2024.09.18

「おじさんの詰め合わせ」と「おばさんの詰め合わせ」―炎上に分岐点は来るのか

田中辰雄 計量経済学

社会

最近おきた3つの炎上事件、しまむらの幼児服・男の体臭・おじさんの詰め合わせの炎上はこれまでとは違い、男性側が責める側すなわち攻撃側になっているという特徴がある。この点で炎上を見直す一つの分岐点になる可能性があり、以下ではそれを検討する。結論から言うと、炎上を抑制する方向への分岐の萌芽は見いだせる。むろん、まだ弱いものであるが、注視していく価値はあるだろう。

1.三つの炎上事件とその背景

まず、事件を簡単に解説する。しまむらの幼児服事件とは、あるデザイナーと共同企画した幼児服に子供視点とみられる言葉が書いてあったが、母親については「ママがいい」「ママいつもかわいいよ」とあるのに対し、父親については「パパはいつも寝てる」「パパはいつも帰り遅い」「パパは全然面倒を見てくれない」など不満の言葉が述べられていた事件のことである。これに対し、男が頑張って働いている事を評価しない、あるいは幼い子供に父親の悪口をきかせるべきではない、などの批判が起こり炎上し、しまむらは炎上を受けてこの幼児服企画を中止した。

男の体臭事件とは、あるフリーアナウンサーが、X(Twitter)で、男の人の体臭が気になるので、シャワーを1日数回あび、制汗剤を使ってほしいなどと書いた事件である。この書き込みに対し、男が汗を出して働くのは当たり前だとして炎上し、このアナウンサーはマナー講師の契約(ある企業と講師の契約を結んでいた)を解除された。

おじさんの詰め合わせ事件とは、テレビ番組で自民党の総裁選のPRビデオを見た女性コメンテータが、ビデオの最後に自民党の歴代首相が一堂に会する決めのシーンを見て「おじさんの詰め合わせ」と称した事件である。おじさんを箱に詰めるモノに例える表現は侮蔑的として炎上した。

これらの炎上事件で特徴的なのは、責める側が男性だったことである。これまで男女関係や家族関係にかかわることでの炎上では、ほとんどの場合、女性が責める側であった。「宇崎ちゃんは遊びたい」「温泉むすめ」「月曜日のたわわ」などの多くの萌え絵事件、森元首相の「女性が入ると会議が長くなる」事件、麻生総理の「おばさん」発言事件、牛丼の「生娘しゃぶづけ」事件、ファミマの「お母さん食堂」事件など、男女関係や家族にかかわる事案では女性が炎上を仕掛ける側であった。社会あるいは男性による押しつけや抑圧に対して、時にフェミニズムの立場も交えながら批判するのが通例である。今回はそうではなく、男性側が声をあげた点がこれまでとは異なる点である。

実際、炎上の理由として、少なからぬ人が、男性が同じことをやっていれば炎上したはずだという点をあげていた。すなわち、「男性が女性の体臭などを問題視すれば炎上確実である」、「女性政治家が一堂に会した写真に、男が「おばさんの詰め合わせ」と言ったら糞みそに叩かれるだろう」、というわけである。このような非対称性を問題視することをどう解釈するか。これまでの炎上事件と違うのか同じなのか。違うのならばどこか。以下はアンケート調査で調べた結果をみてみよう。

調査は2024年8月27日に「最近話題のニュースについての調査」として実施され、対象はウエブ調査会社Freeasyのモニターで有効回答数は2600人である。なお、9月4日と9日に200人と500人の追加調査も行った。

2.炎上への賛否の比率

まず、素直にこれらの炎上の是非を答えてもらった。図1がその結果で、3つの炎上事件について男女別に分けて集計した。選択肢は「炎上は当然である」「炎上はある程度理解できる」「炎上するほどのことはないと思う」「炎上するのはおかしい」の4択であり、前者二つが炎上を支持する意見、後者二つが炎上を批判する意見である。図1では前者二つの支持的意見を薄赤色で、後者二つの批判的意見を薄青色で表した。最後に「わからない」の選択肢も用意した。

