2019.10.24
大災害時の避難所運営をどうするか?
近年、大地震だけでなく、豪雨や台風による災害が頻繁になってきています。もし個人で対処できる範囲を超えるような大災害が発生した場合、どのようにしてサバイバルしたらよいのでしょうか。災害前の準備から発生後1週間程度をどう乗り切るかという視点で考えてみたいと思います。
0.災害が起こる前に
災害後の避難生活であなたを守るのは、自助・共助・公助ですが、そのうち発災直後、とくに重要なのが自助・共助です。自助・共助を機能させるためには、災害が起こる前から準備しておくことが大切です。
防災準備のポイントは、(1)避難セットの準備、(2)避難所と避難経路、災害備蓄の確認、(3)コミュニティの再評価の3点です。
(1)避難セットの準備
避難セットとして、緊急時に必要になる数日ぶんの飲食物と様々な物資の入ったセットが市販されているので、これを機にぜひ確認して下さい。それに加えて、短期の生活資金や携帯電話のバッテリーを入れておくとよいでしょう。病気のある人はあらかじめ医師と相談し、お薬手帳のコピーを入れておきましょう。また、下着を3枚入れておくとかなり助かります。
被災エリアでも、自宅で避難生活を送るケースも少なくないので、食料品の他にトイレットペーパーやごみ袋を備蓄しておくと安心です。備蓄に必要なものは自治体等の防災情報で確認して下さい。
(2)避難所と避難経路、災害備蓄の確認
日頃から避難所となる場所と、安全な避難経路について確認しておきましょう。災害が起こる前から、地域の災害備蓄がどこにあるかを知っておくことも大切です。公的支援が入るまでは数日かかることも少なくないため、支援が来るまでの間をしのぐために、地域の災害備蓄が重要となります。また、災害時にも閉じない災害拠点病院についても確認しておくと良いでしょう。
(3)コミュニティの再評価
大災害が起こったときに最初に頼らなければならないのは、役場職員ではなく隣人や地域の住人です。困った人がいればお互いに助け合わなければなりません。そのためには、普段から隣人と普通に挨拶を行うことや、日頃から地域の活動等に参加して顔見知りを増やしておくと、いざというときの安心感につながります。
以上の準備をしっかりと行い、地域の避難訓練にも参加するようにして、いざというときのために備えると良いでしょう。まずは災害が起こってから最初の1週間を乗り切るようにしておくことが重要です。
1.避難所に入ったらまずすべきこと
大災害で大勢の人が一斉に避難所に入ったときに、最初に問題になることは何だと思いますか。食料がないことでも、布団がないことでも、プライバシーがないことでもなく、じつはトイレのことが問題になります。
断水になったり下水にトラブルが起こった場合、水が流せなくなるので、ビニール袋にためてゴミにするなどの工夫が必要になります。なので速やかに全住民を集め、トイレ緊急事態宣言を発令することが重要です。みんなで協力して、どうやってトイレを保持してゆくか、知恵を出し合う必要があります。トイレが使いにくいと、水を飲むことを控えるようになってしまい、それが原因で体調が悪化してしまう場合も少なくありません。
また、大震災が起こると流通が止まり、トイレットペーパー不足が深刻になります(いざとなったら葉っぱで代用)。大切なことは、全員がトイレを保持しなければいけないという意識を共有し、対策を練ることです。災害時のトイレに関する情報は、日本トイレ研究所のサイトに詳しく解説さています。
2.避難生活の最初の数日はこんな感じ
・飲みもの食べものがない。
・電話もネットも通じない。
・布団がない。
・プライバシーがない。
・お風呂がない。
・薬がない。
・することがない。
・不安や心配だらけ。
つまりいろいろと困ったことだらけです。だから全員で知恵と力を合わせて困難を乗り切る必要があります。数日すれば必ず支援が入ります。支援者が入ったら協力して避難所の運営を行います。この状況を少しでも改善するためにも、避難セットや災害備蓄が重要になります。
3.こんな人が体調を崩しやすくなる
被災者が避難生活を開始した場合、いくつかの局面で体調不良になる傾向があります。災害発生当初は主に怪我や火傷、極度の気温変化(溺水や低体温症)などが原因となり体調が悪化します。これらの場合、すぐに救急搬送しなければ、生命の危機状態に陥る場合があります。
次に、無事避難ができた人でも、何らかの病気を持っていて普段飲む薬がなかったり、継続的な治療ができなかったりしたときに体調が悪化する場合があります。大規模災害ではいつも飲んでいる薬を持たないで避難してくる人も多いので、速やかに医療支援チームに伝える必要があります。とくに透析治療や在宅酸素療法等をしている人の場合、緊急に対処する必要があります。また、車のなかで生活していたり、活動が少なくなっていると、突然死の原因になる深部静脈血栓症になりやすくなるため、注意が必要です。
