている。行政の外国人向け生活情報サイトは、13ヵ国語で情報発信している。
韓国でこうした通訳・翻訳業務に主に携わっているのは、各種の研修や通訳教育を受けた結婚移民者である。統計庁の「2016年外国人雇用調査」によれば、結婚移民者の3割は大卒以上の学歴を持つ。
韓国政府は、韓国人と結婚した結婚移民者に対し、外国人労働者とは別に「多文化家庭支援センター」を通じて、きわめて手厚い韓国語教育を行っている。結婚移民者の年齢が比較的若いことや体系的な韓国語教育の成果もあり、通訳能力は総じて高い。
センターでは、高学歴者を中心に上級レベルまで韓国語の教育をしている。さらに「相談員」「通訳・翻訳士」コースを設けて、雇用制度や勤労基準法、通訳技術、民放、刑事法などの専門知識、行政用語や法律用語、医療用語、通訳技術などを特訓している。
受講費は無料で、講義は専門家が行う。履修者には終了証を発行する。
外国人労働者に対する相談業務や通訳・翻訳の体制が充実しているのは、こうした養成講座を設け、集中的に人材育成をしていることが大きい。これらの取り組みは、結婚移民者のエンパワーメントとしても重視されている。
医療分野に関しても、釜山大学病院などは外国人労働者人権団体と提携し、各国語の医療通訳者を養成するために100時間におよぶ教育プログラムを設けている。医療の専門用語の指導や医療現場での通訳実習を行い、専門通訳を養成している。
その後の仕事の斡旋にもつながるため、通訳・翻訳者のなり手は多い。「収入になり、人の役に立つ姿を子どもに見せられる」とモチベーションも高い。支援を受けた側が、支援する側に回るシステムが構築されていることは、特筆すべき点である。
日本が外国人労働者に対するワンストップセンターを軌道に乗せ、維持していくためには、こうした言語能力の高い外国人の担い手を育成することが有用であろう。
しかし、外国人が多く住む全国74自治体のうち過半数が、財源不足などを理由にワンストップセンターの開設予定はないと回答した調査もある(『朝日新聞』「外国人受け入れ拡大、見切り発車 過半数が窓口開設なし」2019年4月1日)。
通訳に関しても「労働法の知識があってベトナム語を話せる人を自力で探すのは難しい」「センターで定期的に働ける人がなかなかいない」といった現場からの声がある(『日本経済新聞』2019年1月7日)。
韓国では莫大な予算を投入し、2000年代初頭から官民一体となって支援策を講じてきた。必要なコストをかけなければ、十分な支援体制は構築できない。
おわりに
日本では、2019年に「日本語教育推進法」が成立した。同法は事業主に対して日本語教育の責務を課している。これは韓国より一歩踏み込んだ措置といえるだろう。
しかし、事業主に教育を担わせるだけでなく、韓国のように国の責任で外国人労働者が無料で日本語教育が受けられる公的機関を設置することが必要ではないだろうか。日本が働き先として外国人労働者に選ばれるためには、日本語学習や生活などの支援体制を、さらに充実させなければならない。日本語は韓国語に比べて、漢字などの読み書きが難しいだけになおさらである。
韓国での言語教育の内容や方法には課題もある。だが、法的根拠を持って国が韓国語教育の基準を定め、多様な背景を持つ学習者のニーズに合った教材を開発してきた。韓国語学習支援を行う民間団体に対し、補助金を支出する予算も措置している。
今後、事業主側にどのような取り組みを促していくのか、体系的な学習体制の整備も含めた具体策が課題となっている。
また、韓国は外国人労働者をめぐる人材争奪戦を見据えた、イメージ戦略に長けている。例えば、日本ではなく韓国を選んだ外国人労働者は、韓国は日本より初期費用が少なくて済む、日本よりも長く働ける、現地語教育に力を入れている、最低賃金や給与が高いといった理由を挙げている。実際、建設業の賃金相場では、韓国の月給が日本を上回っているという(『週刊ダイヤモンド』2019年2月23日号: 97)。
さらに、東南アジアで拡散する韓流ドラマ人気が拍車をかけている。ドラマの中の韓国は、目を見張るほど近代的な都市で、生活水準が高い先進国として描写されている。
2000年以降、韓国政府が矢継ぎ早に外国人労働者関連政策を進めた中には、アジアの労働市場で韓国優位のポジション取りに貢献する制度を、積極的に構築するという戦略性もあったと思われる。
新制度開始後、日本の外国人労働者受け入れは、大きな困難に直面している。
在留資格「特定技能」を取得し滞在する外国人は2020年3月末時点で3987人と、見込んでいた人数の8%にとどまった(『朝日新聞』2020年5月30日)。その91.9%は国内の技能実習生からの昇格で、海外での資格取得者は極めて少なかった。手続きの複雑さや送出国の制度整備に時間がかかったのが原因とされる。
さらに、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う入国制限で、外国人材の流入は事実上ストップした。現在も渡航制限の緩和対象は、タイやベトナムなど一部にとどまっている。
コロナ終息後の展望も開けていない。日本の賃金水準はOECD諸国の平均を下回っており、賃金面での魅力は薄れつつある。地域コミュニティに手厚い支援があるわけでもない。
日本は外国人受け入れ制度を拙速に導入したという指摘がある。毎年多額の予算を計上し制度を構築してきた韓国の事例を参考や教訓とし、定着支援や生活環境の整備を急ピッチに進めて、入国制限が解除される将来に備えるべきだ。
参考文献
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・春木育美、2011「「韓国の外国人労働者政策の展開とその背景」『人文・社会科学論集』28:93-106.
・春木育美、2019 日本言語政策学会第21回研究大会シンポジウム報告抄録
プロフィール
春木育美
早稲田大学韓国学研究所招聘研究員。東京生まれ。同志社大学大