政官の接触記録は残されているのか?

法律で定められた政官の接触記録はきちんと残されているのか?毎日新聞社会部・日下部聡記者と、情報公開クリアリングハウス理事長・三木由希子氏を交え、政治と行政の関係と情報公開のあり方を考える。2016年03月03日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「法律で定められた政官の接触記録は残されているのか?」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

すべての省庁が記録していない

 

荻上 政治とは国民から権力を預かって動くもので、その活動はすべて国民のために行われます。しかし、その内容が適切に行われているかどうか知る権利が満たされなければ、私たちは国に権力を預けても良いのか判断することはできません。だからこそ、情報公開のルールを作っていく必要があります。今日は、その実態が一体どうなっているのか、考えていきたいと思います。

 

ゲストをご紹介します。この問題の取材を続けてこられた、毎日新聞社会部の日下部聡記者です。よろしくお願いします。

 

日下部 よろしくお願いします。

 

荻上 そして、情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子さんです。よろしくお願いします。

 

三木 よろしくお願いします。

 

荻上 まず、日下部さんに取材の模様を伺っていきたいと思います。どういったきっかけで、政治と官僚の関係について取材を始められたのですか?

 

日下部 最初のきっかけは、去年の安保法制をめぐる国会の審議を取材する中で、内閣法制局ではどのような議論が行われていたのか調べようと思った時でした。憲法解釈の変更に関する理論作りをしたのは内閣法制局ですから、議事録的な記録があったら欲しいと思い、情報公開請求をしました。しかし、内閣法制局に問い合わせたところ、「そのような記録はありません」と言われたのです。これには非常に驚いて、去年9月に記事にしています。

 

最初、私は内閣法制局が議論を記録しないことは公文書管理法に反するのではないかと思いました。公文書管理法とは、政策決定の過程は記録しなければならないという法律です。しかし、その成り立ちを調べていくと、実は『国家公務員制度改革基本法』という法律が既にあり、その中で「政治家と官僚の接触については記録を残して公開しなければならない」と定められていたんです。

 

ちょうど当時の取材で内閣法制局の横畠長官が閣議決定の前に自民党の高村議員や公明党の北側議員らと会合し、憲法解釈のアウトラインを共有していたことが分かっていましたから、これはまさに政官接触なのでは、と思いました。それで、この件を関して記録があったら出して欲しいと内閣法制局に対して情報公開請求をしたわけです。

 

また、政官の接触は全省庁に当てはまる話なので、他の省庁に対してもどの程度の国家公務員制度改革基本法に基づいた記録を作っているのか情報公開請求をしました。それが去年の11月でした。

 

私の推測としては、議員と役所の方はたびたび会っているので、全省庁となると膨大な分量になるだろうと思い、とりあえず今年度に限って請求しました。ところが一ヶ月ほど経って回答が返ってくると、11の省全てが「作成していない」「保有していない」というのです。

 

そしてその時期が、たまたま甘利氏の問題が浮上した時と重なりました。この事件で、甘利氏の当時の秘書が国交省あるいは環境省の幹部と面会をして何らかの要請をしていたことが(それが「口利き」と言えるのかどうかは議論が分かれますが)明らかになったので、国交省と環境省には直接、この件について政官接触記録はあるのか問い合わせました。すると、やはり「(記録は)ない」と。それで、まずはこの件を年明けに記事にしまして、引き続き全11省に記録がなかったことも記事にしました。

 

一方、これはちょうど先週木曜日の記事で取り上げましたが、国家公務員制度改革基本法を所管している内閣官房の内閣人事局にこの法律の解釈について取材したところ、一言でいうと「問題のある接触、つまり口利きがあった時のみ記録するが、そうでないときは記録しなくてよい」という回答が返ってきました。

 

荻上 うーん、「口利きされた」ということは官僚だってグルになっているので、そんなこと記録するわけがないですよね。

 

日下部 はい。実質的に骨抜きになっているんです。ただ、過去の国会の議事録を調べていくと、実は2013年に政官接触記録をどう位置づけるのか議論されていました。その中で、野党議員が当時の内閣官房の行政改革推進本部に対して、「政官接触の記録が定められているのだから、書き方のフォーマットがあるはずだ」と要求しました。つまり『○○議員から△月□日、……という内容で接触があった』という記録の雛形を出せと。すると、行政改革推進本部はその雛形を出してきたそうです。