最初は体調に問題がなかった人でも、避難生活が長期化すると感染症にかかったり、ストレスから体調不良になってしまったりする場合もあります。ですので、早い段階から口腔や身体の清潔を保つことや、メンタルヘルスの支援を受けることが重要になってきます。また、復旧・復興の長期化により、高齢者や要介護者も体調を崩しやすくなってしまうなど、様々な問題が生じます。
その他、避難所には妊婦さんや赤ちゃん、アレルギーをもつ人などがいるので、様々な人に対して注意を向ける必要があります。
しかし災害が起こり避難所という特殊な環境にいることで、だれでも体調を崩す可能性があります。ですので、住民全員が協力しあって、体調の悪そうな人を早めに発見することが大切です。そのためにも避難所の名簿を作成し、状況を把握しておくことが重要です。
4.体調を崩してしまったら
災害が発生すると地域や避難所等に医療支援が入るようになります。また、保健師や災害支援看護師が避難所等で保健活動を開始します。体調が悪い場合は我慢をせずに、遠慮しないで相談するようにしてください。下記の症状がある場合、速やかに医療機関に受診する必要性があります。
・突然の激しい頭痛、意識もうろう、けいれん。
・苦しそうにしている(呼吸が荒い、顔色が悪い等)。
・思うように動くことができない。
・呂律がまわらず上手く話せない。
・胸や腹の痛みが続き、冷や汗をかいている。
このような人がいたらすぐに救急車を呼びたいところですが、大災害では電話が使えない、救急につながらない、つながっても救急車がすぐに来れないなどの問題も発生します。体調を崩しそうなら早めに医療支援スタッフに相談するようにして下さい。
5.避難生活で体調を崩さないために
体力が落ちると病気に対する抵抗力も弱まります。食べものの支援が入るようになったら、ラジオ体操やウォーキングをするなど、体力を維持できるようにみんなで協力して身体を動かすよう心がける必要があります。水分を取るように働きかけることも大切です。
・予防したい病気
・エコノミークラス症候群を予防するための運動
ふくらはぎの筋肉が動いていることを意識しながら足先をゆっくり前後に動かします。つま先立ちの場合は上げてから3秒程度保持し、ゆっくり下ろします。脚力を維持するためには、しゃがみ立ちするスクワット運動が有効です。これらの運動を15~20回を1セットにして、1日3回以上行うようにすると良いでしょう。
6.避難生活で健康を維持するために
避難所生活が始まると、いつまで続くか分からないことから焦ったり不安になったりすることも当然ですが、なるべく気持ちを前向きに持ち、下記のことに注意して生活するようにして下さい。
・お互いに声をかけあい助けあう。
・水分をとることを遠慮しない。
・うがいや歯磨きを疎かにしない。
・手洗い・消毒やマスクの使用を心がける。
・高齢者でも役割を分担し、活動を多くする。
・ラジオ体操やウォーキングを日課にする。
7.避難所での役割分担(初期の例)
避難所の開設にあたっては、最初から役場の人が常駐する場合と、住民のみで運営が始まる場合があります。役場の人がいる場合は、一緒に協力して避難所の運営を行いますが、住民しかいない場合、自主的に運営を開始する必要があります。そのためには、リーダーを始めとして、様々な役割を分担して行う必要があります。また、大変な役割を一人の人に任せきりにしないように、皆で協力して運営を行うことが大切です。下に役割の例を上げます。
8.とても大切なこと
残念なことですが、過去の災害では少数ながら避難所等で暴力事件が発生しています。ですので、身の危険を感じたら臆することなく助けを求めるように、避難所にいる全員に周知徹底してください。
以上のことをふまえて、住民も支援者も協力しながら避難所を運営することが大切です。ここまでの内容をまとめたリーフレットを下記からダウンロードすることが可能です。
・https://www.fmu.ac.jp/home/risk/disaster_leaflet.pdf
また、災害が発生した時から5日程度の避難所の運営についてシミュレーションを行う「避所所机上演習SOS」を提供しています。これまで全国の保健師、行政職員、看護師、介護関係者、自主防災組織等の方々に対して、防災訓練の一環として避難所机上演習を提供してまいりました。内容に興味がある、地域で実施したい場合等は下記までお問合せ下さい。
福島県立医科大学 安井清孝(taka-y[at]fmu.ac.jp ※[at]を@に変更して送信してください)