図1

まず、バーの右側の薄青色の部分の長さが長いことからわかるように、この事件を「炎上するほどのことはない」、「炎上するのはおかしい」と考える人が多い。つまり炎上を批判する人の方が多く、炎上を支持する人は少数派である。これは炎上事件ではよくあることで、テレビでとりあげられる大炎上事件は別として、ほとんどの炎上事件では炎上を支持する人の方がむしろ少数派である。今回の事件でもご多分に漏れず、そうなっている。

注目すべきはそこではなく、男女差がそれほど大きくはないことである。ネット上で見る限り、問題視しているのは男性側なので男女に差があってもしかるべきであるが、統計を見るとそれほど大きな差になっていない。「炎上は当然である」と「理解できる」を合わせて炎上支持者とすると、「男の体臭」事件での支持者割合の男女差は5%弱(=(15.2+17.4)-(8.2+29.7))であり、「おじさんの詰め合わせ事件」での男女差は同じように計算すると8%程度にとどまる。確かに炎上を支持するのは男性が多いので男性側から起きた炎上ではあるがが、男性への偏りはそれほど大きくはない。しまむら幼児服事件ではむしろ女性の方が炎上に理解を示している。この3件は男性側が責める側に回った炎上事件であるが、調べてみると女性側にも炎上を支持する意見がそこそこ存在する。

3.賛否の理由:意趣返しはあったか

炎上を支持する(当然とする、あるいは理解する)理由は何であろうか。男の体臭事件とおじさんの詰め合わせ事件について、図1の炎上支持派から200人をランダム抽出し、聞いてみた。用意した選択肢は6つで、例としておじさんの詰め合わせ事件の場合を記す。

<炎上が当然である、あるいは炎上が理解できる理由>

 1)詰め合わせという言葉に人間を物としてあつかう感じがするから

 2)おじさんという言葉に侮蔑を感じるから

 3)仮にも首相を務めあげた人達に失礼だと思うから

 4)男が女性ばかりの写真で「おばさんの詰め合わせ」と言ったら炎上確実だから

 5)これまで男が少しでも女性に物申すとすぐ叩かれてきたので、それと同じことを男がやり返しているだけである

 6)これ以外の理由

1)~3)は事件そのものに即した理由である。これに対し、4)は今回の事件の特徴である男女の非対称性にかかわる論点で、男が「おばさんの詰め合わせ」と言ったら炎上必至なのだから、これも炎上してしかるべきという意見である。一種の意趣返しともとれる意見であり、これを理由に挙げる人が多くいれば、炎上事件として新しい事態である。5)は同じことを別の表現で言い換えたもので、意趣返し色がより強い表現になっている。この6つの選択肢からあてはまるものを複数回答ですべて選んでもらう。その結果は図2(a)のとおりで、棒グラフはその選択肢を選んだ人の割合を示す。

図2(a)

図2(b)

1)~3)の事件の中身に即した理由もそれなりに挙げられているが、注目すべきは4)の、「男が逆におばさんの詰め合わせと言っていたら炎上していただろう」という理由がトップなことである。図2(b)は「男の体臭事件」の場合で、結果は同じである。すなわち4)の「男が女性に対して「体臭」や「生理」について注文をつければ炎上確実だから」という理由がトップに来る。今回の炎上事件は、炎上での男女の非対称性を問題視している。この点では確かにこれまでにない特性を持っている。

そして注目すべきはこの点に関しても男女の意見の差がそれほど大きくはないことである。図2(a)のおじさんの詰め合わせ事件では男が59%、女が50%で、その差は9%ポイントしかない。図2(b)の男の体臭事件でも差は9%ポイントである。炎上事件での男女の扱いが対称的でないという点は、女性側にもある程度は認識されている。ネット上では、炎上に関して女性が男性の立場に立とうとしない、ミラーリングができないと言う見解を述べる人がいるが、そんなことはないようである。男性が感じている非対称性は女性にもある程度は理解されている。

次に炎上を批判する側の理由も聞いてみよう。図1で、炎上するほどのことはではない、炎上するのはおかしいを答えた人200人をランダムに選び、その理由を複数回答で選んでもらった。おじさんの詰め合わせ事件の場合、用意した選択肢はつぎの6つである。

