沖縄に基地があるのは地理的宿命か?

日米両政府が米軍沖縄普天間基地の返還に合意してから22年が過ぎた。沖縄での基地反対の動きは衰えることを知らず、日本政府が進める辺野古沖の埋立ては実現の見通しが立っていない。昨年来、米軍関連の事故も後を絶たず、沖縄社会はいまなお基地をめぐる政治に翻弄されている。

 

さて、本稿はこの問題を考える際のある重要な言説を取り上げる。それは「沖縄は地理的に重要な場所だから、基地が集中するのは仕方がない」、あるいは、より一般的に「米軍基地の存在はその地理的位置に由来する」といった類の言説である。それらは、いわば沖縄の「地理的宿命論」とでもよべるものであり、基地を肯定する人々、あるいはそれを遠慮がちに容認する人々のあいだで、ときに「諦め」に似た嘆息とともに語られてきたものである。

 

では、われわれはかような地理的宿命論の妥当性をどう評価したらよいだろうか。その手始めとして、まずは「日本に基地がある」ことと、「日本の特定の場所に、特定の軍種の基地がある」ことが、必ずしも同じ問題ではないことを確認しておこう。

 

 

日本に基地があること/沖縄に基地があること

 

なぜ、日本に米国の軍事基地が存在するのか。この素朴な問いに対しては、多くの人が納得できる、言わずと知れた「答え」のようなものがある。

 

すなわち、日本は米国と同盟関係にあり、米国への基地の提供は、日米同盟を根拠づける日米安全保障条約(第6条)に規定された義務である。日本側にとって、米軍基地とそこに展開する部隊は、自衛隊の通常打撃力を補完するとともに、米国による防衛コミットメントの信頼性を担保する。他国からの攻撃があった暁には、基地に展開する米軍部隊の損害と引き換えに、米軍を半ば自動的に戦闘に巻き込むことができる。もう少し広い視点でみても、日本の基地は極東地域において作戦行動に従事する米軍の発進基地、並びに米本土や西太平洋地域に展開する米軍増派部隊の受け入れ基地として、地域秩序そのものを安定化させる役目を負っている。

 

このように、米軍基地を日米の戦略的利益に資する存在として認めるための議論を成り立たせることはさほど難しくない。しかし、このような議論からは日本の特定の場所の、特定の基地の存在理由がただちに導かれることはない。今日の沖縄の基地問題をめぐる論点はそこにある。

 

今、問われているのは「なぜ日本に基地が存在するのか」ではなく、「なぜ沖縄に(かくも多くの)基地が存在するのか」である。ここを混同すると、基地をめぐる議論は途端に噛み合わなくなる。

 

 

沖縄の地理的優位性とはなにか

 

もっとも、基地に賛成する人々は、沖縄の基地の存在理由を、その地理的優位性にもとづいて次のように主張するだろう。

 

沖縄の米軍基地は、米軍が西太平洋地域に前方展開するうえで代替不可能な役割を担っている。沖縄は朝鮮半島から約1,000km、九州から800km、台湾海峡から900kmの位置にあり、嘉手納空軍基地には戦闘機や空中給油機、そして早期警戒管制機が展開している。戦闘機の行動半径が一般に1,200km以上であるとすれば、嘉手納基地は北東アジアから南シナ海北部に至る地域のすべてをカヴァーする。このことが地域の抑止力の要を構成する。したがって、沖縄への基地の集中は地理による「選択」の結果である。

 

かような議論は一見すると十分に理にかなっているようにみえる。しかし、歴史を紐解けば、実際に行われたいくつかの在日米軍基地の配置の決定(つまり、基地を国内のどこに置くか)は、地理から演繹された米国の戦略というよりも、米国(および日本)の政治判断の影響を強く受けていたとみられるケースが少なくない。

 

 

地理は「いつも」基地を拘束するか

 

第二次世界大戦後、現在にいたるまで、東アジアにおける米国の戦略目標は、一貫してロシア(ソ連)、中国、北朝鮮という潜在的な脅威への対処にあるといってよい。米国にとっての脅威の対象が長きにわたり固定されている一方で、その戦略目標を達成するための手段としての在日米軍基地の態勢/配置は、これまで頻繁に組み換えられてきた。しかもその過程では、今日の米国が戦略的に重視する基地が閉鎖/移転の候補となることも少なくなかった。

 

一例をあげよう。1960年代後半から70年代前半にかけて、米国は現在の在日米軍基地ネットワークの原型をつくりだす大掛かりな基地の再編に着手した。その過程では、朝鮮半島に地理的に近く、したがって当時、朝鮮有事においてもっとも重要な役割を果たすと考えられていた板付空軍基地(福岡空港)の返還が決まった。

 

折しもそれはプエブロ号事件(米軍艦船が北朝鮮軍によって拿捕された事件)やEC-121撃墜事件(米軍の偵察機が北朝鮮軍によって撃墜された事件)によって、朝鮮半島情勢が緊迫していた最中の出来事であった(返還の決定直前まで、米国は北朝鮮核に対する攻撃のオプションを検討していたことが明らかになっている)。

 

同じような例はほかにもある。冷戦期、ソ連にほど近い北海道は、ソ連の陸上侵攻を抑止するための重要拠点と位置づけられていた(実際、日米はソ連軍による北海道上陸侵攻作戦を想定していた)。しかし、米軍は冷戦只中の70年代初頭に、一部の通信施設を除いて北海道から撤退した。地理的優位性が特定の基地の存在を根拠づけるとすれば、なぜ米国は福岡や北海道の基地を手放し(せ)たのだろうか。【次ページにつづく】

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.256 

・熊坂元大「「道徳教育」はこうすれば良くなる」
・穂鷹知美「終の住処としての外国――スイスの老人ホームにおける 「地中海クラブ」の試み」
・徳山豪「アルゴリズムが社会を動かす」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(1)――シンクタンク創設への思いとその戦い」