 

それを知って、私は内閣人事局に、当時国会に出したのと同じものを出してほしいと求めたところ、「2013年11月25日に議員からレク要求(説明、レクチャーをしてほしいという要求)があり、内閣官房の職員がその議員のところに行って国家公務員制度の変更について説明をした」という、まさに議事録的な記録を出してきたんです。

 

そこには説明した内容や議員からの質問内容もきちんと記されており、なんだ、あるじゃないかと思いました。ところが、内閣人事局の方が言うには、「これはあくまでも国家公務員制度改革基本法に基づくものではありません」というのです。なぜなら、先ほど言ったようにこれは「口利き」ではないので、備忘録的に作った任意の記録なのだ、と。

 

荻上 なんとなくメモとして作ったというわけですか。

 

日下部 そのような説明でした。情報公開請求は一般の誰でも使える制度です。しかし、たとえ「公務員制度改革基本法に定められている政官接触の記録を開示してください」という形で内閣人事局に請求をしても、この資料は「任意のメモだから」と言って出してもらえないのです。つまり、口利きに関するものではないから法に基づいた政官接触の記録ではない、と勝手に線引きをしてしまっているわけです。

 

荻上 不当な接触が行われた場合のみ記録されるという限定的な法解釈、ここに一つの穴がありますね。だれがその法解釈をするのか、いったい何が「不当」なのか。

 

 

政官接触の構造的な問題点

 

荻上 ところで、この国家公務員制度改革基本法とはどういった法律なのですか。

 

三木 今回の件に関していうと、制定当時の議論の中でも政と官の関係というのは一つの大きなテーマでした。日本にはもともと行政側の意思決定や政策決定のプロセスがあり、そこに途中から与党による政治的な意思決定や政策決定のプロセスが入ってきて、双方が混在して物事が動いてきたという背景があります。その中で政官の接触はさまざまな問題を引き起こしてきました。そこに一定程度メスをいれようと、はじめは議員と官僚の間に仲介役をおいて、直接はなるべく接触させないようにするという案が出されました。ところが国会に法案が出されるまでの間の調整でその案は却下され、代わりに政官が接触した時の記録をつけましょう、という法律になったのです。

 

荻上 政官の接触において、利益の誘導になりかねないという問題のほかに、どのような論点が考えられますか?

 

三木 もちろん利益の誘導や不当な働きかけはあってはいけないことですが、先ほどおっしゃった通り、「何が不当か」というと非常に難しいわけです。そもそも議員側から個別にいろいろ要求すること自体が、その立場からすると圧力になるわけですよね。つまりそれは不当かどうかではなく、結果的に立場の問題としてあるわけです。ですから、特定の部署や特定の人が要求を受けるとすると、結局は個人の問題になってしまいます。

 

ですから記録化して、組織の記録として残していく。きちんと組織の問題として受け止めていくことが、政官の関係を考える上で本当は非常に大事なわけですよね。そうすることによって、議員による必要以上の影響力も排除できるし、特定の政治家と行政の職員が繋がることも抑止されていきます。この法律がそこまで目指したものかどうかは、なんとも言い難いところではありますが、政官接触の問題にはもともとそういった構造があるということです。

 

 

三木氏

三木氏

 

 

行政のご都合主義

 

荻上 しかし、実際に記録が残されていないという点はどうお感じになりますか?

 

三木 私はこの件に限らず、行政機関が自分たちにとって都合の良い解釈をしていることが問題だと思います。一つが、国家公務員制度改革基本法で定められた政官接触の記録をどの範囲で作るかという点で、都合の良い解釈しているという問題です。

 

もう一つが、もともと公文書管理法の中で文書の作成義務というものがありますが、これもどの範囲で記録を作るのか明確には書かれていません。ですので、やはり自分たちに非常に都合の良い解釈をしている。

 

さらに、情報公開法と公文書管理法が定めている行政文書の定義について。これは職員が作成取得した文書というもので、組織的に用いられるものは情報公開法及び公文書管理法の対象にもなります。ただ、組織的に用いられていなければ対象にならない、という定義になるんですね。今回の場合は個人のメモであって組織としては用いていないということで、請求対象でも管理対象でもありませんよという都合の良い解釈をしていたということです。

 

荻上 なぜ私的なメモを省庁が持っているのか、という問題になりますよね。

 