<炎上するほどのことははない/炎上するのはおかしい、と考える理由>

 1)事実としておじさんばかりだから

 2)日本の政治が高齢男性ばかりであることへ風刺になっており問題ないから

 3)このような発言も言論の自由として認められるべきと思うから

 4)社会は男性優位であるので、この程度の表現は男性差別にはならないから

 5)男はこの程度のことで文句を言っていかんと思うから

 6)これ以外の理由

最初の1)と2)はこの事件の中身に即した見解である。3)は言論の自由を優先すべきという原則論で、炎上によるキャンセルカルチャーを批判するときの代表的な論拠である。4)は、現状は男社会なので、強者である男性には少しくらい揶揄的あるいは攻撃的表現をしてもかまわないという見解である。権力を持つ者と持たない者では適用されるルールに違いがあってよいという考えで、アカデミアの世界では一定の支持者がいる。5)は、この程度の揶揄やからかいは受け流すのが男の器というものだという見解であり、伝統的な男らしさを強調する立場である。男女の性別役割分業論に添った考えと言っても良い。4)の男社会論はリベラル側に、5)の男らしさの論理は保守側に多い考えで、思想的には真逆であるが、男女について非対称な扱いを容認する点は同じである。

結果は次の図3(a)に、また男の体臭については図3(b)にまとめた。どちらも似た結果である。この事件の中身に即した1)と2)を挙げた人が多く、次いで3)の言論の自由の原則論が続いている。男女を比較すると、強いて言えば女性は事件の中身を理由に挙げ、男性は言論の自由を理由にあげる傾向がある。

興味深いことに4)と5)はほとんど理由として選ばれていない。4)の男社会論はフェミニズムの基本見解であり、アカデミアには支持があるが、一般の人にはひろまっていないようである。5)の伝統的な男らしさの論理も共感を生んでいるとは言い難い。男女について非対称的な扱いを認める意見は、リベラル側のものも保守側のものも支持されていないようである。

図3(a)

図3(b)

4.今後の見通し:炎上の屈折点になるか

今後への含意はなんだろう。この炎上事件は炎上における非対称性を問題視していた点に特徴がある。すなわち、男性が「おばさんの詰め合わせ」と称したら炎上必至であるが、女性が「おじさんの詰め合わせ」と言ってもこれまでは問題になってこなかった。それがおかしいというのが筆頭の炎上理由である。この非対称性は今後どうなるのだろうか。起こりうるシナリオを考えてみよう

まず、この非対称性がそのまま続く可能性はあるだろうか。今回の炎上はごく一部の例外的男(たとえば弱者男性)が起こした限定された事件にとどまるという見解で、ネットでは何人かの人が同趣旨のことを述べている。

しかし、そうはならないだろう。まず、炎上を支持する人が3割程度は存在している(図1)。この3割という数値は多数派ではないが炎上事件として特に低いわけではない。次に、炎上の理由として男女の非対称性に触れた人がもっとも多いという無視できない重要事実がある(図2)。さらに、男女の扱いが非対称性であってよいとする思想的な立場、すなわちフェミニズムの男社会論と伝統的な男らしさの論理がいずれもあまり共感を呼んでいない(図3)。そして最後に最も重要な点として、以上の知見に男女差がそれほど大きくなく、女性も非対称性の問題を男性ほどではないが意識している。これらの点から考えて炎上における男女の非対称性は問題点として意識され続けるだろう。実際、直近では「牛角」の女性のみ焼肉半額セールが炎上した。

非対称性が問題点として残るなら、解消策が模索されるべきである。非対称性の解消を考えるとすれば二つの解消策A、Bがある。炎上が男女でアンバランスなのだから、解消方法としてはどちらを増やすか、あるいは逆を減らすかしかない。

解消策Aは、今回のように男性側も炎上を起こしていくことである。女性が言われて炎上することを男性が言われた場合、男が同じように炎上を起こしていく。男性側から起こす炎上の数が増え、男女ともに炎上するようになれば非対称性は解消される。世のなかの炎上の総数は増えて、問題発言は抑制される。ただし、代償として、炎上を恐れて今よりも表現には注意しなければならず、言論の自由は制約を受ける。男の体臭については迂闊にしゃべれず、おじさんの詰め合わせと言わない世界が現れる。この案は、炎上増加を受け入れ、表現を抑制して対処する案である

解消案Bは、女性側が炎上をしかけることを抑制することである。女性側が炎上に持ち込む案件が減ってくれば、結果として非対称性が減ってくる。この場合炎上の総数が減るので、言論や表現は今よりも自由にできるようになる。ただし、代償としては問題発言も放置されることになる。女性の体臭を話題にしたり、おばさんの詰め合わせという表現があっても炎上しない世界が現れることになる。A案が炎上を自由に起こることを放置し、言論・表現を抑制して対処したのに対し、このB案は、逆に言論・表現は自由にまかせ、炎上の方を抑制する案と呼ぶことできよう

人々はどちらの解消策を望んでいるだろうか。これを直接アンケートで聞いてみた。この問いは問題設定が複雑なので、アンケートで聞くことには少々無理がある。設問文は長くなり、誘導的にならざるを得ないが、それでも聞いてみることに意味はあるだろう。以下、長文になるが設問文を示す。

設問

男女関係や家庭についての炎上はこれまで女性側が責める側でした。森元首相の「女性が入ると会議が長い」、麻生元首相の「おばさん」発言「宇崎ちゃん」・「月曜のたわわ」などの萌え絵の炎上、「お母さん食堂」、などいずれも女性が責めて起きた炎上です。
これにたいし、いま挙げた子供服、体臭、おじさんの詰め合わせの例はいずれも男性が責めて起きた炎上です。実際、男性のなかには女性がこれまでやってきたことと同じことをやっているだけだと言う意見が見られます。男性も炎上を起こすようになれば炎上事件は増えます。
このような状況で、あなたは社会がどういう方向に進んでほしいと思いますか? 2つの意見A,Bを述べますので近い方を選んでください

A:炎上しないように言論と表現に一層配慮する。すなわち「おじさんの詰め合わせ」も「おばさんの詰め合わせ」も言わない社会にする
B:言論と表現の自由を守るために、男女ともに炎上をおこさないように責めるのを控える。すなわち「おじさんの詰め合わせ」も「おばさんの詰め合わせ」も言えるような社会にする

 1)Aに近い

 2)どちらかといえばAに近い

 3)どちらかといえばBに近い

 4)Bに近い

 5)問題によるので一概に言えない/どちらでもない

 6)わからない

設問文では現状認識と背景を述べ、表現を抑制するA案と、炎上を抑制するB案のどちらを支持するかを尋ねている。回答者の理解を助けるために、「おじさんの詰め合わせ」と「おばさんの詰め合わせ」を両方とも言わないようにする社会が良いか、あるいは両方とも言える社会が良いかという解説を付けた。

この設問は複雑な問であり、一概に答えにくいかもしれない。さらに設問の現状認識や問題設定自体に違和感を覚える人がいることも予想されるので、選択肢の5)に「問題によるので一概に言えない/どちらでもない」を用意した。アンケートの趣旨が伝わらない人、あるいはA、B以外の案を考えている人も5)を選ぶことになるだろう。

結果は図4のとおりである。まず、全体でみると表現を抑える派は左端の薄赤色の部分の18.9%(=5.9+13.0)、炎上を抑える派はその隣の薄青色の部分で30.7%(=14.6+16.1)である。炎上を抑える派の方が多数派である。男女で分けると特に男性にその傾向が強い。意見を表明した人に限った場合、3:2の比率で炎上抑制派が優勢である。すなわち「おじさんの詰め合わせ」も「おばさんの詰め合わせ」も自由に言える社会を望む声が多い。

図4

しかし、一番多数なのは図の緑色の「一概に言えない/どちらともいえない」と答えた人である(37.9%)。事前に予想した通りこの設問は問として難しく、対面でのインタビュー調査ならともかく、アンケート調査のような時間的に限られた簡易な方法では回答者の意図を知るのに限界がある。対面で調査して口頭で説明すればかなりの人がAかBかを答えるだろう。結論を出すためには、一概に言えない回答者がA、Bどちらを答えそうか何らかの方法で推測をする必要がある。

推測するひとつの方法は回答者の属性を比較することである。属性とは年齢、性別、学歴、所得、思想傾向などのその人の性質を表す変数で、一概に言えないと答えた人の属性がAを選んだ人、Bを選んだ人のどちらに近いかを見ればよい。