三木 実際、職員が職務上作成取得しているという条件に当てはめると、必ず何らかの記録は役所の建物の中にあったりするわけです。ただ、自分のデスクで他の人から触れられないところにしまってあるとか、個人で管理している場所に入れてあるという場合、それは組織として用いられる状態になっていませんよね、ということになってしまう。

 

パソコンの場合でも共有のサーバではなく、自分のハードドライブの中に入れていれば自分しかアクセスできないし、他の人と共有されていないから情報公開制度も公文書管理法も対象外ですよねというように、都合よくやろうと思えば簡単にできてしまうわけです。

 

ただ、その記録を上司に見せたり、業務の必要があって同僚と共有したとなると、本来であれば行政文書という定義に入ってきます。でも、その実態は私たちには見えないですよね。それが行政文書だと証明することは非常に難しくて、かなり都合の良い解釈を許してしまうのです。

 

あと、もう一つ都合の良いことをしていて、行政は情報公開請求の際にどういう風に請求内容が書かれているかをかなり狭く捉えることがあるんです。つまり、「国家公務員制度改革基本法に基づく接触記録」という風に請求すると、その定義に当てはまっていないものは全部除外してしまうわけです。ですから、例えば「○○審議会の議事録」という風に請求すると、たとえ議事概要が作られていたとしてもそれは出さずに、「議事録はありません」と平気で言ったりするわけです。なるべく出したくないなと思うと、こういったところで都合よく解釈することが多いのです。

 

荻上 秘密主義だからなのか、仕事を増やしたくないのか、どっちなのでしょう。

 

三木 両方だと思います。というのは、結局、情報が出るということは情報を知った人から何かリアクションがくるかもしれない。それは情報公開する上ではごくごく当たり前のことですよね。むしろそのために情報公開するわけなので。しかし時には批判されたりもするわけで、それは非常に面倒くさい。

 

だから、なるべく色々突っ込まれそうなものは出したくないという気持ちはあると思います。それは裏を返せば、なるべく内輪で決めたいという秘密主義や非公開体質を生み出している要因でもあるのでしょう。多様な利害調整や、意見を戦わせ合意形成をして物事を決めていくことが苦手な組織という面があるわけです。

 

荻上 しかし、本来官僚は国民のために情報公開するものだ、という理念を叩き込んでおかなければならないはずです。ルーティーンの仕事の面倒くささなどが、そうした理念を忘れさせてしまうのでしょうか。

 

三木 こういった都合の良い解釈が成り立つのも、法律の個別の規定を見ればご都合主義的な解釈ができる場合もあるし、役所の論理としてその解釈が成り立ってしまう場合もあるわけです。情報公開法にしても公文書管理法にしても、公務員制度改革基本法にしてもそうした要素はあると思います。

 

しかし、もともとは政府の説明責任が大きなテーマであって、説明責任を果たすためにどのような記録を残す必要があるのか、という発想から解釈しなければならないはずです。でも、その発想が逆転しているんですよね。記録を出すことだけが説明責任なのだという解釈になってしまっている。そうではなくて、そもそも記録を残すことに関して説明責任の範囲はどういうものなのか考えなければならない。そこがやはり弱いのだと思います。

 

やはり法律でどこまで規制できるかという点で限界はあるので、官僚の手と足全て縛って「この通りにやれ」と法律ですべて決めることはできないわけです。むしろこの制度をどうやって組織の中の血とし、肉としていくかという点で組織のあり方を変えていくこと、そういった働きかけを外からしていくことが大事なのではと思います。単に役所を批判するだけではなくて、どうすれば組織をより良い方向に変えていけるのかという議論をしなければならない。おそらく、法律を変えるだけではなかなか上手くいかないと思います。

 

荻上 政治家はみんなネクタイピンみたいなものをつけて、発言を録音するとかカメラとGPSで誰と会ったのか把握するとか、官僚と接触をした時にはICカードをピッてやらないと発話禁止とか……そういう時代にはならないのでしょうか。

 

三木 そこまでいくと、ある意味怖いですよね(笑)。ただ、例えば自治体などでは、打ち合わせの場では一人ではなく必ず複数で会うというルールがあるところもあって、そうすれば複数であれば誰かは必ず記録を残せますよね。このように、やり方次第ではある程度コントロールできる部分もあると思います。【次ページにつづく】

 

 

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