これは炎上についての調査なので属性としては炎上についての意見で判定するのが良いだろう。回答者を、解消策Aをとる人、解消策Bをとる人、一概言えない人の3グループに分ける。それぞれのグループごとに、男の体臭とおじさんの詰め合わせの賛否の図を描いて、一概に言えないと答えた人たちがA,Bどちらに近いかを見てみよう。

図5がその結果である。3本のバーのうち、一番上が解消案Aを採用すると答えた人の、2番目が解消案Bを採用すると答えた人の、一番下が一概に言えないと答えた人の、2つの炎上事件についての賛否の意見分布を表している。

これを見ると一概に言えないと答えた人の意見は、Bの炎上抑制派とほとんど同じである。男の体臭事件、おじさんの詰め合わせ事件、どちらの事件でも結果は同じである。したがって、一概に言えないと答えた人の意見はどちらといえばBの炎上抑制派に近いと考えられる。むろん属性比較なのであくまで推測であるが、少なくとも一概に言えないと答えた人の多数派が解消案Aを支持するとはいえないだろう。

そうだとすると炎上抑制が多数派であるという先の結論はさらに強められる。表現を抑制するA案より、炎上を抑制するB案を支持する人の方が多い。抑制すべきは炎上であって表現ではない。すなわち、男性が炎上事件を起こすことより、男女ともに炎上を控えることの方が望まれている。

図5

これは人々の要望である。この要望通りのシナリオが実際に実現するだろうか。B案で炎上を抑えると述べたが、抑える主体はこの場合は女性である。すなわちB案とは女性がこれまで炎上させてきた事案のいくつかを炎上させない、あるいは炎上の度合いを下げることを意味する。これはこれまで女性が手にしてきたいわば“武器”を放棄することになるため、抵抗が予想される。

具体例で言えば、B案が目指すのは「おじさんの詰め合わせ」も「おばさんの詰め合わせ」も言える社会である。これまで「おじさんの詰め合わせ」の方は自由に言えたわけであるから、B案で生じる変化とは「おばさんの詰め合わせ」と言えるようになるという点である。これは女性側からすれば一種の“譲歩”である。

実際、図4をよく見ると、炎上を抑えるB案が多数派と言っても、男女の間で温度差がある。男性では36.1%(=16.4+19.7)対16.9%(=5.7+11.2)で、その差は20%ポイント近くあり、比率では2倍にもなるが、女性では25.3%(=12.7+12.6)対 20.9% (=6.1+14.8)でその差は5%ポイント程度しかない。女性でも炎上抑制が多数派ではあるが、男性に比べると多数派の度合いが低い。

物語風に表現すれば、男性側が20%ポイントもの差をつけて、女性側に炎上を抑えてくれないかと要望を出しているのに対し、女性側は応じる用意はあるものの、その気持ち度合いは5%程度の差でしかないというところであろう。実際に女性側が炎上を抑制するかどうかは今後の推移を見なければわからない。

もし女性からの炎上が従来通りのままで抑制されない場合、男性側が対抗して起こす炎上が(たとえば直近の牛角焼肉半額事件のように)増えていき、結果として多くの人が望まない解消策Aが実現してしまう可能性もある。それは炎上が頻発し、互いに隙あれば炎上をかけあい、また隙をつくらないように常に発言に気を配る世界である。それをクリーンで秩序だった世界と見るか、自由のない息苦しい世界とみるかは人それぞれである。

本調査によればそのような世界を望む人は少数派であり、言論の自由のない息苦しい世界と感じる人の方が(女性を含めても)多数派である。多数派は炎上を減らして言論の自由を守りたいと考えている。しかし、多数派の望む通りに進むとは限らないのがネット社会の常であり、どうなるかはわからない。どちらに進むかは今後次第であり、その意味では炎上の歴史にとっていまは分岐点であるだろう。

プロフィール

田中辰雄計量経済学

東京大学経済学部大学院卒、コロンビア大学客員研究員を経て、現在横浜商科大学教授兼国際大学GLOCOM主幹研究員。著書に『ネット炎上の研究』(共著)勁草書房、『ネットは社会を分断しない』(共著)角川新書、がある。

 

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